- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784575312003
感想・レビュー・書評
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『田舎の長男の嫁です』、もちろん、田舎の長男の嫁でもいいんですけど、その前にあなたは超売れっ子作家さんなんだから、その紹介はなんだか変でしょう?とツッコミを入れたくなるこの作品。これは湊かなえさんのエッセイです。エッセイは好きじゃないという人も多いと思います。実際、ブクログ の湊さんの 各作品の感想の数は三桁、四桁が当たり前なのにこの作品はまさかの二桁。皆さん、慎重にエッセイを避けていらっしゃるんだなあと変なところで感心してしまいました。そんな私が今回この作品を読むことにしたのは直前に読んだ「絶唱」に深く感動してしまったこと、そして、その作品制作の背景のヒントがこの作品にあるからでした。
『これらのおかげで怒涛の日々を乗り越えることができたと言っても過言ではない好きなものを三つ並べてみた』というのがこの書名を付けた理由だそうです。趣味は登山で、猫好き、コーヒー好き、これを繋げた書名。その作品は、いきなり核心から始まります。神戸新聞の随想で『阪神淡路大震災が起きたとき、私は大学4年生で、甲子園球場近くの学生アパートに住んでいました』と書き出す湊さん。さらに、『震災の日は確か、卒業論文の提出日で、徹夜で論文を仕上げたあと』と続けます。やはり、「絶唱」の第4章はこの経験を元に書かれたんだと確認ができてなんだか感激です。また、湊さんの震災への思いはこんなところにも。『被災地で無傷で助かったというのに、何の役にも立てない。自分の無力を感じた』という湊さんでしたが、『16年後、東日本大震災が起こりました。義捐金を送ることはできても、作家として何の復興の役にも立てないことに再び自分の無力さを感じましたが、ここで立ち止ってはいけないのだと思い直し、サイン会を決行し、募金箱を置かせてもらい、原稿を書き続けました』と綴ります。『どんな時でも、自分のなすべき仕事を続けてくれる人がいる』、「絶唱」にも書かれていた考え方ですが、湊さんは小説を書き続けることをもって社会の中でのご自身の役割を果たそうと考えられました。現在のコロナ禍でもそうですが、一人一人が自分の役割をきちんと果たしていくこと、社会を回していくためには、それが何より大切だという視点、これは全く同意見です。
一般的に、エッセイでは自著の裏話が登場することが多いものですが、湊さんは「望郷」の表紙について書かれています。ブルー基調のとても美しいこの作品の表紙、『よく合成画像と間違えられるのですが、その際、鬼の首をとったかのように、これは写真です、と答えます』、なんと『夜の海に輝く海ホタルを撮影したもの』なんだそうです。そうなんだ、と思わず表紙を見返してしまいました。
また、『入試の問題として短編集が取り上げられた』ことに関して、『小説を書く際、自分が書けない、読めない漢字はなるべく使わないように心がけている』と小説執筆の裏側を明かしてくださいます。具体的には、『「驚いた」よりも「驚愕した」の方が字づらとしては賢そうに見えるけど、日常生活で「驚愕した」と言ったことなどないので、小説でも「驚いた」と書きます』なるほど。こういった細かい部分までこだわって作品は生まれているんだ、と湊さんの作品制作の一端を垣間見ることもできました。
他にも『約18年前、青年海外協力隊として、南太平洋にあるトンガ王国に赴任し、中高一貫の女子校で家庭科の教師をしていました』と、これも「絶唱」に繋がる記述や、『旦那さんとまったく趣味が合いません』とか、『結婚記念日を覚えていない』といった夫婦のお話、そして『紙が怖いのです』『霊感がまったくありません』などなど唐突に書き始められる割には、とても納得感のあるエッセイが次々と展開されます。
ということで、湊さんの初エッセイを読ませていただきましたが、正直なところ、今まで抱いていた湊さんのイメージがゴロッと変わりました。正確には、直前に読んだ「絶唱」の影響が大きいのですが、他の作品を読んできた印象からは、もっと過激でかっ飛んだ方?というイメージを持っていました。でも、この作品から見えたのは、『田舎の長男の嫁です』という言葉から思い描くそのまま。普通のどこにでもいそうな主婦の一人、そういったイメージでした。ただ、その中に、「絶唱」もそうですが、青年海外協力隊のことが繰り返し書かれていたのは強く印象に残りました。それを湊さんは『近年は応募者が減少している』という現状を書かれた上で、『応募してください。とお勧めしているのではありません』『こういう選択肢もあることを知ってほしい』『貴重な経験を、私は青年海外協力隊で得ることができたので』とまとめられています。
全体として終始落ち着いた文章でまとめられているこの作品。笑いが止まらないとか、かっ飛んでいるとかそういったことはまったくなく、湊さんの色んな考え方に淡々と触れることができる、そんな姿勢が一貫していました。とても真摯に物事を捉えられる方、そういう印象を受けるとともに「絶唱」という作品に込められた湊さんの強い思いに改めて感じ入りました。「絶唱」「山猫珈琲」この二冊を読む以前と以後で私の湊さんに対するイメージが全く別物になった、私にとってそんな一つの分岐点となった作品でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
好きな作家はと聞かれたらすぐ浮かぶのは「湊かなえ」さん。
TVで拝見する元気いっぱいで、言葉もポンポン出てくる姿を想像しながら読みました。
なんかホッとする。やっぱり湊さんも同じような主婦なんだな~って思えて。
サイン会行きたいな~ -
湊かなえさんのエッセー集、「山猫珈琲」のタイトルに惹かれ手に取った本。湊かなえさんがミステリー作家だとは知ってるのですが最近になって「山女日記」しか読んだことがないので2冊目になります。
冒頭からエッセー書くの苦手だとか言われてましたが、淡々と書かれる文体に感情が読み取れず馴染めるかなって戸惑ってましたが好きな物3つ並べてタイトルにしたとかで嬉しくなりました。私もこの3つ好きだけどあえて私がエッセー書くならタイトルは「山猫焼酎」になるかなって妄想してました。
田舎の長男のお嫁さんとかおっしゃってますがとことん凄い人で兎に角アクティブ、学生時代は自転車で北海道1周されたとかですが友達にトラブルがあって一人で周られたとか・・、アパレル関係で海外協力隊に行かれたとか・・
数々の武勇伝お持ちのようで語りだしたら止まらなくなるくらいありそう。夫婦関係も円満だっておっしゃってましたが結婚記念日覚えてないとかで大丈夫かなって思ったりですが、過ぎたことには捕らわれず前を向いて進んでいる人なんかなって感じました。売れっ子作家ですしねw ご主人はその気のないふりして10カラットダイヤ渡されるとか憎いことする人なんだ。
淡路島にもいってみたいし、鳴門海峡の渦潮みてみたくなりましたww -
大学で被服を学びアパレルメーカーに勤めていたとは知らなかった。あと青年海外協力隊や趣味の話など、アクティブな方なんだな。
淡路島にとても行ってみたくなったし、三浦綾子さんやアガサクリスティーを読んでみようと思った。
「告白」はめちゃくちゃ面白かったけど、アメリカのウォールストリートジャーナルで2014ミステリーベスト10に外国作品で唯一選ばれたのは本当にすごいことだな。 -
タイトルに惹かれて手にした湊かなえさんのエッセイ。
山、猫、珈琲…。好きなものだけ単純に並べただけで、こんな味わい深い言葉が生まれるんだ~と、感心。
彼女の作品のイメージからは遠く離れた人柄に好感が持てた。 -
タイトルは湊さんの好きな山・猫・珈琲を並べたものだということだが、続けてググるとコーヒー店がヒットするする。
どうにかならなかったのか。装丁を見れば別々だということがわかるのに、少し惜しい気がします。
で、本ですが、湊さんのエッセイ集。
湊さんのエッセイは読んだことがあったと思うが、これほどまとまっていると圧巻。
小説とは全く違う湊さんに会えます。
夫と趣味が微妙にずれ、ダイエットしなくちゃと頑張って、子供の誕生日なのに自分のほうが盛り上がってしまう関西のおばちゃん像が浮かんできます。こんな人だったっけか。小説との落差にびっくり。でも微笑ましい人柄です。キッパリ。
このエッセイ集を読むと淡路島に行っておいしいものをたらふく食べたくなります。この本片手に観光を。
でも、あえて言います。
淡路島の観光大使というよりは、淡路島のグルメ大使。こんな称号がぴったりくると思います。
ところで、山、猫、珈琲の話は全体のどれくらいかしら。
下巻にも期待。 -
こんなに可愛い人いるのか?っていうくらい可愛いほっこりエッセイ
文美保険というものを初めて知りました!勉強にもなって淡路島と山の魅力満載の1冊 -
とても面白かった。
サクサク読めた。
湊かなえさんの本は恥ずかしながら読んだことがなかったけど、ぜひ、読んでみたい。
やはり王道に告白、からかな。
虚栄心、忙殺、繊細さ、等々。
とても親近感を持てる方だった。
淡路島に鯛そうめんと、鱧を食べにいきたい。
渦潮も見たい。
サイクリングも楽しそう。
とても心惹かれる話だった。 -
タイトルの『山猫珈琲』は湊さんの好きなもの三つだそうです。
その通り、山のお話は結構でてきました。
それに湊さんは長男のお嫁さんだったのですね。知りませんでした。
湊さんの小説は結構読んでいますが、エッセイは本書が初めてです。
エッセイは著者の考え方や生活の一部が見えるので、読んでいて楽しいです。親近感がわいたりします。
イヤミスの女王、湊さんの私の勝手なイメージは、知的で物静かな感じでした。
見事、覆されました。
印象に残ったのは
「時々、自分の作った世界は、思い描いた通りに伝わっているのだろうか、と考えることがあります。しかし、そうである必要はないとも思うのです。」
という言葉。
湊さんが書かれた世界の受け取り方を読み手に委ねられいるようで、こういう言葉は適当でないかもしれませんが嬉しかったです。