- Amazon.co.jp ・本 (161ページ)
- / ISBN・EAN: 9784591121603
作品紹介・あらすじ
房雄の心は則子と綾子、二人の異性の間で揺れ動く。青春期の抑えきれない胸の高鳴りが聴こえてくる小川国夫の『心臓』。小学生の象一は、道草をして工場町の石垣に小さな「動物園」を作った。そこへ筑紫という少女が現れて…モダニズム作家・龍胆寺雄が描く子どもたちの旅課後(『蟹』)。「悪にはどんな小さな場所でも決して作ってやってはいけませんよ」。最愛の母を裏切ったことを悔いるうら若き女は、ある衝撃の事件を告白した(プルースト『乙女の告白』)。未熟ゆえに烈しく、秘められた心を描く三篇。
感想・レビュー・書評
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併読している「古書古書話」で知った龍膽寺雄の名前で手に取った。
なるほど、小説のモダニズムとはこういうものか、と。谷崎・伊藤に激賞されたという作品を読みたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「心臓」
命と若さと欲情と。
その力強さと生命力が、風景の描写と合わさって、伝わってきた。
力強い心臓の音、感触。
そしてそこには未熟さも混じっている。
「蟹」
あまりにも子供過ぎて、自分の気持ちも、相手の気持ちも、明確にとらえられない。
そんな少年と少女の姿が見えた。
必ずしも分かり合っているわけではない、という距離感。
言葉はちぐはぐだったり、とりとめなかったりする。
それでも、二人して共同作業をし、同じ時間を過ごし、感情を触れ合わせた。
金魚をうまく扱えず死なせてしまう彼らは、まだ他者との関わりも手探りだ。
最後に出てくる蟹は、そんな戸惑いの姿を象徴しているのかもしれない。
「乙女の告白」
男が書く女の話には、たいてい違和感を感じる。
この作品もそうだった。
なぜだろう?
結局、思考回路や言葉遣いが空想のものだから、なのかもしれない。 -
小川国夫『心臓』
龍胆寺 雄『蟹』
プルースト『乙女の告白』 -
・小川国男「心臓」○
これなんてエロゲ?
水のなかみたいな、不思議な雰囲気がある。
・竜胆寺雄「蟹」○
両親のいない男の子が海岸の堤防に石をつみあげて、蟹だの金魚だのを飼ってる。で、そこにひとつ年上の女の子が来て、この動物園経営をいっしょにしていくことになる。
期待させる展開ではあるが、なんだかこう、情感のちょうど中ほどをいく感じで、そういうのはかえって気つかいそうだ。
・プルースト「乙女の告白」
ビッチビッチビッチ -
則子と綾子の間で揺れる房雄。その肉体に眼がいき、関係を結び、青春の胸の高鳴りが自身の胸壁を打つ心臓の鼓動とリンクする小川国夫『心臓』、15歳の象一が学校帰りに出逢った女の子筑紫と埋め立て地で金魚や鼠、蝙蝠、蟹、等ささやかな動物園を作り世間話をかわす。筑紫との出逢いと別れを描いた龍膽寺雄『蟹』、ピストル自殺を試み命があと僅かしかない若い令嬢。14歳の頃からの母を裏切る快楽の悪徳に染まり、最愛の母を死に至らしめた懺悔の告白録、マルセル・プルースト『乙女の告白』の3篇を収録。何れも未だ花開かない蕾途上の人生。