豊乳肥臀 下

著者 :
  • 平凡社
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感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (387ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582829396

感想・レビュー・書評

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  • この小説が共産党批判だから弾圧された云々などという枕詞で語られるのは中国という国の特殊な事情だからなのだろう。主人公である上官金童の乳房コンプレックスなども問題視されたそうだが、現代日本の社会風俗から考えるとかなり隔たりがあると言わざるを得ない。巷の批評ではマルケスのような魔術的リアリズムを駆使しているということになっているが、叙情的な筆致についてはなかなかうまいと思わせるところがあるものの、現代文学としては比較的平均的な出来なのではないかとも思った。

  • 主人公は読書史上最強のおっぱい星人。大人になっても乳を吸い全女性のおっぱいに欲情する。それは盧溝橋、毛沢東、近代中国と時代に残酷に翻弄される、乳房を持つ女性達の物語になる。奔放で奇抜なマジックリアリズムでも南米とは違う、only in China.

  • 1995年、『豊乳肥臀』が出版されたとたんに、国内では賛美両論の嵐を巻き起こした。その小説が批判の的になる一番大きな理由は中国近現代史における歴史事件の扱い方である。「小説家にとって、歴史は寓言化し予言化するための材料に過ぎない」、また「虚構可能」という創作信念を持つ莫言は、『豊乳肥臀』を通して長年「政治教育」の洗脳を受け続けてきた中国の読者たちを仰天させた。「歴史を歪曲する」という罪名で、『豊乳肥臀』は一時「禁書」=「発売禁止の書物」のリストに挙がったことがある。

    何もかも「定性」 したがる歴史や政治の教科書では、善悪はいつも形而上学的な単語の羅列ではっきり定義されている。正解を除いたほかの解釈の可能性はすべて排除されていた。中国の近現代史を扱う場合、もし先述べたのは支配層に公認された唯一正しい「正史」ならば、莫言の小説は民間に還元された矛盾だらけの「稗史(はいし)」とでも言えよう。

    前者の語り手は偉い官僚(史官)に対し、後者の語り手は(『豊乳肥臀』においては精神的には成長できない上官金童だが)いつも純粋な子供である。

    無知なその子はいつも基本になる感覚、言わば五感(見る、聞く、かぐ、味わう、触れる)で世界を捉えようとする。色の描写や(『赤い高粱』の際立つ「紅」)、音の描写(『豊乳肥臀』の風の音)などはまさに小説の異化効果をもたらし(時間のため詳しい分析を省略するが)、読者に強烈な印象を持たせる。その子の目を通してみた「歴史」というものはたぶんいちばん調理されなかった原材料に近い、より多くの真実を含んでいると推測される。そのうえ、莫言は虚構な登場人物を肉付けすることで、形而上学的な歴史を具現化することも成し遂げた。

    『豊乳肥臀』は小説であると同時に、百年も描いた中国近現代史とも読める。歴史の重しがあるからこそ、小説に織り交ぜられたさまざまな現実離れしたエピソードはへんてこさまたその誇張さに拘わらず、真実味を帯び、莫言の文学もそれで飛躍ができたと言えよう。

  • 登場人物の関連が非常に分かりにくく、上巻100ページぐらいまでは読みにくかった。
    凡人の発想かもしれないが、第7章を最初に読みたかった。
    「プロレタリア独裁からブルジョア独裁へ」「飢えさせない事が政治の基本」、中国人の発想の一端が理解できる気がする。

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著者プロフィール

中国・山東省高密県出身。小学校中退後、1976年に人民解放軍に入隊し、執筆活動を開始。『赤い高粱(コーリャン)』(1987年)が映画化され世界的な注目を集める。「魔術的リアリズム」の手法で中国農村を描く作品が多く、代表作に『酒国』『豊乳肥臀』『白檀の刑』など。2012年10月、ノーベル文学賞を受賞。

「2013年 『変』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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