世界金融崩壊 七つの罪 (PHP新書 582)

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  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569706870

作品紹介・あらすじ

二〇〇七年にサブプライム・ローン問題が顕在化して以降、アメリカ発の金融危機は全世界に広がり、日本を含めた世界各地の経済が壊滅的な打撃を受けた。「百年に一度」と言われる金融崩壊の真犯人はいったい誰なのか?世界の隅々まで達した情報・金融ネットワークを背景に、起こるはずのなかった住宅バブルがアメリカ全土に広がったとき、無限の成長を約束したはずのIT革命、金融工学は凶器と化した。危機の本質を、気鋭のジャーナリストが「欲望」「物語」「技術」「思想」など七つの視点から論じる。

感想・レビュー・書評

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  • 世界金融崩壊七つの罪2008年のリーマンショック、その前のサブプライム問題等の一連の経済ショックに付いての内容になります。非常に理解し易い論点から書かれていますし、改めて復習できた良い1冊でした。

  • 言論誌の編集にも携わったことのある、政治・経済のジャーナリストである著者。言葉が巧みに使われているので、内容もさることながら、表現の素晴らしさは学び取りたいと感じました。

    バブルを「感染」。言い得て妙です。

    サブプライムローン問題が起こった背景や、証券化の功罪についてストーリーを追って章を進めているので、これらの問題について基本的な部分から知りたいという方に読んで頂くと良いでしょう。

    各章は単独で読み切ることができる一方で、1章から読み進めていくと、過去の事象が次の問題の火種となっていることがわかります。またこれも文章のテクニックとして学びたい点でもありますが、各章の終わりに、次の章につながる1文が必ずあるため、スムーズに読むことができます。

  • [ 内容 ]
    二〇〇七年にサブプライム・ローン問題が顕在化して以降、アメリカ発の金融危機は全世界に広がり、日本を含めた世界各地の経済が壊滅的な打撃を受けた。
    「百年に一度」と言われる金融崩壊の真犯人はいったい誰なのか?
    世界の隅々まで達した情報・金融ネットワークを背景に、起こるはずのなかった住宅バブルがアメリカ全土に広がったとき、無限の成長を約束したはずのIT革命、金融工学は凶器と化した。
    危機の本質を、気鋭のジャーナリストが「欲望」「物語」「技術」「思想」など七つの視点から論じる。

    [ 目次 ]
    プロローグ 世界経済を崩壊させたのは誰なのか
    第1章 巨匠―神の如き男の凡庸な弁解
    第2章 欲望―グリードの「仕組み」を考える
    第3章 物語―今度こそ「新しい時代」が到来した
    第4章 技術―繁栄をもたらす金融テクニックの罠
    第5章 思想―世界を金融で改造するという傲慢
    第6章 未来―アメリカを駆り立てる「チェンジ」と「保険」
    エピローグ 二つの「感染」にどう立ち向かうか

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • ●読書録未記入
    p.202〜206 【参考文献集】
    p.4〜5 【◎「オンリー・イエスタデイ―1920年代・アメリカ」 (F.L. アレン/筑摩書房(1993-03)ちくま文庫)
        〜1929.10.24の金融恐慌:『経済構造が「ばっくりと大きく割れた」』=「クラック・ワイド・オープン」】
    p.22 【◎「通貨政策の経済学―マサチューセッツ・アベニュー・モデル」(ポール クルーグマン/東洋経済新報社(1998-05)
    〜『緊縮財政を実施しても、金融緩和を十分に行えば、為替レートがドル安に触れてはじめは景気拡大が起こるが、やがてこの景気拡大が金利を上昇させてしまうので、ドル安と輸出増加の効果を減殺してしまう。しかしグリーンスパンが行った金融緩和は、ドル安を招来して輸出を上昇させただけでなく、なかなか景気拡大に陰りが生まれなかった。それどころか1995年頃には「雇用なき景気回復」といわれたものの株価は急進を続け、1996年には、株価バブルに近いような状態にまで立ち至ったのである。』】
    p.23 【◎「波乱の時代(上・下・特別版)(アラン グリーンスパン/日本経済新聞出版社(2007-11-13)
    〜「根拠なき熱狂」1996.10ニューヨークダウ平均6000ドル突破に対して】
    p.26 【「労働生産性」は、「実質GDP(国内総生産)を国民の総労働時間で割った数値を基本にして算出する。その際、名目GDPから実質GDPを算出する際に用いられる消費者物価上昇率が低くなれば、当然、実質GDPは高く見積もられる事になる。その結果として、労働生産性も高く算出される事になるわけである。〜米ジャーナリストのボブ・ウッドワードは、グリーンスパン称賛の評伝「マエストロ(巨匠)」(サイモン&シュースター)で、グリーンスパンが取り組んだ堂々生産性の算出法改変を、「経済におけるマンハッタン計画」と呼んでいる。→アメリカの労働生産性は算出方法変更により1995年より「高く」なった〜これは1995年に「IT革命」が起こったからでは無く、グリーンスパンが勝手に「IT革命元年」を決めたからである。】
    p.35 【◎「グリーンスパンの正体――2つのバブルを生み出した男」(ウィリアム・A・フレッケンシュタイン,フレデリック・シーハン
    /エクスナレッジ(2008-04-02)〜『二つのバブル(2000年:IT 2005年:住宅(これは「バブル」でなく、「フロス」(ビール等の小さい泡)だと言っている)は「放置」するしかなかった』:本当か?】
    【グリーンスパンは「日本のバブル崩壊を詳細に研究する事で、バブルを起こさない金融政策を編み出したとか、あるいは、穏やかなバブル崩壊に導く事で被害を最小に食い止める事を身に着けた」などと言われた。しかし、ITバブルを回避する事が出来なかっただけでなく、その崩壊の際に行った政策は、新しいバブルを作り上げることに過ぎなかった。しかも、その新しいバブルはグリーンスパンがFRB議長を去ってから破裂し、アメリカの金融システムが崩壊するほどの『事後処理』を強いられる事になったのである。→グリーンスパンが「神の様な能力」を持っていたりとか「誠実な態度」をとっていた、というのは難しい。】
    p.38 【◎「検証グリーンスパン神話―バブルに消えた7兆ドルと負の遺産」(ピーター・ハーチャー/アスペクト(2006-11-27)
    〜「グリーンスパンは政府との関係に細心の注意を払った議長と推測される。」】
    p.38 【金融緩和はバブルさえ起こさなければ、ウォール街・国民・政府に歓迎される→金融緩和を行った事がグリーンスパンの人気の秘密か?(前任者:ボルカー議長は常に金融引き締めを意識した為か、インフレは払拭したが、あらゆる分野との摩擦が広がった。)】
    p.39 【◎「良い政策 悪い政策―1990年代アメリカの教訓」(アラン ブラインダー,ジャネット イェレン/日経BP社(2002-12)
    〜著者:ブラインダーはグリーンスパン議長の下で副議長を務めた。「クリントン政権の増税下で、なぜグリーンスパンが金融政策だけで景気を回復できたのか?」という疑問に対して、「単に『幸運』だったから」と述べている。】
    p.40 【◎「九〇年代の米国経済学」(フランケル&オルザック/MIT出版):(日本では未訳か?)でも同上。(プリンストン大学教授のG.グレゴリー・マンキューの結論も、グリーンスパンに対して冷たい。「90年代に需要も供給も安定した状態が維持された」のも、「労働生産性が向上した」のも『幸運(ラック)』に過ぎない、と述べている。】
    p.41 【「リンカーン貯蓄組合」の乱脈〜グリーンスパンは多額の顧問料を受け取り、経営状態についての好意的な公的レポートを書いた】
    p.51 【ARM(アジャスタブル・レート・モーゲージ)=金利変動型の住宅ローン。サブプライム問題の一因となった。2003から翌年にかけて提供された「ハイブリッド型ARM」は始めの3〜5年は低金利だがその後金利が急上昇。(4%だったものが7.5%に、等)→「返せなくて当たり前」が前提:自宅が担保で金融機関は取りはぐれは無い。借りた人は家を失い借金が残る。(住宅価格が下落すれば売却が出来なかったり、してもローン返済不能)】
    p.54 【◎「投資銀行バブルの終焉 サブプライム問題のメカニズム」(倉都 康行/日経BP社(2008-07-17)
    〜「何冊もの魅力的な金融史を書いた倉都康行氏は、30代でアメリカの銀行に移ったが、この時アメリカの投資銀行は「憧憬」の対象だったという。」:「デリバティブ」(金融派生商品:スワップやオプションなど)なとの積極的なビジネスが展開され、優秀な人材が流れ込んできたが、その一方で次第に投資銀行特有の「ネガティブ」な面も増幅され始めた。(中略)金融の魔性と、利益と理念のバランスが崩れた時に顔を見せるものなのだろう。サブプライム問題はその臨界点であった。】
    p.56 【「ジャンク・ボンド」:名前の通り、「ジャンク」(くず)のような信用の低い債権で、その分リスクが高いがその分リターンも高い。そこで投資銀行ドレクセル・バーナム・ランベールにいたマイケル・ミルケンが考えたことは、この「ジャンク・ボンド」を良く深い投資家たちに購入させて企業買収のための資金を集める事だった。こうして調達された資金は、80年代のM&Aブームを巻き起こした。ミルケンと組んで仕事をした債権仲買人のアイバン・ボウスキーは、映画「ウォール街」(オリバー・ストーン監督)に登場する投資家:ゴードン・ゲッコー(演:マイケル・ダグラス)のモデルとされ、『強欲(グリード)とは健全なものだ』のセリフが劇中にある。ミルケンとボウスキーは、この映画のゲッコーと同じくインサイダー取引で逮捕された。】
    p.57〜58 【◎「大破局(フィアスコ)―デリバティブという「怪物」にカモられる日本」(フランク パートノイ/徳間書店(1998-02)
    で「客の面の皮をひん剥く」:デリバティブ(金融派生商品)は高度な数学を用いて作られている為、免責条項の多さと共に客には内容が複雑すぎて理解できず、ありもしない資産をあるように見せかけた商品でも金融関係者は罪に問われる事が少なかった事から、こう表現された。〜この時期、「ひん剥かれた」客には、カリフォルニア州オレンジ郡やP&G社に加え、大和銀行や住友商事なども名をつらねていた。】
    p.59 【「コニャックの空き瓶を売るテクニック」:ファースト・ボストン銀行のM&A部門で稼ぎ頭だったブルース・ワッサースタインとジョー・ペレラという投資銀行員が独立して「ワッサースタイン・ペレラ」という投資銀行を設立する。やがて優秀な投資銀行家たちがやっている銀行だというので、ドイツのドレスナー銀行が買収したいと言い。交渉の末に成立、「ドレスナー・クラインウオート・ワッサースタイン」という新しい名前まで決まった。ところが、いざ業務を始めようとした時には、ワッサースタインもペレラも退職して他の投資銀行に移ってしまった。この二人(コニャック)が抜けた銀行:「空き瓶」を買わされたドレスナー銀行は泣く事に。】
    p.62 【◎「インターネット・バブル―来るべき反動にどう備えるか」(アンソニー・B.パーキンス,マイケル・C.パーキンス/日本経済新聞社(2000-04)〜「以前よりも乏しい知識で以前よりも早く決定しなければならない。こうなれば単なる「IPO(上場)合戦」である。」】
    p.65 【◎「ウォール街の崩壊―ドキュメント世界恐慌・1929年〈上〉・〈下〉 (講談社学術文庫)(G. トマス,M. モーガン=ウィッツ/
    講談社(1998-09)〜「強欲に取り付かれた人間は常に紳士の振りをする。」】
    p.70 【金融関係者のなかでも、新しい試みを行う人間(ジョン・ローなどのように、ペテン師寸前の)というのは、対外フットワークが軽快なので、バブルが崩壊してもすぐに逃げてしまうか、あるいは、新たに別の活躍の場を見つけ出す事が多い。:彼らは、多くの人間の欲望を読み、巨大な箱舟に乗るように誘いをかけるのだが、その箱舟が一度として黄金のアララト山に逢着したためしはなく、飾らず洪水のなかで座礁してバラバラになってしまう。にもかかわらず、人々はこうした欲望の箱舟が新たに登場すると、先をあらっ疎手乗船しようと試み、そして裏切られるのである。】
    p.71 【【金城湯池(きんじょうとうち)
    〔補説〕 「漢書(通伝)」にある語句。金でできた城と熱湯をたたえた堀の意。
    [1] 守りが堅固で容易に落城せぬ城。
    [2] ある勢力が強く、他の勢力の容易に入り込めぬ地域。
    ・ 保守党の―
    [ 大辞林 提供:三省堂 ] 】
    p.81〜83 【「土地・住宅」が「住む物」ではなく「金融商品」として投機の対象になり、所有権だけが売買されるようになった。→世界レベルでの「市場の変動」の影響を受けるものに。アメリカの住宅バブルは、住宅が住む家では無くなり、投機の対象となったことから全国規模のバブルに膨らんだ。】(「根拠無き熱狂」(ロバート・シラー著)より】
    p.88 【「カスケード」=「小さい滝」。最初は雫(しずく)だったものが集まって滝になる。】
    p.90 【◎「日本経済の真実―通説を超えて」(吉冨 勝/東洋経済新報社(1998-11)〜バブル成立に不可欠な原因の一つとして、「多幸症」(ユーフォリア)を挙げている。】
    p.94 【「ライオンズ・シェア」=「勝者の取り分」】
    p.108 【「MBS」=「住宅ローン担保証券」:1990年代から急速に普及し、2006の時点ではMBS発行総額が六兆ドルを超え、米国債の発行残高五兆ドルを凌駕する規模にまで拡大した。】
    p.109 【「CDO」=「債務担保証券」。投資銀行は「MBS」(住宅ローン担保証券)を発行して投資家に売り手数料を稼いでも儲けに限界があるので、「MBS」をプールして「CDO」(債務担保証券)というものに組みなおす事にした。この操作をウォール街では「スライス・アンド・ダイス」と呼んだ。もともとは料理用語で、「切り刻んで賽(サイ)の目にすること」だが、情報工学に転用されて情報の解析を意味するようになった。金融ではCDO(債務担保証券)を複数の「トランシュ」(フランス語で『切り身』を意味する)に切り分けることは同じでも、「切り分けて(スライス)、そして博打をする(ダイス)」と読めてしまうところがなんとも意味深長である。
    こうすれば、「シニア」(格付けが高くて安心できる金融商品:ローリスク・ローリターン)は投資家や金融機関に売り、「メザニン」(ミドルリスク・ミドルリターン)は、「それが欲しい」という金融機関に売り、「エクィティ」(格付けが無いという危険極まりない金融商品」:(ハイリスク・ハイリターン)は自分たちで確保して高い利子を稼ぐか、売り逃げる事を前提で投機の対象にするヘッジファンドなどに売りつける。
    もともとのMBSに住宅ローンの「デフォルト」(債務不履行=返済できなくなる事態)が起こると、もとりと共に得られなくなる順序は「エ・メ・シ」の順だが、CDOを組成してしばらくはその危険は無いから、投資銀行とその周辺の連中は様子を見ながらエクイティの売却時期を考える事になる。何故こんな面倒くさい事を摺るのか。もちろん、CDOを売却する時点で自分たちの取り分である手数料は得られるが、他にも金儲けのネタが生まれるからに他ならない。まず第一に、切り分ける際に利回りの低いシニアの分量を多くとれば、メやエは、その分利回りが高くなるから自分たちの金儲けに使える。第二には、格付け会社とつるんで実際より格付けを高くしてもらえば、その分だけ高く売れて自分たちの取り分を多く出来るからである。】
    p.112 【◎「ウォール街の闇」(堀川 直人/PHP研究所(2008-10-29)〜金融理論は取引を円滑にする為に使われるのではなく、むしろ金融商品の購入者を煙に巻いて誑(たぶら)かすために使われている例が多かった。本来、MBS(住宅ローン担保証券)を組み立てる際には、なるべく多くの種類の異なった性格を備えている住宅ローンの債権を集める事が前提となっている。たとえば、集められた多くの住宅ローンは、お互いに価格帯も違えば、住宅がある地域も違い、また、経済ショックが起こっても債務不履行になる度合いも事名手いることが必要とされる。こうした『ポートフォリオ理論』を提示したのがノーベル経済学賞受賞者ハリー・マーコヴィッツだったわけだが、悪質な投資銀行はこの理論どおりに様々な住宅ローンを集めたMBSだと偽って格付け会社に持ち込み、リスクは低く信用は高いMBSだというお墨付き(格付け)を貰う。しかし、現実にはせいぜい地域が異なる程度で、住宅の価格帯も似ていれば住宅の購入層も同じような住宅ローンからなっているために、リスクの分散がまったく十分でなく、したがって、本来のリスクはずっと高い訳である。】
    p. 114【「ABCP」(アセット・バックド・コマーシャル・ペーパー)=短期の資産担保証券の一種。英国のノーザンロック銀行(2007.07のサブプライム問題の取り付け騒ぎで破綻)はMBS(住宅ローン担保証券)やCDO(債務担保証券)を購入してこのABCPをを発行するのが得意だった。
    「SIV」(ストラクチャード・インベストメント・ビークル)=MBSやCDOを担保にABCPを発行する特別目的会社。ノーザンロック銀行は「SIVそのもの」と言われていた。要するに、住宅ローンから派生して生まれた証券を集めて、それを担保にABCPという「コマーシャル・ペーパー」(すぐに換金可能な手形)を発行して設ける特別目的会社が「SIV」で、その業務を大々的に行っていたのがノーザンロック銀行。このビジネスはバランス・シートで言えば、負債の側が短期で利子の低いABCPであり、資産の側が長期で利回りの高いMBSとCDOというわけだから、何も起こらなければ良いビジネスになる。ところが、サブプライム問題の顕在化で、MBSやCDOの信用が下落したために、ABCPの市場は急激に沈滞してしまった。こうなるとSIVはABCPが売れないから回転資金が得られなくなり、MBSやCDOもかWなくなる。SIVは次々と破綻して、SIVに出資していた投資銀行や商業銀行も巨大な損失を被る事になった。もちろんSIVの塊のようなノーザンロック銀行も破綻し国有化されてしまった。】
    p. 116 (参:P.189「中国の『毒餃子』とアメリカの『毒証券』」【「マルチライン」(複線)=多くの種類の保険を手がける保険会社
    「モノライン」(単線)=「マルチライン」に対し、地方債に絞ってモノライン(単線)の保険を専門にする保険会社。本来なら「お堅い」(格付けは最高のAAA)はずだが、業務拡大でMBS(住宅ローン担保証券。)に進出したのが悲劇の元に。このMBSが政府系でなくウォール街系でサブプライム・ローンを元にしたMBSが紛れ込んでいたために、「モノライン」自体の信用・格付けまで低下、アメリカの地方公共団体はパニックに陥った。信用のある「モノライン」の保証無しでは起債出来なかったからである。
    〜MBS(住宅ローン担保証券)から作り出されたCDO(債務担保証券)を売買するゲームは「ババ抜き」に例えられるが、こちらの方が遥かに危険。どれがババか分からない上に、ババが一枚とは限らないからである。(毒ミンチが混ざったミンチ)
    参:◎「世界連鎖恐慌の犯人 (Voice select)(堀 紘一/PHP研究所(2008-12-18)p.74 【「CDO」(Collateralized Debt Obligation);「資産担保証券」。金融工学の面目躍如ともいえるデリバティブ。「異なったリスクをパッケージにする」(→「大数の法則」が働いてボラティリティ(上下の変動幅)が減る→リスクが低減する→格付けが上がる→格付けが良い割りに利回りが良い→地銀などが買っている。)が商品開発発想の元。(パッケージ例:「CDS」(クレジット・デフォルト・スワップ)・国債・州債・社債・ジャンク債・サブプライムローンetc.」
    【「CDO」は内容が複雑すぎてまず理解不可能。ある時(2008年夏)、その危険さに気付いた「香港上海銀行」が「四割もの損」を覚悟で全てのCDO(一千億円分)を「売り」に出し、「店頭気配」(取引価格)を出している以上、「メリルリンチ」はこれを引き受けて買わざるを得なかった。→これでインベストメントバンクはすっかり参ってしまい、「店頭気配」を出すのを止めてしまった→取引ストップ:CDOが無価値になったわけでは無いが、財務理論上は「値が付かない物・売れない物」は紙くず同然とされる。→これで世界中がパニックに。→《このCDOパニックの特徴》:企業・銀行がお互い疑心暗鬼になった事。(お互いどんな「爆弾」(CDO)を持っているか解らず、相手の財務状況が信用出来ない→よく知っている相手でもお金を貸せない。「オーバーナイト・コール」でさえギクシャクする。】
    p.118 【「AIG」(アメリカ・インターナショナル・グループ:巨大な保険産業コングロマリット):2008.09に破綻、事実上政府の管理下に置かれた。この時点で同グループは、本社をニューヨークに置き、世界の130を超える地域で事業を展開し、従業員は11万6千人を擁していた。破綻の一因は「CDS」(クレジット・デフォルト・スワップ)といわれるデリバティブ(金融派生商品)の一種で、同グループはCDSによってCDO(債務担保証券:ハイリスク・ハイリターン)などの証券化商品を保証する業務を拡大していったが、これがサブプライム問題の顕在化で債務を抱え込む事となり、命取りとなった。
    ★「CDS」(クレジット・デフォルト・スワップ)の仕組み:例)銀行が企業に融資をする際に、銀行が保険会社に一定の保険料を払えば、企業が債務不履行を起こした場合、銀行が企業に融資した元本は保証される。この時、銀行が持っていた債権はそのまま保険会社に移る。つまり、保険会社は破綻した企業の負債を丸ごと背負う事になる。このCDSによる保証は、金融市場で売買する事もできるので、企業の格付けによって評価の異なるCDSが市場を行き交うことになる。普通の保険(ローリスク・ローリターン)からCDS(ハイリスク・ハイリターン)路線に傾斜して、サブプライム問題が顕在化した時、いっせいに生まれた膨大な不良債権を抱え込む事になった。】
    p.119 【「オプション」:金融工学が開発したデリバティブ(金融派生商品)の一種。例えば、一ヵ月後にある品物を売る権利を「プット」といい、逆に買う権利の事と「コール」という。この「権利」を放棄して「時価」で売る事もできる。〜自分にとって有利な方を選択。】
    p.120 【「ブラック=ショールズ式」か:オプションのプットやコールといった権利の値段の算出方法をフィッシャー・ブラックとマイロン・ショールズ、ロバート・C・マートンが研究、1969頃に完成させた物。1997にノーベル経済学賞が与えられた。(ブラックは残念ながら死去していた為、ショールズとマートンが受賞)ところが翌1998に「LTCM」(ロング・ターム・キャピトル・マネジメント:ショールズとマートンが主要メンバーのヘッジファンド)が破綻。原因は二人が自分たちの理論に自身がありすぎたせいだとも言われた。自己資本を理論的に許容できるギリギリまで縮小していたため、想定外だったロシア国債のデフォルト(債務不履行)が起こったとき、資金の為の追加担保が枯渇して追い詰められてしまった。マートンの父は社会学者で有名なロバート・K・マートン。社会的フィードバックの研究で知られ、「自己実現学習」と呼ばれる現象を理論化。息子のマートンは最初、自動車のエンジニアになる事が夢でコロンビア大学工学部に在籍していた時、「アービトラージ」(裁定取引)と呼ばれる投資テクニックを思いつき、かなりの額を手にして以来、ノーベル経済学賞を受賞したポール・サミュエルソンなどに着いて金融工学の研究に転向した。マートンは現実の金融システムには多くのムダがある事に気付いていた。この現実の世界において補償や保険の全てはデリバティブによって実現できる。しかし、この社会革命思想は賛同を得られず、また例え実現したとしても「網の目」を潜り抜けて『騙し』を行う人間はいるだろう。そしてそもそも金融工学が教えている唯一の事は、『何も特別な情報を持たない人間は、市場を出し抜く事ができない』という単純な事実に過ぎないのである。】
    p.123 【会計学:「時価会計」と「原価会計」〜「時価会計」の方が不正が起こりやすいとされる。(時価会計の専門家である神奈川大学教授の田中弘氏による)証券化にしてもデリバティブにしても、効果を上げるにはこの「会計の時価主義」が必要。「時価」は好況を加速させる効果があるが、不況時には「時価」下落により金融は激しく縮小する事になった。「会計基準」は守るべきルールだが、それはツール(道具)にでもあり、「技術」に過ぎない、という視点も持たないと自分の首を絞めることにもなる。】
    p.125 【「伊藤の公式」〜京都大学名誉教授:伊藤清(アメリカでこの公式により「イトー」と呼ばれる)による。戦時中の1942に発表され、水中の微粒子の「ブラウン運動」のようにランダムな動きを、数式で表現する画期的なもので、p.120 【「ブラック=ショールズ式」はこの業績に全面的に依存していたことから、1997に「ブラック=ショールズ式」(既にウォール街で使われている電卓に内蔵)のノーベル経済学賞受賞により再注目された。伊藤清氏は2008.11.10に死去。〜金融工学は高度な数学によりリスクを右から左に移すことはできでも、リスク自体をなくすことは出来ない。しかし、数学を操る経済学者のなかには、数学によって描き出した仮想的な経済が、あたかも現実を支配するように思い込む者も少なくない。】
    p.136 【アメリカの経済学者ミルトン・フリードマン(2006.11.16死去)は師匠であるフランク・ナイトの「リスクには計算できる物と出来ない物の2種がある」という説を批判、「リスクは数値化できる」という立場をとっている。】
    p.143 【フリードマンの提案した経済政策は殆んどが失敗に終わった。
    マネタリズム【monetarism】
    【ケインズ経済学に基づく裁量的経済政策に反対し、市場機構の作用に信頼をおき、貨幣増加率の固定化を主張する政策的立場。フリードマンに代表される。】[ 大辞泉 提供:JapanKnowledge ]
    「マネタリズム」〜◎「資本主義と自由」で、フリードマンは至上主義を前面に打ち出し、政府の介入を批判して、「経済政策は通貨量を一定の速度で増加するだけでいい」と主張した。これがフリードマンの「マネタリズム」である。マネタリズムがサッチャー政権やレーガン政権によって『採用された』ことにより、フリードマンの名声は決定的なものになったサッチャーはハイエクの◎「隷従への道―全体主義と自由」(フリードリヒ・A. ハイエク/東京創元社(1992-07)(マネタリズムなどについての書)を愛読書にし、政権に就いた当初はマネタリズムを経済政策に取り入れたが、「通貨量を一定の速度で増加させるだけ」というフリードマンのマネタリズムは政治的にはまったく使い物にならず、じきに放棄せざるを得なかった。(◎「衰退国家の政治経済学」(小笠原 欣幸/勁草書房(1993-11)】
    p.145 【「頭のなかだけで考えたものを正しいとする実証経済学」〜フリードマンは変動相場制に切り替えれば、国際収支の不均衡が解消されると信じていたが、これがまったく達成されなかったことは、歴史が示す通り。しかも、輸出に依存しえいる開発途上国にとって為替の激しい変動は耐えられるものではない。そこでこうした国々はドルに為替を固定する「ドル・ペッグ制」や、ドルを中心にして他の通貨も反映させる「通貨バスケット制」などで切り抜けてきたのである。さらに、フリードマンが提案した「教育バウチャー制度」(現金引換え件による補助金制度)などは、成功した例が殆んど無い。
    ★欧米語での「実証的」(ポジティブ)は、時には「経験的」という意味ではなく、逆に「頭の中だけで考えた」という意味になってしまうことに注意しなくてはならない。例えば法学ではハンス・ケルゼンの「法実証主義」が有名だが、ケルゼン法学は現実から法体系を引き出すのではなく、論理の整合性から現実に適用すべき法体系を引き出す。これに対しては、他でもないハイエク(フリードマンを破門した師匠)が激しく批判している。◎「法と立法と自由II ハイエク全集 1-9 【新版】」(ハイエク,西山 千明,矢島 鈞次/春秋社(2008-01)

    p.149 【◎「セイヴィング キャピタリズム」(ラグラム ラジャン,ルイジ ジンガレス/慶應義塾大学出版会(2006-01-11)〜【著者のラジャンとジンガレスが「資本市場を守れ」と言う時、彼らは大衆社会の熱狂から市場社会を防衛しているように見えないことも無い。しかし、個々の議論をつぶさに検討していけば、何のことは無い、彼らの議論には「ピュアな資本主義こそが正当」というグリーンスパンなみの、楽天的でご都合主義的な市場称賛を見出すだけなのである。(◎「お金は銀行に預けるな」(勝間和代)p.198でも紹介された本。こちらの記述はやや好意的)しかし、著者ラジャンの金融システム崩壊への反応は素早く、BIS規制(世界的な銀行規制)の崩壊を見越して、新しい銀行規制のプランを発表している。→銀行の自己資本比率が急減しないようにする、新しい保険制度。しかしそれが有効かは疑問。】
    p.154 【BIS規制は不況時には融資を停滞させて経済を破壊する。もともとBIS規制は1970〜1980年代にかけてアメリカの金融機関が中南米に野放図に融資を展開して不良債権が膨らんだ為、その対策として誕生したもの。当時のFRB議長:ポール・ボルカーが中心となり、バーゼルにある「国際決済銀行」(BIS)が定める規制という形で、世界の銀行に適用するよう誘導した。1987年、ようやく先進諸国の合意に達したが、それまでの数年間議論は紛糾した。銀行の規制はそれぞれの国が国情に合わせて行うもので、「世界共通ルール」を定めても上手く機能するとは思えない、というのが欧州と日本の当然の主張だったが、アメリカはイギリスと手を結び、BIS規制に従わない国の銀行はニューヨークとロンドンでの業務が不可能になると宣言・恫喝した。】
    p.156 【◎「マッド・マネー―カジノ資本主義の現段階」 (岩波現代文庫)(スーザン ストレンジ/岩波書店(2009-01-16)で、「国情を無視したBIS規制は失敗だった」という証言が紹介されている。】〜【→「BIS規制では正常なフィードバックは生まれないから、保険の仕組みで是正しなくてはならない」と今回(2009)の『BIS規制改革案』では言われている。〜「実に」興味深い。】
    ★「BIS規制の起源」については本書の著者の◎「BIS規制の嘘―アメリカの金融戦略と日本の転落 (B&Tブックス)」(東谷 暁/日刊工業新聞社(1999-02)を参照。】
    p.159 【ロバート・シラーは◎「ザ・サブプライム・ソリューション」(プリンストン大学出版・未邦訳)で3つの解決策を提案しているが(保険の充実など)、果たして有効だろうか?(解決策×3 1.金融に関する一般向けインフラストラクチャの充実 2.経済的リスクをもっと広範囲にカバー出来る金融市場の監視の仕組み 3.一般の人が使える金融的な手段の創出。これは継続的に有効な住宅ローンや住宅資産保険などを含み、消費者にもっと強力な保険を提供する。〜サブプライム問題で家を失いかけている国民に対しては、低金利カツT表記のローンに組み替えるなどの救済策を実行するしかないとしているが、その後はこの3策で再度サブプライム問題の様な事件を引き起こさないようにするべき(保険の充実)と述べているが…。金融工学に基づいた際どい「金融商品市場」に一般の人(殆んど情報を持っていない)が参加するのは、極めて危険ではないだろうか?こうしたシラーの議論を聞いていると、あれほどバブルを生み出す人間の非合理性を抉り出した人物が、今度は自ら金融の合理性の幻想に取り付かれているとしか思えない。日等理性を協調する行動経済学者であるシラーと、合理性をとことん追求しようとする金融経済学者のシラーは、明らかに分裂してしまっている。】
    p.165 【〜しかし、「保険」が効くのは数学的に確立計算が出来る自称に限られる。巨大な歴史的行為とは、そもそも確立計算を超えたものに他ならない。そしてまた、世界が同時に崩壊するような時代には、保険のメカニズムも機能しなくなる。いま目撃しているのがそうした事象であり、そうした時代なのではないだろうか。】
    p.166 【「バンコール」:スティグリッツ(アメリカ的な「良心」であるような経済学者)が主張している改革案の中でも『国債基軸通貨を「ドル」から「バンコール」と呼ばれる人工通貨に換えてしまう』という提案。(参:Wikipedia:【バンコール (Bancor) とは、ジョン・メイナード・ケインズによって提案されたものの実現はしなかった国際通貨。
    第二次世界大戦までに各国が次々と廃止した金本位制に代わり、金など30種類の基礎財をベースにして国際的に通用する通貨を発行するというもの。しかしながらアメリカ合衆国の合意をとりつけることができず、実際には金の兌換性を維持した米ドルを機軸として、ブレトン・ウッズ体制が1971年のニクソンショックまで続くことになる。】
    p.175 【常に「チェンジ(変化)」が唱えられるアメリカでは、「チャレンジ(挑戦)」がすべてのものに優先される。そのことで人々は繰りかw誌新しい試みに挑戦する。(中略)しかし、その大胆な試みはしばしば「クラッシュ(破綻)」という結果を生み出さざるを得ない。それども、底からの脱却割くとして今新しいチェンジが、新しい未来として永劫回帰のごとく再来しているのである。】
    p.178 【「コンティジョン」=「感染」。ITブームや住宅ブームを「バブル」に成長させるのが「社会的感染」。】
    p.183 【「金融的感染」=金融危機が伝染病の様に急速に広まっていく。】
    p.189 (参:p. 116「ババが複数の上、どれがババか不明な危険なババ抜き」)【「中国の『毒餃子』(トクシック・ダンプリング)とアメリカの『毒証券』(トクシック・セキュリティ)】
    p.195 【「これからは国民経済の重視が世界の趨勢になる」:世界はグローバリズム称賛から、自国にとって有利な経済策を採用する時代に移行しつつある。他でもないアメリカが真っ先に「ニュー・ニューディール」という国内経済重視に変わってしまった。】

  • 同様の本が出尽くした中で、インパクトを感じない。やや堅い内容で、読み物としてもおもしろさに欠ける。グリーンスパンにかなり批判的。「
    キーワード
    「つまり高度な理論をつかった振りをして、自分の利益を強引に追求し」「講演会をハシゴして晩節を汚すグリーンスパン」「コニャックの空瓶を売るテクニック」
    「どのベンチャー企業に将来性があるのか」では無く「どのベンチャーが儲けのネタになるか」「強欲に取り付かれた人間は常に紳士のふりをする」「金融工学の理論は騙しのために使われていた」「伊藤の公式・・・金融の動きを「ブラウン運動」のようなランダムな動きを数式で表現する」

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著者プロフィール

1953年山形県に生まれる。早稲田大学政治経済学部卒業。ビジネス誌や論壇誌の編集者として活動、「ザ・ビッグマン」編集長、「発言者」編集長、「表現者」編集委員を歴任後、1997年よりフリーのジャーナリストとして活躍中。
『エコノミストは信用できるか』『エコノミストを格付けする』『予言者 梅棹忠夫』(以上、文春新書)、『日本経済新聞は信用できるか』(PHP研究所)、『経済学者の栄光と敗北』『不毛な憲法論議』(以上、朝日新書)など著書多数。

「2017年 『山本七平の思想 日本教と天皇制の70年』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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