書店の近代: 本が輝いていた時代 (平凡社新書 184)

著者 :
  • 平凡社
3.67
  • (3)
  • (6)
  • (9)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 66
感想 : 7
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (203ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582851847

作品紹介・あらすじ

日本の近代、それは本と書店にとっても若く輝いていた時代だった。洋書を通して文明開化の窓口となった丸善。大正文化を体現した前衛的な小書店群。新宿文化の勃興をリードした紀伊国屋…。やがて昭和円本時代を迎え、本は「商品」になっていく。「文化のトポス=書店」が輝いていた明治・大正・昭和。その魅力と変遷を25の「風景」から描き出す。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 書店が輝いていた近代。その魅力はどのようなものだったのか。
    江戸時代から1940年代までが舞台で、書物と本屋と読者のそれぞれの変遷が、出版業に身を置いていた著者ならではの視点で語られる。
    25章の中に、近代の本屋と出版にまつわる挿話を巧みに入れ込み、通史がそのまま文学史でもあり精神史ともなっている。

    森茉莉が、父・鴎外によく連れて行ったもらったという「中西屋」という本屋がある。
    大正9年(1920年)に丸善に吸収合併されたが、啄木はここで憧れの洋書を手に入れている。
    釧路の元愛人に送ってもらった金で、三円五十銭で購入。
    今なら一万八千円くらいだ。
    借金まみれでも浪費をやめられない彼には「悲しき玩具」だったらしく、読後すぐに古本屋に出向く。
    自らの処女詩集の「あこがれ」も売りに行くが、買い取り価格はわずか五銭。
    当時の詩集というものの社会的価値が分かる場面だ。
    失望した啄木が立ち去ろうとした時、ちょうど入ってきた少年とぶつかる。
    「いっそ君に五銭で進呈しようじゃないか。君ならこの本を理解してくれそうだ。二冊ともあげるから五銭」
    少年は五銭を支払って詩集を手にする。これが後年の芥川龍之介だったという。
    本を買う・売るという行為がこんなドラマを形成する時代だった。
    ちなみに「あこがれ」の現在の古書価格は二百万円以上はするらしい。

    創業当時の丸善の様子も興味深い。
    木造二階建ての土蔵造りでまるで江戸時代の造りそのまま。
    客が土間で店員に書名を告げると、店員は階下の書庫や二階の書棚から書籍を取り出す。
    火災にあったり関東大震災に見舞われたりと何度か全焼しては再建を果たしているが、赤煉瓦時代の丸善(明治43年から大正12年)の姿がまことに美しい。
    漱石や鴎外、武者小路実篤、志賀直哉、高村幸太郎、坪内逍遥等々の文士たちが洋書を求める常連客だったという。
    寺田寅彦が「丸善と三越」を書いたのが大正9年だから、やはりこの赤煉瓦造りの丸善に通ったということだ。
    タイムスリップして、みんなと同じ書棚めぐりをしたかったなぁ。。
    ツルゲーネフやトルストイ、ニーチェ、モーパッサン、イプセン、それらの洋書に熱いまなざしをむける文士たちが目に浮かぶようだ。

    本を買うという行為は、著者の精神を買うということ。
    本屋にとっては、世界の知識を売るということ。
    何をいまさらと笑われそうだが、確かにそんな時代もあったのだ。
    「ひと月の小遣い銭しかない財布を逆さにして、喜んでそれを買っていく若者などの姿もあった」
    丸善で働いていた田山花袋の日記に、そんな記録もあるという。
    今や自宅にいながらにして注文も受け取りも出来るようになった。
    私たちは何を得て何を失ったのか、本とは、私たちにとって何なのかあらためて考える機会をくれる良書である。

    新書版なので詳細な話が語られるわけではないが、非常に読みやすく、よく知られた作家さんたちが次々に登場して逸話を披露し飽きさせない。
    同じ著者の「図書館逍遙」で知り得たことが土台になっているのも嬉しい発見だった。

    • 夜型さん
      ねこさんnejidonさん
      図書館総合展が開催中です!オンラインで!
      見逃しちゃダメです。ぜひ。
      https://www.librar...
      ねこさんnejidonさん
      図書館総合展が開催中です!オンラインで!
      見逃しちゃダメです。ぜひ。
      https://www.libraryfair.jp/
      2020/11/12
    • nejidonさん
      夜型さん!
      ありがとうございます‼
      はい、さっそく見に参ります‼ 
      夜型さん!
      ありがとうございます‼
      はい、さっそく見に参ります‼ 
      2020/11/12
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      夜型さん
      有難う~
      夜型さん
      有難う~
      2020/11/12
  • 本屋の明治、大正、昭和(戦前)がわかる。
    作家の書く本屋の風景など。

  • 2012 6/17パワー・ブラウジング。筑波大学図書館情報学図書館で借りた。
    『出版状況クロニクル』の小田光雄さんの本、ということで手にとった。
    明治~昭和初期を中心とする日本の書店史を、事例の積み重ねで描いていく本。
    現在の氏の問題意識のバックグラウンドがかいま見える。
    丸善の役割/あり方の変化とかが面白かった。

  • [ 内容 ]
    日本の近代、それは本と書店にとっても若く輝いていた時代だった。
    洋書を通して文明開化の窓口となった丸善。
    大正文化を体現した前衛的な小書店群。
    新宿文化の勃興をリードした紀伊国屋…。
    やがて昭和円本時代を迎え、本は「商品」になっていく。
    「文化のトポス=書店」が輝いていた明治・大正・昭和。
    その魅力と変遷を25の「風景」から描き出す。

    [ 目次 ]
    江戸時代の書店
    『江戸繁盛記』のなかの書店
    明治維新前後の書店
    明治前期の書店と出版社
    書店の小僧としての田山花袋
    教科書と金港堂
    洋書店中西屋
    近代書店としての丸善
    社会主義伝道行商書店
    『破戒』のなかの信州の書店〔ほか〕

    [ POP ]


    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • どんな流通だったかを知るというよりは、当時の「名士」達についての記述をまとめたもののように感じました。

    そのため、当時の様子がすごくリアルに分かります。

    これらの人々によって支えられたからこそ、今があるのだ、と。

    仕組みを客観的に知るのと同時に、こういった、個人に焦点を絞ったものも、興味深いです。

  • 江戸後期から戦後までの25の書店のストーリー。

全7件中 1 - 7件を表示

著者プロフィール

1951 年、静岡県生まれ。早稲田大学卒業。出版業に携わる。著書に『新版図書館逍遥』(論創社)、『書店の近代』(平凡社)、『〈郊外〉の誕生と死』、『郊外の果てへの旅/混住社会論』、『出版社と書店はいかにして消えていくか』などの出版状況論三部作、インタビュー集「出版人に聞く」シリーズ、『出版状況クロニクル』Ⅰ~Ⅵ、『古本探究』Ⅰ~Ⅲ、『古雑誌探究』、『近代出版史探索』Ⅰ〜Ⅶ、『新版 図書館逍遥』『私たちが図書館について知っている二、三の事柄』(中村文孝と共著)(いずれも論創社)。訳書『エマ・ゴールドマン自伝』(ぱる出版)、エミール・ゾラ「ルーゴン=マッカール叢書」シリーズ(論創社)などがある。『古本屋散策』(論創社)で第29 回Bunkamura ドゥマゴ文学賞受賞。ブログ【出版・読書メモランダム】https://odamitsuo.hatenablog.com/ に「出版状況クロニクル」を連載中。

「2024年 『出版状況クロニクルⅦ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小田光雄の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×