小人の巣

著者 :
  • 双葉社
3.03
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感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575239249

作品紹介・あらすじ

十五歳の誕生日に、サイト上で出会ったシャーマンから「楽にあの世へ行ける」方法を伝授してもらう。半年間、そのことだけを希望にして、私は生きてきた。でも、待ちに待ったその日、指定された部屋で私を待ち構えていたのは-。圧倒的な孤独を抱えるシャーマンとの出会いは、やがて、「死」に引き寄せられる人々の運命を変えていく。ミステリー界最注目の俊英が描く、死に魅せられた人々の運命の数日間。

感想・レビュー・書評

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  • 死をテーマにしている割には、セリフや流れが軽い気が…
    やりとりがチープでシラケる
    期待値が高かった分、残念

  • 人が死にたくなる瞬間って結構そこらへんに転がっているものかもしれない。
    いじめ、就職活動、将来への不安、恋愛、身近な人の死……。

    実際日本の自殺者数は多く、作中では年間3万人以上、WHOの基準にならって変死者数の半分を含めると(遺書がないと変死扱い)10万人以上になると書かれている。
    3分に1人が死を選んでいることになる。

    本書は2015年10月発行なので、現在の自殺者数だけを見てみるとやや減少傾向にあり、2016年には2万1千人となっている。
    しかし、これでも多い。

    連作となる5つの短編の主人公たちも自殺を考えていて、「小人の巣」という自殺サイトにたどり着く。
    サイトを運営するシャーマンの正体は病に伏せる10歳の少女で、「楽に死ねる薬を譲る代わりに臓器を提供してほしい」と頼まれる。

    白河三兎の作風と物語の流れからして、登場人物たちが自殺をあきらめる方向になるというところは予想がつく。
    あとはそのきっかけをどう描くかが見どころになるのだが、ちょっとインパクトが弱かった。
    そのせいで、どうもきれいごとにしか思えなくなってくる。

    ただ、5編の中では「アリとキリギリス」が考えさせられる内容だったと思う。
    主人公は大学卒業後、ある計画を立てた。
    10年間働いて会社を辞め、貯金で15年間悠々自適に生きてから妻と心中する。
    それに妻も同意し、計画通り生きてきた。

    そんな考えに思い至ったのは、事故や病気、老後の不安、そして働き続けていると妻との時間を確保できないといった理由からだった。
    束縛されて不自由なまま不安を抱えて長く生きるよりも、短くあっても自由に生きることを選んだ。

    私も生きるために働いているのか、働くために生きているのかわからなくなることがあって、ちょっと生き方について考えさせられた。
    現代社会に生きる日本人にとっては、このエピソードが一番リアルに感じられるのではないだろうか。
    ラストは、登場人物のこういった不安とはまた違う複雑な思いも見えてきてよかった。

    作品全体でみると、著者の作品に多いラストの衝撃的な展開が今回はパンチが弱かった。
    見せ方は相変わらずうまいなと思ったが。

    お決まりの芯のあるヒロインもいたが、登場人物の視点から語られることはあっても交流が多くないので、あまりヒロインの内面に迫れなかった気がする。
    それと10歳にしては達観しすぎ。

    著者の作品を読むのは5作目になるが、その中では5番目。
    とはいえ私の中では打率の高い作家なので、引き続き他の作品を読みたい。
    文庫化されていない作品が多いのが金銭的に痛いところ。

  • あれ? こんなにイマイチな話も書くんだ。

  • 期待を裏切らない白河小説。
    自殺ほう助サイト「小人の巣」
    ポリシーは,どうせ自殺するなら無駄死にせず、病魔と闘いつつ生きたいと思ってる人に臓器提供をしなさい。ドナーカードを作ってきたら安楽死の薬をあげます、ってもの。このサイトの狙いとは?

    …ってこんな舞台で短編5編も、それもそれぞれに個性的なきっちりオチつけた物語をかけるなぁ、と感心した。特に「アリとキリギリス」の自殺したい理由がかなり変化球でオモロい。この1冊の中で一番気に入った短編。

    オーラスの仕掛けにはびっくり。Zガンダム戦闘シーンのごとき哲学的言い争いの果てに見えた地平は生者のものか死者のものか…。作者のことだから、なんか仕掛けてるだろうとは思ったが、伏線を同じ正方形に畳むにしてもなんとも言えない畳み方(笑

  • 最初の虐められっ子がクラス全員を殺そうとする「小さな世界」と、最後の難病を抱える明の父親の「王様の耳」が、感情が濃くて引き込まれて印象的だった。口先で色々言う「アリとキリギリス」をはじめ、他の三話には冷静に自殺志願者を観察したみたいなリアルさがある気がした。「勇者の名」の全力肯定の父親を通してや、女の感情論全開で彼氏なしでは生きていけない!と語る、もう死んでやる!が口癖の「白雪姫」の、言葉が空回りして疎通が上手くいかない強烈さの先で等、どの話でも、現実は悲しいけれど優しさもそっと添えられているようだった。

  • ハッピーエンドではなかった。
    ハッピーエンドであって欲しかったが、ありえないような設定のすべてが、ここでなぜかリアリティを帯びてくる。
    みんな死ななかったのに。彼女だけが死んでしまった。
    それがとても悲しい。
    そして、その分全体がひきしまり、美しく悲しい物語として終わる。
    面白かった。

  • 自殺願望がある人たちを呼び寄せる、自殺幇助のサイト、小人の巣。

    いじめを苦に自殺しようと思い、小人の巣の管理人「シャーマン」に会いに行った女子中学生の沙菜。

    シャーマンは臓器移植をしないと治る見込みのない難病患者の10歳の女の子だった。

    彼女がくれた死の薬は、ただのビタミン剤で、シャーマンこと明は、自殺幇助ではなく自殺願望者たちを救う活動をしていた。

    一度は人生に絶望して、それから命の大切さを知る人たち。

    大切な人とずっと一緒にいたくて死のうとする人。
    就活がうまくいかなくて死のうとする人。
    恋人に振り向いて欲しくて死のうとする人。
    病気を抱えた明の父の思い。

    ツイッターで自殺願望者探して9人殺害した事件思い出すわ。

    現実はこんなに簡単じゃないとは思うけどな。。。。

    今日だけでも、とりあえず頑張って生きてみよう、明日のことはそれから、の積み重ねで、いつしか死にたいっていう気持ちも薄れていくのかな。

  • どのジャンルになるのだろう…青春?サスペンス?純文学?
    命にまつわる短編集。
    透明感のある文章が著者の一番の特徴だと勝手に思ってるけど、今作はイマイチ感じられない。
    1話目を読んで、2話目以降の雰囲気が予想できてしまい、あまり楽しめなかった。

  • 「老若男女それぞれ悩みを抱えているもの。誰だって死にたい時がある。死んだ方が楽な人もいる。なら、苦しくない死に方を勧めるのも優しさじゃない?」

    「みんなまとめて殺しちゃおうよ」
    「なんでそうなるの?」
    「だって沙菜のことを『生きる価値がない』って思うまで追い詰めた人たちに、生きる価値はないでしょ?」

    「そんじゃ、道連れにしちゃおうよ」
    「駄目よ」
    「なんで?」
    「それは…」
    「考えなくちゃ出てこない言葉は言い訳に過ぎない」

    「人に決定権を委ねるのは、負け犬の最たる特徴だ。責任を背負いたくないから他人任せ。何かあったら人のせい。自分は悪くない。木原はこれからもそうやって生きていくの? それとも負け犬のまま一人で死ぬ?」

    「思っていることは口に出した方がいい。負け犬の遠吠えでも、全然吠えないよりはずっといい。吠えない犬は死んでいるのと一緒」

    「サラリーマンの使命だよ。それに、仕事に遣り甲斐を感じる時もあるだろ?」
    「遣り甲斐なんてのはこじつけだ。自分の人生に付加価値を与えたいだけ。」

    「よくない。どう考えてもおかしい。異常だ」
    「異常なのは、この社会だ。年に十万人以上も自殺者がでているんだからな」
    「盛り過ぎだ ー 新聞には『自殺者数3万人を超える』って載っていたぜ」
    「日本では遺書がないと変死者扱いになるんだ。自殺者数にカウントされない変死者数は年間で十五万人ほど。WHOでは変死者数の半分を自殺者数としてカウントするから、グローバルスタンダードでは日本の年間の自殺者数は十万人以上になる ー もう半分も入れて最大値にしたら、十八万人の自殺者数だ。一日に五百人近く。三分に一人。カップラーメンが出来あがるまでに、日本のどこかで誰かが自殺しているんだ。俺たちがこうしている間にもバッタバッタ死んでる」

    『「人間は比較したら終わり」
    いつだったか友香から教わった言葉だ。今あるものに感謝できなくなった時、人は欲望に支配される。』

    『この世界は持たざる者に対して冷たい。いつだって金持ちを中心に回っている。天動説も地動説も間違っていた。学校では教えてくれなかったけれど、金が中心だ。』

    『言葉はエコな暴力だ。簡単に人を傷付けられる。簡単に人間関係を崩壊させられる。』

    「嫌よ! 別れるくらいなら死んでやる!」
    「またか ー それにも飽きたよ」
    「今回は本気!」
    「はー。そうですか」
    「今から包丁で手首を切ってやるんだから!」
    「どうぞ、勝手に」
    「止めるなら今しかないんだよ!」
    「明日の朝になって気が変わってなかったら、LINEで教えて」

    『これこそ一生に一度の恋だ。運命の赤い糸がビンビンに張っている。』

    『喧嘩が勃発した原因なんてもうどうでもいい。どっちも悪いし、どっちも正しい。痴話喧嘩なんてそんなもん。』

    『お父さん、いっぱいありがとう。本当にありがとう。もっと謝らなくちゃいけないんだけど、お父さんのことを考えていると、感謝の言葉ばかり出てくるの。自分勝手な『ありがとう』でごめんなさい。でも、ありがとう。』

  • 命を大切に!ってことを言いたいのでしょうが、自殺幇助のことを長々描いたり、臓器提供の内訳人数を知らせてくれたり、親子間の絆を書いたり。結局、最初の自殺志願の女の子は健気ないい子になったけどまだ学校には行かれないみたいだし、着地点が曖昧な気がする。

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著者プロフィール

2009年『プールの底に眠る』で第42回メフィスト賞を受賞しデビュー。『私を知らないで』が「本の雑誌」増刊『おすすめ文庫王国2013』にてオリジナル文庫大賞BEST1に選ばれ、ベストセラーに。他の著書に『ふたえ』(祥伝社文庫)『ケシゴムは嘘を消せない』『もしもし、還る。』『小人の巣』『田嶋春にはなりたくない』『十五歳の課外授業』『計画結婚』『無事に返してほしければ』などがある。

「2020年 『他に好きな人がいるから』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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