- Amazon.co.jp ・本 (307ページ)
- / ISBN・EAN: 9784575511598
感想・レビュー・書評
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文庫化されて、すぐに購入したのですが、なかなか読み始めることができませんでした。古処さんの作品は、いつも読み始めるのに勇気がいります。考えさせられることが多い作品が多いので。
戦争という極限状態で表出してくる人間の業というものを常に考えさせられます。綺麗ごとならいくらでも言うことができる。でも自分が同じ立場に立たされたとき何をどう選択するか。時代に、周りに、社会に振り回されることなく、自分の意見を主張できるかと言われれば自信がありません。自分の意見だと信じていることも、自然と刷り込まれたことなのかもしれませんし。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
古処誠二『分岐点』双葉文庫。
古処誠二は戦争をテーマにした作品ばかりを手掛けている変わった作家だと思う。本作のテーマも戦争だ。敗戦濃厚となった昭和二十年の夏、主人公の中学生・成瀬はあろうことか軍人に銃剣を向ける…
これまで読んだ古処誠二は不思議な感覚に陥る作品ばかりだったが、本作はそんな感覚を味わうこともなく、衝撃の結末を迎えることもなく、静かに読み終えてしまった。大筋が単純なので、結末を迎えるまで、焦れてしまったことが原因だろうか。
様々な方々が書評の中で絶賛しているが、それほどの作品だとは思えない。一人の偉い書評家がカラスを白いと言えば、他の書評家もそれに倣うという感じだ。それは、まるで古処誠二の作品そのものではないか。 -
P307
終戦間際、疎開する事も出来ず、教育を止められた少年が兵士よりも兵士の考えにさせられた悲しい物語。 -
戦争という狂った時代のなかで、己を貫いた成瀬の話。
戦争というのは苦手だ。今後起こらない限り、知る術もない。実際に何が起こったか歴史は理解していても、実際に経験した人の話に共感することもできない。経験しないとその異常さはわからないだろうといつも思う。
その戦争をすんなり読めるフィクションにしてくれるのが古処さんの作品である。個人的な意見ではあるが、とても読み易い。戦争ものだとわかっていても、不思議と惹かれて読んでしまう。
今回は殺人を告白する手紙から始まり、軍隊に入った中学生たちの終戦間近の日常が語られる。
全体的に戦争の悲惨さを物語るには充分過ぎるほどで、やっぱり戦争は嫌なものだ、早く終われば良いとそればかりが風潮だと思いがちだった。がしかし、湧き上がる感情はそれだけではないということを、改めて突きつけられた気がした。
成瀬を突き動かした衝動の理由は、むしろ現代なら当然のものである。戦争云々の前に、人であるから当然の怒りだ。しかしだからと云って、果たして彼が上官を殺すことが許されるのか。女学生が兵隊を殺すことが許されるのか。許す許さないの問題ではないが、どの思考も理解でき、そして間違っていると云えないのは戦争というものの性なのだろうか。
最後の最後がそこにつながるのかと納得はしたものの、あまりにもあっけない終わり方はまるで戦争のようで、少し物足りない感じがした。手紙という形態に少し期待を持ちすぎたかもしれない。 -
太平洋戦争末期、陣地構築のため動員された中学生たち。その中学生の一人が指導軍人を刺殺し…
古処さんの戦争文学は戦争の悲惨さを感情的に描くのではなく、戦争という異常な状況下でさらに敗戦間際という今まで信じてきたもの全てが崩れ去ろうとしているという極限状況の中で、
誇りを持って生きようとするか、誇りを捨て利己的に生きようとするのか、そして誇りを持つために何を捨てなければならないのか、
そうした誇りを捨てる人の弱さ、誇りにすがる人の弱さというものを冷徹に見据えて書き上げている、そんな印象を持ちます。
この小説も舞台となる時代は米軍機がしょっちゅう空襲を仕掛け、国民や軍人もうすうすながら政府の流す戦争に関する情報の嘘を身体で分かってしまっている状態です。
そんな中でそれでも国の理想を信じようとした少年の姿は、理想しか人に与えようとしなかった当時の大戦の罪深さというものが現れているように思います。
古処さんの戦争小説は厳しい内容のものばかりですが、その時代だからこそ描かれる人の本質というものをしっかりと見据えているようで、惹きこまれてしまいます。 -
トータル的にはとても良い作品。
先が気になって睡眠時間を削ってまで読みふけってしまいました。
ただ、いったい何がそこまで成瀬を突き動かしたのか、
明確な要因が最後までわからずいささか消化不良です。
中盤まではよかったのですが、終盤はまるで別の作者が書いたようでした。
しかし新たな角度で戦争を捉えることができ、読んで損のない作品だと思います。 -
なるほど、第2次大戦末期の庶民感情ってほんとはこんな風だったのかも。目からウロコ。
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主に太平洋戦争を舞台として、ミクロな視点でヒューマンドラマを描く作家。
本作品は、終戦直前の日本における陣地構築に動員された中学生と下士官との間に横たわる微妙な心理を読む、というもの。読んでいて差し迫るものがあるのに、内容がそれほど残らないのは何故か。登場人物の没個性さかな。この作品よりも『七月七日』『ルール』が好み。