「ファンム・アレース」の舞台となったイオドラテ大陸が最初に登場した物語。時間軸としては、ララたちの旅の100年前。主人公は義賊のバルキスと魔神のフップ。
もう15年も前に出た作品なので、思い切りネタバレをするが、魔神フップが可愛らしい子ども! 子どもの精神年齢で強大な力を振るうことができる。これがどれほど恐ろしいことか。「ご主人様」しだいで天使にも悪魔にもなります……。
義賊バルキスと残酷な皇帝ドオブレの間でフップを取り合う、というのがこのシリーズの中心の流れ。ちなみにドオブレに楯突くということは、イオドラテ大陸の中心部を支配しているヴォワザン帝国を敵に回すということになるのでただごとではない。偶然フップを目ざめさせ、はからずも「ご主人様」になってしまったバルキスは否応なく帝国との戦いに身を投じる流れに。
地中海世界を模したと思われるイオドラテ大陸、当たり前かもしれないがこの「エル・シオン」シリーズでほぼ完全に出来上がっていた。相変わらずざっくりした描写だし、イタリア語が氾濫するなかに「ヤクザ」が紛れ込んでいたりするけれど、確かにそこで人が生きている、と感じられる魅力的な世界。
特にフップと出会ったものの、途方も無い魔力をどうしたものかと思いあぐねるバルキスの現実臭さが良い。