フランス革命と家族ロマンス (テオリア叢書)

  • 平凡社
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  • Amazon.co.jp ・本 (389ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582744248

作品紹介・あらすじ

なぜ王は首を刎ねられ、王妃は卑しめられたのか!?なぜ男たちは「友愛」を唱えながら、女たちに従属を強いたのか!?フロイトの精神分析を大胆に政治史研究に取り入れ、革命にうごめく政治的無意識を鮮やかに分析したフランス革命史研究の記念碑的名著。

感想・レビュー・書評

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  • リン・ハントの「フランス革命の政治文化」(1984)は、いわゆるディスコースやイメージの解釈、つまり質的な研究を大胆に展開していることに加えて、人口の構成などの統計的な数字の分析、つまり量的な研究が組み合わされていて、とても印象的な本だった。

    個人的には、何かを理解するときに、質的分析と量的分析の両面が必要だと思っているわけだが、一人の著者の本で、この両方の分析が組み合わさって、説得力のある議論を展開している本は、少ないと思う。

    そういう意味で、リン・ハントの「フランス革命の政治文化」は、ものを考える時の一種の規範というか、モデルとして、頭の片隅にある。

    というハントの92年の「フランス革命と家族ロマンス」。

    フロイトの「家族ロマンス」という概念を踏まえながら、文学作品、美術などなどの分析を通じて、フランス革命の文化・深層心理の解釈を行なっている。

    「フランス革命の政治文化」でのディスコース分析をさらに徹底して進めたという印象。個人的には、定性分析だけなのが残念ではあるが、「フランス革命の政治文化」以上に深く深く、鋭く切り込んでいると思う。

    分析の対象とされるのは、同時代の膨大な小説(文学的なものから、大衆的なもの)をはじめ、劇、新聞、ポルノグラフィー、絵画など、有名なものから無名なものまで。そして、政治的な集会での議事録なども踏まえながら、フランス革命の「家族ロマンス」が分析されて行く。

    フロイトの概念だからと言って、単純に「ルイ16世」が処刑されたのは、エディプス・コンプレックスがあったから、とか、不幸な子供が本当の父親はどこか知らないところにいる高い地位にある人でいつか助けてくれると妄想していたから、とか、単純な精神分析的な解釈に決め込んで行くところはない。

    その手腕は、実際に読んでのお楽しみということだが、個人的に面白かったのは、ある種のフェミニズム的な視点だった。

    つまり、人間は平等だと言ったときに、じゃあ、奴隷はどうか?違う人種はどうか?などの疑問が湧いてくるわけだが、そうした問題以上に、男性と女性も平等だという考えに革命派も反革命派も抵抗を感じたということ。

    女性を政治活動など公的な領域から締め出し、家族の中の役割にとどまるように、医学とか生物学とか、いろいろな「科学的」知見が提出され、女性は男性より低い存在であることを正当化して行く。

    うわ〜、こりゃひどいや、200年前って、こんな「野蛮」だったんだと、呆れたところで、そう言えば、日本では最近でも同様の発言が議会であったりしていたなと思い出し、暗澹たる気持ちに。

    いうまでもないが、こうした文化の解釈だけで、フランス革命が全て理解できるとは、ハントは主張していない。いろいろある要因の中の一つという位置づけ。ハントはポストモダーン的ではあるのだが、モダーンな議論も大切にしているところがバランスがよいところ。

    ある程度のフランス革命の歴史への知識がないと、意味がわかりにくいところもあるかもしれない。

    必要に応じて、一般的な「フランス革命史」の本やWEBの情報なども参照しながら、読むといいかも。

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著者プロフィール

アメリカ歴史学会会長

「2002年 『ポルノグラフィの発明』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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