- Amazon.co.jp ・本 (149ページ)
- / ISBN・EAN: 9784591119211
作品紹介・あらすじ
「どうせ私なんかどうなったっていいんです」「死んだっていい人間は沢山あると思います」温泉場の別荘に雇われた「お夏」の率直な言葉に療養中の孤独な「私」は心動かされる。死を予感する者との不思議な結縁を描いた川端康成の『白い満月』。ふと顔をあげると壁に見慣れぬ染みが-。ささいな視覚の刺激が解き放つ想像力の奔流(ヴァージニア・ウルフ『壁の染み』)。夜の散歩者が幻のような物語を回想する尾崎翠の『途上にて』。詩的な直感に満ちた幻視的世界。
感想・レビュー・書評
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好きな作家さん3人の短篇集『幻』
百年文庫を初めて手に取った。
『白い満月』川端康成
情景描写はさすが!1925年に発表された作品だが、洗練された言葉の美しさに魅了される。
「谷間には靄が湧いたらしい。山々の姿が月の光に仄白く浮いている。私に遠い海の幻が見えた。月に引っぱられて膨らんでいる海面の幻が見えた。」
私と女中お夏、異父姉妹の八重子と静江。人間の不確かさや、まとわりつく死のかげを白い月の薄明かりと重ねているように思えた。
『壁の染み』ヴァージニア・ウルフ
ふと一点の染みに目が止まる。そこから想像が次々と膨らんでいく。難解だが、蝸牛だったとの落とし所は納得。
『途上にて』尾崎翠
読みやすい。ただ『歩行』の冒頭の詩(おもかげをわすれかねつつ〜)を読んだ時の震えるような感覚はなかった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
川端康成「白い満月」
おそらく自分と血の繋がっていないであろう妹の存在を知ったとき、主人公は母を憎むのではなく愛した。
母の不貞に対する責めや許しといった感情を超えて、妹の美しさから母の生の美しさを知った。
この辺りの述懐がとても良い。無からこの記述を思いつくの凄まじすぎる。文豪…。
たまに出てくる「青い焔」は良い意味で使われているっぽいがどういうことなのだろうな。
穏やかな熱情という感じかな?
だから妹の美しさを軸にした話かと思ったらなんならそれはおまけみたいな展開。なんで?
登場人物は納得しているらしいが、なんで?と思うポイント、沢山ある。
そういうぼんやりとした不安感みたいなのも、読者を引き込むテクニックだったりするのかな。
現代小説は逆になんでも説明しすぎなのだ、という言説があると予想します。
来歴のところに川端康成のエピソードが書いてあって、
芥川賞の選考委員の際、太宰治の作品を「お前の素行がヤバいので落とす」って言っちゃって太宰治にめちゃくちゃ恨まれ、「てめーなんか遊んでるだけのくせによ」というような文章を発表されてるのみんな正直で面白すぎる。
ヴァージニア・ウルフ「壁の染み」
壁の染みを見た女性の散文的な考えを全て書き起こしたような内容。
精神分析的心理療法みたいだけど、あれは喋るし聞き手がいるから有効なのであって、自分の手で書いて誰の介入もなしに何度も推敲してたら頭おかしくなりそう。
実際作者は有名すぎる遺書を残して自殺している。
尾崎翠「途上にて」
夜の散歩を回顧しながら書いたお話で、内容も胸が詰まるような終わりをするのに何故か爽やかでいい。大らかな女性の視点で書かれてるからかな。
この本の中では一番好き。
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日本が誇るノーベル文学賞受賞者作品を、もっと読んでみないと!ってことで。加えて、”灯台へ”がピンとこなかったウルフ作品も、短編なら何とかなるかも、っていう期待も抱きつつ。1分け2敗。川端作品は悪くなかったけど、他2作はやっぱりというか、合いませんでした。特にこのウルフ作品、とりとめもない空想録を、どう味わえば魅力的に感じられるんだろ?いわゆる文学作品で、こういうタイプのものが一つのジャンルを成してる気がするけど、どうしても良さが理解できません。まあもう、仕方ないわなって感じ。
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はじめての百年文庫シリーズ。やはり1番読みやすかったのは川端康成の『白い満月』。他の2人は共に読みたくて読めていなかった女流作家だ。
ヴァージニア・ウルフは難解だったというよりも、立ち止まりながら読む様な作品ではない様に感じた。意味などは置いて、流れるようにリズミカルに読めて心地良かった。
尾崎翠の短編は非常に面白かった。早速、代表作の『第七官界彷徨』を買って来たので今から楽しみだ。 -
摂南大学図書館OPACへ⇒
https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB99245530 -
ウルフは全く理解できなかった。
川端は少しオカルトじみた内容。
尾崎翠は初めてだったが、どこか宮沢賢治を思わせる。時代的にも近いから? -
『白い満月』の八重子の無意識の身勝手さに振り回されてしまう静江の姉妹の対比と女中のお夏の哀しみを持つ控え目さ。
全体に『死』が潜んだ物語の中で女性陣の個性が目立ちました。
文章は美しいけれど話の内容としてはあまり好きではありませんでした。
『壁の染み』の次々と湧き出る想いに圧倒されました。勢いに押されて苦しかったです。
『途上にて』はこの本の中では一番落ち着いて読めました。
きんつばが食べたくなります。 -
「白い満月」
精神というものの不思議を感じる。
なんだか、「女」という生き物の、奇妙な精神の力が描かれているように感じる。
弱い男。
そして、したたかであると同時にもろくもある女。
ここに出てくる女たちには、それぞれの吸引力がある。
そして、男はそれに振り回されているのだ。
「壁の染み」
この人は、暇なのだろうな。
たかだか壁の染み一つから、ここまでグダグダと思考を流すことができるのだから。
文化だの常識だの、誰かが決めたことに振り回されるあほらしさ。
そういう思いが伝わってきた。
本当にものごとを知る、ということの不可能さのようなものも。
科学や文化への嘲笑か。
思考の断片が寄り集まった文体なので、読みにくい。
読みにくい中で、こういったものを感じた。
「途上にて」
幻想的過ぎて、共感がしにくい。
変な夢を見ているような気持がした。
手ごたえが薄い。
正直、こういうタイプのものは、疲れる。
そして、私には、残りにくい。
読み終わったと同時に、淡く揺れて消えそうで消えない光。
その実態はわからない。
そんな印象だ。
正しく、幻のようなテイストの作品だと思った。 -
感覚を呼び起こす言葉
パラダイスロスト、チョコレエト玉、ノオト、きんつば、油のにおい、くびまき、こおろぎ