対談中世の再発見 (平凡社ライブラリー)

  • 平凡社
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582760668

感想・レビュー・書評

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  • 中世の再発見

    二人の中世史の巨人を招いた対談本。ワンピースに例える中カイドウとビッグマムの海賊同盟並みの二人。
    贈与や宴会、市場などのテーマに関しての対談から、日本とヨーロッパの精神の基層をなす中世の人々の考え方を浮かび上がらせるとともに、11世紀頃を境に他の諸国と全く別の文化的習慣を持つに至ったヨーロッパの特殊性についても触れる。特に贈与ではマルセル・モースの贈与論を引いた上で、贈与や互酬関係において人々が繋がりを持っていたとされる。貨幣は貨幣を媒介にしてこれまで関わってこなかった人々と新たな関係性を取り成すとともに、中世の人々は貨幣の持つ呪術性についても信じていた。ゆえに、彼らは死者への贈与として貨幣を地中に埋める習慣があったのであるが、キリスト教は死者への贈与を辞めさせ、教会への贈与に切り替えさせた。この転換により、世の中に広がる貨幣の絶対量が増加し、貨幣経済の発展の地盤になったとされる。さらに、貧者に対しての施しと言う観点でも、贈与や互酬の観点から人々にパラダイムシフトを促していた。一般の人々への贈与は反対給付によりその人と関係性が生まれるが、貧者への施しは、反対給付ができないため、関係性は生まれない。しかしながら、キリストは死後の世界にてお返しをすることができるという考え方を広めた。これまでの単なる水平的な互酬の関係性、さらには顔の見える関係性の中で行われていた贈与に対して、死後の世界という垂直的な概念を導入することで、人々の施しや贈与の関係性に広がりを生み出した(普遍化)ことにヨーロッパ史における最大の転換点が生まれたという話は非常に面白かった。
    キリスト教会が彼岸を設定した新たな贈与慣行を形成することで、教会には多くの貨幣が集まることになるが、その時代には支配者は教会に近づくことでしか自らの地盤を形成することができなかった。しかしながら、このような贈与慣行に対して、ルターが免罪符批判によって彼岸を媒介とした教会への寄進を一部看破したことで、教会に多くの貨幣が集約する贈与慣行を衰退させ、世俗の支配者が聖なる世界の支配者に対抗する土壌を作ったという点で、世界史的な意味を持つ。ルターの免罪符批判により聖俗のパワーバランスが崩れるが、キリスト教が生み出した垂直的な概念-時間の組織化-は人々に根付いており、こうした概念が「公」の概念へ繋がっていく。「公」とは垂直的な概念を導入することによって、人々の横のつながりを拡大させ、これまでの地縁血縁のみの関係性からの広がりを生み出した。今回の対談の最大のポイントは、阿部謹也氏がこの「公」の概念から網野氏の代名詞である「無縁」の概念に近似した形を見出すとことにあった。

  • 民俗学から法学、経済、宗教まで幅広く扱われていて面白い
    割と会話のドッヂボール感が強いけど、参考文献として色々読みたくなるので興味の入り口として良いかも

  • 網野善彦、阿部謹也という日本史、西洋史の中世史を代表する研究家による対談集。

    二人とも対談を生き生きと行っているのが伝わる。
    「石を投げる」ことにここまで意味を見いだして、議論できるとは。

    中世史を研究するならば、ぜひ読んでおきたい。

  • 8月28日読了。著名な日本史家と西洋史家の対談集。互いに相手の業績を尊重していることが伺え、中身も濃密で面白い。対談が行われたのは今から20年以上前のことだというけれど、十分刺激的だなあ。しかし、これほどの専門家が自分の専門分野についても「不勉強で、まだよくわかりません」というくらいなのだから、素人が知識を身につけるのって大変だよなあ・・・。本を100冊読んだって、図書館の書棚1個分にもならないんだもんなあ・・・。

  • 読むと面白いのだけども、自分の問題意識とはマッチせず、途中でストップ

    読みたい本が多過ぎて、ガッツリとこないものは、どんどん飛ばしてます

    いや、こういう本があるとかじって知ってれば、そういうタイミングがきたときにまた読めばいいのだ

  • このくらい知識とそれを読み取る力があれば、楽しく議論できるんだろうな。

    中でも、契約論は学ぶ必要があると感じた。

  • メモ:
    日本の宴会の無礼講という考え方は、西洋では公的には失われている→キリスト教による社会統制が働いている
    また、忘年会というのは一年間で元に戻るという日本人の時間意識を表している行事で、西洋ではそういうものはない→キリスト教は終末論

    これらは、西洋で11世紀にキリスト教による意識の大転換が起こったことと無縁ではなく、これまで歴史学のものさしにされがちだった西洋の風習は、実は世界的に見れば特殊なあり方なのかもしれない

    メモ2(p221)
    "ヨーロッパがなぜ11世紀以降大きな変化を示したかというと、互酬の関係のなかで、お返しは天国でする、つまり死骸の救済というかたちでそれをいったん普遍化したうえで返すという回路をつくったところに非常に大きな変化が生まれた原因があると思う〜中略〜これは、従来の慣行のうえでは、ある意味たいへん困ったことです。しかし、そこで絶対的なものが出され、それを社会が承認していくのがキリスト教の受容だった"
    →日本では何かをもらったら何かを返す、互恵の考え方が今でも普通なのであって、それは、日本と西洋における寄付文化の有無などにも表れているように感じた

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著者プロフィール

1928年、山梨県生まれ。1950年、東京大学文学部史学科卒業。日本常民文化研究所研究員、東京都立北園高校教諭、名古屋大学助教授、神奈川大学短期大学部教授を経て、神奈川大学経済学部特任教授。専攻、日本中世史、日本海民史。2004年、死去。主な著書:『中世荘園の様相』(塙書房、1966)、『蒙古襲来』(小学館、1974)、『無縁・公界・楽』(平凡社、1978)、『中世東寺と東寺領荘園』(東京大学出版会、1978)、『日本中世の民衆像』(岩波新書、1980)、『東と西の語る日本の歴史』(そしえて、1982)、『日本中世の非農業民と天皇』(岩波書店、1984)、『中世再考』(日本エディタースクール出版部、1986)、『異形の王権』(平凡社、1986)、『日本論の視座』(小学館、1990)、『日本中世土地制度史の研究』(塙書房、1991)、『日本社会再考』(小学館、1994)、『中世の非人と遊女』(明石書店、1994)。

「2013年 『悪党と海賊 〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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