私の絵本ろん: 中・高校生のための絵本入門 (平凡社ライブラリー あ 17-1 offシリーズ)

著者 :
  • 平凡社
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本棚登録 : 35
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582765366

作品紹介・あらすじ

『かさじぞう』、『スーホの白い馬』、『だいくとおにろく』…。五十一歳でデビューしたその絵本作家の作品を、知らない人は少ない。しかし、絵本を「描く・つくる・読む」ことにこれほど熱心な画家であったことは、あまり知られていない。そして、日本や中国の風土と伝承をこよなく愛したことは、もっと知られていない。

感想・レビュー・書評

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  • 子どもが小さかった頃、よく絵本を読み聞かせした。海外のものもあれば、日本のものもあったが、日本の昔話をあつかったものでは赤羽末吉の描く絵がお気に入りであった。大塚勇三の文に赤羽が絵を描いた『スーホの白い馬』という絵本は、教科書に採用されているので、目にした人も多いのではないだろうか。横長の版型を生かして地平線を強調した独特の画風は、島国日本とは異なった大陸の乾いた風土を見事に伝えており、絵本といえば子ども向けのものという先入観を追い払うだけの迫力を持っている。

    その赤羽が、絵本について述べたエッセイや中国への取材旅行記、それに国際アンデルセン賞を受賞したときの挨拶、評論等をまとめたものである。副題に「中・高校生のための絵本入門」とあるが、大人が読んでも充分楽しめる。副題は、幼児や小学生より大きい子どもにも絵本に親しんでもらいたいという編集者の思いからきたものだろうが、赤羽自身は、大人あてに書いているので、この副題は考えものである。

    完成された画風の持ち主のように見える赤羽だが、絵本界へのデビューは遅くて五十歳を過ぎてからだ。師についての日本画の修業は一年ほどでやめており、絵はほとんど独学に近い。赤羽は満州からの引き揚げ者で、絵を描きはじめたのは、満州時代に漁村で見た影絵芝居に魅せられたのがきっかけである。満州国国展で特選に入るも敗戦によって命からがら帰国する。しかし、中国大陸で暮らしたことが、日本の湿潤な風土の良さに目覚める原因となっている。いかにも日本を感じさせる赤羽の絵が中国帰りの所産であったというのが皮肉である。

    修業時代、下積みの絵描きたちが席画というものを描く風景を見たことがある。料亭に呼ばれて、何枚でも寸分たがわず同じ絵を描いてみせる。客はそれを面白がって買うのだが、赤羽はそれが面白くない。日本人は名人芸が好きらしいが、赤羽は「完成などはない。どこで終わってもよいのだ」と、言い切る。

    「ナレだけでかく絵」が嫌いな赤羽の線は自然たどたどしくならざるを得ない。こちらが、達者な線と見たものを、絵描きの方はたどたどしい線と呼ぶ。たとえば、あたらしい絵本に向かうとき、赤羽は使いなれた筆をとらない。以前に使ったことのある紙を用いない。題材に合わせて、滲みやかすれを予想して新たな画材を探し続ける。一冊の絵本の中でも、善人と悪人では紙の質を変えてその効果を出す。一冊の絵本に八種の紙を使ったこともある。

    文章の中では、燭台、ひき臼と書けばそれで事足りるが、絵を書く方では、話はそう簡単ではない。場所や時代によって、それらはちがっているからだ。日本の昔話では衣裳などは中世の風俗に頼ることが多いという。絵巻物に参考になるものが多いからだ。有名な鈴木牧之の『北越雪譜』でも本人のかいたものは参考になるが連れて行った浮世絵師の描いたものは江戸風になっていて参考にならないという。

    まして、『あかりの花』のような中国少数民族苗族の昔話となれば、取材の労を惜しむわけにはいかない。その折の紀行文が、またおもしろい。絵本に関する話題は専門だけに力の入りすぎた物言いもあり、少々硬さが感じられるが、旅の話は肩のあたりの力が抜け、おおらかなユーモアの感じられる飄々としたものになっている。

    自作絵本の解説は、筆や紙の選び方について詳しく説明してくれている。特に和紙について、それぞれの紙の持つ性質、仕入れ先、手作り和紙の漉き手について触れているくだりは、これから絵本について学んでみようと思っている人には親切な手引き書になっている。絵本作家仲間について語ったところでは、今江祥智のことを「ダンナ」と呼んだり、安野光雅の描いた壺のあまりの見事さに「アンノのデコスケ」と悪態をついてみたりと、気のおけない仲間同志の気安さが透けて見え、呼んでいるこちらの方も愉しくなってくる。絵本好きにはたまらない一冊である。

  • 先月、ちひろ美術館で赤羽末吉展を見た。
    展示のパネルに引用されていた一文にくぎづけになる。
    『私の絵本ろん』という本のなかの『八方やぶれ』というタイトルのエッセイからの引用。

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    私にはカマエはない。自分のワザなど知れたものである。そんなものをヒケラカさず、与えられた主題をどう生かすか、その主題のねらいは何か、それに専念する。(中略)主題を生かそうと努力していると、一つの考えが生まれ、それにともなって適切な型が生まれる。そして逆に自分が生かされる。だから、一冊一冊つねにひと味ちがった結果が生まれ、マンネリにならず、いきづまることはない(後略)。
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    思わず、この本を買って帰ってきた。
    上記の文に続き、こんな一文も。
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    これは相手のなかに、自分を見いだすということだろう。
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    なんと素晴らしい言葉だろうと思った。
    ぼくのやっているプロセスデザイナーという仕事もこうありたいものだ。


    数々の名作を生んできた、赤羽さんの絵本制作の話は本当におもしろかった。
    子どものころに読み、そして今なお記憶に残っている。
    その理由がわかる。
    このようにして作っていたのだな。
    そうして、たくさんの子どもたちにたくさんの影響を与えたのだな。
    すばらしい仕事人だな。
    そういうことが、納得できた一冊であった。

  • 懐かしの名前や作品がたくさん出てくるのが面白い。絵本の世界もいろいろあるのね。

  • 赤羽末吉は日本と中国の風土を愛していた。また、赤羽末吉の絵本が読みたくなった。

  • ★★★★☆
    赤羽さんのお仕事^^
    題材に合わせ、紙も道具も手法も変えていらっしゃったようです。

    昔話は、平安・鎌倉・江戸のいずれかの風俗をとるが、赤羽さんは庶民の資料が多い鎌倉時代を想定したものが多かったそう。

    文を担当する方とも、納得いくまで打ち合わせ、ご自身の課題も作品に練り込まれたご様子。

    絵本(どれもだけど)を紹介するとき、しっかり作家さんの心意気までも伝えられるようにしなければ。

    赤羽さんの作品を読むために、読者に長生きしなさいとスピーチされた赤羽さんがもういらっしゃらない。寂しく思います。


    中の書評は今から二・三十年前のもの。
    大御所オンパレード。
    (まっきー)

  • 赤羽末吉さんの絵本に対する気持ちと姿勢を読むことができ、ますます赤羽ファンに。

  • 絵本作家、赤羽末吉のエッセイや書評を集めたもの。
    赤羽さんは今年(2010年)ちひろ美術館で展覧会も
    ありました。 (本はそこで購入)
    赤羽さんの軽妙な語り口や、ときに同業の後輩に
    対するときに 厳しい意見や、そしてなにより創作への
    真剣な姿勢が垣間みられて 感動しました。
    久しぶりの「読み終わりたくなくてちみちみ読んだ本」。

  • 著者が何者かを知らずに借りたのだが、
    『スーホの白い馬』や、《あの》『ももたろう』『かさじぞう』、
    さらには『おおきなおおきな おいも』の絵を描いたかただという。
    なつかしい。

    51歳でデビューした遅咲きの画家。
    誇りがあって、でも謙虚で、絵本においては
    絵と文のどちらが主張しすぎてもいけないことを理解していた。
    子ども・絵本・物語・風土について、よく考えていたことがわかるエッセイだった。

    荒い文を読んで、絵を描いて、それを元に作者が文を完成させることで、
    文と絵のバランスがとれるという。

    ***
    赤羽さんは、同じ本のなかでも場面によって
    紙や筆を使い分けるかただったらしい。

    また、科学よりも物語に寄り添い、
    場面の厳しさによって雪の降る程度が瞬時に変わったり、
    より走っている感を出すために馬の走り方を鹿に置き換えてみたり、
    ということもしていた。

    表現者の頭の中が覗けるという意味でも、
    絵本は、雑学ジャンルとして一等楽しい。

    ***
    ふりがなが振ってある以外に、
    「中・高校生」向け限定する意味は見えなかった。
    別に誰が読んでもいい内容だと思う。

    ---
    気になる本:
    『どうぶつたちが はしっていく』(長新太)
    <「下手くそな絵がかけるうまい画家」とは谷川俊太郎さんのことばだが、この本をもって動物園へゆきたくなった>

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著者プロフィール

赤羽末吉 1910年東京に生まれた。1959年、日本童画会展で茂田井賞受賞。1965年、『ももたろう』(福音館書店)、『白いりゅう黒いりゅう』(岩波書店)、1968年、『スーホの白い馬』(福音館書店)で、それぞれサンケイ児童出版文化賞。1973年、講談社出版文化賞。1975年、小学館絵画賞と国際アンデルセン賞特別賞、またブルックリン美術館絵本賞。1980年、それまでの絵本の業績に対して、国際アンデルセン賞画家賞を受賞。1982年には、東ドイツのライプチッヒ国際図書デザイン展で教育大臣賞および金メダル賞受賞。1983年にはイギリスのダイヤモンド・パーソナリティ賞を受賞した。ほかに『つるにょうぼう』『したきりすずめ』(福音館書店)、『源平絵巻物語・全十巻』『絵本よもやま話』(偕成社)などがある。1990年没。

「2020年 『おへそがえる・ごんセット(3冊)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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