(028)岸 (百年文庫)

  • ポプラ社
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感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (155ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591119105

作品紹介・あらすじ

夜半の雨が葉を散らし、晴れた朝には浜で顔を洗う。湖の小島で暮らした日々を深まりゆく秋の寂寥のなかに描いた中勘助の『島守』。妻の病も少しよくなった頃、久しぶりに夫婦で植物園を訪れたあの日-。あどけない生前の妻の姿が胸にせまる寺田寅彦の『団栗』。古いものが姿を消してゆく時代、薗八節の三味線の音に託して日本の姿を描いた永井荷風の『雨瀟瀟』。淡々とした筆致の奥に時流に屈せぬ詩魂みなぎる文章世界。

感想・レビュー・書評

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  • 中勘助「島守」 小説とも随筆とも言い難い、日記形式の文学なのだが、季節や自然を描くひとつひとつの言葉の選び方に至るまで精妙に綴られており、小さな島を一つの世界として成立させている。

    寺田虎彦「団栗」他 抒情的な「団栗」は著者の代表的作品だと思うが、個人的には何気ない日常の品から古今東西の作品論に思考をめぐらせる「浅草紙」に感銘を受けた。

    永井荷風「雨瀟瀟」 漢詩や江戸文化にまつわる圧倒的な知識についてはただただ舌を巻くしかないが、著者とその畏友ヨウさんの、江戸趣味の粋を極める通人の在り方を、めくるめく美文にて現代にまで届けてくれた、そのことが既に文学としての功労といえるだろう。

  • 装丁に一目惚れして入手した一冊。数冊を積ん読していたので、この機会に少し読み進める。
    恥ずかしながら三者とも、まともに作品を読んだことがなく、初めての邂逅となる。名前だけは知っている、レベル。うち二人が漱石と関わりがあるなど、関連あったのが興味深い。
    『島守』はただただ景色が美しく、目を閉じると瞼に情景が浮かんできた。隠居したい、と少し思ってしまう。『浅草紙』はなるほど、としきりに思うばかり。一つの事柄からの広がりが染み入る。『雨瀟瀟』は……漢文に明るくないのが悔やまれる。ただ、いつの時代も新しいものを受け付けない人はいるものだな、と。それが良い悪いということではなく、懐古趣味であれ、突き通すのは潔さもあり趣がある。
    「岸」というテーマに一番寄り添っていたのは一つ目だが、全体的に湿度の高い話だった。ので、テーマにも納得、というところ。時代による文体の方向性はあるのだろうが、読み辛いというよりもリズムが心地よく、入手しておいて間違いはなかったと思う。

  • ポプラ社さん、すてきな文庫を創刊していただき、ありがとうございます!

    百年文庫少しずつ集めていきたいと思っています。
    一番初めに読むならば…と直感で選んだのが『岸』でした。

    寺田寅彦の『浅草紙』がよかったです。
    たった一枚の浅草紙を見て、この世界に張り巡らされた因果の網目の複雑さに思いを馳せる…。
    科学者の目から見た世界に、とろんとなります。

    -------------------------------
    ◆収録作品◆
    中 勘助 『島守』
    寺田 寅彦 『団栗』『まじょりか皿』『浅草紙』
    永井 荷風 『雨瀟瀟』
    -------------------------------

  • 有名どころが揃った

    『島守』中勘助
    解説によると作者20代後半の体験を元にしている。老成しすぎでは。美しい文章ではある

    『団栗』など3篇 寺田寅彦
    浅草紙というのをはじめて知った

    『雨瀟瀟』永井荷風
    懐古と厭世

  • 綺麗な表現に触れられそうな気がしてチョイス。
    珍しく全員知ってる(が、ちゃんと読んだことはない人ばかり)

    素敵表現は一人目、中勘助の作品「島守」にたくさんあった(自然の音が満ち満ちてた。例えば“雨の音はなにがなしものなつかしい、恋人の霊のすぎゆく衣ずれの音のように”)けど、話としては別段面白いわけでは無いような。
    ずっと島で暮らすのかと思ったら帰るんかい……

    二人目、寺田寅彦は短いのが3編。あらすじにも採用されてる「団栗」は子どもの無邪気さと重なって確かに切ない話。

    三人目、永井荷風。
    インテリ過剰だわー。
    まず友達との手紙のやり取りが候文で、なにかと言えば漢詩の引用の嵐、最後はフランス語か?の詩を挙げてくる。
    お話自体は、「今どきの町育ちの若い娘に、江戸時代の音曲やらそうったって、活字は読めても草書も変体仮名も読めず井戸も知らないんだから、土台無理な話だった」という懐古趣味の紳士たちのエピソードなんだけど、明治ですでにこうなのか……

    装画 / 安井 寿磨子
    装幀・題字 / 緒方 修一
    底本 / 『中勘助全集 第四巻』岩波書店、『寺田寅彦全随筆一』岩波書店、『現代日本の文学II-2 永井荷風集』学習研究社

  • 湖の小島で一人暮らした日々を綴る『島守』が秋景色が目に浮かぶようで良かったです。
    風の音、鳥の声、自然の恵…そんな生活をしてみたいものです。

    『浅草紙』の紙に漉き込まれた雑紙の色々から広がる思想や世界、それが午砲で現実に戻るのが微笑ましかったです。
    ところで浅草紙って何なのだろう?と検索してみたら江戸のトイレットペーパーなのですね。一つ勉強になりました。

    『雨潚潚』は時々漢詩が登場。もう読み方も忘れてしまったので巻末の日本語訳に助けられました。

  • 永井荷風は流れるような文章、行間ににじむ漢文の素養とどこか人を喰ったような風情がニヤリとさせられる。中勘助、寺田虎彦の文章も、まさに声に出して読みたくなる感じ。百年文庫のシリーズは全館近くの図書館にあるので、折に触れて借りようと思う。

  • 「島守」
    ともかく退屈で、読みながら何度も眠ってしまった。
    自然を美しく描写しているのだけれど、ほとんどそればっかで、飽きた。

    「団栗」
    淡々と書かれた文章だが、最後には亡き妻を偲ぶ思いが伝わってきて、しみじみとした気持ちになった。
    筆者の回想するやわらかい眼差しが感じられた。
    「まじょりか皿」
    なんだか未熟で、定まらない。
    現実に向かい合う以上に憧れが強く、まじょりか皿はその憧れの象徴だ。
    憧れを抱きしめながら、大切に思う人たちを守っていくには弱すぎる竹村君のつぶやきが、哀れなようにもこっけいなようにも、もどかしくも感じた。
    「浅草紙」
    どう「岸」なのかはいまいち分からなかったけれど、一枚の浅草紙から学問や芸術・人間の精神に思いをはせているのが、実に人間らしいと思った(笑)。
    そして、とりあえず飯、なところも、実に人間らしいね。

    「雨蕭蕭」
    ともかく眠くなった作品だ。
    そうそう、時代は変わったよ。
    自分の趣味だけで人を囲おうとしても、それはただの金持ちのエゴ・道楽だ。
    おじいちゃんが、若い人に何かを期待するところが、もう間違ってるよ、ヨウさん。
    ・・・何度も眠ってしまい、ぶち切れの読書となった。
    そのため、丁寧に読めていない。
    だから、これの何が「岸」なのだ?
    傲岸不遜の岸か?
    さっぱりわからない。
    この小説が何を言いたいのかもいまいちわからない。
    大したことを言っていない気がする。
    漢詩とか、面倒くさい。
    はさみこみすぎ。
    知識のひけらかしか?
    もっと丁寧に読めば、漢詩のもたらす効果とか、意味とか、面白みがわかるのかもしれない。
    今は読みたくないが、また、もっと先によみかえしてみてもいいかもしれない。

  • 2013.5.31
    『島守』中勘助
    随筆。とても静か、心が澄む。
    日記風のものは、あまり好きでなかったけれど、これはとても良い。好き。童話も書いているよう。中勘助さん、他の作品も読みたい。

    『団栗』『まじょりか皿』『浅草紙』寺田寅彦
    三作とも題名となるアイテムが作品をひきしめていて、短いながら良品。小説のありかたを書いた浅草紙が好き。紙だし。

    『雨潚潚』永井荷風
    漢文、読めたら楽しいだろうな。勉強不足で私にはまだこれは早い。

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著者プロフィール

1885年、東京に生まれる。小説家、詩人。東京大学国文学科卒業。夏目漱石に師事。漱石の推薦で『銀の匙』を『東京朝日新聞』に連載。主な著作に小説『提婆達多』『犬』、詩集に『琅玕』『飛鳥』などがある。

「2019年 『銀の匙』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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