運命の剣 のきばしら (PHP文芸文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (397ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569572437

作品紹介・あらすじ

本年度直木賞を受賞した作家、宮部みゆき。そして中村隆資、鳴海丈、火坂雅志、安部龍太郎、宮本昌孝、東郷隆の時代小説の若き旗手7人が、一振りの剣の繰り広げる数奇なドラマを時代ごとに書き継ぐリレー小説。 鎌倉末期、備後長船で生まれた剛刀「のきばしら」。室町時代、足利将軍惨殺という嘉吉の乱を引き起こし、切腹を迫られた茶人・千利休の手により石灯籠を斬る。やがて江戸時代、転生した娘とともに質屋夫婦の命を救う。幕末には“人斬り”岡田以蔵の手に渡り、維新動乱のなかで女剣士の仇を討ち、ついに、終戦前夜の皇居に現れる……。 リレー小説は、最近ではあまり見かけないが、作家たちの卓抜たる個性をぶつけ合い、壮大なドラマを生み出すために、意欲的にこの形式に挑戦。鎌倉時代の刀の誕生から昭和の動乱期まで日本の歴史を縦断し、物語のバリエーションに富んだ作品に完成した。時代小説ファンならずとも垂涎の一冊である。 解説・縄田一男。

感想・レビュー・書評

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  • 鎌倉末期、備前長船で生まれた無銘の剛剣「のきばしら」の流転の物語を、7人の作家に描かせるリレー小説。宮部みゆきの文庫本は九割は読んでいる、と自負している私にとって、その存在さえも知らなかった文庫本のことをつい一週間前に知って、直ぐに注文した。リレー小説という形だから、短編集にも入っていないのは当然かもしれないとは思いつつも、実際読んで見なければ実際のことはわからない。

    97年単行本初出。宮部みゆきはまだデビュー10年も経っていなかったが、押しも押されぬベストセラー作家になっていて「初ものがたり」などの江戸市井ものは十二分に書いている。この短編集でひとり女性でしかも代表者の位置づけなのは、文庫本の背表紙の作者名が、「宮部みゆき他」となっていることでもわかる。99年文庫本発行。17年後の16年までに7版を数えている。順調に版を重ねてはいるが、他の宮部みゆき本と比べれば、あまり売れているとは言えない。この本はデビュー30年の輝かしい彼女のキャリアの中でどういう位置づけなのか。という「推理」をしてみた。

    長々と書けないので、一言で言えば「忘れたい作品」になっていると思う。リレー小説の四番手ということもあり、前3回分の紹介もしながら、剣に寄り添う「魂」の話をつくった。既に何作も描いている江戸市井ロマンホラーの新バージョン。それ自体は悪くはない。しかし「魂」の出自、それが明らかになるまでの展開、余韻をもたらすラストに至るまで、全てが及第点とは言えないのである。ひどく悪くはない。宮部みゆきにしては、である。よって、他の作家が次々と自らの短編集に組み込んだ中で、1番売り手の宮部みゆきだけはこれをこの文庫本の中にのみ埋れさせる事を選んだようだ。

    優秀な短編もある。鳴海丈「利休燈籠斬り」は、利休の最期を、利休を敵と恨むお怨という女性を絡めて描く。ただ、石燈籠を切って初めてお怨に、生涯をかけた利休の持論「不完全の美」を述べるのは不自然。一方、宮本昌孝「明治烈婦剣」は、歴史的人物と創作人物や歴史的事実とのバランスが見事であり、1番完全な短編になっていた、と思う。

    現代においては、剛剣「のきばしら」は「ルパン三世」の五右衛門の「斬鉄剣」になっているのかもしれない。と、短編集の終わりが、アレで終わっていなければ、私は呟くことが出来たのに、残念である。

  • 1997年6月PHP研究所刊。1999年2月PHP文芸文庫化。敢えて銘を刻まず:中村隆資、犬死将軍:鳴海丈、利休燈籠斬り:火坂雅志、あかね転生:宮城みゆき、斬奸刀:安部龍太郎、明治烈婦剣:宮本昌孝、残欠:東郷隆、の7つの短編、鎌倉時代から昭和までののきばしらという剣をテーマにしたリレー小説。いずれもあまりふるわないなあと思います。さすがの宮部さんもここではいまいち。企画に無理があったのかも。宮本さんのお話がもっとも面白かったです。

  • 宮部みゆき 目当てで購入

  • 7人の手によるリレー小説。「のきばしら」と名付けられた名刀が打たれた鎌倉末期から太平洋戦争終戦までの時代と、剣を握った人々が描かれています。

    とても面白く、読了したときに満足のため息が出ました。「ふう、すげえ面白かった」です。世はなにやら刀剣ブームだそうですが、この本ももっともっとたくさんの人に読まれるといいなと思います(架空の剣なので無理でしょうけれど…)。
    実は、不勉強で作者の方は7人中6人の方を知らず、また「リレー小説」という形式も知識としては知っていたものの読んだことはなく、「一振りの剣をめぐる時空を超えた物語」と紹介されても内容が全く想像できず、単に宮部みゆきが執筆しているというだけで読み始めたのですが、すぐに引き込まれました。
    7編の物語全体を通してからりと明るい(もしかすると、痛快な)トーンが貫かれているからだと思います。人を斬る道具ですから、「斬奸刀」のようなやりきれない話も出てはきますが、それでも全体の印象は変わりませんでした。

    収録作別に感想を書いておきます。

    「敢えて銘を刻まず」中村隆資
    作品全体の印象を決めてくれました。
    妖刀とか、魔剣とかの想いがまとわりつきがちな名刀ですが、「のきばしら」にはそういう印象が全然ありません。これは、打たれた経緯が「ブラック企業所属の冴えない技術者が、自らの技術を示すために、転職覚悟で材料代・自分の時給いずれも自腹で打った」からであり、敢えて無銘としたのに、その日輪を斬り龍神を断つ働きに名を付けるにあたって、「ぐっとくだけて、軒の柱、『のきばしら』」と助平の匂いがしっかりつく命名がされたからだろうと思います。
    助平師弟が打つ「あらよ」「こらさ」「ほいさ」の陽気な掛け声の印象が巻末まで続きます。そんな打たれ方をした刀が妖しくなるわけがないのです。

    「犬死将軍」鳴海丈
    傍流出身ながら鎌倉幕府の中央集権を完成させる一方、暴虐を極め「万人恐怖」と称された「足利義教」の暗殺「嘉吉の乱」を描きます。
    戦国の世や江戸時代ほど描かれることが多くないからか、説明が長めなのが難点ですが、「のきばしら」を握った勝四郎が、「直径一寸もある鉄棒を切断」し、偽の「のきばしら」を斬り割るラストは痛快です。てか、「のきばしら」斬れすぎじゃね?もしかして「斬鉄剣なんじゃね?って思ってしまうほど。

    「利休灯籠斬り」火坂雅志
    完璧なものではなく、不完全なものに惹かれる千利休の美意識を描きます。「のきばしら」は超渋い拵を作ってもらえますが、今回は脇役。斬鉄剣の次は石灯籠を斬らされるとか、「またつまらぬものを斬ってしまった」みたいでちょっと気の毒です。

    「あかね転生」宮部みゆき
    宮部みゆきも1本書いているのがこの本を買ったきっかけでしたが、その1本はちょっと浮いてます。
    「のきばしら」は時代の節目・変わり目に現れ、重要人物の手に渡って使われますが、剣自身の意思は良くも悪くもなく、そのことがこの作品全体を明るく見せているんだけど、そこに時空を超えて剣を見守る存在を持ってきちゃうとちょっと困るんじゃないか…と思うのです。

    「斬奸刀」安部龍太郎
    幕末の「人斬り以蔵」が描かれています。「のきばしら」は良くも悪くもなく、彼が振るうままに人を斬っていきます。
    信念も思想もなく、煽られるままに人を斬って粋がっているテロリストの哀れな末路には、何の咎もなく彼に斬殺された人のことを思うと全く同情はできませんし、借りた「のきばしら」を手に入れたくて、暗殺の代金を無心する描写には鼻白む思いでした。作られたときに込められた思いとは関わりなく、その斬れ味は使い手を魅了する…、「斬妖」刀ではなく、「妖刀」になりかけた瞬間です。やっぱり使い手は破滅しました。
    ただ、それでも以蔵は異常だけど魅力的な人物で、彼が生きたのは激動の時代だったんだなあと思います。何冊かは読んだことがありますが、坂本竜馬をはじめ、この時代とそこに生きていた人たちの話をもっとたくさん読んでみたくなりました。手始めは司馬遼太郎の「人斬り以蔵」かしら。

    「明治烈婦剣」宮本昌孝
    明治の初め、戦に破れた会津武士の娘が兄と姉の敵を討ち果たすまで。
    自分には7作中の白眉でした。
    大河ドラマにでもなりそうなけいの数奇な半生と、本懐を遂げる様子を、最後まで夢中で読まされてしまいました。けいの行動力と思いの強さに加えて、敵役の造形が何よりもすばらしかったと思います。不幸な生い立ち、小憎らしい振る舞い、拳銃という武器を持った圧倒的有利さ、肺病病みで命旦夕に迫ることを自覚している様子…、どれもこれも、仇討ちが一方で人殺しであることを感じさせず、カタルシスだけを増すことにつながっています。
    個人的には偶然でもいいので銃弾を斬って欲しかったかなあ。銃弾のあの処理方法は嫌いではないけれど、正眼に構えた「のきばしら」の切っ先が正確な狙いの銃弾を正面から砕いたら…厨二っぽいかな?

    「残欠」東郷隆
    太平洋戦争終戦間近「のきばしら」は陸軍将校の持つ軍刀になっていました。
    多くの日本刀が進駐軍に持ち去られることを防ぐため、その身と引換えに鋼鉄版を斬って見せた「のきばしら」は、児島少尉とともに故郷岡山に帰り、残欠で茅で葺いた屋根の軒を切りそろえる刃物と成り果てました。
    美術品としてケースにしまわれるより、最後の使い手とともに軒を斬り揃えながら余生を送る…「のきばしら」の最後にふさわしい役割でしょう。

    収録作品一覧
    「敢えて銘を刻まず」(中村隆資)
    「犬死将軍」(鳴海丈)
    「利休灯籠斬り」(火坂雅志)
    「あかね転生」(宮部みゆき)
    「斬奸刀」(安部龍太郎)
    「明治烈婦剣」(宮本昌孝)
    「残欠」(東郷隆)

  • 宮部みゆきさん以外は知らない作家ばかりでしたが、すべての話が面白かったです。中でも「明治烈婦剣」が好みでした。

  • 7名の作家による短編のリレー小説。運命の剣のきばしらを軸に、鎌倉時代末期から昭和の終戦直後までの時代を、人から人へ渡りながら、それぞれの作家の特色を出して描かれる。

    7名の内のひとりである宮部みゆきが目当てで読み始め、実際、その第4話あかね転生は前の3つの話をうまく取り入れ、かつ、宮部らしい話口で一番おもしろかった。そして、もうひとつ、第6話の明治烈婦剣は話の展開、主人公の成長、知っている人物の登場、結末の落し所など非常によかった。

    一つ一つの作品は作風も切り口も異なるが、同じ剣をモチーフに統一していてまとまりがあった。

  • 一振りの剣をめぐる贅沢なリレー小説。どれもよかったけど「明治烈婦剣」が短編にしとくにはもったいない密度。最後思わず涙してしまいました。

  • 無銘の太刀「のきばしら」が時空を超えて人の手から人の手に渡っていく。刀が持つ人を選ぶように運命的な出合いから物語ができる。7名によるリレー小説。時代小説は読み慣れないが、気楽に目で追っていたらいつしか夢中になっていた。宮部みゆきの「あかね転生」はちょうど真ん中でそこまでの流れをふわりと包みよかった。安部龍太郎「斬奸刀」は岡田以蔵など好きな時代の話でこれも心惹かれた。

  • 職人靈が込められたが、世俗の事情から銘をうたっれなかった刀にまつわる7人の筆者による連作。時代ごとに違う手に委ねられて行った刀。その最後は?!

  • 8話から成る……リレー小説、なんだろうか。

    最初と最後があんまり好みじゃなくても評価がそれほど引くならないのは、一話一話にそれぞれのカラーがあるからだと思う。

    他のひとは名前しか知らないけど、宮部みゆきは、作者が匿名でもそれとわかるくらいに彼女らしい作品。
    普通におろしろかった、かな。

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