猫、そのほかの動物 (金井美恵子エッセイ・コレクション[1964−2013] 2 (全4巻))
- 平凡社 (2013年8月22日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
- / ISBN・EAN: 9784582836073
感想・レビュー・書評
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6月新着
『遊興一匹 迷い猫あずかってます』が一冊すべて収録されている他、小説『タマや』など収録多数、巻末には書き下ろしエッセイまであります。お得な一冊!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ある日著者のもとに、一匹の猫が迷い込んでくる。飼い主を探すべく張り紙をしたものの反応はなく、黒トラ柄でスラリとした肢体の猫は、2人の老嬢が住む金井家の飼い猫となる。本書は、その猫トラーとの日々を描いた『遊興一匹 迷い猫あずかってます』を中心に、著者の猫もしくは動物にまつわるエッセイ、小説を集めた作品集だ。
それにしても、著者の金井美恵子という人はすごい。何がすごいかというと、トラーを、「はたから見れば、ずいぶん滑稽というかみっともない溺愛ぶりに見えると承知しているものの」ケイリー・グラントにそっくりだと思い、「私も姉も、実は相当以上の猫痴呆なのだ」と言ってはばからないにもかかわらず、本書に綴られた日々の出来事の中で、金井は猫を、動物(ペット)としてではなく「他者」として描写しているのだ。
トラーが猫であるように、金井美恵子は天才作家である。どのように天才かは、併録の小説『タマや』を読めば明々白々だ。 -
金井美恵子さんご自身で選ばれたこれまでの猫関連エッセイや小説です。 たっぷりした容量で、読んでも読んでも猫の物語が。\(^o^)/
もちろん中心はトラーのお話。
「遊興一匹 迷い猫あずかってます」が丸々入っているのに驚き、
また、あれこれのエッセイ集に書かれていた文字通りの(#^.^#)猫可愛がりぶりと、トラーの意気軒昂な時代から、晩年、闘病の末の最期まで、
その都度、トラーの年ごとの変遷とともに既読のものばかりではありながら、
今また、一挙に読めるのは嬉しく、同時に、
我が家もまたこのなんとも幸せな時から涙滂沱の別れを少なくともあと三回は繰り返さなければならないのか、とずしんと重い気持ちになったり。
それにしても、トラーが逝ったわずか一か月後に書かれた「再び、の前に」では、
夜中に目が覚めて起きた時、その物音で目が覚めたトラーに
“少し面倒くさくもあるのだが、長いこと習慣になってしまっているので、ごく機械的に、専用の白いお皿にホタテなりカニなり好物を少々載せてやり、ついでに頭と背中を一撫でして、こちらはまた、ふとんにもぐり込む、といったような、本当に何でもないことが、もう出来ない、というのが飼猫が死ぬということなのだ。”
という、
あぁ、金井さんは大丈夫なんだな、と心配していた読者を安心させると同時に、その悲しみがそのままの形で伝わってきたことを思い出しました。
どのページを読んでも、楽しく、また、辛く、と、
エイズキャリアながら17歳まで生きてくれたトラーと金井姉妹の日々を思うだけなので、
感想ではなく、トラーがどんなに可愛がられたか、好きなところを抜書きすることにします。
“トラーと一緒に生活するようになって、なにかいいことがあったかと言えば、それは第一に、なにしろただ見ているだけであまり可愛いものだから、とにかく可愛いという満足感ということになるかもしれない。”
“老嬢二人に飼われている去勢猫などというものは、甘ったれのアホ猫にならない道理はないわけで、もう生後一年の成猫であるにもかかわらず、今も、天井から吊るしてあって自分ではとても前肢の届きそうもない電球のシェードの内側に止まっている羽虫を捕えてくれ、と虫と姉を交互に見ながらニャーニャー要求がましく鳴いている。”
“いずれにしても、猫には、贅沢をさせてやりたいものだ。なぜか、と理由を問われても明快な答えはないのも同然で、可愛いからだ、というのが答えられる唯一の理由かもしれない。”
“トラーは、外で飼い主の顔を見ると、一か月くらい行方不明になっていた猫が、ああ!ようやく飼い主に巡り会えた、といわんばかりの様子でノドをン、グググッ、と鳴らしながら走ってきて、もう二個と離れるものか、とでもいった具合に私と姉の足に交互に絡みつきながら額をグイグイ押しつけ、「あんたのエビとヨーグルトを買いに行ってくるんだから待ってなさい」と言い聞かせても、百メートル程の距離をニャオニャオ鳴きながら、一緒に散歩する。”
“トラーの体重は、現在のところ7・5キロで、1995年4月に引っ越してから新しく通うことになった動物病院の小柄な女医さんには、「イリオモテちゃん」と呼ばれている。くどく押しつけがましいようだけれど、この仇名の意味は、もちろんトラーが大きくて立派で見栄えのする綺麗な顔立ちの、かっこ良い猫だ、ということなのである。”
人間には非常~~~~に辛辣な物言いをする金井さんが、トラーをアホだのなんだの言いながらも、手離しでうちのこ自慢をしているのが微笑ましいというか、猫は人間を馬鹿にしてしまう、というか。(#^.^#)
トラーはクロトラ柄の和猫で、家と外を自由に出入りし、ドライのキャットフードなんてものは食べたこともなく、(常食はミルクに小岩井ヨーグルト・グルメファンを混ぜたものと新鮮な魚、特に甘海老の刺身が好物)と、かなり現在の日本の猫と人との生活基準とは違う生涯を送り、海老は猫にはタブーのはずだけど、なんて思いながらも、17歳まで生きたのだから、もうそれは結果オーライで、金井さんにもトラーちゃんにもよかったですね、と言うしかないです。
金井さん、トラーちゃん、どうもありがとう、なんて、あはは・・・私もしっかり馬鹿になってますね。-
引用されているところが、もうひとつひとつ「そうそう!ここがいいのよね!」というところばかりでうなずき通しでした(^^)
とりわけ「再び...引用されているところが、もうひとつひとつ「そうそう!ここがいいのよね!」というところばかりでうなずき通しでした(^^)
とりわけ「再び、の前に」の冒頭部分は、こんなに静かな絶唱があるのかと、息をのむ思いで読みました。深い悲しみに浸されてるのに溺れていない、とでも言うんでしょうか。
何かと溺れがちな私としては、ただ感嘆するのみです。
2013/10/23 -
>たまもひ様
お返事遅れてゴメンなさい。
で、引用はもうどこもかしこもピックアップしたいところばかりなのを、えいっとばかりに(#^....>たまもひ様
お返事遅れてゴメンなさい。
で、引用はもうどこもかしこもピックアップしたいところばかりなのを、えいっとばかりに(#^.^#)厳選!!!いたしました。
静かな絶唱・・・。
なんて適切な表現でしょうか。
そうですよね、自己憐憫の井戸を掘って、掘って、落ち込み放題、というループとは全く違った大人の悲しみ方だなぁ、と。
17年間、私も一緒にトラーを愛でてきたつもりでおりますので、美恵子姐さんの男前!には頭が下がります。
うん、私も溺れ体質です。(汗)
いいお手本を見せてもらえて、その意味でもよかったです。(#^.^#)2013/10/24
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「金井美恵子エッセイコレクション2」は、前半に「遊興一匹」が丸ごと収録され、後半は主に猫についての小説とエッセイを載せる形になっている。1と違って今回は既読のものが多かったが、あらためてその面白さを堪能した。
決して誰にもこういう風には書けないなあとしみじみ思う。「トラーちゃんはなんてかわいいんだろう」。つまるところこれだけのこと。それを金井さんが語るとどうしてこんなに読ませるのか。
トラーの死んだ後書かれた「再び、の前に」がすごい。触れば手の切れそうな喪失感が静かに記されている。最後に配された「トラーの最後の晩餐、禁煙、その他」とともにかみしめながら読んだ。-
本当に!!
ただただ可愛いと言っておられるエッセイなのに、それがそのまま金井美恵子さんという人を損なってない、というより、うん、金井美恵子...本当に!!
ただただ可愛いと言っておられるエッセイなのに、それがそのまま金井美恵子さんという人を損なってない、というより、うん、金井美恵子さんだよね、と思ってしまう筆力に圧倒されます。
「再び、の前に」は、いわゆる我を忘れた号泣エッセイではないところが、おっしゃるように手の切れそうな喪失感を感じさせてくれました。
私も既に二匹を見送りましたが、美恵子姐さんに倣い、これからの別れも乗り越えたい(なんて3歳一匹と赤ちゃん二匹なんだけど)ってところまで考えちゃってます。2013/10/23 -
実にいいですよねえ、金井さんの猫語り。本当に唯一無二だなあといつも思います。
あれだけ手放しでかわいいかわいいと言っているのに、ほとん...実にいいですよねえ、金井さんの猫語り。本当に唯一無二だなあといつも思います。
あれだけ手放しでかわいいかわいいと言っているのに、ほとんど文章に湿り気がないところなどいったいどういうマジックなのか?
また猫について書いてもらいたいなあと思います。2013/10/23
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第2巻は『猫、そのほかの動物』とある通り、主に猫(著者の飼い猫)と、実在しないものを含む動物がテーマ。
小説も3本収録されていて、『タマや』は読んだことがあったが、『永遠の恋人』『兎』は未読だった。
この小説がやたらと面白く、読んだことの無かった2本は舐めるように読み返した。『兎』の狂気は下手なホラーよりよっぽど不気味で素晴らしい。