オホーツクの海に生きる: 彦市じいさんの話 (自然とにんげんの絵本 1)

  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (40ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591051436

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  • 2005年に世界遺産に登録されて、今でこそ知床の名前も知れ渡っているが、昭和の頃はもう知る人ぞ知る秘境だった。
    ブームは「知床旅情」という歌あたりからだろうか。
    この歌も、もとは「サラバ羅臼」というタイトルだった。
    何故そのタイトルで歌われたかと言うと、1960年公開の「地の涯に生きるもの」という映画のロケ地が羅臼町で、協力してくれた村民たちへの感謝を込めて主演の森繁久彌さんが即興で歌ったものだったという。
    そして、その映画のもとになったのが戸川幸夫さんの「オホーツク老人」という小説で、それを絵本化したものが、この作品。

    前置きが長くて申し訳ないが、一度でも道東の冬の厳しさを体感したことのある方ならこのお話の魅力が一層分かるかと思う。
    オホーツクの海は、紺碧ではない。深い深い群青色にうねっている。
    はじめて観たとき、その圧倒的な迫力に声も出なかった記憶がある。
    人を決して寄せ付けない、凍り付くような群青色。
    この作品も同じで、しばし茫然となるほどのインパクトだ。

    「オホーツク老人」が昭和34年の発表だから、このお話の舞台もその頃かと思う。
    知床で生まれ、知床でその生を終えた老人の、胸が震えるような一生を描いている。
    「お留守番さん」と言われる冬の「番屋」を守る仕事。
    夏は漁でにぎわう浜も、冬には無人になる。
    漁で使った網や道具には魚のにおいが染み込み、ネズミたちに狙われる。
    それを守るためには猫を飼う必要があり、猫がいるならその世話のために「お留守番」をおく必要があった。
    テレビもなく、ネットなんてものはまして無く、厳寒の番屋でたったひとり、時に半年以上も猫たちと暮らす老人。
    彼の妻も、3人の息子たちも、とうにこの世を去っていた。。

    冬季になると急激にモノクロになるかの地。
    野生動物の毛の色や嘴、オホーツクに沈む夕日、そこだけに色がある。
    挿絵は、それも忠実に伝えている。
    「なんでそんなところに」とつい口をついて出そうだが、たまたま生きて来たのがその環境だったというに過ぎない。
    最後の最後まで、与えられた場所で精一杯生きた老人に、思わず頭を垂れてしまうのは私だけではないだろう。

    今や流氷の中を観光船が行く時代。
    「流氷ノロッコ号」では、ダルマストーブが焚かれた車両でぬくぬくと温まりながらオホーツク観光ができる。
    当時を想像しようとしてもどだい無理かもしれないが、自然への畏敬の念は忘れてはいけないとしみじみそう思う。
    癒し、だけではないのだ。
    約12分。高学年から。

  • オホーツク海に面した知床半島の岬の地で、冬の厳しい自然と闘いながら生活するサケ漁番屋の老人<彦市爺さん>の人生を、戸川幸夫さん(1912-2004)著による『オホーツク老人』の原作をもとに絵本作家・関屋敏隆さんが型染版画(染色技法)で再現された絵本。 若いころ移り住んだ択捉島で結婚、三人の男子を授かったが、次々に家族を失い独りぼっちになった<彦市爺さん>の唯一の慰めは、番屋で一緒に冬を越す15匹の猫たちとのふれあいだった・・・。大自然の脅威、野生動物との死闘を、温かみのある版画で表現された感動の物語。

  • 今はもう廃れた感覚なのかもしれないが、"もののあわれ"をひしひしと感じる作品。

  • なかなか厳しい世界の話だった

  • 6年2組 2011/6/7

  • ひとりの人生・・・知床慕情が聴こえる。自分の与えられた場所で生き抜く。人の人生はすごいです。

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著者プロフィール

1912年、佐賀県生まれ。東京日日新聞社(現・毎日新聞社)に入社後、1955年に小説『高安犬物語』で直木賞を受賞。作家専業となり動物小説を次々と発表、「動物文学」をジャンルとして確立。多数の小説や児童文学作品を手掛ける。

「2018年 『新装合本 牙王物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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