これからの誕生日

著者 :
  • 双葉社
3.91
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本棚登録 : 192
感想 : 45
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575237290

作品紹介・あらすじ

どうして私だけ生き残ってしまったの。たったひとり、少女はバス事故で助かった。深い心の痛みを抱えて過ごす日々の先に-。とりまく人々の心模様を絡めて描いた、優しい強さが沁みわたる「再出発」の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 楽しい話ではない、むしろ辛ささえ感じましたが、それでも読めて良かった。
    性善説で過ごしたいものです。

    静かながら芯の太い強さ・優しさを感じられる穂高明作品。いま一番楽しみに手に取れる作家さんの1人です。

  • バスの事故で、顧問の教師と仲間達を失い、一人生き残った千春。
    彼女と彼女を巡る人たちの、連作短編集。

    興味深く、夢中で読みました。
    多感な年頃の子にとっては、とても辛い経験だっただろうと、親世代として、胸が苦しくなりました。
    彼女をみつめる目が、『細々した悪意』に満ちている事実が、妙にリアルな気がしました。

    時間の経過とともに、同級生久住くんの話などから、立ち直り、前を向き始めた千春を、強くあれと応援したい気持ちでいっぱいです。

    久江叔母さんの小さな悪意、
    これが一番応えたのではないかと、正直かなり心配してます。
    叔母さんの心理を理解することは、千春には出来ないのでは?と思うのですが。

  • お気に入り書評家・藤田さんの2011年12月某日のお薦めから、
    思い出したように借りたのが2月13日。
    折りしもワイドショーではグアムで起きた無差別殺傷事件を報道中。
    このタイミングでこの作品を選んだのも、なにかの縁かと。

    久々に秀作に出逢ったと唸るばかり。
    この方の作品はじめて読んだんだけど、すごいな。
    感想を自分の中に落とし込むまでややしばらく時間がかかってしまった。

    1つの悲劇をきっかけに、きれいごとではない本心がむくむくと頭をもたげ、きれいごとではないリアルな感情が湧き上がり、葛藤が芽生え、
    それでも、誰かの言葉や行動をきっかけに乗り越える機会をもらったり。
    結局は人に支えられ、助けられ、生かされ、前に進む。
    なるほど。それを「絆」系と表現するのも、わからないではない。

    先の殺傷事件もそうだし、つい先日起こってしまった、日本人も巻き込まれたテロもそうだし、悲劇は予告なしに、突然起こるもので、
    当事者の気持ちなど、報道されたものを観ているだけのこちら側の人間などには到底理解できるものではない。

    だからこそ、報道等でこちらが望む望まないに関わらず、継続的にあれこれと情報を与えられる「こちら側」の中から、当事者の状況も心境もなにも知らないのに、勝手なことを言う世界観(作品の中では例えばネットだったり、噂話だったり)がやけにリアルに感じた。

    とふと、だとすれば、もしかしたら世の中には案外、本当の痛みを知る人間なんて、実は案外少ないのかもしれない、と悲観的になってみたりする。
    もし本当に、私たちが痛みを知る世代なら、これほど裏で人のことについてあれこれいうスレッドが立ったり、ましてや賑わったりしないだろう。
    所詮私たちのしていることは「冷やかし」以外の、なにものでもないのだ。
    私たち世代は、本当にいろんな意味で時期が悪くて、比較的苦労が多いし、人の痛みには敏感だと自負していたけど、実はそうでもないのかも、とちょっと思い知らされたり。

    話が前後するが一方で、本当の痛みを知るものは、敢えてそれを胸の奥に秘め、それを大切に生きていくものなのだろう。相手が理解するようには伝えないから、誤解が生まれたり、全く違った風に捉えられたり。でも同じ痛みを持ってるからこそ、相手が今まさに心身ともに瀕死の状態のときに、ここぞとばかりに助けることができるのは、痛みを追った相手も、わが身をもって相手を助けようとするからなのかもしれない。
    千春と久住の件に救われたのは、私だけかな。
    あと、小泉先生の件にも、彼が成長できるきっかけが与えられて救われた感があった。
    このまま痛みの分からない教師になってしまう方向へ進んだって、おかしくないところだったのだから。

    個人的には叔母の件も妙に現実的で、
    実はここがいちばん印象に残っていたりする。
    どうしても女性としての生き方が絡んでくる件には弱い。
    これまたリアルすぎる。

    それでもラストに、タイトルでもある誕生日を皆でお祝いするところまでそれぞれが時を経て成長する。
    悲しみを乗り越えて、と言う意味では、一筋の光をきちんと見出して結んでいて読了後の後味もいい。うまいな、と思う。

    形は違うけど、年末に観た映画「その夜の侍」をふと思い出した。
    悲しみの乗り越え方は、その人それぞれ。
    かかる時間も違う。方法も違う。でも乗り越えることが大切なのだ。

  • バス事故で1人だけ助かった少女の話と周りの人々のはなし
    第1章が1番よかったです

  • 「これからは、みんな一緒にお祝いするんだねえ」(八重子)

    最後のケーキ屋さんの話で前半のそれぞれのモヤモヤがスッキリした。

  • 交通事故。一人生き残ってしまった千春を皮切りに
    千春の一番身近な家族、同じ事故で反対に娘を失ってしまった母親。
    その事故を丁寧に追っていく新聞記者。
    千春の伯母。
    千春と、亡くなった生徒双方の受け持ちの先生。
    千春が生まれた時からバースデーケーキを作り届けてきたお菓子屋さんの主人(「ケーキ屋のオヤジ」とルビを振りたい)。
    事故を軸に、時間軸に添って、立場の違う人の思いが書き表されていく。
    冒頭から中盤は事故の当事者の苦しみや周りの人の妬み嫉みの描写で苦しく悲しい場面が続くのだけど、
    ラストの本当に数ページでパーッと明るくなる。救われる。
    いい話だった。
    単行本が出て間もなくから、ずっと心の中で積読状態でした。もっと早く読めばよかった。

  • 表紙のイラストが気に入っての装丁買い。ほんわかしたお話かと思いきや、なかなかずっしりしたお話でした。最終章で表題の意味が生きてきます。初読みの作家さんでしたが、他の作品も読んでみたくなりました。

  • バス事故で唯一の生存者となった高校生の少女、遺族、ローカル紙の記者、担任教師等のそれぞれの立場で章毎に視点を変えながら綴られる物語。
    不幸な出来事を前に上っ面だけの綺麗事で塗り固めるのではなく、個々の胸の内に宿る様々な思いや善意の押し売り、匿名の悪意や静かな暴力等をしっかりと描いています。
    それぞれの複雑な思いが細い糸で絡まり、明るい光に向かって抜け出していく様がとても良かったです。
    人は誰しも綺麗事だけでは生きて行けないけれど、もがき苦しんだ最後には前を向ける強さを持てる人でありたいと思う。
    良い作品でした。

  •  演劇部が乗っていたバスが交通事故に逢う。生き残ったのは主人公の女の子だけ。
     他の子のお葬式にも出られず、学校にも行ったり行かなかったりになる。
     まわりは「助かってよかったね」「他の子の分まで生きないとね」と言うけれど、
    それが苦しい。助からなくてもよかった。助からない方がよかった。そんなふうに思う。
     そんな本音を誰も知らず、口に出されてはじめて気がつき、弟はショックを受ける。何もわかっていなかったのだと。弟はそんな姉をよく支えていて、リアルに描かれている。

     事故から半年後の職員室での会話が痛い。「もう半年も経つんだから乗り越えてもらわないとな」みたいな。
     「もう半年も」。
     本人の半年と第三者の半年は同じものではないのだ。

     叔母の心理も興味深い。主人公とのやりとりはぞわりとするところもあった。

     バースデーケーキでの仲直りのくだりがよかった。

     地味にすごい一冊だった。

    • onionさん
      花丸ありがとうございました。
      以前もこちらにおじゃましたことがありまして、
      そのときはまだ読む前だったので、感想を読むのを控えていたんですが...
      花丸ありがとうございました。
      以前もこちらにおじゃましたことがありまして、
      そのときはまだ読む前だったので、感想を読むのを控えていたんですが・・・
      ふしぎなものですね。同じように感じていたことを、本日読ませていただいて感じている次第です。ひとりこたえ合わせ状態です(笑)おもえば先ほど書き上げたばかりだったので、まだ他の方の感想を読んでいなかったので。

      表現は違えど、ピンポイントに注目点が同じだったことを知りました。わたしがmacamiさんに近づいていったのかもしれませんね。目を通してなかっただけに、自分に鳥肌。こんなことあるんだなぁ。(苦笑)
      同じものを読んで、そうそう同じような感想にめぐりあうことも少ない中で、この出会いに心から敬意を表して。

      2013/02/19
    • macamiさん
      ☆onionさん
      こちらこそ、コメントまでありがとうございます。
      わたしもときどきおじゃまさせていただいてます。
      onionさんのレビューは...
      ☆onionさん
      こちらこそ、コメントまでありがとうございます。
      わたしもときどきおじゃまさせていただいてます。
      onionさんのレビューはとても丁寧で深くて
      じっくり読ませていただきました。
      読んだときの気持ちの動き方を思い起こし
      onionさんと重なっているのかなあと思うと不思議な感じです。

      叔母の件・・・言葉以上に伝わってくるものがありましたよね。
      わたしもすごく印象に残っています。
      2013/02/21
  • 交通事故のたった一人の生存者となった17歳の千春。
    日々事故のニュースはあるけど、例えば加害者のみ助かったら、子どもを亡くして親だけ助かったら、恋人を亡くしたら、若者の暴走事故、どれも助かった!と心から喜べないのだなと改めて感じた。
    ましてや重症で生死をさまよい、体の一部や機能、記憶を失くしたり様々な辛さがあるだろう。
    元には戻れない。
    17歳の千春の葛藤がリアルで、辛かった。
    そして周りの人たちの悪意も理解できてしまう。
    最後、千春が新聞記事にどんなふうに語ったのかはわからないけど、少しでも前を向いて生きてほしい。

    事故、気をつけねば。

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著者プロフィール

一九七五年、宮城県生まれ。早稲田大学大学院修士課程修了。二〇〇七年『月のうた』で第二回ポプラ社小説大賞優秀賞を受賞。同作は、傑出した筆力を書評家などから絶賛された。他の著書に『かなりや』(ポプラ社)、『これからの誕生日』『むすびや』(双葉社)、『夜明けのカノープス』(実業之日本社)がある。

「2019年 『青と白と』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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