クレオパトラの夢 新装版 (双葉文庫)

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  • 双葉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575517729

感想・レビュー・書評

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  • - ”オネエキャラ”ってなんですか?

    それはね、ある種の見せ物や芸能ということを分かった上で、男性でありながら女性っぽい言葉を用いる人たちのことを言うんですよ。

    - 女性っぽい言葉ってどんな感じですか。

    『なあによ。感じ悪いったら。』
    『ねえ、このコートはまずいかしら?あんた、何かまともなコート持ってない?』
    『フン、何よ、たまに会うとみんな冷たいのよねえ』
    『何よ、あんたったら、随分突っかかるわね。何が言いたいのよ、さっきから』
    『じゃあお願いしようかしら。送り狼は無しでよろしくね』
    …というような感じですね。聞いたことがあるでしょう?テレビで強烈な印象を放っている、あの芸能人、この芸能人の姿が目に浮かびませんか?

    - 面白そう。そんな”オネエキャラ”が登場する小説ってありますか?

    はい、自信を持ってご紹介しましょう。「クレオパトラの夢」。恩田陸さんが描く”オネエ”な主人公が大活躍する物語です。

    『駅のホームに降り立った時、神原恵弥 (かんばらめぐみ) はこの上なく不機嫌であった』、そして『なによこれ、寒いじゃないの』と呟く恵弥。『中肉中背、すっきりと髪を刈り上げ、精悍、端整、酷薄とでも形容すべき顔』、『黒革のパンツに黒のブーツ、黒のムートンのコートという隙のないいでたち』の恵弥。『今回、彼が大嫌いな酷寒の地、H駅に降り立ったのは幾つかの理由がある』というその時、『恵弥』と呼びかける声。『和見。お久しぶり』という数年ぶりの兄妹の再会。『髪、随分伸びたのね。見違えちゃったわ』、『そう?昔から長くしてたことが多かったじゃない』という『ちょっと見には、三十代半ばのカップルに見える』二人。しかし『二人の会話に耳を澄ましてみたなら』、それは『まるっきり女子高校生どうしの会話か、仲のよい姉妹の会話としか思えない』という二人。『神原家は、女系家族』であり『恵弥もすっかり女性たちの生活に馴染』み、『レースやリボンや香水瓶のような、綺麗なもののほうが好きだった』という恵弥は『周囲からさんざんその女言葉をからかわれた』生活を送るものの『自分が自然に思える、女言葉を遣う生活を選んだ』という結論。『恵弥、今日はゆっくり飲もうよ』という誘いに『そうね。その前に、目の前に横たわるあんたの問題を解決しなきゃならない』と答える恵弥。和見は『大丈夫。じき解決するから。恐らく今夜』と他人事のように答えます。『どうしても外せない』という和見が言う知人の告別式にまず赴くことになった恵弥。『坂を上ろうとして、和見が付いてこないことに気付いた』恵弥。『どうしたの。早く済ませようよ』と言う恵弥に『あたしは行けないの。恵弥、あたしの代わりに行ってきて』と突然言い出す和見。混乱する恵弥は寺の看板に目をやります。『故 若槻慧博士告別式会場』という見覚えのあるその名前。その瞬間『背中を波のような戦慄が駆け上が』ったという恵弥。『ちょっと、和見。本当にそうなの?これがあの彼なの?』と問う恵弥。『言ったでしょう、今夜終わるって』という『その声には、疲労と孤独が滲んでいて』愕然とする恵弥。『しかし、決してこの夜は、全ての終わりではなかったのである』、とH市を舞台にした物語は大きく動き出すのでした。

    『神原恵弥』という“オネエキャラ”が縦横無尽に活躍するこの作品。恩田さんの作品群では『神原恵弥シリーズ』三部作とされ、この作品がその2作目となります。私はシリーズ第1作の「MAZE」を既読ですが、読後の正直な感想としては、神原恵弥という強烈な”オネエキャラ”が活躍するというだけで、直接的な繋がりもなく、読む順番が違っても全く問題ないと思いました。恩田さんの小説では、キャラの濃い登場人物が多数存在しますが、この神原恵弥はその中でも筆頭格間違いなしなので、いずれにしても強烈な印象が残ります。ただ「MAZE」は異国の地の丘の上に立つ謎の白い建物が舞台ということもあってそのキャラ感が設定の中に埋没しそうな感がありましたが、この作品の舞台は北海道のH市という日本国内、つまり普通の日常に登場する分、インパクトはとても大きいです。ただし、不思議なのが『H港をぐるりと囲むようにして市街地が広がっている』、『世界三大夜景とも言われることで有名なH山』、そして極めつけに『明治維新の終結した場所…土方歳三が近くで最期を迎えた』G稜郭がある…という伏せ字だらけのそのH市。ここで取り上げた記述だけであの都市のことというのは丸わかりです。それを敢えて伏せ字にする意味が、これは最後までよくわかりませんでした。ただ、伏せ字の方がミステリー感は増すような気はします。そうです。これは恩田さんのミステリー小説です。恩田さんの作品を読まれたことのある方は、作品の結末を読者に任せるような、読者を突き放すような終わり方の作品が多々あり、ここが賛否両論分かれます。私は他の作品のレビューで”途中の世界観を楽しむ読書のススメ”と書いていますが、恩田さんの作品は雰囲気を楽しむ小説なので突き放されても構わないと思っています。でも、一方でそれに不満を訴える方の気持ちもわかります。そして、この作品は強烈な”オネエキャラ”の活劇を楽しめる一方で、きちんと決着した結末も見せてくれるので、”ミステリー小説”ということでも安心して楽しめると思います。

    なお、他の作品繋がりということでは、この作品の直前に、偶然にも短編集「朝日のようにさわやかに」を読みましたが、そちらに登場する〈冷凍みかん〉のお話がそのまんま登場します。恩田さんの作品も読む順番が結構重要ですが、「MAZE」→「クレオパトラ」でなくても大丈夫ですが、「朝日」→「クレオパトラ」の方が楽しめると思います。この情報は少なくとも私はどこにも見たことがなかったので、ご参考までお知らせしたいと思います。

    この作品は兎にも角にも”オネエキャラ”である神原恵弥なしでは語れません。現実世界で活躍する”オネエキャラ”には当然ながら人によって好き嫌いはあるでしょう。この作品の神原恵弥も、読み始めてしばらくはその話し言葉に対する違和感がどうしても拭えませんでした。それは、作品に登場する人物の戸惑いにも現れています。『恵弥のようなタイプを拒絶する男性は多い。彼の話す言葉を聞き、露骨に嫌悪感を見せる者もいる』という記述は、恩田さんがそんな読者の戸惑いを予想してかの如きものです。しかし『彼には不思議な吸引力があって、嫌悪感を覗かせていた者も、彼の相手をしていると、しまいには彼のペースに巻き込まれ、彼の流儀を認めてしまうことになる』と恩田さんは続けます。実際、作品を読み進めるに従って、読者は神原恵弥という登場人物の人懐っこさになんだかどんどん気を許してしまう、そして、その活躍を応援したくなる、そんな気持ちに感情が変化していることに気づきます。私は、”オネエキャラ”というのはあまり得意ではありません。でも、恩田さんの描く神原恵弥という”オネエキャラ”にはすっかりハマってしまいました。恩田さんの筆の魅力には勝てない、そう感じさせてくれた作品でした。

    『クレオパトラは毒蛇に自分を噛ませて自殺した』と伝えられるその謎の死。そしてそんな『クレオパトラ』という名のつく何かを探し求めるこの作品。謎が謎を呼び、誰が味方で、誰が敵なのか、最後の最後まで予断を許さない緊迫感のあるストーリー展開。そして、そんな作品の舞台の上で大立ち回りを演じる”オネエキャラ” 神原恵弥。「蜜蜂と遠雷」や「夜のピクニック」のイメージとは似ても似つかない恩田さんによる極上のエンタメ・ミステリー。気軽に楽しむ恩田さんの一冊、そんな作品でした。

  • しぶめのイケメンだが、じゃべり出すとお姉言葉の神原恵弥の魅力と作者の筆力に引っ張られて読んでしまったが、謎の解決はなあんだというあっけないもの。大山鳴動して鼠一匹という感じだ。生物兵器がらみの大変なことかと思わされたが、とんでもない。クレオパトラというネーミングもなんか浮いてしまう。

  • 外資系製薬会社に勤める恵弥は、双子の妹、和見を不倫相手から引き離して東京に連れ戻すために北海道に行く。
    その相手はちょうど亡くなっていたが、彼が研究していたのは天然痘ウイルスらしく、製薬会社から防衛庁まで複数の人たちが、そのありかを探してうごめくという、スリリングなストーリー。
    恵弥が女性言葉を使いながらも(多分)イケメン、和見がむしろ男性っぽいサッパリタイプという設定や二人の掛け合いも面白く、ワクワクしながら読み進めた。

    こんな兄、ほしいなぁ。。(笑)

  • 2003年の作品
    「神原恵弥(めぐみ)」シリーズ作品です。
    「SARSコロナウイルス」に流行した世相を作品に織り込んだ作品のようです。

    2020年はCONVID-19(コロナウイルス)が世界中、大流行して因果を感じる。

    作者のこれまでの作品のキャラクター設定から亡くなった博士は人望が厚いと臭わせて、実は・・・。

    博士は事故、殺人かも?ワクチンなのかウイルスなのかも?

    恵弥の双子の妹、博士の妻、博士の友人は共犯?

    恩田ワールドの閉じない話は妄想で一杯のなるし、疑問も沢山出てくる。不思議な話です。

  • 何回読んだかわからないくらい好き。北海道を舞台に、亡くなった人が残した兵器を追う話。登場人物それぞれのスピンオフも読んでみたくなる。

  • またまた、やられてしまった。
    謎と嘘で疑心暗鬼になったまま終わる
    この結末、わかってるのに読んでしまう。

    コロナとリンクして読むとゾワッとしたよ。

  • 神原恵弥の第二弾。不倫をしている双子の妹を家に戻そうとH市に旅立つ恵弥。しかし、不倫相手は死んでいて、後に妹も姿を消してしまう。実は不倫相手とは恵弥の仕事に関係ある人で、彼の手帳には「クレオパトラ」とあり、その謎を恵弥が追うといったもの。前回はお友達との会話、エキゾチックな雰囲気での物語でしたが、今回は恵弥の妹だけあって手強い相手、そして恵弥節も炸裂で前回よりも色が濃い印象。誰が敵か味方かわからず、心理戦、嘘と謎ばかりで楽しめました。舞台が函館てこれもイメージが浮かびやすくよかったね。なんといっても恵弥のキャラ、惹きつけられる三作目へGOだ。

  • 「いや、本当に、世界の終わりは背中合わせのところにあるのだ。」

    神原恵弥の“悪目立ち”が全開
    こういうタイプは案外好かれる

    タイトルがいい
    バド パウエルだ

    クリスマスのH市に眠る『クレオパトラ』の都市伝説…恵弥は双子の妹を東京に連れ戻すほか、ある極秘ミッションを密かに計画していた
    鋭い推理と思いきや思い過ごしだったり、真実と仮説が交錯する

    前作とは異なりホラー要素はないけど、むしろ現実的な恐ろしさ

    『朝日のようにさわやかに』の「冷凍みかん」の話とリンクさせていて面白かった

  • 恩田さんの不思議な世界観
    最後まで読まないと落ち着かなくなる作品

  • シリーズの続編。
    靄がかかったような秀逸の描写に恩田陸だ! と思う。

    彼女が描く世界はどうして、こう迷宮にも似た不思議な感じがするのだろう。

    扱っている内容は現実的なのに。

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著者プロフィール

1964年宮城県生まれ。92年『六番目の小夜子』で、「日本ファンタジーノベル大賞」の最終候補作となり、デビュー。2005年『夜のピクニック』で「吉川英治文学新人賞」および「本屋大賞」、06年『ユージニア』で「日本推理作家協会賞」、07年『中庭の出来事』で「山本周五郎賞」、17年『蜜蜂と遠雷』で「直木賞」「本屋大賞」を受賞する。その他著書に、『ブラック・ベルベット』『なんとかしなくちゃ。青雲編』『鈍色幻視行』等がある。

恩田陸の作品

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