娯楽都市・江戸の誘惑 (PHP新書 610)

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  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569709840

感想・レビュー・書評

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  • 今日の帰りの電車で読み終わった本、著者は安藤優一郎って、江戸に詳しい歴史家の人みたい。内容は江戸の娯楽産業について。
    近世は云々と学部の終わりくらいから繰り返し論文や発表で言ってきた僕だけど、実は江戸の経済とか生活とかそういうのはよく知らないので、何か易しそうな本から勉強したいなアというので、古書店「マゼラン」で色々のついでに買ったンです。

    江戸時代、いかなる娯楽産業があって、どれくらいお金が動いたか、どういう戦略で商売していたかが、わかりやすーく書いてあります。大体知ってることばかりだったので確認程度だったけど、あれこれ思い出して勉強になった。一大エンターテイメントスポットだった浅草寺とその周辺なんて、数字であれこれ示されるんで、とんでもない金額と人口が動いていたことが容易に想像できて、頭の中に江戸の町人やら武士やら歌舞伎役者やらなにやらがうじゃうじゃ湧いてぎゅうぎゅうの人ごみになる。耳から人が溢れそう。

    芝居にしても、三座のいわゆる大芝居が当初人気で、それから安い小芝居である宮地芝居(寺社の敷地内で興行する)登場して、大芝居が高級化するにつれ、宮地芝居に人が流れ、大芝居の役者も宮地芝居に出るようになるなんて話も面白い。宮地芝居も観られない層が楽しんだのが寄席だったそうで、ほおーわっかりやすぅい!! ふぉい!!

    江戸経済の面白いところは、金持ちには最高級の娯楽、そこそこにはそこそこクラスの娯楽、貧乏には貧乏向けの娯楽と、それぞれの層に対して娯楽を用意する商売人がいること。幕府も娯楽にはある一定の犯罪抑止力、社会のガス抜き機能があることを認めているところがあったそうな。ただ弾圧してただけじゃなくって、幕府も微妙な調整したりして、庶民や商人の反発には気を使ってたみたい。

    寺社の御開帳イベントは、地元や芸能者、興行主、スポンサーの豪商など様々な人間が参加し、人を集めて経済が動いていたわけで、もはや単なる宗教行事ではなかったというところに、宗教の現実的な在り方が見える。信仰と金銭は元々結びついていて、それは結びついてはいけないものではなくって、結びつくのはむしろ必然なのよね。信仰は生活することに根付くわけで、生活の大きな領域を金銭が占めているのだから。寺社の開帳を応援すると自分らの宣伝になるってンで三越や住友が費用肩代わりし、寺社の方も経済的に苦しくて御開帳で人を集め、スポンサーについてもらえないと困窮するというところは、今日にもつながる部分が大いにある。聖・俗の二元論で語れない宗教世界が語られてるだけでも大興奮。

    後半では大酒飲み・大食い大会のレポートをしたり、孫の御家人株買うために書画会を開く馬琴の様子が述べられていてニヨニヨ。馬琴先生は大人気作家だったンですな。

    ただ、ここまで経済が廻るのも、あくまで大都市の江戸だからであって、もっと言うと、閉ざされた狭い範囲の中でのみ経済が動いているから生じる現象なんだとも思う。あー、イヤ、海運も含めると閉じてはいないのかな? 地方のことも気になった。地方と江戸の関係もね。もうちょっと出版の話も知りたかったとも思う。

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著者プロフィール

歴史家。1965年、千葉県生まれ。早稲田大学教育学部卒業、同大学院文学研究科博士後期課程満期退学(文学博士)。JR東日本「大人の休日倶楽部」など生涯学習講座の講師を務める。おもな著書に『江戸の間取り』『大名格差』『徳川幕府の資金繰り』『維新直後の日本』『大名廃業』(彩図社)、『15の街道からよむ日本史』(日本ビジネス文庫)、『東京・横浜 激動の幕末明治』(有隣新書)、『徳川時代の古都』(潮新書)などがある。

「2024年 『江戸時代はアンダーグラウンド』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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