僕たちの戦争 (双葉文庫 お 23-4)

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  • 双葉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (474ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575510867

感想・レビュー・書評

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  • 笑い泣きの一冊。

    現代を生きる青年と戦中を生きる軍国青年が入れ替わったタイムスリップ物語。

    ユーモアが終始笑いを運ぶその傍らで何度もせつなく涙が滲む、まさに笑い泣きを体験した。

    置かれた時代に彼らなりに適応していく姿、未来を知るからこその言えない言葉が何度も胸を打った。

    人間魚雷 回天に改めて怖気が立ち、死=名誉の洗脳に反吐と涙の嵐。

    そして改めて思う。
    終戦宣言後もまだ戦おうとした人がいたことを。愛する人のために散った命、想いの尊さを。

    これらが次世代に伝わってほしい、伝えるべき大切さが込められた、紛うことなき良作。

  • ★4.5

    “根拠なしポジティブ”の現代のフリーターと、
    昭和19年の「海の若鷲」にあこがれる軍国青年が時空を超えて入れかわった!
    それぞれの境遇に順応しつつも、
    ふたりはなんとか元の時代に戻ろうとするが……。


    現代のフリーターの健太。
    昭和19年の戦争中の軍隊で過ごしている真面目な吾一。
    顏や体つきが瓜二つの19歳の青年がある日時空を超えて入れ替わる。
    この二人の若者が懸命にその時代に合わせようと努力し、
    成長する姿を交互に描いていた。
    過去から現代にタイムスリップした吾一の姿は、ユーモラスに
    描かれていて思わず笑ってしまう。
    一方、彼が感じる現代への失望は耳が痛くなる…。
    〝一体この時代はどういう時代なのだろうか
    知れば知るほど情けなく、嘆かわしく、腹立たしい。
    すでに多くの兵が御国のために散り、軍神となられた。
    その尊い犠牲は、こんな世の中話作るためであったのか〟
    〝50年後の日本は、多過ぎる物質と欲と光と色の世界
    誰もが自分の姿を見ろ、自分の声を聞けとわめき散らしている。
    謙虚も羞恥も謙譲も安息もない〟

    現代社会への批判・警鐘を鳴らしていた。
    色々な思いが頭の中をよぎりました。
    今という時代を考えるべきだと思った。
    また、戦争中の軍隊の姿はとても酷いものでした。
    その過去の日本の戦争についても反省すべきだと言っていると思いました。

    吾一にも健太にも生き続けて欲しい!
    でも恋人ミナミの元に戻ってくるのは一人。
    ラストの結末の判断は読者に委ねているのですが、
    結末を知りたいような、知りたくないような、
    何とも言えない切なさが残りました。

    タイムスリップするのですが、SFっぽさは感じさせられず、
    今の自分の在り方を考えさせられ、
    二人の青年の成長する姿を描かれている。
    素晴らしい一冊でした(*´ `*)

  • 戦争を思い浮かべると、あまりにも非現実的過ぎてどうしても白黒のイメージで想像してしまう。
    確かに色づき、人々が存在し、呼吸していた時代であるのにも関わらず。
    そう遠い昔の話ではないのにも関わらず。

    時代が変われば、常識も価値観も変わる。
    真っ直ぐな使命感と確固たる覚悟を胸に、国の為に死ぬ事が名誉とされた時代。
    心の底にある想いは人への愛。
    愛する者を守りたい、その一心だったのだと思う。

    戦争とは、平和とは、今自分が生きている時代について、考えさせられた。
    今現在、私達が不自由なく平和に暮らせているのは、過酷な時代に命を賭して戦ってくれた方々、そしてそれを支え続けてくれた人々あってこそ。
    その感謝を胸に、次世代が明るく暮らしていけるようにと願うばかり。

  • 面白くて感動。戦時中という激動の時代を命をかけて生きる吾一と、現代でフリーターをしながら暮らす健太が入れ替わり! 昭和19年に飛んでしまった健太がしんどいのはわかる、逆に何もかもが想像以上に進化した時代に飛び込んでしまった吾一の苦悩が面白くて、そっか~、そうだよねってなった。終戦直前まで話が進んでくると、健太が無事に現代に帰ってこれるのかハラハラ。君死にたもうことなかれ。あんなチャラかった健太が未来のために自分を犠牲にしようとするまでになるのが泣けた。凄惨な過去があるから今がある、戦争を忘れてはならない。

  • 面白かった。
    そして、考えさせらる物語でした。

    設定としては、フリーターのチャラい健太と太平洋戦争中の飛行訓練中のパイロット吾一がタイムスリップで入れ替わるというもの。
    同じ19歳で、入れ替わっても周りが気がつかない設定。
    (意識だけ入れ替わる系ではなく、物理的に体ごと入れ替わっている設定です)

    入れ替わった二人の視点から、交互に終戦まで語られていきます。

    入れ替わった当初、二人はそれぞれ状況を理解できずにいますが、とまどいながら、なんとかその時代に対応していきます。どこかで、再び自分の世界に戻れることを信じて、それぞれの時代を生き抜いていく事になります。

    健太は吾一として、健太の視点で、戦時中の人たちの生きざまを語っていきます。兵士たちの待遇、人間関係、その当時の思い。さらに、戦時中の理不尽な暴力を耐えています。
    その中で、現代に戻ることを希望に、戦争が終わるまで生き抜こうとしています。しかし、その思いとうらはらに、人間魚雷の「回天」の訓練を受け、特攻に志願させられるという状況に。
    そして、ちゃらかった健太も守るべきものの為に戦う事になります。
    「永遠の0」や「出口のない海」を思い出します。

    一方、吾一は健太として、現代社会を生きることに。
    吾一の視点から見た現代を面白おかしく語っていますが、ちょっとその語り口と描き方にはうんざり。
    しかし、ここでの一番のポイントは、自分たちが命を捨ててまで守ろうとした日本の未来が、こんな姿だったのか?こんな人たちなのか?と憂うところ。
    吾一の
    「これが、自分たちが命を捨てて守ろうとしている国の50年後の姿なのか?」
    のセリフ、思いが刺さります。

    二人の視点から、戦時中の若者たちの思いを浮き彫りにして、現代を生きる私たちに「生きること」のメッセージを伝えて来ます。
    今の平和が過去から成り立っていることを我々読者にストレートに語りかけています

    そんな二人は元の世界に戻る事が出来るのか?

    お勧めです!

  • 図書館の書架で偶々見つけた、好きな作家さんの未読の一冊だ。

    お気楽に現代を生きる、サーフィンを楽しんでいた尾島健太は突然海に投げ出される。
    同じ頃、昭和19年に生きていた石庭吾一は、戦闘機で飛行練習中だったが落下。
    目覚めた時、二人は時空を超えて入れ替わっていた。
    ユーモアを忘れずに時代に適応しようとする二人に笑いを誘われ、また感動もした。

    それぞれ元の時代の戻ろうと試み、最後はどのような結末になるのかと思いながら読み進んだが、ラストは読者の想像にゆだねられた。

  • 読んだのはもう17年前。
    感想を書いてなかったので、これを気に再読です。

    『回天』を知ったのはこの小説だったと思う。
    瀬戸内海にも回天の基地があったとは。知らなかった。

    こんなに近くに感じる『戦争はいけない』

    戦時中の人・吾一と現代っ子・健太の入れ代わりストーリー。
    入れ替わること自体に重きは置かれていないので何でかは触れられてないです。し、特に必要性も感じない。

    入れ替わった当初の描写がページ数割かれて丁寧に書かれています。
    もう荻原先生二重人格ですか!?ってくらい同じ人が書いてると思えない。
    お互いがお互いの世界に徐々に染まっていく様がなんとも。
    映画とかで取り上げられるような仰々しいものでなく、本当に身近な少年の揺れ動きがすごい。さすが荻原浩。

    途中で最期が分かってしまうぶん、そこから読むのが辛くなってゆく。
    (結末ではどっちだったか触れられてはないけど)
    テストで一番を取りたい、先生に褒められたい、『お国のため』ってお題目よりそっちのほうがよりしっくり、そして恐ろしく感じるなぁ。
    もちろんそのお題目と周りの雰囲気もあってのことでしょうが。

    もちろん現代に飛ばされた吾一が絶望するのも辛い。
    私達は戦争を知らない世代だから当然のようにあるものを享受するけど、当時を間近で体験した人ならば「そう」思うだろう。

    戦時下の凄まじい状況・読むのがしんどいような話の中で、健太のユーモラスな言動に気を緩められるし、現代の様子に苦しめられる吾一の絶望感のしんどさの中でも、唯一の光であるミナミの晴れやかさに救われる。
    緩急の付け方が程よくめちゃくちゃグイグイ惹き込まれます。

    結末がどっちだったのかは分からないけど、どっちでもいいと思うし、何より時代が交差した中でのミナミちゃんのお腹の新しい命という展開が最高の結末をもたらしてくれました。




    @手持ち本

  • 2017.7.26-8.8

    本書の前に「出口のない海」を読んだ。
    この2作は話の内容が地続きで、どこかに少しだけ年上の並木がいる気がした。

    回天、野球、魔球、想い人、千人針。。
    情景が重なる。

    吾一にも健太にも、生き続けてほしい。
    でもミナミと共に生きられるのはどちらか一人…。吾一と健太が少しずつ同一人物のようになっていく様に惹かれた。
    この二人のような人たちのおかげで、今の日本がある。それだけは忘れてはならない。

    ‘’文子さん、あなたの将来の旦那と、三十七年後に生まれてくる孫娘は、俺が守ります。”

    この一文で涙が溢れ出た。

  • いわゆるタイムスリップ物だけど、予想に以上に良かった!これまで読んだタイムスリップ物の中でも、トップクラスの満足度。

    現在から過去へタイムスリップした若者と、過去から現在へタイムスリップした若者を交互に描くことで、物語が骨太になってるし、この二人が顔も体型も性癖も瓜二つなのに性格は正反対という設定が、ストーリーに深みを増している。

    現代から昭和19年の日本にタイムスリップして苦労する尾島健太、昭和19年から現代の日本へタイムスリップしてやはり苦労する石庭吾一、この二人の若者を、時に笑いを誘う表現で描き、時にせつなく描き、ラストまで一気に読めてしまった。

    昭和19年と現代を対比する形で描いており、現代社会への批判・警鐘、また戦争中の日本への反省なども、物語の中で上手く表現されていて、同じように現代と戦中を対比している「永遠の0」とは雲泥の差。本書の方が、はるかに良心的、つまり表現が奥ゆかしいだけに、「永遠の0」のような嫌らしさを感じさせない。

    タイムスリップ物だからSFという括りもできるが、SF臭さは微塵もない。
    良質な青春小説と言っても良いし、二人の青年の成長物語とも言える。

    ラスト、どちらがミナミの元に戻ってくるのか・・・自分としては吾一であって欲しいけど・・・。もう少し続きを読みたい気がする。ラストの結末は読者に判断を委ねているのだが、ハッキリさせて欲しいという気持ちと、知りたくない気持ちが少し・・・。

    ブックオフでたまたま見かけて買った本だけど、良い本を読めて満足。

  • この種のタイムスリップ物は複数有って大体の予想はしていたけれど…映像作品は何作か見ましたが、小説は初めてで、予想に反して面白かったと言うか、感情移入してしまいました。現代と過去のシーンが交互に展開され飽きの来ない構成で良かった。
    映像作品とは違い、読んで場面を想像しながら理解し進んで行くと、「精神注入」とか訳解からん理由で虐待を受ける…とにかく読んでいて腹立った(笑)
    映像作品にも同じ様なシーンが多く有りましが、あまり気にならなかった。文字で上手く表現出来れば映像よりも強烈に伝わると思わせる作品でした。
    チョイとネタバレですが、上官に反撃したシーンはスッキリしました。
    ラストはそれぞれ感想は有るとは思いますが、個人的には良い終わり方だと思いました。
    今年も靖国神社に行きたいと思います。

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著者プロフィール

1956年、埼玉県生まれ。成城大学経済学部卒業後、広告制作会社勤務を経て、フリーのコピーライターに。97年『オロロ畑でつかまえて』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2005年『明日の記憶』で山本周五郎賞。14年『二千七百の夏と冬』で山田風太郎賞。16年『海の見える理髪店』で直木賞。著作は多数。近著に『楽園の真下』『それでも空は青い』『海馬の尻尾』『ストロベリーライフ』『ギブ・ミー・ア・チャンス』『金魚姫』など。18年『人生がそんなにも美しいのなら』で漫画家デビュー。

「2022年 『ワンダーランド急行』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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