傾城の恋

  • 平凡社
3.75
  • (1)
  • (4)
  • (3)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 26
感想 : 3
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582828801

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 著者、張愛玲(チャン・アイリン Zhang Ai-ling)は、1920年または21年、上海の名家に生まれた。父と母は不仲で、家庭的な幸せには恵まれない幼少期だった。ミッションスクールで学び、英国に留学する予定であったが、第二次世界大戦の勃発で断念、香港大学で学ぶ。香港陥落で上海に戻った後は、文才を生かして、英文雑誌に投稿し、さらに中国語で書いた小説が占領下の上海で大当たりする。戦後は香港でしばらく暮らし、のち、渡米。中国には帰国しないまま、ロサンゼルスで亡くなっている。

    本書では「金鎖記」、「留情」、「傾城の恋」の中編3編を収める。
    いずれも比較的上流階級に属する女性が主人公である。
    古い因習を引きずりつつも、それまでの社会が崩れつつある不安がどこか漂う。
    家族として暮らす者たちも、互いに腹の底は読み切れない。体裁や体面に縛られながら、煩悶を抱える。
    そんな中でも人は恋をするのだ。うまく行こうと行くまいと。

    身体の悪い夫に嫁いだ七巧とその子供たちを描く「金鎖記」、若くして夫を亡くし、初老の男の内縁の妻となった敦鳳の物語「留情」もそれぞれ味わい深いが、やはり表題作「傾城の恋」の完成度が高いように思う。乱暴にまとめてしまえば、出戻りだがなかなかの美人の流蘇が玉の輿に乗る話だが、あらすじには収まらない深みがある。1人の女の話でありながら、まるで大河小説を読んだかのような余韻を残す。

    訳者もあとがきで述べているが、原文は相当に技巧的で訳出が困難であるようだ。
    どことなくその片鱗は感じられ、原語で読めば、味わいにはもう一段の深みがあるのだろうと想像できる部分がある。
    「傾城の恋」は舞台化・映画化もされているそうで、胡弓の調べが流れる中、中国語のナレーションで物語世界を堪能してみたい気もする。

    舞台は非常に中国的だが、その実、描かれる男女は普遍的である。
    想い合っていながら通じ合えない。それぞれの想いはそれぞれに向かいつつ、互いに決して満たされることはない。その焦燥を同様に抱いていながら、身体は触れても、心はすれ違う。
    所詮、人と人とが真にわかり合うことはないのだ。
    結局は「わかり合えぬ」という共通項をはかないよすがとして、身を寄せ合うしかないのかもしれない。
    大人の諦念が哀しく、けれど愛しい。
    濃厚な上海・香港の夜に漂う。

  • 表題作は70年前の作品なのに、男女のやり取りが非常にお洒落で古さを感じさせない。
    張愛玲は文章が綺麗らしいから、出来れば原文で読みたいところ。

  • 「仕事を探すのは仮のこと。やっぱり人を探すのが本当よ。」
    流蘇と柳原。家庭内や男女の諍い、いがみ合いってあって当たり前か。寛容でありたい。

全3件中 1 - 3件を表示

張愛玲の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×