人間は進歩してきたのか: 現代文明論上 「西欧近代」再考 (PHP新書 274)

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  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569631882

作品紹介・あらすじ

「西欧近代とは何か?」だれもが疑わなかった理想社会に齟齬が生じはじめた。その現実を前に、再認識を余儀なくされている「近代」の意味。自由、平等、民主主義、市場経済…アメリカが掲げる輝かしい「文明」は、同時に形式的な官僚主義、空虚なニヒリズムを生み出した。信ずべき確かな価値を見失い、茫然自失する私たち。人類が獲得した果実ははたして「進歩」だったのか。ホッブズ、ルソー、ウェーバーなど、近代を決定づけた西欧思想を問いなおし、現代文明の本質と危うさに真っ向から迫る新しい文明史観。

感想・レビュー・書評

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  • 大学時代のゼミの本を再読してみる。
    うん、難しいと思ってしまうのが情けない苦笑
    が、なんとなく、自由や平等や民主主義が正しいのかどうかわからなかったので、そのあたりの言及はしてくれていた。
    ちなみに、同じ問いをしていたのだが。

    もう少し時間を置いて考えてみよう。

  • 1

  • 封建社会のヨーロッパの中世は、十字軍やイスラムの影響によって14世紀には崩壊したが、近代の合理主義や市民革命が出てくる17世紀まで、300年ほどの空白の時期(ルネサンスや絶対王政)があった。

    フランス革命は、その後に自由主義、社会主義、保守主義の3つの思想を生み出した(ウォーラーステイン)。イギリスのエドマンド・バークは、政治権力は継続体であるほかなく、ゼロから作り出すことはできないと考え、フランス革命に真っ向から反対することで保守主義を生み出した。

    近代社会には、自由、平等、市場経済といった理解の仕方と、国民国家による規制や抑圧、軍隊、国民教育、画一化社会という理解の仕方がある。一般意思を代表する者が敵対者を社会に対する裏切り者として扱うと、独裁政治や全体主義となり、フランス革命の恐怖政治として現実化した。

    西欧の近代国家では政治権力が法に基づく行政機構によって執行されるが、日本では国家が忠孝の観念を持ち出して、天皇を国家的道徳を人格化したものとしたため、自立した個人ができず、政治権力と精神的権威を独占した超国家主義となった。あらゆる価値が天皇との距離によって決められ、天皇の権威をカサに着せられたため、より上位の権威に依存する無責任な体系が生まれた。

  • 著者は、西欧近代主義の拡がりこそが人類の進歩だとみなす歴史観に警鐘を鳴らす。伝統的な価値規範を無視して、自由や民主主義や市場経済といった西欧近代主義の抽象的な形式だけを取り入れてしまっては、空疎で無節操な社会構造が生み出されるだけだ、と。まさに戦後の日本がそうであったように。

    特に注目した点の一つは、ルソーの「一般意思」という概念が、民主主義を全体主義へと転化させてしまう危険性をはらんでいると指摘しているところ。著者は、近代市民社会においては「一般意思」や「国民の意思」を形成するのは無理な話で、そんなものはフィクションだとバッサリ切り捨てている。

  • (「BOOK」データベースより)
    「西欧近代とは何か?」だれもが疑わなかった理想社会に齟齬が生じはじめた。その現実を前に、再認識を余儀なくされている「近代」の意味。自由、平等、民主主義、市場経済…アメリカが掲げる輝かしい「文明」は、同時に形式的な官僚主義、空虚なニヒリズムを生み出した。信ずべき確かな価値を見失い、茫然自失する私たち。人類が獲得した果実ははたして「進歩」だったのか。ホッブズ、ルソー、ウェーバーなど、近代を決定づけた西欧思想を問いなおし、現代文明の本質と危うさに真っ向から迫る新しい文明史観。

  • 高校生のときに何度も読んだ。
    いろいろなことに説明が付けられる気がした。

  • 読んだほうがいい。
    自分が今いるシャバの成立背景が書いてある。

  • 重要なことは何度も繰り返し述べてあり、分かりやすかった。今まで「近代」って言葉の意味がイマイチよくわからなかったが、これでなんか掴めた。また、ルソーとかホッブスとかもなんとなくしか知らないものも解説されていて良かった。ルソー案外すげーって思った(笑)ここに紹介されてる本が読みたくなってしまうな…。「歴史の終わり」とか。

  •  「西欧の近代」とは何だったのかを問う著者の大学での講義を書籍化した本。

     西欧近代は、強権的な独裁君主などの大きな抑圧が消え、「歴史が終わる」(F・フクヤマ)と言われた時代である。このように人間の歴史が好ましい方向に進む歴史観を「進歩史観」と呼ぶが、実際に終焉したのは、抑圧ではなく進歩史観でした。それはテロリズムの出現による。

     テロリズムが生まれた土壌には、ニヒリズムの出現が指摘されます。西欧諸国は科学革命(脱呪術)、市民革命(脱権威)、産業革命(脱土地)を経て近代に入るが、実際は硬直した空理空論を弄ぶ実証科学、政治・経済の大衆化、機械による管理的な労働観が取って代わったに過ぎない。アドルノが「近代社会は管理社会」と喝破したように。こうしてニーチェの言うとおり「神は殺され」て、ニヒリズムが生まれる。

     そしてニヒリズムに襲われた近代人は、虚無感のあまり強い超自我(自律意識)を求め、自由であることに倦み飽きるようになる。そのために西欧近代社会が全体主義を信奉する権威主義パーソナリティを帯びていく。

     この本を読んで、自由や民主主義を追求するということも、究極的には空しいのだと思った。同時に、どれほど空しいからといって、この世の全てを儚むのではなく、それを受け容れた上で人生を歩むことが覚悟であるのだな、と考えた。それがニヒリズムを克服する唯一の方法である、と。

  • 「現代文明」の本質を捉えるため、最低限どのような展望をもっておく必要があるのかということで、西欧近代社会の思想的バックボーンを形作った思想家の考え方を著者のものさしでわかりやすく指し示した著作である。

    特にカルヴァン派の考え方ピュ―リタニズムからなぜニーチェにつながっていくのかも理解できた。

    高校・大学・社会人となり、西欧近代社会について勉強してきた者がもういちどおさらいするのに適した本である。

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著者プロフィール

経済学者、京都大学大学院教授

「2011年 『大澤真幸THINKING「O」第9号』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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