十八の夏 (双葉文庫 み 14-1)

著者 :
  • 双葉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (321ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575509472

作品紹介・あらすじ

「恋しくて恋しくて、その分憎くて憎くて、誰かを殺さなければとてもこの気持ち、収まらないと思った」-切なすぎる結末が、最高の感動をよぶ物語。第55回日本推理作家協会賞を受賞し、「2003年版このミステリーがすごい!第6位」にもランクインをした珠玉の連作ミステリー、待望の文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 連作短編4作品
    表題作は第55回日本推理作家協会賞受賞
    表題作を読んで、なるほどそういう展開ですか
    と感じながら他作品も読みなした
    連作ということでしたが、あまり感じずに読了
    してしまいました

  • 桜、朝顔、金木犀、ヘリオトロープ、夾竹桃。

    ただ美しく、眺める人の目を楽しませるだけではなく
    季節が巡るたびに取り返しのつかない日々を思い起こさせたり
    花占いどころか、復讐相手を選ぶクジの役目を担ったり
    大人には風情のある香りと思える香りが
    子どもには生活感溢れる「ある場所」の匂いとして摺り込まれてしまったり
    庭木として愛されているのに猛毒があったり
    生き抜く強さで復興のシンボルとなったり。

    花や木が持っているいろんな側面を、光原さんらしい目線で
    重要なエッセンスとして閉じ込めた短編集。

    ミステリ色が強いのは、日本推理作家協会賞を受賞した『十八の夏』や
    ラストの『イノセント・デイズ』なのでしょうが
    ほのぼのと温かい味わいに弱い私は、他の2篇
    『ささやかな奇跡』・『兄貴の純情』が、やっぱり好きです。

    特に、大好きな本を少しでも手に取って読んでもらうために
    「この本を買おうかどうか迷っておられる方に。
    どうぞ105ページを立ち読みしてください」
    と手作りPOPに書き込み、
    脚の悪い常連のおばあさんのために、自分の店には入荷しない雑誌を
    他店まで出向いてわざわざ購入し、「届きましたよ」と手渡す、
    『ささやかな奇跡』の書店の店長の明日香は、
    光原さん作品のヒロインらしい、清楚でひたむきな風情がとても素敵。

    一転して『兄貴の純情』では、
    母の胎内から背丈とバイタリティと情熱の取り分を皆かっさらってきた兄と
    残された自制心・遠慮・デリカシーの方を受け継いだらしい弟の
    兄弟ならではの掛け合いが楽しく、こんな男性像も描ける作家さんだったのね!と
    なんだか得をした気分になったりして。

    ミステリとして、というよりも愛すべき人たちの物語として
    手にとってほしい作品です。

  • ー たっぷり水を含ませた筆を走らせたような、淡い色の空。川面におずおずと戯れる日の光。向かい側の土手には五分咲きの桜並木。こちらの土手には、腰を下ろしてスケッチをする女性。

    今も目に浮かぶ。風景そのものが、「はる」と平仮名で題を付けたくなる1枚の絵だった。

    その絵は、もう、ない。空の色はあの頃より濃く、日ざしは傍若無人なほどに照りつけ、桜並木は緑の沈黙に身を包んでいる。そして一番大事だったピースが、そこからすっぽりと抜けていた。二度と取り返しのつかない形で。 ー

    いわゆるミステリーかと思いきや、想像と違った。
    父を思う息子、息子を思う父、兄を思う弟、兄を思う妹、形は違うけれども家族が織り成すささいなすれ違いから生まれるちょっとした日常のミステリー。

    素敵な文体。
    感情を呼び起こす作品。全体的に切なくなる作風。

  • 光原さんの著作の中では、ハードな部類に入るのではないでしょうか。でも自分は結構お気に入りの一作です。

    特に表題作の"色気"は素晴らしいものがあると思います。思春期の少年がオトナへと手を伸ばす、そのナイーブさ、危うさ、切なさ、ドキドキ感…この2人でなければ成立しないような何とも表現しがたい関係。描きようによっては下劣になってしまいかねないことの成り行きを、光原さんらしい優しさがくるりと包んでくれます。心のどこかが少しだけさっくりえぐられるような、そんな感覚を味わいました。素敵、と言ったら何か違うし登場人物達に怒られそうですが、素敵な話でした。

    他の作品も含めて転回が秀逸で、ミステリとしても傑作だと思います。ただ、「花」という共通テーマを抱えてはいるものの、これで「連作」と称するのはちょっと過剰かもしれませんん。

  • 恋愛をベースにちょっとしたミステリー要素を加えた読みやすい短編集。

    著者は女性なのにすべて男性視点で描かれており、その心理描写が非常に巧み。

    1番ミステリーっぽい“イノセントデイズ”は結末が読めてしまうのでミステリーとしてはどうかと思いますが、結末に至る登場人物の心の動きは読み応えがありました。
    “兄貴の純情”はコメディドラマにありがちで個人的にはいまいち。

    全体を通してみると再読するほどではありませんが、まずまずの面白さでした。

  • 第55回日本推理作家協会賞の短編「十八の夏」を含む短編集「十八の夏」を読了。「十八の夜」以外の短編は「ささやかな奇跡」、「兄貴の純情」と「イノセント・デイズ」の三編が収められている。

    推理作家協会賞を取った作品とはいえ最後の作品以外では殺人事件などおどろおどろしい事件は起きない。だがそれぞれの作品で鮮やかな柔らかなミステリーが展開されている。最後の作品でさえも殺人事件は既に過去のもので、主人公となる塾教師と教え子の関係の中で徐々に過去の恐ろしい事件の真相が明かされていくという軽やかな手法で読者を楽しませてくれる。

    最後の「イノセント・デイズ」は長編が出来る素材のようにも思えたので、長編に是非チャレンジしてほしい気がした。

  •  花をキーワードにした四つの短編が収録されたミステリー
     
     日本推理作家協会賞受賞の表題作『十八の夏』は結末が少し唐突な感じがしたものの、18歳の青年と大人の女性の単なる交流話にとどまらない意外な展開に転がっていって、さすが受賞作という出来だと思います。

     『ささやかな奇跡』は温かい筆勢と話の展開でタイトルから想像できるようにけっして派手な話ではないですが、心穏やかに、優しい気持ちになれる短編でした。

     『兄貴の純情』はミステリーのネタとしてはある程度想像できたものの、兄貴のキャラがとてもよかったです。あとがきに〈別の話で登場させたいキャラクター〉と書かれていたので、ぜひ期待したいところ。

     『イノセントデイズ』はかなりシリアスなミステリー。主人公の人に甘いと言われても優しさを貫き通す姿がかっこよかったです。

     ミステリー小説でもあるのですが穏やかな、また時には少し苦い恋愛小説の面もあって、どちらのジャンルの小説好きにもおススメできる短編集だったと思います。
     
     第55回日本推理作家協会賞〈短編部門〉受賞『十八の夏』
     2003年版このミステリーがすごい!6位

  • 良くも悪くも青くて初々しい短編集。花をモチーフにした連作というのは解説を見て気付いた。そうか。

  • 読書ブロガーさんの記事で知った本。
    ミステリーとしては「十八の夏」が好み。後半の展開にやられた。

    「十八の夏」の朝顔、「ささやかな季節」の金木犀、「兄貴の純情」のヘリオトロープ、「イノセント・ローズ」の夾竹桃。物語への絡み方が美しい。

  • この先生の幻想小説を先に読んでしまっていたので、ミステリーかー、ジャンルとしてはとても好きだけどどうかなーと思いつつ、もう新しい作品は出ないわけだし、と手に取る。なんかどれもほんとに好きだなぁとしみじみ思ってしまった。これ連作ミステリーか?と文庫本の裏表紙にある解説には疑問に思ってしまう短編集だったけど、読みごたえがあった。

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著者プロフィール

広島県尾道市生まれ。詩集や童話集を出版したのち、一九九八年『時計を忘れて森へいこう』でミステリ界にデビュー。二〇〇二年「十八の夏」で第五十五回日本推理作家協会賞短編部門、十一年『扉守 潮ノ道の旅人』で第一回広島本大賞を受賞。主な著書に『星月夜の夢がたり』『イオニアの風』『風の交響楽』など。

「2022年 『おいしい旅 想い出編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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