日本残酷物語1 (平凡社ライブラリー)

  • 平凡社
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  • Amazon.co.jp ・本 (541ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582760958

作品紹介・あらすじ

日常的な飢え、虐げられる女や老人、掠奪やもの乞いの生涯、山や海辺の窮民…ここに集められた「残酷」な物語は、かつての日本のありふれた光景の記録、ついこの間まで、長く貧しさの底を生き継いできた人々の様々な肖像である。

感想・レビュー・書評

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  • 道ばたに倒れ伏すものは数かぎりなく、はじめのうちこそ死体を埋めていたが、まもなくだれ一人としてかえりみるものはなくなった。いたるところに犬やカラスがむらがって、死体を食いちらす光景がながめられた。

    この飢饉のときといえども人間が家畜に近かったのではなく、家畜が人間に近かったのである。

    飢えの記録 より


     明治十二年九月十三日埼玉県北足立郡中尾村の農民はコレラ流行防衛のために、県が避病院に患者を隔離しようとしたのに対し、村民は患者の生肝をとるのだと誤解しこれを妨害した。

    新潟県西蒲原郡では消毒薬をまくのを毒薬を撒布すると誤解して暴動を起こしている。

    そこには、無知の暗黒と、じぶんたちの仲間以外の者に対して冷酷なまでの非情が見られるのである。

    自然の悪霊 より


     堕胎のことを当時の隠語で「水にする」といい、水にされた子どもの死体を水子といった。水子は藁や菰につつんでひそかに川へ流したり、社寺の境内にうめられた。

    間引きと堕胎 より


    いわゆる「歴史」というスポットに当たることのない市井の人々の暮らし、またはその人間そのものに焦点をあてた編集書籍。まとまりがないと言えばないし、それこそ膨大なのですが、監修者、執筆の協力者(主に民俗学者や)は20人以上。
    口承をまとめたもの、語りをほとんどまま(ばりばりの方言)収録したものなど様々です。語り部が暗い部屋でぽつりぽつりと話し始めているような生っぽさ。足を使って集めてきたその「話」の数々は、ときとして悲惨でどうしようもなく、情感溢れる形で、けれども淡々と語られています。
    暗記を主にした学校の授業にはない、確かに人が生きていた、という距離感があったように感じました。そもそもそれが民俗学なのかもしれませんが、土地や地域にフューチャーしたというよりかは、暮らし、人、差別的な観点から見られていて、それは現代にも通ずることだと思います。

    自然の悪霊の章などを読んで、今も昔も、という感想を抱くのは自分だけではないのかもしれません。コロナの風邪扱い、反ワクチン派、陰謀論。つい最近炎上した某メンタリストも似たような視点のようにも思える。
    書籍や歴史をただの知の塊として見るのではなく、過去の悲惨な出来事、暮らしの積み重ねがこの国の一部としてあるということ。
    面白かった、ではすまないほど、自覚と自問と気付きのある読者時間でした。

  • 「昔の日本は牧歌的で良い時代だった」「最近の世の中はイヤな事件が増えている」という考えの対極にある事実・歴史を口承で記述している。

    初版は1959年に刊行された。宮本常一、山本周五郎などの複数の執筆者が、日本全国の市井の辛苦に満ちた人生をヒアリングした記述。

    各地方の方言で語られる、窮民、殺戮、略奪、乞食、堕胎、鉱山で働く女性、遊女、女衒、飢饉などに関するストーリーは迫力がある。

    とりわけ、盲目の馬喰の一代記「土佐檮原の乞食」、山梨の上野原の「おせいばあさんの話」、明治時代のシンガポールを本拠地に活動していた「女衒 村岡伊平治伝」は面白い。

  • 保存本
    5巻に感想

  • 日本社会の残酷な過去を振り返ることは大切なことである。

  • 難破船を糧としている海辺の人びとがいたことは、現在ではほとんど語られなくなっている。
     福山のそばで日本住血吸虫による被害があったことは現在では場所が特定されないように書かれている。
     からゆくさん、についても書かれているが、これは他書のほうがより詳しい。
     1959年版は、活字が細くて薄く、厚いのが欠点である。

  • 歴史

  • 昔のか弱き庶民の悲惨な物語集

    1960年ごろに初版が発刊された書籍の第2版を再編集した書籍。1800年から1900年半ば頃までの昔の日本を舞台に繰り広げられた庶民の日々の生活について,インタビューや伝記,文献などをもとに綴られた伝聞記となっている。

    乞食,老人,赤子,女といった世の中で弱い立場の人々がどのように過ごしてきたか,生死に関わる日々の営みについて,強奪,捨老,間引きなど今となっては残酷な内容も惜しげもなしに語られている。ただひたすら,そうした物語が綴られている。

    冒頭1/3が乞食や飢餓に関する物語,1/3が老人に関する物語,最後の1/3が赤子と女の物語という流れになっていた。基本的には一つの物語は8ページくらいのぶつ切りで,一部ある登場人物に焦点があたった数十ページの話があったりする。

    一部哀愁を感じるようなものがあった。例えば,棄老(弱った老人を山に捨てること)の場面で,実の子に捨てられようとしている老人が,自分の子が自分を捨てた後にちゃんと家に帰られるように,道中に印を残したという,子を思う気持ちを歌った以下の短歌など
    p. 332「奥山に しおる栞は 誰のため 身をかき分けて 生める子の為」

    個人的にはいまいちだった。というのも,ただの昔の物語がひたすら書かれており,先につながったり役に立つような内容と思わなかったからだ。単純にページ数も500ページと量が多く他人に勧めようとも思わなかった。面白かったら全7巻を一気に読んでもいいかなと思ったが,断念した。

    昔の日本について知ったり,歴史や民俗に興味のある人はよいかもしれない。

  • 「もはや戦後ではない」と言われるようになる頃、山の民、海の民、病人、子ども、老人、女…歴史の本流には記されることのない民衆の暮らし(というかサバイバル)をとどめようとした書。宮本常一の「土佐源氏」も所収。

  • 日本人は礼儀正しく、道徳的である。
    というのは、ごく最近のことであり
    中世ぐらいまでは魑魅魍魎で、けっこう野蛮な
    民族だった、ということが明らかになる一冊。

    読んで気分が好くなるものではないし
    どちらかといえば、げんなりするものだけど
    自国の歴史、その歴史からこぼれ落ちて
    しまった人たちの記述は、知っておかなければ
    ならないと思う。

    必読かつ保存マスト。

  • 以前から気になりつつ、ようやく読めました。

    日本、というものが、分かるようで分からない。
    この本を読めば、一端でも掴めるかと思ったけれど、余計に混乱してしまったかもしれない。
    読み終わったばかりで、頭の中で処理されるのに時間がかかりそうです。

    ただ、読む価値はある。と、自信を持って言える一冊でもありました。

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著者プロフィール

1907年(明治40)~1981年(昭和56)。山口県周防大島に生まれる。柳田國男の「旅と伝説」を手にしたことがきっかけとなり、柳田國男、澁澤敬三という生涯の師に出会い、民俗学者への道を歩み始める。1939年(昭和14)、澁澤の主宰するアチック・ミューゼアムの所員となり、五七歳で武蔵野美術大学に奉職するまで、在野の民俗学者として日本の津々浦々を歩き、離島や地方の農山漁村の生活を記録に残すと共に村々の生活向上に尽力した。1953年(昭和28)、全国離島振興協議会結成とともに無給事務局長に就任して以降、1981年1月に73歳で没するまで、全国の離島振興運動の指導者として運動の先頭に立ちつづけた。また、1966年(昭和41)に日本観光文化研究所を設立、後進の育成にも努めた。「忘れられた日本人」(岩波文庫)、「宮本常一著作集」(未來社)、「宮本常一離島論集」(みずのわ出版)他、多数の著作を遺した。宮本の遺品、著作・蔵書、写真類は遺族から山口県東和町(現周防大島町)に寄贈され、宮本常一記念館(周防大島文化交流センター)が所蔵している。

「2022年 『ふるさとを憶う 宮本常一ふるさと選書』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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