- Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
- / ISBN・EAN: 9784575312287
感想・レビュー・書評
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法医解剖医の著者が死体解剖の経験に基づく、自身の体験と「死」に対する想いを綴った書籍です。
貧困・孤独・老い の三つの観点から死体を語る3つの章(1~3章)と、「死後格差」(第4章)、解剖医として働く傍ら日々感じていることを綴る「解剖台の前から」(第5章)、「事件の死体」(第6章)「幸せな死体」(第7章)という構成になっています。
死体の解剖というと、TVドラマなどでよくある科捜研での死体解剖をイメージしますが、著者の所属は大学なので我々がドラマで目にするものとは少し違うようです(事件ありきの解剖ではなく、事件性が疑われている段階のものや、遺族の承諾を得て(事件性のない)遺体の解剖も行う)。
「嬰児の遺体を解剖する際、生まれてから亡くなったのか、生まれる前から亡くなっていたのか知るための方法」「介護する側が先に逝き、される側である認知症の老人の命も危ぶまれるという現実」、「カフェイン中毒での死」や「死後も衰えない結核菌の恐怖」、「室内での凍死」など、実際に仕事をする中で目の当たりにしたからこそ見えてくる現実が記されています。
特に印象的だったのは、貧困にあえいで生前風呂にも満足に入れずに亡くなったご遺体の内臓は赤々と美しいのに対し、裕福で贅沢な暮らしをしていた人のご遺体は内臓に脂肪がからみついている(場合によってはいつ心筋梗塞を起こしてもおかしくない状態である)という主旨の記述でした。
様々な意味で、人間は外からだけでは何もわからないものなのだなぁ、と思いました。健康そうに見えるから健康というわけでもなければ、裕福そうに見えるから何一つ不自由ないというわけではないようです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
『名探偵コナン』で得た知識も多く掲載されていた。面白かった。『特殊清掃』も読んで欲しい。
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死があるから生がある
どれだけ真面目に、誠実に生きようとも、やはり死は万人に平等なのかもしれない…
と、言いつつ、
著者は、法医学教室で「異状死」として解剖した人々は、総じて弱い立場にあり、「格差の中にある死」に気づかされる。
……
生、死、格差、社会の闇、その存在を私は頭では理解している。
でもそれらの現実がどういったものなのか、解剖台の上の遺体が語るリアルな声を届けてくれるのは、こういった本だ。
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いまや生き方だけでなく、死に方にすらはっきりと格差が見られる。
解剖医が死体を通してみる社会の格差。そもそも解剖に回される遺体というのは特殊であり、病院ではなく自宅あるいはどこかで死亡し、死因が不明なもの。貧困、独居、老老介護の末の死。数値化してみると、生活保護受給や精神疾患有のパターンが優位に多いという。死因による初見など多少の解剖学的な話はあるが、それよりも社会問題を伝えてくる本。 -
この本を手に取る人は多分死というものにある程度興味があるんだと思う。
人が死ぬ原因から死体検案書を発行するまでの格差、人の格差、組織の格差など。
あちらこちらで格差が出ていて、死でさえ平等ではないのかと愕然としてしまう -
法医解剖医が「格差」をテーマに死体解剖を語る。テレビドラマの法医解剖医とは違い、事件にはかかわらず死の原因のみを解明する。
通常は知ることがない職業なので、興味深かった。
死体とかかわり、その原因を探るからこそ見えてくる生がある。
男の孤独死(長尾和宏著)の最後に対談として登場し、紹介されていたので読んでみた。
以下は読書メモ:
貧困の死体
心臓の左側の血液が右側より赤い。ヘモグロビンは温度が低いほど酸素と結合する度合いが高く赤くなる。
栄誉がとれないと熱産生が十分に行われず体温が徐々に低下する。貧困による凍死。
法医学で行う解剖は4種類
司法解剖 事件性が疑われるとき
調査法解剖 事件性がなく身元不明
監察医解剖
承諾解剖 事件性がなく遺族の承諾
孤独の死体
夜間の熱中症
独り暮らし→脳出血→動けなくなる→凍死
アルコール依存症の人で急性アルコール中毒で死亡した人は少ない。ケトン体上昇、酔って池に落ちて溺死、道路で寝て轢かれる、駅のホームから転落など。独りでなければ防げたかも。
老いの死体
認知症の死因で多いのは溺死、凍死、転倒転落死、交通事故死
死後の格差
死斑、死後硬直、体温低下 早期死体現象
腐敗、ミイラ化、白骨化 後期死体現象
頸部(首)圧迫は日本で最もポピュラーな殺人方法 特徴は顔面のうっ血、結膜の溢血点、頸部の皮下組織の出血
縊頸(いけい)自らの体重で首を吊る
絞頸(こうけい) ひも状のもので首を絞めて殺害する
扼頸(やくけい) 手指で首を圧迫して殺害する
解剖台の前から
怖いのは結核。空気感染するから。日本は先進国の中では罹患率が高い。
事件の死体
時津風部屋の時太山の事件
カスパーの法則 遺体の腐敗速度は水中では1/2,土中では1/8まで遅くなる
他殺の場合は死因が明確でも必ず司法解剖となる。
幸せな死体 -
異状死と判断され、解剖に回されてきた遺体のプライバシーを守りながら実際の事件にも言及しつつ、死んだ後すらも人間には格差が生じている現状について。
住んでいる地区(解剖率)や、年収が低いとか。
人は自宅でも凍死したりとか、不思議な状況で死んだりした場合の死因を探る仕事。
死は誰にでもやってくるが、決して平等なのではない。ってのが印象的。
基本的に異状死とは、病院で死ななかった場合で、事件性がないものでも感染性とか色々あるんだなと。
死に関しては文系の人間だからこそ興味津々になるのだと思う。
特に検死という場に居られるかどうかというのは人を選び過ぎるが故に文系の人間にはかなり縁遠い場所になっているから。
検死も公共サービスの一つだと言う著者の考え方には賛同する。
殺人だったのに、自殺扱いされてたりとかあるんだろうなと。
今後、単身世帯が増えるだろうから検死をしてくれる法医学者の人は更に足りなくなりそうだなと思う。
意外にも貧困状態の人の内臓が綺麗だということに驚きつつ、納得してしまった。 -
法医学教室での遺体解剖事例から、死者が置かれた社会状況を考察。貧困、孤独、老い、事件。格差の観点からは、都道府県ごと、解剖率、薬物検査などに大きな差がある。地域の住民サービスの一環に、法医学解剖も含まれると考える。
格差をメインテーマにテレビで紹介されていましたが、著者によると、格差のお題は編集者から与えられたもののようでした。死はすべて平等と思っていたところの視点転換になったそうです。 -
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読みたかったのは、同タイトルの別の著者の本だった。と読み始めてから気がついたけど、これはこれで面白かった。