アメリカ人弁護士が見た裁判員制度 (平凡社新書 443)

  • 平凡社
3.59
  • (2)
  • (7)
  • (7)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 48
感想 : 6
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582854435

作品紹介・あらすじ

裁判員制度は国民のためのもの?実はそんな文言は裁判員法にはない!そこで、よくよく制度の中身を見てみれば、出てくる出てくる、数々の「謎」。いったいこの制度、誰のためのもの?「陪審制度の国」の法律家が説く、ちょっとシゲキ的な裁判員制度論。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 裁判員制度と陪審制度は似て非なるものであることが歴然として解る著作です。

    欧米人の考え方の基本である「真実は神のみぞ知る」が原点で、色んな弊害が著しかった「神判」からの脱却の産物が陪審制度である。

    それに引き換え、裁判員制度には、まるっきり理念・哲学らしきものはなく、日本型分権の「お役所のための法律」であるとしている。

    法務省、検察、裁判官という業界にとってはとっても都合のいい設計らしい。

    著者の見解は、

    裁判員制度は、司法が国民の威を最大限に借りながら、最小限の影響力しか国民に付与しない制度である、と私は考える。

    今までにあった司法制度への批判を排除しながら、今までどおりの裁判の「正しい」結果 ― 警察が逮捕して取調べ、検察が革新をもって起訴した被告人が何らかの罰を受ける結果 ― を実現するための制度だ。

    公権力の網にひっかかた人を、今までどおり公権力に屈服させるための日本の法律制度の仕組みを、より体裁よくするためのものである。

    というようなことで、裁判員制度がいったい誰のための制度であるのかよく解る本で、あっという間に読めました。

  • 本書は2008年11月に出版され、裁判員裁判が日本で初めて行われたのが2009年8月だったことを考えても、現行制度の矛盾や欠陥を見事に予見しており、こうした批判や提言に今なお真摯に対応していない法務省や議員たちのサボタージュは許しがたいものがあります。

    本書で指摘されている主なポイントを拾えば・・

    自白重視の弊害(P57)、判決書類の非公開(P61)、検察官は被告人にとって有利となる証拠を弁護側に提供する義務がない(P62)、検挙ノルマ(P65)、無罪推定なのに「証拠隠滅の恐れあり」という理由で長期留置される(P70)、法の下の平等と言いながら長い間記者クラブ所属関係者以外の裁判傍聴人がノートをとることが許されなかった(P75)、身内の表現の自由を侵害するよりも、メディアの報道・表現の自由や国民の知る権利について自粛を呼びかける(P77)、起訴段階での有罪推定という強いバイアス(P82)、軋轢を生み手間のかかる真実を追求するくらいなら被告人を有罪にした方が善意の警察官の努力が報われる(P85~86)、ミランダ・ウォーニング(P109)、米国の陪審制度では、「有罪か無罪か」ではなく、有罪か、有罪でないかであって、被告人が悪い人であるかどうかではなく、検察側が出した証拠が十分であったかどうかを判断する(P111)、法律が正義よりも優先されるようになってっしまえば法律は意味を持たなくなる(P119)、裁判員裁判で選出されるのは法律の素人ばかりだがこれには意味がある(P158)、裁判員法には「良心」という言葉がないのにも意味がある(P166)、裁判員法の趣旨でもある裁判員の役割は刑事訴訟手続きに関与することであるならほかにもっと効果的なやり方がある(P170)、裁判員が密室の中で裁判官から誘導されても公になることはない怖い制度(P183)、つまり裁判員の守秘義務は裁判官のため(P188)、陪審制と違い、評決には裁判官の1票が必ず必要という前提は素人目線の排除という制度の趣旨からも矛盾(P199)、準国家機密扱いである判決書が書かれる理由は最高裁判所のためである(P205)、裁判員が判決書作成に参加できないのには訳がある(P206)、法律解釈に関する議論が公開の法廷で行われ、かつ検察は無罪判決の上訴ができなければ判決書を欠く必要はなく、裁判員制度を導入しても、裁判所の秘密主義と検察庁の負けず嫌いが変わらなければ、国民参加は形だけで終わってしまう(P208)、裁判員裁判は裁判所に対する批判を無くすためにある(P212)、裁判員裁判制度は、司法が国民の威を最大限に借りながら、最小限の影響力しか付与しない制度である(P214)、司法取引は検挙有罪率を高めるが、極悪人のために悪人を野に放つ問題も無視できない(P223)・・

    確かに、制度スタート時には、裁判に国民目線の常識や量刑を反映させるという意図もあったようですが、逆に言えば過去の職業裁判官による判決が世間の常識とかけ離れていたことを自ら認めたわけですが、結局は裁判官による相場量刑が当たり前になってきているようです。

    今回の東名煽り運転判決も、23年の求刑を18年と加害者に大盤振る舞いしたのも、裁判官の入れ知恵だった可能性が高いものの、評議内容がオープンにされず、素人裁判員には永久守秘義務が課せられるため、一方的に裁判員が加害者に寄り添って決めたという印象のみが残ります。
    本来期待される趣旨からいえば、非常識な裁判官の相場量刑から大きく逸脱してもよかったわけで、あえて30年という判決が出てもおかしくない事例だったにもかかわらず、この結果は、裁判員裁判の少なくとも常識的量刑に対する期待は求められていないという状況になっています。

    また迅速な裁判については賛成ですが、初めから期日ありきの裁判では、かえって新たな冤罪を生む危険性もあります。

    何よりも裁判員の個人情報の取り扱いが現状のようにこれほど軽視されている状況を放置しているのは大問題ですし、刑事事件よりもむしろ裁判員裁判に馴染む労働争議関連の裁判について労働界からの反対と言うだけで裁判員制度導入が見送られているのも、裁判所のあるべき公平中立な立場を代表しているとは到底思えません。

    そして結論ですが、裁判員裁判の現状抱える問題点や矛盾を知っておくのも、裁判員に将来選ばれる可能性もあるわけなので悪くはありません。

  • 日本のお役所第一主義的なあり方に対する疑問と、そのような国における司法参加の意義についての論。

  • 外国人から見た日本の裁判制度独自の特質を見ることができます。
    内に居るがゆえに、見落としてしまう日本の制度の欠点に気付かせてくれます。

  • [ 内容 ]
    裁判員制度は国民のためのもの?
    実はそんな文言は裁判員法にはない!
    そこで、よくよく制度の中身を見てみれば、出てくる出てくる、数々の「謎」。
    いったいこの制度、誰のためのもの?
    「陪審制度の国」の法律家が説く、ちょっとシゲキ的な裁判員制度論。

    [ 目次 ]
    第1章 アメリカ人弁護士が見た日本の法律制度(「日本人の法意識」という不思議な文化論;日本の法律は誰のためにあるのか;日本型分権と「お役所のための法律」の特徴 ほか)
    第2章 陪審制度の真意(陪審制度とはどういうものか;陪審制度はいかにして生まれたか;イギリスの陪審員がアメリカの創設者だった? ほか)
    第3章 裁判員制度の謎(再考、裁判員法の趣旨;裁判員は「超人的」な裁判官に信用されうるのか?;対象は「社会的影響力が大きい事件」? ほか)
    第4章 裁判員制度は誰のものか

    [ POP ]


    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 前半は日本の行政・司法の問題点やアメリカの陪審制の説明なので、私が法学部の英米法と行政学の授業で習ったことを噛み砕いたような内容だった。アメリカ法学、および行政学においては、民主的で適正な手続きを得ない結果は正当なものとは認められない、というのが徹底している。もちろんアメリカのシステムをそのまま日本に導入すればいいというわけでは全くないのだが。それにしても、最高裁によって弱められた、陪審と参審の妥協的折衷案としか思えない裁判員制度はひどい…。

全6件中 1 - 6件を表示

コリン・P.A.ジョーンズの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
遠藤 周作
宮部みゆき
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×