絶対製造工場 (平凡社ライブラリー)

  • 平凡社
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本棚登録 : 209
感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582767063

作品紹介・あらすじ

一人の男がひょんなことから、わずかな燃料で膨大なエネルギーを放出する画期的な器械「カルブラートル」を発明した。だがこの器械はエネルギーだけでなく、あらゆる物質に封印された「絶対=神」をも解放してしまう恐ろしい器械だった。やがて目に見えない絶対が世界中に溢れ、人々を未曾有の混乱に陥れる-『ロボット』『山椒魚戦争』の作者による傑作SF長編。兄ヨゼフによる挿絵付。

感想・レビュー・書評

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  • 絶対、真実、神
    それぞれいくつもの様相を持ちそのそれぞれを信じる人達も千差万別。だけれどもどの絶対もその人達にとっては絶対なんだということを尊重しなければ何もかもが争いの火種になってしまう。結局そんな歴史を繰り返してそしてまた繰り返そうと私達はしているのかな…。

  • カレルチャペックは現代からタイムスリップした人なんじゃないかなぁと思ってしまうくらい、先読み能力がすごいですよねぇ。Chat GPTの登場によってにわかに現実味を帯びてきた「AIによって仕事がなくなる」感じ。。まぁそんなのはETCや自動改札の登場、PCの登場の度にあったことなのかもしれませんが。うーんでも、”絶対”の登場を前に神格化したりするのはまだ宗教が大きな力を持っていた時代っぽい。現代においてはもっと自然に”全知全能の存在”が神とは別に、受け入れられてしまうかもしれないですね。農民が絶対の影響を受けずに、生きるすべを持っているという示唆は面白い。

  • かも書店

  • 物質から膨大なエネルギーを生産する代わりに、人間に不可思議な影響を及ぼす機械。読み始めた時、放射能のメタファーかな?と思ったが、もちろんそれもあるのだけれど、むしろ人間の信仰がテーマ。外在的なモノによって猛烈な信仰が生まれたとき、人間はどうなるのか。
    信仰という思いは同じでも、それぞれ信じる神の名は違うため、世界中で各々の真理を奉じた宗教戦争が起きる、という身もふたもない予測を見せているのが本書。
    そしてその課題への解答が、最終章の人々の会話の場面で明確に示されている。
    「人は、たとえばほかの信仰は悪いものだと考えたっていいけど、その信仰を持っている人を悪い、下品で、いんちきな奴だと考えちゃいけねえ。それは政治でもなんでもそうだがね」「(略)最大の信仰は人間への信仰だろうな」「誰でも人類のことはとてもよく考えてるんだが、個人個人については、それはない。おまえを殺してやるぞ、でも人類は救ってやる、ってわけだ。それはいいことじゃないね、神父さん。この世は悪くなるだろうね、人が人を信じようとしない限り」(p274)
    この会話の後、本来の自分の好みと違う調理法のキャベツを試してみようとする神父の姿が、なんだかとてもいい。

  • 『山椒魚戦争』は特定の人物に視点を絞ったから長篇小説として成立してるけど、この作品は多様な視点が浮遊してる感じがする(歴史の記述とも重なる?)最後やや説教臭いのもあまり好みではなかった。
    ただそれをおいても、この作者一流のユーモラスな調子は他に替え難いもの。新聞や論文、また「年代記作者」としての作者など多様なスタイルを取り込んだ構造。また兄ヨゼフによる挿絵もとても洗練されている。

  • 「ロボット」という語を作った(らしい。この点は後から知りましたが)、カレル・チャペックの長編。

    莫大なエネルギーをわずかな資源で生み出すことのできる機械「カルブラートル」が発明されたところから物語は始まります。その機械が生み出すエネルギーの副作用として、資源の中に囚われている神(この作品の中では「絶対」と呼ばれているもの)も引き出されてしまう世界を想定したSF作品です。

    序盤は「絶対」が生み出されたおかげで、みんなが信心深くなったり隣人愛を実現したり預言を与えられるようになったりと、比較的好ましい変化が描かれてますが、後半ではお互いが進行する真理がぶつかり合う結果、対立や戦争が引き起こされ、世界が破滅に向かっていきます。
    端的に言ってしまえば、この作品は「自身の信仰への盲目的な追従と、それに合致しない個人や世界を許せないが故の排斥と闘争」という、よくあるテーマの一つに依拠していると言えてしまうでしょう。

    中盤から、やけに話がとっ散らかるし文章の雰囲気も変わるしで、どうしたのかなーと思っていたんですが、全30章のうち12章までは最初にできていて、そこから先は新聞連載が進む中で追われるように書き連ねられていった、という内情が分かって、妙に納得できました。特に最後の5章分ぐらいでの、「何とかして話を収束させてやろう」という意図からの、力技とも言える世界の閉じ方は、個人的にはあまり好きにはなれませんでした。序盤、あんなに丁寧に描かれていたカルブラートルやその発明者、そしてそれを世界に広めた人物のその後には、ほとんど触れられずに終わっているところからも、作者が途中で「きれいに大団円を迎える」ことを諦めたように感じられます。

    20世紀初頭のSF小説の代表作の一つであることには変わりがないし、偏狭的な信仰は対立と暴力を生む、ということへの教訓として読むには好いのかも。ただ、その教訓を学ぶならば、「事実は小説より奇なり」ということで、今のイスラエルとパレスチナや、アメリカとイスラムとの戦いを紐解いた方が、ナンボか有益かもしれません。

  • カルブラートル(原子炉)から発生する副産物ー絶対(神、真理)ーのために翻弄される人間の性を喜劇風に描いた作品。

    原子力とそこから発生する副産物と聞いて平常な心持ちではいられないが、この作品においてこの科学と文明の問題は伏線にすぎない。
    大きなテーマは誰もがそれぞれの真理を持ち、そして他人が自らの真理を信じたりはしてくれないという事実に対して私たちは寛容にならなければならない、ということだ。

    確かにこのテーマをまとめるには、構想が十分でなく、展開もめまぐるしいという感じは否めなかったが、チャペックの心は十分に伝わってきた。
    この作品が上梓されてから1世紀弱もの月日が経とうとしているが、私たちはいまだにこの手の不寛容さから逃れられてはいないのだから。

  • 遠い方の図書館。
    チャペックの「園芸家12ヵ月」は愛読しているけど
    他の作品は「ダーシェンカ」しか読んでないなあと思って借りてみた。
    (11.11.18)

  • 2011年6月19日読み始め 2011年6月21日読了
    カレル・チャペックは「ロボット」がとても面白かったので、この作品も手にとってみたのですが、ちょっとイマイチだったかも…
    設定は非常に興味深いのですが。タイトルもそそるのですが…。
    チャペックは「山椒魚戦争」も有名なんでいつか読んでみようと思います。

  • 物語の後半が失速していて文学性や作品の完成度はバルザックに及ばないが、「絶対」というテーマを別角度から照らしていて一読に値する。脳機能を司る理性と感情は、外へこぼれ落ちて科学と宗教となる。人間が絶対や真理を求めずにいられないのは脳が二つに割れているためだ、というのが私の持論である。

    http://sessendo.blogspot.com/2011/06/blog-post_395.html

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著者プロフィール

一八九〇年、東ボヘミア(現在のチェコ)の小さな町マレー・スヴァトニョヴィツェで生まれる。十五歳頃から散文や詩の創作を発表し、プラハのカレル大学で哲学を学ぶ。一九二一年、「人民新聞」に入社。チェコ「第一共和国」時代の文壇・言論界で活躍した。著書に『ロボット』『山椒魚戦争』『ダーシェンカ』など多数。三八年、プラハで死去。兄ヨゼフは特異な画家・詩人として知られ、カレルの生涯の協力者であった。

「2020年 『ロボット RUR』 で使われていた紹介文から引用しています。」

カレル・チャペックの作品

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