蛇行する月 (双葉文庫)

著者 :
  • 双葉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575518948

感想・レビュー・書評

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  •  NHKの朝イチに桜木紫乃さんが出演されていた。『ホテルローヤル』の映画化で話題となっている著者である。今までこの著者のことを知らなかったのだが、ご実家がラブホテルを経営されており、子供のころ仕事を手伝うと親に喜んでもらえた話とか、著作はご自身が育たれた北海道を舞台にされているとか、そんなお話をされながら滲み出る柔らかくも凛とした、そして気さくなお人柄に惹かれてこの方の小説を読みたくなった。
     今の私には新刊を買う余裕はないので、ブックオフで探したが、話題となっているせいか、在庫なしのものが多く、☆が多い中で入手出来る中で選んだのが、この『蛇行する月』。
     「蛇行する月」ってなんと詩的なタイトルなんだろう。
     読み始めて北海道の釧路が舞台になっていることが分かり(多分桜木さんが生まれて現在も居住されている土地)、「そういえば、釧路って北海道のどこらへんだっけ?」と調べてみれば、釧路は北海道の東側で「国立釧路湿原公園」となっている土地らしい。写真を見ると、なんと美しい土地!。湿原なんて、見たことない!
    こんな所で桜木さんは育たれたのか、羨ましい!そして、釧路川というのが流れていて、それが「蛇行」する川として有名らしい。この小説のタイトルは釧路川のイメージだったのだ。もちろん、釧路川と重ならなくても十分詩的だし、読者にとって釧路川のことはあってもなくても変わらないと思うのだが、生まれ育った背景から自然に詩的な言葉が使えるっていいな!と思った。
     主人公の女達は皆、平凡な、しがない女達である。釧路湿原高校の図書部で同じだった、清美、桃子、美菜恵、直子のその後について年代を分けて書かれている。彼女たちはみんな、解説の言葉を借りれば、「蛇行する女達」であり、蛇行する川のように「田舎にいることの、金がないことの、職場の、家族間の、どんづまり感」をかかえている。
     そんな同級生のうち、一人だけ異なるのが、順子。彼女は高校の時好きだった国語の先生の教員住宅まで押しかけて告白し、大問題になった子で、卒業後は、就職した和菓子屋の主人と駆け落ちし、東京の郊外で、夫婦でしがない中華料理屋を営む。それでも、「私、今すごく幸せ」と同級生たちに電話や手紙で、知らせてくるので、同級生が会いに行ってみると、決して流行っているとはいえない中華料理屋の二階の六畳二間で家族三人方を寄せ合って生活し、服にも構う余裕がないような経済状況で、籍も入れていない旦那さんは20歳以上年上。「これのどこが幸せなの?」とそれを見た同級生は思うのだが、順子は見栄ではなく、本当に自分は幸せだと心から思っている。順子は和菓子屋の女将さんから旦那さんを略奪するという、許されない罪を犯したのに、そんな真っ直ぐな彼女を見て、同級生たちも読者も(私は)、旦那さんを略奪された和菓子屋の女将さんまでもが順子を憎めない。
     その和菓子屋の女将さん(弥生)のことを書いた章もある。旦那が店で雇った新人の女の子と駆け落ちしてしまった時、そのショックよりも、父親から受け継いだ暖簾を守ることに必死になり、それから約10年、一人で工夫しながら何とか商売を続けてきた。夫の居所が分かり、勇気を出して会いにゆき、ケリをつけて、一人の人生を心新たに歩み始める。
     順子の母親(静江)のことを書いた章もある。彼女自身、親に捨てられたような人生で、一人娘も20歳以上年上の男と駆け落ちした後、会っていない。60歳になり、職場からの風当たりがキツくなり、同棲していた男にも去られてから、ふと娘の順子を訪ねてみようと思う。少し娘を頼りたい気持ちもあったのだが、自分と変わらない貧しさの中で自分とは違い、一人の男と二十年も寄り添って「幸せ」だと目をキラキラさせて語る娘を見て、静江も人にすがらず生きていく決心をする。
     40代半ばで独身でいる看護師の直子。曲がったことが嫌いだが「曲がるならしっかり曲がれ」という信条を持っている。「曲がり角を曲がれば、目の前の景色も背後の景色も変わる」。
    やっぱり、釧路川のような蛇行する川を見てきた桜木さんだから、こんな文章書けたのだろうな。この部分好きだ。
     この小説の主人公の女達は順子という、ただ一人真っ直ぐに自分は幸せだと言っている女に再会して、ガクンと蛇行する。それが正しい方向なのか、幸せな方向なのかは分からないが、とにかく砂の溜まった曲がり角を何とか曲がり、新たな流れに進む。蛇行する川が出来るような厳しい自然の中で。
     解説では、どの主人公も好きになれる人物ではないと書いてあったが、この小説の中では、私にはどの女性も愛おしく、背中を押して貰えた小説だった。



     

  • 久しぶりに心がヒリヒリするような物語でした。
    女って、女性って、人って、と。
    どうにももてあましてしまう自分の気持に何を幸せと思うのか。
    その答えを早くに見つけた相手と自分を比較し、改めて自分の幸せを気持ちを考える女性達。
    選んだ道を正解とし幸せを作っていく事が幸せになる事だと分かっていても難しい。

  • 「ホテルローヤル」と同じ連作短編集ということで期待。6編どれも良かった。自分が善い人になった気がする一瞬があっただけでも読んだ甲斐がありました。

  • 高校を卒業した後、勤めていた和菓子屋の入婿である職人と駆け落ちしてしまった順子。彼女の高校時代の部活仲間の女性4人、順子の母親、駆け落ち相手の妻だった女性の6人をそれぞれ主人公に据えた連作短編集。
    駆け落ち生活は楽ではなく、生活に追い立てられる日々であるが、駆け落ち相手と息子の3人で暮らす順子は、小説の中で、自分は幸せだと、いつもはっきりと言う。順子自身が主人公になる短編は書かれておらず、そのような順子と関わりを持つ6人の気持ちを描いた小説だ。日々の暮らしが精一杯で幸せなのだろうか、と思うが小説の中では本当に幸せなのだという設定になっており、順子と接する、決して自分を幸せだとは思っていない6人の気持ちの揺れが主題なのだと思う。
    主要な登場人物が全て女性で、かつ、彼女たちの内面の気持ちの動きが話の主体なので、そこにリアリティがあるのかないのかが、よく分からない。だから面白くないという訳ではない。ストーリーとしては充分に面白く読んだ。しかし、登場人物たちの気持ちの真ん中が充分には分からない隔靴掻痒感はあった。

  • 桜木紫乃さん特有の終始陰鬱な雰囲気が流れ、内面に様々なものを抱えながら生きる6名の女性の関係性を時系列で描く。中でも高校時代の図書部員であった個性的な4人を中心に、所々出てくる駄目な男たちがさらにストーリーに陰鬱さに際立たせている。
    途中から順子を中心に物語が展開。他者から見ると終始何かしらの問題を抱えながら生きている登場人物達から感じ取り方は人それぞれ違うのだろう。

  • 何かしら繋がってる(同級生だったり母親だったり)6人の女性が幸せや生き方に焦点をあてた連作短編集。桜木さんって普通の女性の普通に持つであろうちょっとダークな心情を掘り下げて描くのがすごく上手。20代から50代の女性が短編の主人公になっていてその世代に直面する問題が共感できる。全編に出てくる妻子ある男と逃げ貧しい生活をしながらも「幸せ」と言い切る順子。その姿を見て納得できない友人たち。現実に順子みたいな人を私は知らないけどいるんだろうか?? 読み応えのある本でした。

  • 釧路の高校を卒業してまもなく、二十以上も年上の和菓子職人の男と駆け落ちした順子。親子三人の貧しい暮らしなのに「私は幸せだ」と伝える彼女に、高校時代の仲間と母親、そして捨て置かれた女性の心情を描く連作小説。
    「しあわせ」という価値観を改めて考えさせられる。人生に行き詰まった時に見えてくる客観的な自分という存在が、誰かに必要とされているのかどうか。他人との比較では、決して幸福とは思えない順子が、なぜ素直に幸せと口に出せれるのか。とても深い人生論を教えてもらった。

  • こちらも短編集なんだけど、みんな高校の同級生という1冊。友達なんだけど、私より幸せなことに苛立ちを感じる、、というちょっと女の嫌な一面がメインな感じ。もがいてやっと掴んだ、幸せだと思っていたものが崩されるような…やはり幸せって条件じゃないんだと思う。重い話ってわけではないけど、自分は将来この人たちの中の誰に当てはまるんだろうって、見えない不安を感じさせられた。

  • 高校卒業後に年上の既婚者男性と駆け落ちした順子。転々と逃避行をしながらも、自分は幸せだとなんのてらいもなく無邪気にまわりに伝えてくる彼女に、不審なり疑問なり優越感なり友情なり、何らかの気持ちを抱いて関わってくる同級生や回りの女性たち。
    順子のかざらなさ、幸せと言い切れる真っ直ぐさに、それぞれが惹かれ、悩み、自分の幸せを探し始める。
    はたから見たら、決して幸せそうには見えない貧しい生活のなかで、強がりではなく幸せと言い切れる順子の純粋な強さ、愚かさ、魅力。
    幸せとは人と比べることではなく、自分が幸せと思えればよいのだろうけれど、つい比べてしまうんだろうな。比べない順子は、今なかなかいないタイプ。自分の生き方や幸せ感についても考えさせられる小説だった。

  • なんかこう、普通の人にもいろいろあるよねな感じが気に入っている

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著者プロフィール

一九六五年釧路市生まれ。
裁判所職員を経て、二〇〇二年『雪虫』で第82回オール読物新人賞受賞。
著書に『風葬』(文藝春秋)、『氷平原』(文藝春秋)、『凍原』(小学館)、『恋肌』(角川書店)がある。

「2010年 『北の作家 書下ろしアンソロジーvol.2 utage・宴』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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