山の遭難―あなたの山登りは大丈夫か (平凡社新書) (平凡社新書 506)
- 平凡社 (2010年1月15日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
- / ISBN・EAN: 9784582855067
作品紹介・あらすじ
ひんぱんに報じられる山の遭難事故。厳冬期の北アルプスだろうと、ハイキングで行く山だろうと、遭難事故は、いつ、誰に起きても不思議ではない。「自分だけは大丈夫」「私は危険な山には行かない」-そんなふうに考えているとしたら、あなたも"遭難者予備軍"だ。"明日はわが身"にならないために、今こそ、「山でのリスクマネジメント」を考える。
感想・レビュー・書評
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著者の羽根田氏と言えば、これまでにも気象遭難・道迷い遭難に関する本やロープワークのハンドブック、それに「雪山100のリスク」(編集サポート)などを読ませてもらっている“山の遭難の専門家”。
この本は新書で手軽だけど、山の遭難の小史から現状、内包される社会的な問題点などを手際よくまとめた、とても読み応えのある本です。
まず、1980年前後を境に、山岳会や学校山岳部を中心とした「自分の心技体を鍛えて挑む山」の時代から、特に中高年層(若者が、つまり3K環境である山からいなくなってしまったので)を中心とした「散策の延長として文字通り物見遊山で行く山」の時代へとフェイズの大変化があったとする指摘が面白い。
面白いと言いつつ、その過程で本来山は危険な場所であるという基本認識が置き去りにされている、という指摘なんですね。
一方面白いで済まない(どころか、胸が悪くなる)のが、後半にさまざま紹介されている遭難者たちの実態なんです。
スリ傷程度で救助を要請するやつ。「民間のヘリは金がかかるから警察のヘリを飛ばしてくれ」と言い放つやつ。足が痙攣したことを「夕べ遅くまで仕事してたんだから仕方ないだろう」と開き直るやつ。救助されたあとに「頼んだ覚えはない」というやつ…。
自分の愉しみ、あるいは自分の過誤に他人を巻き込んでいる自覚もなければ陳謝・感謝もない勘違い野郎たちのオンパレードと来たもんだ。こんなところにも、例のモンスターペアレントやモンスターペイシェントに通じる「モンスター遭難者」がいるわけです。これ、日本社会をあまねく覆う病理なんじゃないだろうか。
ほかにも、遭難の類型(大した装備も持たずに北海道の嵐の山をパーティ分断の上突き進むとかね)、遭難したら人はどのようになるか、報われにくい救助隊の仕事…などなどと続く話題には、ひとつひとつ身につまされるものがあります。
山に行く人はぜひ、こうした本を精読したいものなんですが(読めばいいっちゅーもんでもないが)、本当に読んだ方がいい人って読まないんだよね、きっとね…。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
●中高年の登山ブームが始まった時、業界は「山は楽しいところだ」「健康に良い」と言うイメージだけを前面に押し出そうとし、山の危険を解くことには決して熱心ではなかった。そのツケが今回ってきているのだと思う。
●近年のデータを見ると、登山中に遭難する人は大体7割。山菜きのこ採りで2割前後
●遭難事故の主役は中高年登山者である。全体の8割以上。登山者そのものがほとんど中高年なのだから。
●かつて山登りの3種の神器と言えば、登山靴、ザック、雨具をさしていたのだが、今日では、アミノ酸サプリメント、サポートタイツ、ストックの3つ。ストックは、単にバランスの保持に役立つだけではなく、足腰にかかってくる負担を軽減してくれる効果がある。
●ヘリの登場で、遭難者のうち死亡する割合は減った。ただ、ヘリは計器類に頼らずパイロットが自分の目で周りを見ながら飛ぶ有視界飛行なので、飛べないケースが多々ある。
●救助要請をしたら安心して知人と長電話する人がいる。色々指示したいのに話し中で繋がらない!
●ヘリからは人が見えない。レスキューシートを振り回そう。カメラのフラッシュ。
●県警、消防防災、自衛隊、民間。有料なのは民間。救助される側がお金を出したがらない。民間のヘリ、1時間あたり50万。 -
山で死なない為の警告。
それは山登りの歴史でもある。 -
今の登山者への苦言が身にしみた。
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日本における登山と遭難の歴史をまとめた第一章「山の遭難小史」が面白かった。
小史でなく1冊の本にまとめて欲しいぐらい。
遭難事故に関する書籍も併せて紹介されていて、関連書籍を探す指針ともなる。 -
2013/2/18購入
2013/3/26読了 -
山は本来、危険なところなんだよ、という単純なことを生々しい事例で説明してくれる本。
中高年の登山人口増加に伴う遭難事故や、安易な救助要請の原因を一言でいうと、「山=危険」という認識が足りないということだが、現代はさらに自己中心的な身勝手さが加わっているから厄介だ。
「自分は危険な山には登らないから大丈夫」ではなく、明日は我が身と気持ちを引き締めて登ろう、と思った。
山ガールと自称している連中は、きつい所には行かないから大丈夫だろう。いちばん危ないのは、中高年男性の単独行と、若い時に登っていた人がリタイア後に再開することだと個人的に思った。
著者が文中で引用している、菊地敏之氏の言葉が印象的。
<結局のところ「危険」が最も危険なのは、その危険を察知できないことにある。問題なのは、なにが危険なのかわからない、危険をシミュレーションできない、危険なことを危険なことだと考えられない、ということなのだ> -
[ 内容 ]
ひんぱんに報じられる山の遭難事故。
厳冬期の北アルプスだろうと、ハイキングで行く山だろうと、遭難事故は、いつ、誰に起きても不思議ではない。
「自分だけは大丈夫」「私は危険な山には行かない」―そんなふうに考えているとしたら、あなたも“遭難者予備軍”だ。
“明日はわが身”にならないために、今こそ、「山でのリスクマネジメント」を考える。
[ 目次 ]
第1章 山の遭難小史
第2章 統計が語る現代の遭難事情
第3章 救助活動の現場から
第4章 遭難事故のリアリティ
第5章 なぜ増える安易な救助要請
第6章 ツアー登山とガイド登山
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ] -
戦後の登山ブーム以降の遭難史がコンパクトにまとまっており概観できます。無自覚・身勝手な登山者に対する辛口な論評に好感が持てます。何も考えず人まかせに登っている登山者にぜひ読んでいただきたい。