異邦人(いりびと)

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  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (377ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569823812

感想・レビュー・書評

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  • 京都を舞台に、逗留していた資産家の若妻と画家や画廊をめぐる物語。
    美術界を扱うのはお手の物ですが、ドラマとしては新境地のようです。

    画廊経営者の息子で専務の篁一輝は、資産家の令嬢・菜穂と結婚した。
    東日本大震災後で原発の事故が起き、妊娠中の菜穂は、京都に一時避難することに。
    菜穂は美術には目利きで、祖父のコレクションを有する有吉美術館の副館長でもあった。
    うつうつと過ごしていた菜穂はある日、老舗画廊で小品『青葉』を発見する。その絵の作者はまだ無名の若い娘・白根樹だった。
    京都に馴染み、謎めいた白根樹の作品にのめりこんでいく菜穂。
    ところが、東京では画廊と有吉不動産の経営は危機に陥っていた‥

    最初は、お金持ちらしくわがままな印象だった菜穂ですが、美術への感性が鋭く、真摯な気持ちを抱いていることは伝わってきます。
    ある意味では、東京の家族に何もわからない若い娘のように扱われていて‥そのへんをひっくり返して反逆していく話かも。
    鷹野せんの家に預けられてからは素直な感じに。
    こういう京都なら知りたいと思いますよね。

    悪気はないけど周りに押され気味な夫の困惑。
    自分を押し通しているけど、その陰には以前からの事情も実はあった有吉の母。
    京都画壇の重鎮や、老舗の画商。
    どろどろした人間関係は、さわやかな印象が強い原田マハにしては、ねっとりしたストーリー。
    ただその描写はあまり突っ込んではいないので、修羅場は追っていません。その辺が原田さんらしい、抑制したタッチになっています。

    画家の樹も神秘的な面があっていいけれど、最後に明かされる点は、‥え?
    まとまるような、まとまらないような。
    芸術家と作品への尊敬が何より輝いているので、他の面が出てくると意外な落ちに感じるようです。

  • 画家と画商とコレクターの関係
    生み出された名画は資産家のもとを渡り歩き財力のある方へと流れて行く
    一時は留まり所有欲を満たしても誰の物でもないとか・・
    姉妹の出会いも偶然ではなく必然に思えたりパトロン欲全開で支えようとジョーカを切った卓越した鑑定眼を持った菜緒の掟破りのマネジメント能力が発動した。京都って名士の紹介があるとどんどん扉が開いて進んでいけるとこなんだなと感じました。まあそれが叶うのは人を魅了することができるお宝を持ってる者なんだろうなとか
    芸妓のしたたかな情念が二人の魂に共振したような・・

    引き込まれて読み進みましたがラストが飽ちゃたのか以外とありそうな展開でさらっとまとめてしまってるのは集中力切らせたような着地で物足りなさがあるんですけど一輝は納得しちゃたんだろな。

  • 銀座の老舗画廊、たかむら画廊の跡取り一樹と、その妻で資産家のお嬢様で天才的な審美眼を持った菜穂の視点で展開されるお話。結末は予想通りで、残念ながらあまり感動とかはありませんでした。京都を舞台に、そこに住む一部の人にしか開かれていない世界を覗き見ることができたり、絵画や京都の文化についての描写がとても美しいのが良かったところでしょうか。

  • 個人的に、今まで読んだこの作者の本の中では一番面白かったと思います。
    これまでのこの人の本は「まあまあ」「上手に書けてるな」くらいの印象で夢中になって読むという事はありませんでした。
    題材選びも上手だし、文章も上手だし、でもそれは表面上の事で、心をゆさぶられるほど深く入りこんで書いてないという印象。
    いつも何冊か図書館で本を借りたら自然とこの人の本が読むのは後回しで最後になる。
    この本も以前図書館で借りたものの、その時は精神的に本を読む気にならなくて貸出日が過ぎたので読まずに返したくらい。
    だけど、フォローしてくれているvilureeefさんのレビューを読んで、興味がわき、また借りて読んでみたいと思いました。
    素敵なレビューなので、このレビューの続きを読むよりはそちらを読まれるのをおすすめします。
    私はいつもの通り、自分の備忘録としてレビューを書きます。

    この物語の主人公は二人。
    老舗画廊の跡継ぎである男性とその妻で絵画に対して天才的な審美眼をもつ女性。
    彼女はもともと資産家の娘で、夫はいわゆる逆玉婚で結婚したことになる。

    この二人のそれぞれの視点で描かれた話が交互に進んでいくという構成。
    男性の目線では、財閥の娘と結婚することとなった経緯。
    そして、その娘の母親である義母にそれとなく男女の関係を誘われているということ。
    ある事件をきっかけに画廊は経営困難となり、妻の大切な絵画を売ることとなった、そして、それまでさりげなくかわしていた義母との関係が変り-という事が描かれている。

    一方、女性の方の話としては、東北大震災をきっかけに妊娠している彼女は京都に避難することになった、そして、その京都で、まだ無名の天才画家の女性と出会い、それをきっかけに彼女の考え、人生が変わっていくという事が描かれている。
    そして、そこには思いがけない真実が-。

    この話、もしも男性側の目線だけで描かれていたら妻はただのワガママなお嬢さんにしか見えなかったかもしれない。
    だけど、そんな彼女の側から描かれていることで、彼女の心情や結末として何故そうなるのかというのも理解できる。

    今までの作品と比べると深く登場人物の心情を描いている-けれど、やはり結末は少し物足りない。
    どこかそこまで描くという事にためらいがあるのか、表面上なきれいなことにこだわっているような感じがした。
    これがこの作者の持ち味なのかもしれないけど-。
    今まで読んだこの人の本の中では一番面白く夢中・・・とまではいかないけど、入りこんで読むことができました。

  • 一言では言い尽くせない読後感。確かに一気に読んでしまうほど先の展開が気になったし、面白いか面白くないかといったら面白いのだと思います。でも、あまり好きではありません。共感出来る部分が少なかった気がします。菜穂にも克子にも一輝にも。
    あらためて表紙をみると意味深ですね。“異邦人”。
    京都って、特別感があり、和の中心というか日本の象徴のイメージがあるのですが、こうして四季折々の京都を感じられるのは良かったです。今は夏で連続猛暑日ですから、川床を想像して心の中に涼をとっておりました(笑)
    ただ、人間関係が一筋縄でいかないうえに、一部ナマナマしくて、少し辟易してしまいました。 それに、震災後の放射能のことは、いまだに心が痛くなりますね…。 福島は故郷ですので、原発のことや放射能のことに触れられる度に、ぎゅっと心痛みます。

  • 元キュレーターの著者らしい作。
    絵画や着物、京都の街の描写はとても美しく、雅な雰囲気に溢れている。その雅さと、登場人物たちに見え隠れする影との対比がこの作品の味わいどころでしょう。

    単純なストーリー展開ではなく仕掛けが施されていて、そこを面白がれればよかったのかもしれないが、いかんせん、私にはついぞ縁のない裕福な家庭の優美な遊びに気後れしてしまい、なんとなく楽しみそびれた感じ。

    著者の美術テーマの作品は、その道のプロフェッショナルなだけに秀逸で、いつも楽しみにしていたのに今回は残念でした。
    単に、自分に美術を理解し、鑑賞して堪能できるだけの素地がなかったと言ってしまえばそれまでだけれども。
    うーん、でも詰まるところ、それが原因かもなあ。

  • 京都の風景、文化、その妖艶な在り方をとてもよく描いている。
    しかし、話を何回も同じところで繰り返すくどさと、菜穂のキャラクターは最後まであまり好きになれなかった。

    もう少し潔い作品になれば傑作だったのに。少し足りないなにかを感じた。

  • なんの不自由もなく、美術に親しみながらお嬢様として育った菜穂は、付き合いのある画廊の息子と結婚し、子を身ごもっていた。
    原発事故によってお腹の子への影響を考え京都へと一時的に避難することにした菜穂だったが、次第に京都に魅了され、1枚の絵と出会ったことですべてが一変してしまう。

    大学時代は京都で遊んでばかりいたので、空気感が懐かしく、また季節も丁度舞台と今が同じ頃なので、夏の持つ熱気なんかをより身近に感じながら読んだ。
    大円団ではない物語の引き際が、その先に無限の可能性があってよかったな。

  • まあよくもこんだけ魅力的な女達を登場させたもんだと感心する。
    一般人のこちらからすると、キラキラギラギラまぶしい女達。それに比べて力不足の男達、でも、その男達に守られ、しばられ、生きる現実。

    絶対的な画力を持つ樹
    絶対的な眼力を持つ菜緒
    これが天下の宝刀のごとく発揮される内容は
    ちょいつまらない感じがした。
    克子と一樹の関係があっさり暴露される展開も物足りない。
    後半の謎解き的な手法はちょっと、安易な感じがした。

    京都感は満喫できる!!


  • 読み終えて装画を見るとゾクッとするほど、この絵が物語を表している。当初京都という余所者を受け付けない街の異邦人だった菜穂だけど、物語が進むにつれ異邦人は別の人へ……面白くないわけではないけれど最近のマハ作品は美術系が多すぎる気がする。そして私の中で『楽園のカンヴァス』を超えるアートマハ作品はない。

著者プロフィール

1962年東京都生まれ。関西学院大学文学部、早稲田大学第二文学部卒業。森美術館設立準備室勤務、MoMAへの派遣を経て独立。フリーのキュレーター、カルチャーライターとして活躍する。2005年『カフーを待ちわびて』で、「日本ラブストーリー大賞」を受賞し、小説家デビュー。12年『楽園のカンヴァス』で、「山本周五郎賞」を受賞。17年『リーチ先生』で、「新田次郎文学賞」を受賞する。その他著書に、『本日は、お日柄もよく』『キネマの神様』『常設展示室』『リボルバー』『黒い絵』等がある。

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