説経節―山椒太夫・小栗判官他 (東洋文庫 (243))

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  • 平凡社 (1973年1月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (361ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582802436

説経節―山椒太夫・小栗判官他 (東洋文庫 (243))の感想・レビュー・書評

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  • 説経節は、中世の賎民芸能で、過去は「文学性」を評価されなかったこともあった。説経節は賎民の神話であって、「奇跡」が稚拙とされた。最近は研究が進みつつあって、「中世的世界」の一面として、後の芸能の先史としてのみの評価以上の、文学性を見直されている。

  • 説経節は、日本の中世から近世にかけて流行した芸能である。伊勢詣りの人々に物乞いをする伊勢乞食が語り始めたものらしい。僧形の芸人がささらを用いて旅をしながら語る形となった。近松などの浄瑠璃の隆盛により古くさいものとして衰退していくが、琵琶法師や瞽女(盲目の女性旅芸人)等に語り継がれ、細々と現代でも残っている。また、形を変え、歌舞伎や文楽の演目の原型としても痕跡を残している。
    なお、よく間違われるとのことだが、説「経」であって、説「教」ではない。

    主な演目を五説経と称するが、どの演目が入るかは時代にもよるという。本書に採録されているのは「山椒太夫」、「苅萱」、「信徳丸」、「愛護若」、「小栗判官」、そして付録として「信太妻」である。
    今回自分が興味を持ったきっかけは、『琵琶法師』の関連で、「信徳丸」であった。

    「語り」の文学である。注も細かに付されているが、まえがきのすすめにしたがって、とにかく本文を読んでみた。平易な言葉が中心であるせいか、意外と意味は通じる。
    決まった言い回し(場面を変える際の「さてこれは○○の物語」、さめざめと泣く場合の「流涕焦がれて泣きたもう」等)が多く、リズミカルである。
    洗練されているという感じではないが、エネルギーを感じる話である。
    ただ、いささか暗く怨念めいたものを感じる部分も多いのは、話者自身のつらい境遇にもよるのかもしれない。癩者が出てくる話が複数であるのも時代背景を感じさせる。
    全般として、非常に興味深く読んだ。話者の話術に乗せられて、一緒に泣いてみたいものだ。

    山椒太夫
    よく知られている鴎外の「山椒大夫」や「安寿と厨子王」のお話と大筋は同じだ。だが細部が陰惨である。
    まずは山椒太夫や息子の三郎の因業さがものすごい。金を出して買ったのに、働かせるというよりはただいびることが目的かと思うほどだ。そして安寿は自害するのではなく、2人の責めにより落命している。
    出世した後の厨子王の報復もまたものすごい。
    鴎外の山椒太夫は安寿が自害したことにしている。儚く死んだ少女の最期をあまりに無残に描きたくなかったものか。姉弟の別れの場面がきりりと美しく、近代風な感じがある。この書き換えがあったから現代にも受け入れられる話になったという側面も大きいのだろうなぁ・・・。

    苅萱
    出家を願う繁氏が述べる大誓文の中で、諸国の神々が列挙されるところが、いかにも「語り」の文学という感じがする。これ、実際に聞いてみたいなぁ。演者の聞かせどころだろう。口上ってきっと聞き映えがするんだよな。バナナの叩き売りとか、歌舞伎の外郎売とか、落語の寿限無とか金明竹とか、そんな感じがする部分だと思う。

    信徳丸
    子どもが授からず、観音様に祈願して一粒種(信徳丸)を得た夫婦。片親の命と引き替えと言われたのに、一向にどちらも亡くならず、夫婦はつい仏を嘲ってしまう。仏はこれに怒り、母の命を奪ってしまう。仏様の怒りっぽさが、何だかギリシャ神話の神を思い出させる。その後、後妻の呪詛により、信徳丸は大変な苦労を味わうが、婚約者のおかげで救われる。
    後妻の名前が違ったりするので、琵琶法師の話とは少々違うようだ。

    愛護若
    紆余曲折の多い話である。仏に祈願したことによって生まれた愛護若。片親の命と引き替えのはずだったが、一向にどちらも死なないことを嘲ったがために、母の命が奪われるのは信徳丸と一緒。後添えの継母が若に懸想したが、若がつれなくしたために、父に讒言され、若は異様な折檻を受ける。一度は亡母に命を助けられたものの、最後は暗転し、そして予想もしない大惨事に。えぇぇと思うような展開。個人的にはこの話が一番おもしろかった。

    小栗判官
    これもまたダイナミックな話である。
    龍が出てきたり、策謀による大量殺人があったり、冥界からの蘇りがあったり、異形からの変身があったり、とめまぐるしく展開して飽きさせない。

    信太妻
    安倍晴明の母が狐であったという伝説に基づく話。母子の別れが切ない。


    *鴎外の山椒大夫は文庫等にもなっていますが、青空文庫でも読めます。
    http://www.aozora.gr.jp/cards/000129/files/689_23257.html
    折口信夫は、筋立てがだいぶん違うけれど、信徳丸に関連して「身毒丸」という作品を書いています。こちらも青空文庫で。
    http://www.aozora.gr.jp/cards/000933/files/4910_14227.html
    折口信夫は愛護若の考察もしています。こちらも青空文庫に収録。http://www.aozora.gr.jp/cards/000933/files/18403_14406.html

    *鋸引きの刑が複数の作品に出てくる。かつての大河ドラマの『黄金の日日』に出てきた善住坊が受けた刑罰と同じもの。それなりによくある罰だったのかもしれないが、すごい刑だ。

    *小栗判官の挿絵は何か岩佐又兵衛っぽいなぁと思い、出典を見たら、宮内庁蔵「をくり」より、とある。ぐぐってみたら、「伝・岩佐又兵衛」なんだそうで。ご存じの方はおわかりでしょうが、ちょっとキモチ悪くて特徴のある絵です。
    宮内庁所蔵の「をくり」
    http://www.kunaicho.go.jp/culture/sannomaru/zuroku-08.html
    岩佐又兵衛―浮世絵をつくった男の謎
    http://www.amazon.co.jp/%E5%B2%A9%E4%BD%90%E5%8F%88%E5%85%B5%E8%A1%9B%E2%80%95%E6%B5%AE%E4%B8%96%E7%B5%B5%E3%82%92%E3%81%A4%E3%81%8F%E3%81%A3%E3%81%9F%E7%94%B7%E3%81%AE%E8%AC%8E-%E6%96%87%E6%98%A5%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E8%BE%BB-%E6%83%9F%E9%9B%84/dp/4166606298/

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