(044)汝 (百年文庫)

  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (157ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591119266

作品紹介・あらすじ

ドアが聞いて現れたのは「わたくし」にそっくりな娘だった…。亡き双子の姉と不可思議な交流を描いた吉屋信子の『もう一人の私』。裕福な家庭に育った彼は父の口利きで一流会社に就職が決まりかけたが…。青年の潔癖さと世間との埋まらない距離(山本有三『チョコレート』)。「詩人」はぶらりとやってきては「私」の煙草を吸い、借金を申し込み、酒を飲んで帰っていく。生活は破綻しつつも純粋な心を持ちつづけた男の生涯(石川達三『自由詩人』)。心を照らす他者の存在、我と汝の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 産まれてすぐに亡くなった双子の姉が現れる『もう一人の私』。
    生きたかったのだろうな、と思いますが主人公からしたらホラーだと思う。

    『チョコレート』の親の斡旋した就職口のために友人が職に就けられなかったと苦悩し、身を引くことで満足に耽っていたらまさかの結末。坊ちゃん育ちの甘さが本当にチョコレートのようでした。
    この話が一番面白かったです。

    『自由詩人』は最初から破滅的な結末しか想像できなかったです。そして「ああ、やっぱり…」。
    親を選べない子供が一番不幸でした。

  • 「もう一人の私」
    ホラーだ。こわい。
    亡くなった双子の持つ存在感を、ひしひしと感じる。
    生き残った妹側の意識であり想いが、形をもったのだろう。
    入れ替わりが起こりそうな気配はなんとなくあったけれど、元に戻れたところが、よりリアルであり、気味の悪さを増幅させているような気がする。

    「チョコレート」
    甘い。実に甘い。
    なるほど、だからチョコレートか。
    やり方が不確かで、不誠実で、さすがお坊ちゃまだ。
    自分の憶測だけで動き、事実確認をしない。
    今回の一件から、目が覚めるといいのだけれど。
    多少、地に足がつくといいのだけれど。
    面白かった。

    「自由詩人」
    一切の責任をとらない、とれない人間なのであれば、家庭などもってはいけない。
    なぜ、結婚をしたのか。
    それは、やはり寂しさゆえに、か。
    男と女の破局は、言うなれば本人の責任である。
    しかし、子供は違う。
    子供は生まれたくて生まれてきたわけではない。
    だから、子供をもつのであれば、その子をできる限り幸せにしてやろう、と、努力してやりたい。
    ろくでもない親に生まれて、苦労した子供。
    その重みを、死ぬときになってしか本当には理解できない、理解しようとしなかった、自分勝手な父親。
    私だったら、こういう男とは早々に縁を切ってしまうな。

  • 吉屋信子「もう一人の私」。吉屋信子の名は伝説的な原始少女小説の書き手というイメージで刷り込まれているが、期待に違わぬ作品。中原淳一の挿絵が浮かんでくる。選ばれることのなかった「不幸な私」というもう一つの人生(と表裏一体となった現実の幸せな人生)という少女の永遠の憧れのシチュエーション。山本有三「チョコレート」。これが一番良かった。タイトルが秀逸。恭一の間違った自己犠牲と自己満足が鮮やかにしっぺ返しを食らわせる瞬間に、彼の目に入ったものが甘いチョコレートの看板という残酷な表象。これに近いことって現代でも溢れている気がする。自分は誰かのためにやってやったと思っているけれど、それは本来自分がやるべきことからすら逃げているにすぎない。結局、恭一は働きたくなかっただけで、土肥のためという大義名分にかこつけて社会から逃げたのだ。善行をやっているつもりで、結局何もしていない。一番楽な道を選んでいる。社会問題が起こった時にTwitterで政府や企業を非難して不買運動を呼びかけたりしている人たちを思い出した。首相の天ぷらを非難する前に自分の街の雪かきをしたのか。お前らがやってるのはチョコレートを食ってることだけじゃないのか。石川達三「自由詩人」。太宰治的な自由詩人の行く末は自殺しかないのか。主人公が山名を見捨てられなかったのは、彼の中に自分のエスを見ていたからか。

  • 吉屋信子作品が読みたくなり、手にとったが、石川達三の「自由詩人」にいちばん惹かれた。山本有三の「チョコレート」も面白かったし、この3作品はどれもあたりだった。流石。
    2013.06.29

  • 「もう一人の私」(吉屋信子)結婚初夜に訪れたもう一人の女性は双子で生まれた片割れのまぼろし。幻想的な筆致。
    「チョコレート」(山本有三)父の口利きで就職が決まりかけていた彼の前に、横やりが入ったために就職できなくなったという男が現れる。そのことを知った彼の行動は……。
    「自由詩人」(石川達三)お金を上手に借りる詩人。自分が困っていても何とかしてあげたくなる不思議な自由人。引きつけられてぐいぐい読んだ。社会派の彼だが、印象が違うこんな佳品があろうとは。

  • 吉屋信子『もう一人の私』ドッペルゲンガー?
    山本有三『チョコレート』最後の明治ミルクチョコレートの描写は、主人公の自嘲のようなものなのだろうか。
    石川達三『自由詩人』酷い人間だし、今だと一瞬で炎上して社会的に抹殺されるパーソナリティだけど、「作品と人格は別だ」というのは永遠のテーマですよね‥84/100

  • 吉屋信子、山本有三、石川達三、どの作家も初めて読んだ。
    「自由詩人」(石川辰三)はウルフルズの借金大王を連想した。
    ダメダメ男一代記で、兄がダメなら弟もダメで、葬式代を借りにくる。
    自由といいながら、周りの人間に害をなし、特に子どもの扱いが(妻の扱いも)ひどすぎて不快。
    昭和だったらたぶん違う感想だと思う。

  • 20200831-0903 このシリーズは割と気軽に読める。知っているけど読んだことがない作家の作品に触れる良い機会になるね。

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著者プロフィール

1896年、新潟市生まれ。52年「鬼火」で女流文学賞、67年菊池寛賞を受賞。『花物語』『安宅家の人々』『徳川の夫人たち』『女人平家』『自伝的女流文壇史』など、幅広いジャンルで活躍した。著書多数。73年逝去。

「2023年 『返らぬ日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

吉屋信子の作品

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