表の体育裏の体育: 日本の近代化と古の伝承の間に生まれた身体観・鍛錬法 (PHP文庫 こ 37-3)

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  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (345ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569661490

作品紹介・あらすじ

裏の体育とは日本の伝統文化を核に直感と体験によって打ち立てられた民間健康法・鍛練法のことである。対する表の体育は、西洋科学に基づいた医学や学校体育。本書では、スポーツや介護、音楽などの各界が注目する著者が、現代の身体観の常識を覆す「裏の体育」の世界を検証する。表と裏の接点である武術を語りつつ、肥田式強健術創始者・肥田春充を紹介。日本人の身体を育てる「体育」のあり方を考える。

感想・レビュー・書評

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  • 甲野の初著(※既に「処女作」という言葉は使いにくい)である。霊術に注目したのは卓見で日本近代の宗教的変遷に鮮やかな色彩を施している。2/3ほどは肥田春充〈ひだ・はるみち〉に関する記述で、その引用の多さを思えば書籍タイトルに肥田の名前を入れないのは詐欺に近い。
    https://sessendo.blogspot.com/2021/07/blog-post_7.html

  • 明治の健康家 肥田春充を記録する伝記に、前後少し足した本 丹田ないし正中心を充実させることを重視する記述であるが、甲野氏の他の叙述とは趣を異にしている

  • 期待して読んだのですが、全体に引用が非常に多く、その原文の力は伝わってくるものの、甲野さんの独自性はその陰に隠れているといった風です。

  • 今では名前も売れ、賛否の分かれる甲野さんの実質的デビュー作です。

    裏の体育とは著者の造語で、各種の民間療法や鍛錬法のことです。
    キーワードは丹田で、
    ・大正から昭和初期に流行した霊術、大本系の団体で行われた触手療法、大霊道などの流れ
    ・剣術、抜刀術など腰や丹田の使い方に特徴がある、日本独自の武術及び白隠や白井亨が実践した「練丹の法」
    ・肥田式強健術
    の3つの分野についての見取り図を描いてあるといえますが、こうした分野に関わってしまった人間、団体の悲しい末路が書かれた、暗い気分にさせてくれる本でもあります。

  • 「本書の読者のうち、とくに経営者やサラリーマンの指導者層には、この本のエッセンスを、いまからビジネスに取り込んでいただきたいと思うのである」
    (経営コンサルタント 神田昌典氏)

  • 見返し
    私は、甲野氏の考え方をビジネスに取り入れる人々が増えれば、消費、そして経済のあり方を一変できると確信する。地球の環境、人間の身体の環境に焦点を合わせ、表の体育の知識を取り入れることで、今度はビジネスが破壊から新しい時代の創造に大きく貢献できるのである。その意味で、本書の読者のうち、とくに経営者やサラリーマンの指導者層には、この本のエッセンスを、いまからビジネスに取り込んでいただきたいと思うのである。
    本書「解説」〈神田昌典氏〉より

    この作品は、1986年10月に壮神社より刊行された『表の体育・裏の体育』に、加筆・修正を加えたものです。

  • 西洋式の全て数字と文字で表すことができ、化学的裏付けのある「表の体育」に反して、日本の主流は体感することでしか習得できない「裏の体育」。
    これを融合しようとした肥田春充が編み出した「肥田式健康法」を具体例として、「表」と「裏」のバランスを取る難しさを語る。(2008.2.26)

  • 甲野善紀著、PHP文庫を読んだ。いつもの僕の読書ジャンルからは外れるのだが、前から「巨人の桑田投手が身体観や鍛錬法を師事していた武術家」ということで甲野氏は知っていたし、患者さんからもこの人の書いた本が面白いと言われていたので、伊勢市駅前の本屋でバスを待つ時間で買った。

     “表”を科学的、西洋的、論理的であり、“裏”は非科学的、東洋的、非論理的と捉えて頂いていいと思う。甲野氏は武術による体の鍛錬はウエイトトレーニング等による筋肉のパワーアップなどに代表される科学的な表の体育ではなく、丹田といった非科学的な存在を体感してそれを活用する点を持つ裏の体育と表現している。

     医療の世界で見てみれば西洋医学は表の医学であり、各種民間療法、健康法、鍛錬法は裏の医学と言える。

     甲野氏は書く。「裏の体育である民間健康法と表の体育である医学との大きな相違は、裏の体育では精神心理作用を最大限に活かして使おうとするのに対し、表のほうではこうした精神心理作用はあまり積極的に研究しようとはしていないように見受けられるということである」

     また裏の体育のルーツとして「霊術」という言葉を出している。この言葉は今でこそ聞かれないが戦前、特に大正時代と昭和初期には今のヨガや太極拳ほどに知れ渡っていた言葉らしい。
     霊術と呼ばれたものには加持祈祷、催眠療法、気合術、自律調整法、静座法、座禅、呼吸法、暗示、テレパシー、鎮魂帰神法、手かざしなどが含まれるようだ。
     僕のしている治療法はまさにここでいう裏の体育、医学というわけだ。

     本はまた、肥田春充がつくった肥田式強健術と肥田の思想といういわば表と裏の体育の間をつないだ身体観・鍛錬法を詳しく解説しておりそれも興味深かった。また地球環境のことや私達の便利な生活への批判、自然保護の重要性、ブナ林の重要性なども説いており、武術家だから自分とはまったく関わりがないだろうと思っていた甲野氏の思想がほとんど僕と似ているところに驚きもした。

     癌の食養生の姿勢に参考になる文を挙げてみる。
     「裏の体育の本質は技芸、芸術の領域にはいっており、その人の生きるセンスの日常化、生活化とでもいうことに本領があるのであって決して単なる表面的、物理的健康を追求しているのではないということを頭に入れておく必要がある」

     「したがってたとえば食物の場合、頭の知識で体に良いか悪いかを判断して、まずいのを我慢して食べているようではあまり意味が無いのであって、体にとって有益なものが食べたくて食べるようになるのでなければ、本来の体育の意味は無い」

     体を治すために玄米菜食をするというだけは治りきらない、玄米菜食というスローフード、自然に、環境に、霊的に負担の軽い食事スタイルを積極的に、嬉しがって選択しない限り本来の治療に結びつかない、と言っていると捉えたい。

  • 甲野善紀の著書のなかでも、最も好きな一冊。
    この本をよんで、すごさが伝わった。

  • 分類=武術・身体論。04年3月(86年10月初出)。

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著者プロフィール

1949年、東京生まれ。
20代はじめに「人間にとっての自然とは何か」を探究するために武の道へ。
1978年、松聲館道場を設立。
以来、日本古来の武術を伝書と技の両面から独自に研究し、2000年頃から、その成果がスポーツや音楽、介護、ロボット工学などの分野からも関心を持たれるようになり、海外からも指導を依頼されている。
2007年から3年間、神戸女学院大学で客員教授も務めた。
2009年、独立数学者の森田真生氏と「この日の学校」を開講。
現在、夜間飛行からメールマガジン『風の先・風の跡』を発行している。
おもな著書に、『剣の精神誌』(ちくま学芸文庫)、『できない理由は、その頑張りと努力にあった』(聞き手・平尾文氏/PHP研究所)、『ヒモトレ革命』(小関勲氏共著/日貿出版社)、『古の武術に学ぶ無意識のちから』(前野隆司氏共著/ワニブックス)などがある。

「2020年 『巧拙無二 近代職人の道徳と美意識』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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