分岐点 (双葉文庫 こ 17-1)

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  • 双葉社
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (307ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575511598

感想・レビュー・書評

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  • 文庫化されて、すぐに購入したのですが、なかなか読み始めることができませんでした。古処さんの作品は、いつも読み始めるのに勇気がいります。考えさせられることが多い作品が多いので。
    戦争という極限状態で表出してくる人間の業というものを常に考えさせられます。綺麗ごとならいくらでも言うことができる。でも自分が同じ立場に立たされたとき何をどう選択するか。時代に、周りに、社会に振り回されることなく、自分の意見を主張できるかと言われれば自信がありません。自分の意見だと信じていることも、自然と刷り込まれたことなのかもしれませんし。

  • 古処誠二『分岐点』双葉文庫。

    古処誠二は戦争をテーマにした作品ばかりを手掛けている変わった作家だと思う。本作のテーマも戦争だ。敗戦濃厚となった昭和二十年の夏、主人公の中学生・成瀬はあろうことか軍人に銃剣を向ける…

    これまで読んだ古処誠二は不思議な感覚に陥る作品ばかりだったが、本作はそんな感覚を味わうこともなく、衝撃の結末を迎えることもなく、静かに読み終えてしまった。大筋が単純なので、結末を迎えるまで、焦れてしまったことが原因だろうか。

    様々な方々が書評の中で絶賛しているが、それほどの作品だとは思えない。一人の偉い書評家がカラスを白いと言えば、他の書評家もそれに倣うという感じだ。それは、まるで古処誠二の作品そのものではないか。

  • P307
    終戦間際、疎開する事も出来ず、教育を止められた少年が兵士よりも兵士の考えにさせられた悲しい物語。

  • 戦争という狂った時代のなかで、己を貫いた成瀬の話。

    戦争というのは苦手だ。今後起こらない限り、知る術もない。実際に何が起こったか歴史は理解していても、実際に経験した人の話に共感することもできない。経験しないとその異常さはわからないだろうといつも思う。
    その戦争をすんなり読めるフィクションにしてくれるのが古処さんの作品である。個人的な意見ではあるが、とても読み易い。戦争ものだとわかっていても、不思議と惹かれて読んでしまう。

    今回は殺人を告白する手紙から始まり、軍隊に入った中学生たちの終戦間近の日常が語られる。
    全体的に戦争の悲惨さを物語るには充分過ぎるほどで、やっぱり戦争は嫌なものだ、早く終われば良いとそればかりが風潮だと思いがちだった。がしかし、湧き上がる感情はそれだけではないということを、改めて突きつけられた気がした。

    成瀬を突き動かした衝動の理由は、むしろ現代なら当然のものである。戦争云々の前に、人であるから当然の怒りだ。しかしだからと云って、果たして彼が上官を殺すことが許されるのか。女学生が兵隊を殺すことが許されるのか。許す許さないの問題ではないが、どの思考も理解でき、そして間違っていると云えないのは戦争というものの性なのだろうか。

    最後の最後がそこにつながるのかと納得はしたものの、あまりにもあっけない終わり方はまるで戦争のようで、少し物足りない感じがした。手紙という形態に少し期待を持ちすぎたかもしれない。

  •  太平洋戦争末期、陣地構築のため動員された中学生たち。その中学生の一人が指導軍人を刺殺し…

     古処さんの戦争文学は戦争の悲惨さを感情的に描くのではなく、戦争という異常な状況下でさらに敗戦間際という今まで信じてきたもの全てが崩れ去ろうとしているという極限状況の中で、
    誇りを持って生きようとするか、誇りを捨て利己的に生きようとするのか、そして誇りを持つために何を捨てなければならないのか、
    そうした誇りを捨てる人の弱さ、誇りにすがる人の弱さというものを冷徹に見据えて書き上げている、そんな印象を持ちます。

     この小説も舞台となる時代は米軍機がしょっちゅう空襲を仕掛け、国民や軍人もうすうすながら政府の流す戦争に関する情報の嘘を身体で分かってしまっている状態です。

     そんな中でそれでも国の理想を信じようとした少年の姿は、理想しか人に与えようとしなかった当時の大戦の罪深さというものが現れているように思います。

     古処さんの戦争小説は厳しい内容のものばかりですが、その時代だからこそ描かれる人の本質というものをしっかりと見据えているようで、惹きこまれてしまいます。

  • カバーに書かれていた書評はこの本を正しく理解していないと私は考えている。

    これは日本人へ突きつけられた「責め」だ。

    成瀬の言葉はすべての日本人に突き刺さる。
    それは戦中戦前の軍隊ばかりの話ではない。

    今の日本人もまるで同じなのだ。

  • トータル的にはとても良い作品。
    先が気になって睡眠時間を削ってまで読みふけってしまいました。

    ただ、いったい何がそこまで成瀬を突き動かしたのか、
    明確な要因が最後までわからずいささか消化不良です。
    中盤まではよかったのですが、終盤はまるで別の作者が書いたようでした。

    しかし新たな角度で戦争を捉えることができ、読んで損のない作品だと思います。

  • 古処 誠二 『分岐点』
    (2003年5月・双葉社 / 2007年10月・双葉文庫)

    昭和20年夏、本土決戦に備えて中学生たちは陣地構築に動員された。
    度重なる爆撃にさらされ、飢えに苦しみながら辛い作業にあたる少年たち。
    そんななか一人の少年が指導下士官を殺した。
    人一倍敵愾心に燃え、大東亜戦争完遂の意気が高い13歳の皇国民は、なぜ歴戦の軍人に銃剣を向けたのか? 
    戦争小説のリアル感とミステリーの臨場感が、稀有な融合を見せる傑作長編。
    ──衝撃の結末は、深く胸を抉る。 (裏表紙より)

    今日も一人、ツンドク山の発掘作業に精を出すワタクシ。
    正直に言うとこのコドコロさんという作家、まったく前知識なしに文庫を購入したのだった。
    これを読みながらごそごそと積ん読の山を探ると、デビュー作にしてメフィスト賞受賞作の
    『アンノウン』がでてきた。どうやらどちらも文庫版の表紙でジャケ買いしたらしい…。
    それどころか新刊の『メフェナーボウンのつどう道』まで手元にあるというのだから参る。
    これで面白くなかったらまた奥さんの三白眼からレーザー光線が飛び出すので、妙にプレッシャーを感じながらの読書となった。

    うーむ…、なんというか…、重たい(笑)
    いや、奥さんのプレッシャーが、じゃなくて作品そのものが、である。

    感情表現を最小限に抑え、装飾を排除した簡潔な文体。
    敗戦間際の日本なのだから当然といえばそれまでだが、非常に重苦しい空気が…。
    基本的には嫌いではないのだが、豊かさで溢れかえった現代に生きる自分はこういう話を読むとどうしてもある種の後ろめたさを感じてしまうのだ。それが辛い。
    その重い世界でこれまた重い殺人が起こるのだから、しんどささらに倍、であった。

    しかしそこからが作者の筆力のなせるわざなのか、先を急ぐようにページを繰ってしまい、あっという間に読み終えてしまった。
    (この時点でうちの奥さんの好みではないことが判明したので、読んで面白くないと怒られることはまずなくなり、プレッシャーからは解放されている)

    「なぜ殺したのか」という問いに対して、作者は明確な答えを出していないように思えた。

    なぜ殺したのか。
    なぜ許せなかったのか。

    そういう時代だったからなのか。
    少年が特別だったからなのか。

    様々な疑問と答えが胸に去来し、交錯する。
    この豊かな時代に生きる我々こそがあの時代の重さを知らねばならないのだ、と迫られている。
    彼らはみな戦争の犠牲者なのだ、と月並みな言葉で結論づけるには我々はあまりにも無知だ。

    この作品の冒頭とラストには、殺人を犯した少年の手紙が添えられている。
    この手紙を書き終え、背筋を伸ばし、曇りのない目で前を向いているであろう彼の姿が、なぜだかはっきりと思い起こされる、そんな作品であった。

    70点(100点満点)。

  • なるほど、第2次大戦末期の庶民感情ってほんとはこんな風だったのかも。目からウロコ。

  • 主に太平洋戦争を舞台として、ミクロな視点でヒューマンドラマを描く作家。
    本作品は、終戦直前の日本における陣地構築に動員された中学生と下士官との間に横たわる微妙な心理を読む、というもの。読んでいて差し迫るものがあるのに、内容がそれほど残らないのは何故か。登場人物の没個性さかな。この作品よりも『七月七日』『ルール』が好み。

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著者プロフィール

1970年福岡県生まれ。2000年4月『UNKNOWN』でメフィスト賞でデビュー。2010年、第3回「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」受賞。17年『いくさの底』で第71回「毎日出版文化賞」、翌年同作で第71回「日本推理作家協会賞(長編部門)」を受賞。著書に『ルール』『七月七日』『中尉』『生き残り』などがある。

「2020年 『いくさの底』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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