牛を屠る (双葉文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575714173

感想・レビュー・書評

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  • 一昔前の大宮と場に勤務した佐川光晴さんの体験記。と畜場作業員としては異色の経歴であった佐川さんがなぜと畜場作業員になったのか、そしてそこでどのように「働いていく」ことを自身の気持ちの中に落ち着かせていったのかということが感じられる作品でした。

    牛を屠るというタイトルから想像するほど、血なまぐさい風景が展開されるわけではなく、むしろ淡々と語られる中に、現実感が迫ってくるようでとても興味深かったです。

  • #牛を屠る
    #佐川光晴
    #双葉文庫
    #読了
    小説かと思ったら実体験に基づくノンフィクションでした。佐川さん自身が現場で働いていた、という。豊かな食生活の裏でこんな現場があることを私たちは見なくていいのだろうか。生きるとは働くとはを考えさせられます。

  • ふむ

  • 表紙のイラストのイメージ通りに骨太で力強い。屠殺の是非よりも職業人、プロとしての誇りを感じる文章。この光景が今だって全国で繰り広げられている。

  • 文章が上手い。
    エアナイフ等うまく想像ができない作業も多かったが、仕事として淡々と牛を捌いていく職場の雰囲気が伝わってくる本だった。前作も読もうと思う。

  • ーー働くことの意味、そして輝かしさを描いた作品だ(p.162 巻末対談より)
    ーー天職を探すのが先決と思っているよりは、わからないままでも飛び込めば、ブレイクスルーできる地点に辿り着く。(p.164 同上)

    就活の時に読んでみてはどうでしょうか。
    散々迷って自己評価さげまくってズタボロになった果てに手にした仕事がブルシットジョブ。なんてことが珍しくない世の中ですが、羨ましがられない仕事ほど人の役に立っていて、しかもやりがいがあるんだということがとてもよく描かれていると思います。資本主義は労働者を労働から解放するのではなく、労働を中身から解放する、とはマルクスの指摘ですが、中身から解放される前の労働が与えてくれる喜び、みたいなものが感じられました。内山節もそれに近いことを「稼ぐ」と「働く」という対比で指摘していたような。
    分業は効率化と増産のための必然ですが、それが奪うものの大きさも考えさせてくれる良書です。

  • 圧倒された。
    作家となる前に10年以上にわたって埼玉の屠畜場で働いた作者のノンフィクション。私たちがスーパーで綺麗にパック詰めされた牛肉を買う前段階にはこのような作業があることをしっかりと認識させてくれる。
    屠畜、という仕事から被差別部落問題に直結させたり、「命の尊さ」などという「美しい」価値を持ち出したりすることなく、仕事をするとは、真剣に対象に向き合い、工夫して、熟練度を上げていくことであることを力強く提示してくれる書。
    巻末の対談で、「他人や他人の仕事に対してちょっとでも舐めた口をきくような人間に自分をしたくなかった」とあり、この姿勢がよく表れていると思った。

  • 屠殺、というものに興味をもったのはいつだったか。
    品川(芝浦)のことを知ったのは何気なく写真集を手に取ったのがきっかけだったように思うし、岐阜の養老のことも知識としては知っていたし地形や社会史との関係で解釈していた、ただし実作業工程までは当然わかっていなかった。

    屠殺場で働くきっかけを「偶然」と表現するのも素直だし、父親の反省に対して「会社を辞めず給料をもらい続けたおかげで親としての役目は果たした」「人生に運不運は付き物だし、信念を曲げず生きてこられただけよしとすべき」という感想もまた、考えさせられる。

    「おいそれとは身に着につけられない」「技術と経験を求められる」仕事を志向し、そしてこの就職は間違った選択ではなかったと知ったというのにも共感する。
    怪我もあるし、牛に蹴られるおそれもあるし、技術とメンタルの鍛錬に満ちた仕事であることもわかるし、携わっているからこそ味わえる美しい光景や体験にもまたうなづける。読んでよかった。

    差別・偏見もまた否定しないものの、そういうことに拘らず付き合える仲間というのも、チームワークあっての作業ゆえのもの、かもしれないと思う。
    無論、労使の関係のなかで地位向上させてきた歴史も、屠殺を考えるうえでは避けられないこと。とはいえ、日々の仕事ぶりのみによって互いを認め合い、評価あるいは証明するというのも格好良い。
    そしてそのような環境に(時には自らの身体的特長も含めて)、「これぞ自分にとっての世界だ」と信じて打ち込んでいく様子もまた、尊く感じたのである。

  • なんとも読み応えのある、屠畜の仕事の貴重な体験談。初っ端から引き込まれる。
    入り込むことのできない世界を見せてもらった。著者のいた大宮と、機械化が進んだ芝浦との違いも興味深かった。関連書籍を読んでいきたい。

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著者プロフィール

1965年、東京生まれ・茅ヶ崎育ち。北海道大学法学部出身。在学中は恵迪寮で生活し、現在は埼玉県志木市で暮らす。2000年「生活の設計」で第32回新潮新人賞。2002年『縮んだ愛』で第24回野間文芸新人賞受賞。2011年『おれのおばさん』で第26回坪田譲治文学賞受賞。

「2021年 『満天の花』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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