- Amazon.co.jp ・本 (330ページ)
- / ISBN・EAN: 9784591112496
感想・レビュー・書評
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「リリーは、空とおしゃべりするのが、大好きな女の子だ。ちょっと目を離すと、すぐに〈空の国〉に翼を広げて旅立ってしまう」から物語が始まる。いきなり「空の国」という言葉が出てきたので、これは前回のリボンのような鳥の話なのか?と、理解できないままに読み進めていった。が、後半は結構ハマってしまった。
穂高の恋路旅館に住む主人公・リュウ(流星)と姉・蔦子のところに毎年夏だけがやってくる従姉妹のリリー。
無邪気な子供たちが大人に成長していく心情と、穂高の自然を舞台に展開する物語。
子供の頃って、視界が下の方にあるので、今とは見ている世界も違う、思考も違う、1日の長さも違う。そんなことをこの物語を読んでいて、思い出した。私はサイドカーには乗ったことはないが、大抵のことが初めての経験で、経験するもの全てに驚きと感動があったなぁと、記憶をたどることができる。そして、その記憶も今となって薄れてきて、記憶は断片的になっている。
だから、リュウとリリーのように大人になるまで子供の頃の思い出を共有できる人が近くにいることは、素晴らしいことである。自分が忘れつつある記憶をともに補完し合うことができるだから、羨ましい。
そして、3人の子供たちが拾ってきた海。子供の頃、誰もが経験したことがあるであろうかと思うのだが、私も捨て猫や捨て犬を学校の帰りに拾ってきて、叱られたこともあった。その時の私にはリリーのように「生きとし生きるものは、みんな死ぬんだよ。死を怖がっていたら、誰とも、何とも付き合えないじゃない」なんて言葉は絶対に考えつかなかった。両親に言われて、無理矢理に自分を納得させ、諦めていた(あるいは泣き落としていたような気がする)。
こんなに強い言葉を発することができる子供って、感心する一方で、末恐ろしく感じた。
リュウのリリーと過ごす夏の描写でこんな一説がある。「夏だけが、太陽のような明るさで鮮明に輝いていた。山が色とりどりのパッチワークのようになる秋も、すべての罪をその下に隠してくれそうな雪景色の冬も、新緑の芽吹く躍動感あふれる春も、僕にとってはただただ夏を待つだけの退屈な時間に過ぎなかった。」
自然の季節の移り変わりが色の幅によって表現されていて美しく、うっとりとしてしまう。
自然、魂、生だと感じた表現が、リュウが菊さんに土に埋められた時「土の中があったかく感じるのも、こうしてたくさんの草が茂っているからだよ。人間はすぐ、雑草だからって抜いたり枯らしたりしてしまうだろ。でも、この世に神様がお造りになったもので、無駄なものなんて一切ないよ。無駄なものは、人間が金儲けのために作ったものだけだよ。地面に近い所にいると、いろんなことがよーく見える」と菊さんが説明している。菊さんが亡くなった時、リュウは、リリーに埋められた時のことを伝えているが、この言葉は伝えていないと思う。ただ、リリーは、リュウが言葉にしなくても、感覚で判っただろう。そして菊さんが土に埋められたリリーに耳打ちしている姿が目に浮かんだ。
「生きていれば、必ずいいこともあるよ。神様は、そんなに意地悪なことはしない。よい行いさえしていれば、いつか自分に返ってくる」誰もがそういう気持ちを常に持っていれば、世の中には犯罪がなくなるのに。これも菊さんの名言である。
本作はリリーの妊娠で話が終わっているが、リリーの妊娠でリュウがもう少し成長してくれたらいいなぁと、このふたりの家族の幸せを祈りたい。
余談であるが、本作で、「安曇野と穂高の違いが述べられており、穂高を安曇野と呼ぶのは、観光客と他の土地からのIターンでこの地に移り住んでいる人達だけだ。」を知った。長野の地理を全く知らない私にとっては、穂高は山の中で、安曇野は、穂高から降りてきたところかと思っていたのだが、イメージは正しかったのだと改めて知ることができた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
表紙絵の中の草原を楽しげに駆けまわる白い犬を目にしただけで
涙が溢れてしまうほど、犬の「海」が素敵です。
曇りのない瞳で飼い主の流星をまっすぐ見つめ、
海の前だけでは正直で善良な自分でありたいと思わせてしまう
思慮深く、人間にも動物にも礼儀正しい海。
穂高での幸福感に満ちた日々と少年時代の純真さを象徴するのが海だとしたら
家族を襲った悲劇の後、喪失感に打ちひしがれて荒んでいく流星を
土の匂いのする叡智と慈愛で包む、ひいおばあちゃんの菊さんは
手にしたものも、手放したものも、清いものも濁ったものも全て受け入れて
逞しく命を繋いでいく、ファミリーツリーの象徴でしょうか。
自分の原付バイクに流星の自転車をロープで結びつけて山道を引っ張り
畑の穴の中に突き飛ばしてどんどん土をかけ、土風呂で心も身体も温めてしまう菊さん。
80代にして初めて上京して入ったスタバで食べた
ストロベリークリームフラペチーノの容器を大事に持ち帰り、野の花を飾る菊さん。。。
リリーが書いた立花家の家系図のてっぺんで
クリスマスツリーの星みたいに光る菊さんのように
そして、美しく清らかな記憶として流星にいつも寄り添い、支える海のように
後世に名を残すような偉業を成し遂げなくても
たくさんの人の心に残る名言を口にできなくても
この世に生を受けたからには
身の周りの誰かのために、
ささやかでも心尽くしの何かができる存在でありたい、と思わせてくれる物語です。-
はじめまして。
「ohsui」さんがこちらのレビューに花丸付けた事がキッカケで、まろんさんのレビューを知りました。
もっと、まろんさんの...はじめまして。
「ohsui」さんがこちらのレビューに花丸付けた事がキッカケで、まろんさんのレビューを知りました。
もっと、まろんさんのレビューが読みたくて、フォローさせて頂きました。私はあんなレビューしか書けませんが、よろしくお願いします。2012/10/17 -
kickarmさん、コメントありがとうございます♪
あんなレビューなんて、とんでもない!
もしもkickarmさんが、レビューに書いていら...kickarmさん、コメントありがとうございます♪
あんなレビューなんて、とんでもない!
もしもkickarmさんが、レビューに書いていらっしゃることを
もしもカフェの隣の席や電車の中で誰かとおしゃべりしていたら
耳を3倍くらいに大きくして聴き入ってしまいそうな、素敵なレビューです♪
こちらこそ、どうぞよろしくお願いします(*'-')フフ♪2012/10/18
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安曇野の中心地・穂高の旅館で育った男の子・リュウ(流星)。
曾祖母の菊さんが料理の腕をふるう古びた旅館の名は、恋路という。
両親を早くなくした父にとって祖母の菊さんは親代わり。
従姉というか、もう少し遠いややこしい関係の親戚だが年が一つ違いのリリー(凛々)は毎年、夏にやってくる。
スペイン人の血が少し入ったリリーは背が高く、子供の頃からエキゾチックな魅力があった。空を見上げて放心状態になる癖があり、どこか孤独な陰を背負っていた。
流星と姉の蔦子は3人で仲良く小学生時代を過ごす。
ドリームと書かれた部屋の大きなベッドで3人で寝たり。
スバルおじさんのハーレーダビッドソンのサイドカーに乗ったり。
遠出したときに見つけた捨て犬を海と名付け、みんなで可愛がるが…
思春期を迎え、リリーの複雑な家庭の事情を知るリュウ。
中学生で付き合い出すが、親の反対を受けて2年半会うのをやめる。
大学で東京に出て再会するが‥
沖縄出身の友達が出来るが、人妻に恋して大学をやめ、ホストになってしまう。
進路を見つけたリリー。進路を決められずに置いて行かれた気分になるリュウ。
親を気まずくなる思春期、菊さんのペンションの手伝いをしたりしていたが、大学になる頃には、かわいがってくれた菊さんともちょっと距離を置く。
穂高の風景描写が綺麗で、幼い頃の思い出が美しい。
十代後半の話には時々イライラするが、確かにそういう時期だよね。
いろんなことにぶつかり、やる気がなくなることも、苦しみあがくこともある。
カタルシスもあり、わかるところもあり。
感動的な結末へ。 -
人による作品かと。
読みやすかったですが、内容のテーマが複雑。
色々考えさせられます。
命とか恋愛とか人のあり方とか。、。スゲー難しいのがテーマだと思います。
嫌いな人は嫌う作品かと思います。
たぶん、賛否両論あるのでは?
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食堂かたつむりに続いて小川さん2作目
登場人物が小学校から大学生になるまで
1冊の本の中で描かれているのが珍しいなと思った
しかもそこに無理がなくて、一緒に成長を追っていけるのがいい
徐々に「ファミリーツリー」の意味がわかってくるのも
安曇野の自然が目に浮かんでくる描写の美しさはさすが
長野から上京してくる子は、いつでも帰れるように
中央線沿線に住むってほんとなのかな -
図書館で借りたもの。
主人公の生まれ年が自分と一緒で親近感。
糸さんっぽくないなーと最初読んでいて、微妙?と思ったけど、中盤からぐんぐん面白くなった。
火事のシーンと、菊さんが亡くなり穂高に向かうシーン号泣。 -
菊さんから広がる家族のつながり。その末端でしかない。流星から見た家族とは?人間の何と小さなこと。大自然に対しておごっちゃいけないという菊さんの生き方。穂高の自然に包まれて成長する。温かい少年から大人への物語。
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田舎に行きたくなる。小川糸らしい温かいお話。
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あー、いいな~って、ただただほっこり。
どんなに悩みがあっても昔のことを思い出して、頑張っていきたいなぁと思った
生まれも育ちも東京だから、リュウくんやゴボウのように田舎があるのが羨ましい。 -
主人公の曽祖母に当たる、大正生まれの菊さんがとても魅力的。昭和の終わり頃生まれの孫、ひ孫たちの一番の味方。昔から語り継がれる大事なことも伝えるけれど、自分の若き頃の恋バナもしてくれる。穂高の自然の描写も美しく、犬の海のエピソードも心が暖かくなる。
家族は繋がっている、というテーマ。その中には必ずしも幸福な繋がりばかりではないものもあるけれど、それがなければ自分も存在しない。
家族を重いと感じてしまうことも多い自分にとって「家族のありがたみというものが真に理解できる」のはどんな時なのだろうか?とつい考えてしまった。