台湾大地震救災日記

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  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (158ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569610085

感想・レビュー・書評

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  • われわれは人間には力の及ばない大自然の猛威を前にして、これを畏敬の念を持って受け入れるのはよいが、決して「運命だ」とあきらめてはいけない。このような信念をもってしてのみ、見渡す限り震災の傷痕が残る中で、汗と涙を同時にながしながらも、傷ついた大地や心の中に、復興に向けた希望の種を深く根づかせることができるのだ。
    (引用)台湾大地震救済日記、著者:李登輝、発行所:PHP研究所、2000年、2

    かつて危機管理に携わった身として、「危機管理のバイブルはなんですか?」と聞かれれば、私は間違いなく、次の2冊をあげる。
    それは、元ニューヨーク市長であるルドルフ・ジュリアー二氏が著した「リーダーシップ」と、台湾初の民選総統となり、「台湾民主化の父」と言われた李登輝氏が著した「台湾大地震救済日記」だ。
    1冊目は、ジュリアーニ氏がニューヨーク市長を務めていたときに発生したアメリカ同時多発テロ(2001年9月11日)、いわゆる「9・11」のときに陣頭指揮を執ったときのものだ。テロの脅威に立ち向かい、市民に寄り添いながら対処していくジュリアーニ氏の姿に感銘を受けた。
    もう1冊は、1999年9月21日に発生した台湾大地震のとき、当時の李登輝総統が実践した危機克服の記録だ。震災発生以来、李総統はほぼ毎日といっていいくらい現地を訪れ、被災者らと対話を続けた。その現場主義を貫き、被災されたかたに安心感を与える姿に感銘を受けた。いや、それ以上に感銘を受けたのは、何より李登輝氏の人間性、いや危機管理時にもブレない哲学だ。

    李登輝氏は、住民の苦しみや苦労を我が身と感じ、次の3原則を示した。
    ①再建に必要な資金と設備を充実させる。
    ②天災のために被災者を貧窮させない。
    ③地域社会がより進歩、繁栄するよう、再建は各地域の発展方針に合わせる。
    (同書、84)
    私は、現場主義だからこそ示せた立派な3原則であると感じた。

    いま、世界中の人々が新型コロナウイルス感染症の大流行に怯えている。一方、台湾は、新型コロナの封じ込めに成功したと全世界から注目されている。特に、「マスク供給システム」をわずか3日で開発したIQ180ともいわれる稀代の天才、IT大臣のオードリー・タン氏の活躍などが注目されている。しかし、新型コロナウイルスの封じ込めは、蔡英文総統によるリーダーシップによるものが大きいと思う。
    1月中旬、台湾では国内で1人も感染者が出ていない状況で、新型コロナを法定感染症に指定した。2月27日、日本政府が全国小中高や特支に休校要請をした際、台湾では既に学校の休校は原則終了していた。そして、台湾では休校中に小学校児童の世話が必要になる保護者は看護休暇を申請できることとした。さらに、企業が有給休暇の取得を拒否した場合は処罰対象にするとした。ただ、事業者への支援も忘れない。2月25日には、600億台湾ドル(約2,200億円)を上限とする経済対策の特別予算を計上した。1)

    このスピード感、透明性、そして国民に寄り添った施策の数々。いち早く新型コロナウイルスの危険性を察知し、住民に寄り添う姿勢を見せた蔡氏は、李氏のDNAを受け継いだかのようだ。その結果、国民の信頼を得て、政府は危機管理を成功に導くことが可能となった。

    2020年7月30日、悲しいニュースが舞い込んだ。李登輝氏がご逝去された。97歳であった。冒頭に記したが、生前、李氏は「われわれは人間には力の及ばない大自然の猛威を前にして、決して『運命だ』とあきらめてはいけない。」と言われた。今は、この「大自然」を「新型コロナ」と置き換える。そうすれば、いつかは、人間の力が新型コロナを終息させる日がくるという深い信念が持てる。その信念のもと、終息するまでは、新型コロナで苦しみを味わっている方たちに寄り添っていきたいと思うに至った。
    偉大なる哲人政治家・李登輝氏のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

    1)2020年2月29日 07:00配信 AERA dot.「新型コロナ”神対応”連発で支持率爆上げの台湾IQ180の38歳天才大臣の対策に世界が注目」

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著者プロフィール

1923年台湾生まれ。元台湾総統。農業経済学者。米国コーネル大学農業経済学博士。京都帝国大学農学部在学中、終戦のため学業半ばで帰台。台湾大学に編入し卒業。米国アイオワ州立大学大学院を経て、台湾大学教授。71年に国民党入党、72年行政院政務委員として入閣。台北市長、台湾省主席などを歴任。84年に蒋経国総統から副総統に指名される。88年蒋経国の死去にともない総統に昇格。96年台湾初の総統直接選挙で当選し第九代総統に就任。2000年任期満了で退任。07年第1回後藤新平賞受賞。20年7月30日死去、享年97。

「2021年 『人間の価値 李登輝の言葉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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