- Amazon.co.jp ・本 (429ページ)
- / ISBN・EAN: 9784569764825
作品紹介・あらすじ
父の死に関わる陰謀を追っていく笙之介に魔の手が……。そして「桜の精」との恋の行方は。宮部ミステリーの醍醐味を存分に味わえる力
感想・レビュー・書評
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主人公、笙ノ介は内気で気が弱い人、という印象だったけど、下巻を読み始めるとそれは違うと気付く。芯が強い、頭が良い、度胸がある。もしかして兄の勝之介より強いのかも、とも思った。でもいざっという時はいつも倒れてる気がする…。そこが可愛いし、好きだ。そしてそんな笙ノ介も可愛い彼女が出来る。和香との関係はすごく良い。お互いを思い合ってて、何でも言える仲だ。読んでて微笑ましい。
後半は笙ノ介の父の死の真相に迫る。真相が分かった時、笙ノ介は受け止める事ができるのか心配だった。読んでて死の真相が何となく想像が付いたから。どうか笙ノ介が壊れませんように、と思いながら読んでた。最後の50ページは涙ぐんでしまった。悲しさと人々の優しさが心に響いた。笙ノ介の周りには、本当にいい人たちばかり。これは私の願いなんだけど、兄の勝之介に少しでも良心が残っててほしい。
『きたきた捕物帖』を先に読んでたので、結末は何となく分かってた。でも私が思ってたのと違う⁉︎それがとてもびっくり。この結末に私は大満足。とにかく良かった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
上巻が面白かったので期待していたが、ちょっと重い話が続きイヤミスのように感じてしまった。三話目の「拐かし」では拐われた娘が家族に反発し、敵方に過剰に好意を持ち過ぎていたし、主人公の笙之介は腕に自信が無いのに出過ぎて殴られる。解決後は唐突に平穏になってしまう。
四話目では父親の死の真相に迫るが、キーマンの敵方が突然現れ、ドス黒い情念での行為で行った敵と父親愛の主人公との厳しいやり取りが15頁も続く。この敵の事を自分の味方である筈の2人が、最初から知っていたことも信じ難い。最後のキーマンが身内だったこともやり切れない。救われない話しの最後に、和香との未来が微かに描かれているのが何とか望みが出る。「きたきた捕物帖」で笙之介が辻斬りに切られて死んで空家になる話しがあったが、なるほどなと思った。-
kumaさん コメントを見逃していました。
この本の中では切られていないのですが、「きたきた・・」で、新しく長屋に入ってきた住人へ、その部屋...kumaさん コメントを見逃していました。
この本の中では切られていないのですが、「きたきた・・」で、新しく長屋に入ってきた住人へ、その部屋の先住者(笙之介)は辻斬りにあったと噂していたので、そう思いました。そういうことにしたのか、それとも別な人に斬られたかありませんでした。2022/05/08 -
浩太さん、
あの後、「桜ほうさら」の最後を、私も読み返してみました。勿論別の辻斬りにあの直後に襲われた可能性はないことはないのですが、あのラ...浩太さん、
あの後、「桜ほうさら」の最後を、私も読み返してみました。勿論別の辻斬りにあの直後に襲われた可能性はないことはないのですが、あのラストでは、その可能性を考えることは小説作法を否定するもののように感じます。このラストのすぐ後は、笙之介は長屋を離れ名前を変えて新しい人生を始めたのだと見る方が自然だと思えます。和香さんと一緒に。
しかも、新しい名前を「山片」にしていることが、私的にはとても魅力的です。もしかして、次に出てくる時には、山片蟠桃(江戸後期の自然科学者)として出てくるのでは、と期待できるからです。妄想です。
そんなこんなで、「きたきた」これからが楽しみです。2022/05/08 -
最初に「きたきた」を読んだので、長屋の先住者の消息が強く印象に残っていました。「桜ほうさら」だけであれば、kumaさんの通りの方が良いと思い...最初に「きたきた」を読んだので、長屋の先住者の消息が強く印象に残っていました。「桜ほうさら」だけであれば、kumaさんの通りの方が良いと思います。「きたきた」が回を重ねると分かるかも知れませんね。2022/05/09
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「我が弟子よ」
「は、はい」
「ささらほうさらであったのう」
親子やきょうだいは必ずしも絵にかいたような思いやりに満ちた関係で終わらない。
血が繋がっているからこそ、かよい合えない微細なささくれが、次第に大きくなり、溝となる。
「ささらほうさら」 とは
「いろいろあって、大変だった」の意。
人生の分岐点において、一つの選択を自ら下し、師匠にかけられたこの言葉の温かみが私の心も一緒に肯定してくれる。
家族だから、いつも一緒にいなければならないわけではない。
離れたほうが、お互い自分を大切にできることも少なくない。
「お家」第一の時代小説において、宮部さんが敢えて選んだ家族不和の問題。
家族のために自分があるのではなく、離れてそれぞれが生き永らえることの大切さを説いてくれる。
家族から離れ、別人として生き直しても、そこで支えてくれる人たちがいる。想ってくれる人もいる。
自分が大切にしたいと思う人々が現れる。
私も実家の家族とは疎遠で何十年にもなる。
「親孝行」という日本の美徳に溢れた言葉に押しつぶされそうになりながら、罪悪感を抱えて生きてきた。
だが、自分がつぶれてまで実家を支えることを私は選ばない。
実家や生まれた地域を離れ、家族を持ち、子ども達も何とか独立した。
私の人生も、「ささらほうさらであったのう」。 -
上総国から江戸に出てきた若侍の古橋笙之介。
父の死の真相を追う時代ミステリーだが、貸本屋との写本の仕事の様子や、深川の長屋でおせっかいだが優しい人々に囲まれる日々が温かく、宮部みゆきさんの時代小説らしさを楽しめる。
家族との関係の難しさが、古橋家の事件以外にもいくつか描かれており、苦しい。
笙之介に感情移入して読んでいたので、後半は心がかき乱されたが、「ささらほうさら」(いろいろあって大変だった)<さくらほうさら>と穏やかに語り合える最後で温かい気持ちになれた。 -
(少しネタバレ注意)
前回の(上)の書評で私は「絵巻物みたいになって落としどころがピリリとしない」と書いた。訂正してお詫びしたい。下巻になって、畳み掛けるようにテンポも良くなり、時に辛く時に甘く、見事に物語を着地させた。
また、「本格的な政治家は登場させない」とも書いた。しかし私は忘れていたのだが、「孤宿の人」の加賀様にしても、この作品の東谷様にしても、のほほんとした姿とは別の「冷酷な政治家」の姿が、良く読むと描かれているのである(反対にいえば、この二つは宮部みゆき作品の中でも例外に入るのではないか)。
浪人の三益兵庫は、貧困の中で妻子を亡くし絶望して竹光で腹を切り死ぬ。それを看取った長屋の少女・おきんは、同じ浪人の笙之介を心配して「お武家様は、面目が立たないと生きていかれないの。貧乏は恥ずかしいの」と泣きじゃくる。それを見て笙之介は云うのだ。
「私は三益殿のようにはならないよ」
笙之介はまだ、人というものに信を置くことをやめないから。
「三益殿がお腹を召したのは、この世にいる意味が見つからなくなったからだ。生きる甲斐がなくなってしまったからだ。武士の面目などのせいじゃない」(263p)
この約20年間に、会社人間が貧乏に陥り自殺する人が飛躍的に増えた。それに対する宮部の答だろう。
同じく、社会からドロップアウトした元青年と青年を2人登場させて、笙之介を面罵する場面をつくる。社会にたいする憎悪を、人を傷つけ殺めることで代替する。これも、現代の何処かで見たような場面だった。
笙之介は、社会に絶望し人を憎悪して作られた「読み物」を、新たな物語に作り直す。その内容は作品の中では明らかにはされないが、この上下巻を通じて語られていることだと、私は想像するのである。
2016年1月17日読了 -
「ぼんくら」シリーズで宮部みゆき時代小説にはまり、きたきた捕物帖、本作と読み進めてきた。どの作品も、かっこよくない強くない主人公であるが、魅力的で、周りの人々に助けられながら使命を全うしていく。事件があり、人も亡くなるが、江戸情緒とほのぼのとした下町人情に温かい気持ちになれる。
本作では、主人公 古橋笙之介が、千葉の小藩の藩士で冤罪で切腹した父の無実を明らかにしようと、江戸に出て深川の長屋に住み、色々な出来事や事件に巻き込まれていく。そして、父の死の背景にある藩の権力争いの陰謀が詳らかになっていくのだが、最後は切ない。
長屋暮らしの中で知り合う人々が皆ステキであり、特に淡い恋心を抱く桜の精のような娘 和香の人となりがいい。
余談ではあるが、自分は南信州の出身なので、「桜ほうさら」の語源である、「ささらほうさら」という方言はとてもなじみ深い。宮部さんは「色々あってとても大変だったね」と労うような意味で解釈されているが、自分の地方では「どうしようもなくめちゃくちゃな状態」といった意味合いで使ってきた。でも「桜ほうさら」になるととてもポジティブな感じがするから不思議だ。 -
和香さん、母、おつたがいいなぁ。宮部みゆきワールドに欠かせない人物たち。武部先生も好き。
笙之介君、ささらほうさら
失った物もあるけどそれ以上に得たものが大きいね
ヒロインベスト3
一位、姉妹やお初
二位、三島屋おちか
三位、和田屋和香
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レビューし忘れてた。。。。。
読み終えたのは、おそらく7月下旬頃か8月上旬か。
便宜上8月2日としておこう(苦笑)。
さて、下巻。
上巻末で抱いた感想(予感)の通り、ずいぶんと血なまぐさい展開になった。
主人公の兄の“本気”ぶりに嫌気がさし、
政の犠牲になった父子の不運に心が落ち込み・・・
健気だけど芯の強いヒロインが少しずつ少しずつ成長していく様に心を濯がれた。
★4つ、7ポイント半。
2019.08.02.新。(便宜上) -
調剤薬局の待ち時間で読んでいたら泣きそうになった。
が、早合点だったよ。「きたかた捕物帖」を先に読んだので、すっかり騙された。
主人公は凡庸だが、アクの強い回りの人々に揉まれながら進んでいくという希にみる構成。
とは言うものの、現実は案外こんなもんかもしれない。親兄弟でも蔑まれ、見くびられる。他人の方が評価してくれ、優しかったりする。
兄上の行く末を書いてほしいものだ。 -
現状に満足できない人間の愚かさや哀しさ、家族といえども分かり合えない心。そうした哀感や寂寥感を描きつつも、決して希望の光も、人と人の営みが織りなす温かみも忘れない。宮部みゆきさんの時代小説の真骨頂が現れた作品だったと思います。
桜ほうさらは上下巻で計4話構成。主人公の笙之介は偽文書によって賄賂騒動に巻き込まれ、自害した父の汚名をそそぐため、偽文書の書き手を探し江戸の街に出てきました。彼に待っていたのは、江戸の貧乏長屋でのにぎやかな日常と様々な厄介ごと。
符牒の解読を買って出たり、誘拐事件に首を突っ込んだり。そうした事件に関わり合う人たちの中にも、怒り、不満、僻み、といった闇があります。しかし、そうした闇も武士らしからぬ気弱で優しい笙之介と周りの人たちが関わることによって、少しずつでも明るい方向に向かっていくのが清々しく、読んでいる自分も優しい気持ちになっていくように思います。
そして笙之介の父を陥れた人物との直接対決、そして賄賂騒動の真相。明かされる真実は決して救いのあるものでもありません。主人公によっては大きな心の傷になるものだとも思います。それでも読後感は冷えた心をそっと照らし、温もりを残すような温かいものでした。
なぜ、冷え冷えとした真実からそんな温かい読後感だけが残ったのか。
それは信頼できる父を喪い兄や母とは軋轢を抱え、一人江戸へやってきた笙之介が、家族以外の信頼できる人たちの中で、新たな一歩を踏み出したから。その新たな一歩への希望が、笙之介の周りの人々の温かさが、冷え冷えとした物語でも、救いのない真実にも、温かみと希望を与えてくれるのです。
時に冷徹、でも登場人物たちに注がれる視線はあくまでも温かい。そんな宮部作品の時代小説の魅力、その陰の部分も陽の部分もこれでもかと詰められた作品でした。