白熱講義! 日本国憲法改正 (ベスト新書 405)

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  • Amazon.co.jp ・本 (181ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784584124055

作品紹介・あらすじ

国防軍、天皇、首相公選制、愛国心、立憲主義等、国民生活に直結する憲法改正の諸問題を気鋭の改憲派・憲法学者が語り尽くす。

感想・レビュー・書評

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  • 憲法論議がひさびさに活気を呈している。巷でも憲法の本がけっこう売れているらしい。筆者は憲法改正論者であり、今の世の中からずれた条文はどんどん改正すべきだというが、それでも改正手続きを2分の1にしようとする自民党の改正案には反対する。また、現憲法はおしつけ憲法だと批判する意見に対しては、当時としては押しつけられる理由があったし、自ら新しい憲法はつくれなかった。この憲法があったおかげで戦後の繁栄があったのであり、「押しつけ」という理由だけで反対するのはおかしいと述べる。ぼくもそう思う。この憲法は当時の、冷戦が起こる以前の西側諸国の理想を体現したものだった。また、9条があるから戦争をしてこなかったという人に対し、いや、日本はすでにアメリカの戦争の片棒をあちこちで担いでいる、これで戦争してこなかっとは言えないとするどく批判する。巻末には自民党改正案に対し、一つ一つ論評を加えている。

  • 自民党改憲案と現行憲法へのダメ出し。

    この本を含めて改憲話を聞く中で「現行憲法では○○という問題が生じていて、それは解釈でどうしようもないし、立法では解決できないから改憲」という具体的な話が聞こえてこない中での改憲主張に意味を感じられない。

    また憲法は本来国家権力への縛りを与えるものなのに、殊更に国民の義務を強調し、国家の義務部門を狭めたり、具体的な部分がある一方で、「公の秩序」という時の権力者の意図で国民の権利制約が容易になる文言の使用があったり、著者は良点も強調するが、毒の方が多い印象。

    さらに国民の憲法教育が進んでいない状態で改憲議論が進むことに何らかの策略めいたものすら感じる。

  • 立憲主義とは国家の統治を憲法に基づき行うという原理である。国家は個人の基本的権利を保障するための機関であり、国家権力は権利保障と権力分立を定めた憲法に従って行使される。それにより政府は憲法の制約下に置かれることになる。憲法の憲の意味は基本的な掟という意味なので日本国憲法は主権者である人民が権力を付託した政府に対し憲法に従って運営するように縛りをかけている。立憲君主制であれば、君主の行動は憲法によって制限をかけられているわけだ。

    大日本帝国憲法を作った伊藤博文は主権者である天皇が臣民たちの意見を聴いて合議制で決める、つまり議会制民主主義を立憲主義であるとした。大日本国憲法は代々の天皇の意向で現人神である天皇から日本臣民に下げ渡すと言う建てつけになっていた。臣民からなる政府は縛られるが、その主体は臣民ではないということだ。

    アメリカから押し付けられたと言う批判もある日本国憲法だがそれでも主権者は人民なので総意により憲法を変えることはできる。憲法は神聖不可侵、なものと考えるとおかしなことになる。「憲法が主で、私たちのほうが僕であるように思い込んでいるのではなかろうか」時代に合わなくなった部分は主権者である私たちの総意で変えればいいのだが、護憲派-一般には9条を対象としている-は他の部分であれ憲法を変えることができると9条を変えるハードルが下がると反対しているのだろう。

    憲法学者であり、改憲派の小林氏からすればそもそも「憲法を守るぞ!」と言ってるのがおかしいとなる。改悪から守る(擁護する)と言う文脈には理解を示しながらも「(国家権力に)憲法を守らせるぞ!」と言わないと主権者と国家権力の立ち位置がわからなくなってくるという事を危惧しているのだ。「(我々は)憲法を守る(遵守する)ぞ!」と刷り込まれないように。六法と一括りにされているが国家が国民を管理するための法律と憲法は同列でもなければ機能も違う。

    憲法も法である以上現実を前提に書かれなければならない。そうでなければ機能しないと言うのが小林氏の主張で、憲法には理想を書くべきと言う護憲派とは一線を画す。ただし目標としての理想を掲げることは否定していない。和をもって尊しとする十七条の憲法にはある意味では道徳が書かれているのだがこれが憲法=道徳と全国民に刷り込まれ憲法観が狂わされる現認になっているのではないかと言うことだ。

    後半では2012年に発表された自由民主党の改正草案について言及している。視点としては国民的合意が成立しているか、新しい価値観に対応しているか(例えば環境保護、知財権や個人情報保護)など。例えば第十九条「思想及び、良心の自由は保障する。」なんてことのない文に見えるがこれはXだと言う。誰が誰に何を保障するのか?国は国民の権利を侵してはならないでなければならない。

    改憲論者の小林氏が厳しく批判するのは第百条の「改正」。改正の条件を過半数に緩和することは硬性憲法の根幹に関わる。改憲論者に条件緩和への賛成者が多いようだが、 自分の意見と異なる方向の改憲に対しても緩和されているということをもっと想像してみるべきだろう。想像してみればいい、鳩山由紀夫が自らの政治信条に基づき憲法を改正したらどうなるかを。

  • 改憲派でありながら第2次安倍内閣が進める憲法解釈を違憲として話題となった小林氏の本。

    非常にラフな表現で書かれているわかりやすい本。
    たとえば現行憲法については「ぶっ壊れた中古車」「敗戦ごめんなさい憲法」と例え、改正の必要性を説いている。
    一方、「憲法9条を守るぞ」という左翼の訴えは根本的な間違いで、正しくは「憲法9条を守らせるぞ」だと指摘。なぜなら憲法は国民が守るものではなく、主権者が権力に守らせるものだから。
    9条改正については「侵略戦争は放棄するが、自衛戦争は放棄しない」というシンプルな条文としたうえで、海外派兵については「国会の承認と国連の決議」を条件とすることを提案している。これは、集団的自衛権の濫用を防ぐためだろう。
    衆議院・参議院の二院制については「時間と税金の無駄遣い」とバッサリ。
    憲法に愛国心を持つ義務を盛り込むことに賛同する人々に対しては「自分たちが主権者なのにわざわざご主人様、しつけてください!と言っているようなもので、ここまで来るとマゾである」と皮肉っている。
    また、巻末にはやはり2012年自民党改憲草案の条文に対する意見が書かれているが、全面的に否定しているわけではなく、条文それぞれについて著者のコメントが書かれている。

  • * 紹介 *

    ◆タイトルが示すとおり、憲法は国民が国家の権力行使に制約を与えるためのものだということを「講義」し、そのうえで現代に対応した憲法「改正」を行うことを主張している一冊です。その関連で、自民党の憲法改正草案に対しては、9条改正や天皇元首規定(勝手な造語)などに対しては”一定の”理解を示しつつも、憲法改正の条件(現憲法96条)の変更や、愛国心規定や家庭尊重規定といった、道徳的かつ国民に義務を課する記載を含む条項に対しては批判を加えています。

    ◆憲法の改正に賛成であれ反対であれ、憲法のはたらきについて考えることができる一冊だと思います。


    * メモ *

    ◆良い政治をすれば愛国心(国家への信頼という意味?)をもつだろうという点 (p. 100)は、「それはそうだ!」と賛同するひとも少なくないと思いますが(ぼくは違います)、難しいところですね。「良い政治ってなんだ」という問題が立ちはだかっています。著者は法的な規制を緩和し、行政改革を行うことだと書いていますが、これも難しいのではないでしょうか。先日読んだ「キャリア官僚の仕事術(ソフトバンク新書)」で、官僚は役所の事業に無駄があることは百も承知なのだけど、先輩官僚や各種業界団体、族議員の意向があって事業削減が容易ではないと書いてあったことを思い出しました。

    ◆また、自衛隊の根拠は「国家が自国を守る権利(自衛権)は、国家があらかじめもっている権利(自然権)だから」と説明されていますが、著者がいうように、これは納得しづらいのではないでしょうか。その点、憲法で自衛隊の位置づけをはっきりさせる必要があることは確かでしょう。

    ◆半分は冗談として書いているのかもしれませんが、「本質を突く言葉には迫力がある (p. 58)」というくだりには、ちょっとそれはどうかな・・・と思いました(苦笑)。

  • 憲法への考え方を改めさせられた。憲法改正は必要な物だと思ってきたが、この筆者の考えはとても論理的であり勉強になった。彼の考え方こそ正統派なのではないだろうか。

  • 象徴は機能であり立場ではない

  • 著者は憲法を専門とする法学部教授、所謂憲法学者。最近議論されている憲法改正の論点、そもそも憲法とはどういうものなか、そして民主党の憲法改正案に対して著者が改正だと思う点、改悪だと思う点について論じられている。いずれにしても、憲法について正しく理解した上での議論が重要なのは間違いない。

  • 最近、憲法改正について色々言われているけど、その前に実際憲法と法律の違いなどをある程度理解していないと、議論するうえでかみ合わなかったりすると思うので、定義を確認するうえで良いと思う。この本ではそういう部分から説明されているので、理解できると思う。その上で現行の改正するうえでのハードルが高いかどうかや、自民党が提示した憲法改正草案を著者が良い点や悪い点を指摘しているので、入門書として良いと思う。

  • 口にするのもタブー視されていた頃から憲法改正を訴えていた憲法学者の本。
    憲法改正の論点をあげ、それぞれについてわかりやすく説明したあり、素人でも簡単に読めた。
    改憲のハードルが高いことや愛国心を憲法に入れることは間違いであることはよく理解できた。

    一方、「はじめに」では自民党の改正案の問題点を挙げるとなっているが、正しいところは認めている。
    著者は、現行憲法はぶっ壊れた中古車と銘打って、憲法改正には賛成しているというか当たり前と考えている。
    9条を楯に空想的なことを言っているようでは、自国を守れない。
    人権の本質を守りながら改正する。改正後も監視を続け、憲法論議を絶やさないことが重要と述べている。
    まさにそのとおりと思われた。

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著者プロフィール

慶應義塾大学名誉教授、弁護士。法学博士、名誉博士( モンゴル、オトゥゴンテンゲル大学)。1949 年、東京都生まれ。1977 年、慶大大学院法学研究科博士課程修了。ハーバード大学ロー・スクール客員研究員などを経て、1989 ~ 2014 年、慶大教授。その間、北京大学招聘教授、ハーバード大学ケネディ・スクール・オヴ・ガヴァメント研究員などを兼務。著書に『「憲法」改正と改悪』『白熱講義! 集団的自衛権』などがある。

「2015年 『タカ派改憲論者はなぜ自説を変えたのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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