きつねの窓 (おはなし名作絵本 27)

著者 :
  • ポプラ社
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本棚登録 : 277
感想 : 55
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  • Amazon.co.jp ・本 (34ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591005545

感想・レビュー・書評

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  • 安房直子さんの作品は、幻想的要素を絡ませながら、共に生きるもの同士の心の交流を温かく描くことから、大人向けのものが多く、それはこの絵本(1977年)も同様ですが、教科書にも出てくるそうで、はたして子どもたちが、どのように感じるのか気になるところです。

    表紙の文字のフォントからも分かるように、始まりは、どことなく不穏な雰囲気で、終始落ち着かない気分にさせられ、それは織茂恭子さんの寒色系の多い背景もありますし、更に杉林から一転して、突然現れた、一面桔梗(ききょう)の花畑が、それに輪をかけたように思われるのは、主人公の男の職業が、きつねを追いかける猟師なのもあると思います。

    また、序盤は絵本ならではの、ページをめくった、すぐ後の文章の転換の仕方の上手さも印象的で、めくった先の文と、それに合わせて動き出しそうな絵を見て、思わずドキッとさせられるような臨場感には、これから何か恐ろしいことが男を待ち受けているのではないかと、更に不安感を煽ってくれます。

    ところが、その後の展開は意外性を見せ、最初こそ、きつねを捕まえようと考えていた男だったが、それを覆すような共感を覚えたのが、『大切な人を失ったことによる孤独感』であり、これによって、私は最初、ここで二人を対峙させたのが、きつねの男に対する恨みなのかと思っていたのが、実は、序盤に男がとりとめもなく考えていた、昔大好きだった少女(今はもう決して会うことができない)に、同じような共感の思いを、きつねが寄せたのではないかと思ったのです。

    そして、そんな共感の思いをきつねへと寄せた、男が得たものは、ききょうの花の汁で青く染め上げた、四本の指を菱形に合わせて作った窓から覗くことの出来る、今は決して見ることの叶わない、失った人や場所のかつての面影であり、そこには大好きだった少女や、死んだ妹、焼けて失われた家が現れて、これさえあれば、もう寂しくないと感じた男でしたが、その別れは、意外ながらも非常に現実的な人間らしさという、悲しき本能によって、すぐ訪れることになるのが、また何とも言えない気持ちにさせられます・・・が、しかし。

    ここで私が思ったのは、はたして、これって本当に幸せなことなのかということで、人それぞれの価値観や人生観があるので、断定こそいたしませんが、どんなに悲しいことがあっても、いつかはそれらに別れを告げて、前を向かねばいけないと思いましたし、過去の映像を見ることが出来るだけというのは、却って胸を締め付けられるような辛さを、そのうち覚えるのではないかとも思いましたし、理由はどうであれ、その訪れたという事実を受け入れる、死者への尊厳も大事なのではないかと思いました。

    桔梗の花言葉は、「永遠の愛」、「変わらぬ愛」、「誠実」等であり、確かにその力を借りて見ることの出来た映像には、それらがあるのでしょうが、どこか現実性に乏しく不安感を覚える言葉たちに、私は素直に身も心も委ねる気には、とてもなれそうにありません。

    しかし、それでも表紙の桔梗を胸に抱えた男の子の思いや、裏表紙の麦わら帽子にひとさしの花を見てしまうと、それに委ねたくなる気持ちも分かるようで切なくなるし、といった、このどちらとも付かない思いの葛藤を抱かせる、この絵本は、ある意味、安房直子さんの真骨頂なのだと思います。

    • たださん
      猫丸さん
      そうです。
      高楼方子さんの「ルチアさん」や、この前読んだスラブ民話の絵本「十二の月たち」など、その独特な温かみとアートを思わせる際...
      猫丸さん
      そうです。
      高楼方子さんの「ルチアさん」や、この前読んだスラブ民話の絵本「十二の月たち」など、その独特な温かみとアートを思わせる際立った個性が好きでして、安房さんの作品ですと、他に、「山のタンタラばあさん」があるそうですね。そちらも市の図書館にあれば読んでみたいです。
      2023/06/09
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      たださん
      > 独特な温かみとアートを思わせる際立った
      機会がありましたら梨木香歩の「ペンキや」(理論社)も、、、
      たださん
      > 独特な温かみとアートを思わせる際立った
      機会がありましたら梨木香歩の「ペンキや」(理論社)も、、、
      2023/06/11
    • たださん
      猫丸さん
      画像検索で見てみたら、印象に残る表紙ですね。
      是非、読みたいと思います。
      ありがとうございます(^^)
      猫丸さん
      画像検索で見てみたら、印象に残る表紙ですね。
      是非、読みたいと思います。
      ありがとうございます(^^)
      2023/06/11
  • きつねの窓 (おはなし名作絵本 27) 
    1977.04発行。字の大きさは…大。
    文は、安房直子さん。絵は、織茂恭子さんです。

    母キツネを鉄砲で撃たれた子ギツネが、猟師とお話しする物語です。

    この本を読み終って、えぇ……、これで終わり……。
    すぐ今度は、声を出して読んでみました。
    やはりこれで終わりかと……。
    これは、ページが後半抜けているのかと思い、本を調べても。
    そこでページ数を調べて34ページと有ります。
    そうすると、これで終わりかと納得しましたが。
    今度は、作者は、なにを言いたかったのか……?
    考えてしまいました。

    しばらくして、ふと、
    二度と会うことが出来ないものと、会うことが出来るおまじないが有れば……。
    両の指で三角を作って、そこに何が見えるか見てみると……。
    あぁ、会いたい人が、夢が、希望が、思い出が見えて来ます。
    2020.08.07読了

    • nejidonさん
      やまさん、こんにちは(^^♪ この本を読まれたのですね!
      児童小説にしてはちょっと変わっていて、大人の男の人が主人公と言う点。
      あとは、...
      やまさん、こんにちは(^^♪ この本を読まれたのですね!
      児童小説にしてはちょっと変わっていて、大人の男の人が主人公と言う点。
      あとは、読後の切なさですが、その切なさを感じ取れればもうじゅうぶんかと。
      小6の教科書にも載っていますが、授業でも決して教育的指導にならないようにしているそうです。
      作者の安房直子さんもそんなことは望んでないでしょうし。
      昔、私はこの本で読書会をやりました。皆さん喜んでましたよ(*^-^*)
      2020/08/07
    • やまさん
      nejidonさん♪こんばんは(^-^)
      コメント♪ありがとうございます。
      この絵本を読み終った時は、戸惑いました。
      いままで読んだ絵...
      nejidonさん♪こんばんは(^-^)
      コメント♪ありがとうございます。
      この絵本を読み終った時は、戸惑いました。
      いままで読んだ絵本は、単純にその中に作者が言わんとしていることが、読み取れるようになっていたものですから。
      あれ、何か見逃したのかなと思い、黙読でなく、音読で読んでみたのですが、解らず困っていました。
      しばらくして、ふと、両の指で三角を作って、そこに何が見えるか見てみると。
      その中に、母の元気な頃の顔がありました。
      ビックリして、もしかして、こういうことかと思ったのです。
      そして、そのままを感想に書きました。
      2020/08/07
  • 娘にはまだ早かった。何か不思議なことが起きているのはわかるけれど、それが嬉しいことなのか悲しいことなのかを図りかねていたみたい。

    [あらすじ]
    孤独な青年猟師が、馴染みの山を歩くうち不思議な桔梗の野原に迷い込む。
    野原で子ぎつねを追いかけて辿りついたのは「そめもの ききょう屋」。青年は、染物屋の子供の正体が子ぎつねだと気づきながらも、適当に話を合わせて店に入る。

    子供は、青年に何かを染めるよう、しきりに勧めてくる。
    「そうそう、おゆびをおそめいたしましょう」

    馬鹿にされたかとむっとする青年に、子供は自分自身の青く染めた親指と人差し指で、菱形の窓を作って見せる。
    青年がその窓を覗きこんでみると……



    読み聞かせしながら、辛かった時期を思い出して胸がじわっと痛んだ。
    親のいない心許なさを忙しさで紛らわせ、卑屈になりそうな心を周りへの感謝でごまかそうとしていた頃に、もし「窓」を手に入れていたら……?
    「窓」の向こうの世界に一生心を囚われて、私は現実を生きていけなくなったかもしれない。触れることはできない、こちらの声も届かない、指をほどくと消えてしまう……そんな「窓」に、寂しさが癒されるどころか、悲しみと執着がいっそう募りそうだと思った。
    「手を洗う」という、身に染み付いたきわめて現実的な行動は、結果的に青年の人生を救ったんじゃないかな。考えすぎかな。

    自分と同じ身寄りのない若者を慰めたかったの?
    親ぎつねの命を奪った銃を手離させたかったの?
    もしかすると、きつねなりの意趣返し?
    物語に引き込まれながら、色んな考えが頭をよぎった。
    悲しい話とも言いきれない。
    優しい話だとも思わない。
    ひんやりとした深い余韻がとても苦しい。
    この絵本の余韻の底にある孤独や寂寥や怒りに自分なりに向き合うということを、ずーっとしてこなかったでしょう?と、言われたような気分だ。

    その後の青年が時々指で窓を作って覗いてしまうように、私も何気ない拍子に「帰りたい」と声に出ていた時期があった。本当に帰りたくて言っているわけではないのに、考えるより先に言葉が出てしまうのが不思議だった。
    過去に後ろ髪を引かれながらも、青年も私も、今でも現実の端っこで生きている。
    今の私が「窓」を覗いたら何が見えるかと、ずいぶん思い巡らせてみたけど、なぜか何も浮かばない。名前を忘れてしまった人の姿や「何でこれ?」と思うような記憶の断片が見えたりするんだろうか。
    窓を作って覗いてみた。

  • 〝鉄砲を担いで、青い桔梗の花畑の中を白い子キツネを追っていた時の話です。 不意に小さな染物屋が現れて、その店からひと目で子キツネと分かる男の子が出てきました。「どんなものでもお染します。指先を染めると、とても素敵ですよ」男の子は、青く染めた自分の指でひし形の窓をつくると「ちょっと覗いてみて下さい...これ、ぼくの母さんです...ずうっと前に、ダーンとやられたんです。鉄砲で・・・」〟安房直子サン作、織茂恭子サン絵による、切なくも優しさのある、教科書に載った名作童話です。

  • 「すっかり知りつ苦しているつもりだったこの山にも、こんなひみつの道があったのでした」

    大好きなファンタジー作品。切ないんだよなあ。(19分)#絵本 #絵本が好きな人と繋がりたい #きつねの窓 #安房直子 #織茂恭子 #ポプラ社

  • どこかヒンヤリとした絵。
    世界観に引き込まれ、なかなか抜け出せなかった。

    窓から見える景色が切なくて心が震えるよ。
    非常に良質な物語。教科書に載るのも頷けるね。

    • nejidonさん
      はじめまして。
      【非常に良質な物語。教科書に載るのも頷けるね。】
      上の一行で、嬉しくなってコメントしています。
      この本は、わたしの人生を変え...
      はじめまして。
      【非常に良質な物語。教科書に載るのも頷けるね。】
      上の一行で、嬉しくなってコメントしています。
      この本は、わたしの人生を変えてくれた一冊です。
      あまりにも大切に思いすぎて、いまだにレビューが書けません(笑)

      ところで、「ルドルフ」のシリーズもお読みになったのですね!
      とても好きなシリーズなので、それも嬉しくなりました。
      本棚の魅力的なラインナップに、心惹かれます。
      また覗きに参りますね。まずは、フォローさせてください。
      2013/03/29
    • コトバアソビさん
      nejidonさん、コメントありがとうございます。

      この作品、世界観がすごく素敵ですよね。
      レビューが書けないという気持ち、ちょっと...
      nejidonさん、コメントありがとうございます。

      この作品、世界観がすごく素敵ですよね。
      レビューが書けないという気持ち、ちょっとわかります。
      歌や音楽や映画や芸術、時にスポーツの名場面など、
      あまりに自分の感性にハマったり、それを超越するものを目にすると、
      頭の中まとまらないですよね。(感覚違ったらごめんなさい)

      『ルドルフ』シリーズは人から勧めてもらったのですが、とっても面白かったです。
      勧めてもらって本当によかったなと思う作品でした。早く続きが読みたいです。

      本棚、魅力的と言われるとなんだか恥ずかしいです。
      基本的に読書家でもなければ深いこだわりもありませんので・・・
      何かとっておきの作品などあれば、また教えてください。

      では!
      2013/03/31
  • 究極のファンタジー、安房直子ワールドです。

    どうにかして、もう二度と会うことのできないものを見ることができるおまじないがあったら....?

  • 小学校のときにこの話を読んで
    「自分の窓には何がみえるか書きましょう」という
    作文の課題が出た。

    わたしはそこに
    引っ越す前になかよしだった女の子と自分を見て、
    もうきっと会えないその子との想いでを
    かみしめていた。

  •  山で道に迷った“ぼく”は、キキョウの咲き乱れる花畑に迷い込む。そこにあったのは、白狐の化けた染め物屋。狐に青く染めてもらった指で窓を作り、覗いてみると……。


     図書館本。
     安房直子作品で、おそらく知名度が一番高いのではないだろうか。
     私が一番好きな作品はあいにく本作ではないのだが、読み返してみるとなんというか、完璧。キキョウの花畑の幻想的な美しさ、冗長にならない語り口、“ぼく”の叙情的な回想。どれもお見事としか言いようがない。“ぼく”がこの素敵な幻想を失ってしまう過程も実に自然。

     絵の方は残念ながら好みではなかった。なんちゅーか、シャガールとローランサンを足して2で割って、くどくしたような? 青い花畑は綺麗なのだけど。

  • 図書館で目に留まり、読んだことがあるはずだとササッと読んだ。教科書に載っているお話と書いてある。

    ぼや~っと、思い出しながら「ぼくも そんな窓が ほしいな」という言葉はきっと読んだに違いない。
    そして、サンドイッチを持って、もう一度キツネに会いに行く僕。

    子どもの頃、物語に食べ物が出てくると内容よりもそれがいかにもおいしそうで夢中になった。
    今も、サンドイッチに胸キュンできっときっとおいしいだろうと思う。

    けれど、作家の生年を見ると戦中である。この僕も戦争で多くの大切な人を失った。そして、大事なことは失っただけではなく、この僕は(日本人は)被害者の立場というだけでなく、加害者でもあることが表現されていると感じられる。

    どうしようもないせつなさにあふれている。

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著者プロフィール

安房直子(あわ・なおこ)
1943年、東京都生まれ。日本女子大学国文科卒業。在学中より山室静氏に師事、「目白児童文学」「海賊」を中心に、かずかずの美しい物語を発表。『さんしょっ子』第3回日本児童文学者協会新人賞、『北風のわすれたハンカチ』第19回サンケイ児童出版文化賞推薦、『風と木の歌』第22回小学館文学賞、『遠い野ばらの村』第20回野間児童文芸賞、『山の童話 風のローラースケート』第3回新見南吉児童文学賞、『花豆の煮えるまで―小夜の物語』赤い鳥文学賞特別賞、受賞作多数。1993年永眠。

「2022年 『春の窓 安房直子ファンタジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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