ピエタ

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著者 : 大島真寿美
  • ポプラ社 (2011年2月8日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591122679

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ピエタの感想・レビュー・書評

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  • よりよく生きよ、むすめたち。
    よろこびはここにある。

    司祭という肩書から自由になりたかったヴィヴァルディ先生が
    宗教ではなく、音楽というかたちで、ピエタの娘たちに与えた祝福。

    本を閉じても、ゴンドラの上でロドヴィーゴが口ずさむ歌や
    光あふれるピエタ慈善院の庭で、少女たちが奏でる弦楽の調べが
    いつまでも胸の中で鳴り響いて、心ごとヴェネツィアへ連れ去られそう。
    音楽を愛するすべての人に読んでもらいたくなる、素敵な本です!

    超絶技巧で音楽を征服するかのようなヴィルトゥオーゾの演奏も素晴らしいけれど
    母から娘へ、父から息子へ、親方から弟子へと、口づてで伝えられる歌や
    「ここを大きな音で弾きたいの!」と、ピアノの椅子の上で飛び跳ねるように
    小さな子が全身を使って弾くフォルテッシモや
    テクニックが追いつかなくても、その曲が好き、という気持ちだけを溢れさせて
    アマチュア楽団が一生懸命に奏でる音楽が、どうしようもなく尊くて
    かなわないなぁ、と思う瞬間があります。

    この物語も、『四季』で有名なアントニオ・ヴィヴァルディが
    捨て子たちに弦楽を教えたピエタ慈善院を舞台にした物語なのですが、

    天賦の才能でヴァイオリンの名手として名を馳せるようになるアンナ・マリーアも
    奏者としては大成できないと気付き、ピエタを経営面で支え続けるエミーリアも
    小さいうちに音楽を諦め、薬草の知識を生かして薬剤師となったジーナも
    裕福な貴族の娘の教養として音楽に触れ、寄付でピエタを支えたヴェロニカも
    高級娼婦の身分ながらヴィヴァルディ先生を愛し、寄り添い続けたクラウディアも

    才能のあるなしや、生れ育ちに関わらず、
    音楽を愛すること、ヴィヴァルディ先生を慕い、崇拝することにかけては
    眩しいほどに平等なのです。

    ヴェネツィアを離れ、遠いウィーンで亡くなって
    父親に押し付けられた司祭というくびきからやっと自由になったヴィヴァルディ先生。
    その温かい祝福を天から浴びて、ピエタの庭で和やかに合奏する
    もうおばあさんになったエミーリア達の姿が
    いつしか、音楽の美しさに初めて触れた頃のあどけない少女の姿に変わって
    心に焼き付いてしまう、美しくいとおしい物語でした。

  • この本が話題になっていた当時は、全く食指が動かなかった。
    18世紀?ヴィヴァルディ?ヴェネツィア?
    それを日本人の作家が書いちゃうのか・・・。
    変なのー、と。

    あー、自分の浅はかさに腹が立つ。
    もうね、最初のページからずっぽりタイムトリップ。
    私もピエタの娘になった気分。
    華やかな音楽がそこかしこに流れる都。
    行った事もないヴェネツィアに思いを馳せ、仮面をかぶりカーニバルに紛れ込む私。なんて素敵。

    それに登場する女性達の名前が良いんですよ。
    エミーリア、アンネッタ、ヴェロニカ、クラウディア・・・。
    イタリア人の名前っていいなぁ。
    ロシアの小説に出てくる名前より断然ロマンチックな響き。
    個人的な見解だけど。

    それはさておき、この作品で最も私の心に響いたのは女性たちの姿勢。
    孤児、娼婦、貴族。
    どんな境遇にあろうともそれに折れることのない心の強さ。
    まっすぐ前を向いて自分のあるべき場所で最善を尽くすその姿に共感を感じる。

    この小説はファンタジーなのかもしれない。
    巷で話題の“養護施設”の裏の部分も、血なまぐさい権力闘争も、汚い部分には蓋をされているのかもしれない。
    仮面で隠された顔のように。でも、いいじゃないか。
    仮面で隠しているうちにいつかはそれが真実になる日がくるかもしれない。そうありたい。

    大島作品を読むのはこれが二作目。
    舞台も設定もまるで違うが、前回読んだ「三月」とこの作品は本質的には変わらないと思う。
    女性の生きる姿と、絆の強さ。
    「むすめたち、よりよく生きよ」 
    やっぱり、これで決まりですね!

  • それぞれの人生には決して外からは見えない様々な顔がある、とも、1人の人間の生は、幾多の他の人生と、それがたとえつかの間であっても混じり合うことで次々創り出されていく、とも…とにもかくにも、人生の不可思議さや奥深さをしみじみ堪能し、色々なことを思いながら読み終えました。

    舞台は爛熟した17世紀のヴェネツィア。
    ピエタという、合奏団を抱えた教会兼児童養護施設のようなところで捨て子として育ったエミーリアという中年女性が、ふとしたきっかけからピエタの音楽指導員でもあった有名作曲家ヴィヴァルディの喪われた楽譜を、長い長い年月をかけて巡ることから紡ぎ出される静謐な物語です。

    孤児だったけど幸せだった子供時代のこと、かけがえのない親友であるアンナ・マリーアのこと、不思議な友情で結ばれた貴族の娘ヴェロニカのこと、自分を捨てて一度も顧みなかった両親とのこと、在りし日の魂で結びついた儚い恋、壊れた縁談、ヴィヴァルディ先生を取り巻くたくさんの人々のこと、先生の秘密を追う先で出会った彼女や友の心を導く高級娼婦のクラウディアのこと、生まれ育ったヴェネツィアという国のこと…。

    実に多くのことがこの本には詰められていますが、それをあちこち追うことが少しも苦にならないどころか、エミーリアの静かで透明な語り口に導かれるように、まるで寄り添うように彼女や周囲の人々の人生を辿りながら、いつの間にか私自身のこれまでの人生にも思いを馳せ、少し感傷的にはなりましたが、最後はとても穏やかな気持ちで読み終えることができました。

    晩年のエミーリアがしたように、いつの日か、自分の人生や過去に出会った人々とのかけがえのない時間に静かに思いを馳せられるようになれたらいいな、と思いました。いえ、そうなれるように、生きていかなきゃな、としみじみ思いました。

    ヴィヴァルディの<l'estro armonico>という、この物語の中で挙げられている音楽を聴きながら読み終えたのですが、物語の最後の鍵を開ける「…むすめたち、よりよく生きよ。むすめたち、よりよく生きよ。…」という節を持つ詩が、旋律にのって流れてきそうな濃密な時間でした。

  • ピエタというと、バチカンの聖ピエトロ寺院にあるミケランジェロ作のピエタ像しか浮かばない。
    ピエタとは、十字架から降ろされたイエスの亡骸を聖母マリアが抱く様子を描いた聖母子像のことなのですが、このミケランジェロの像は、本当に美しくなんというかほんと後光が差しているかのごとく神々しく慈悲深いのです。

    この話はピエタ像は無関係で、18世紀ヴェネツィアにある孤児院・ピエタ慈善院で育った少女たちのお話なのですが、このピエタ像のイメージが離れず、悲しみの中にも美しさと強さを感じるお話でした。

    ピエタ慈善院にある音楽院の教師だったヴィヴァルディ先生。
    「四季」くらいしか存じ上げないのですが、何ともドラマチックな人生です。
    出てくる女性がみんないざという時に凛としてて素敵。

  • ヴィヴァルディ先生が亡くなった。

    18世紀 水の都ヴェネツィア。
    孤児たちが暮らすピエタ慈善院は 音楽の才能のある子供たちを教育し 
    演奏会を開き、その収益が運営の要になっていた。
    そこの音楽教師をしていたのが アントニオ・ヴィヴァルディ。

    彼の遺品の一枚の楽譜を探す事によって 出会い 心通わせる人と人。
    ピエタで育った 孤児のエミーリアとアンナ・マーリア そしてジーナ。
    恵まれたその生まれを嘆く 貴族の娘ヴェロニカ。
    高級娼婦のクラウディア。

    華やかなカーニヴァル。仮面を付けて行き交う人たち。
    運河のゴンドラ 美しい風景 美しい音楽。
    ゴンドラを漕ぐロドリーゴの歌声!

    楽譜をめぐる真相に 感極まります。
    運河の流れのように ゆったりと 美しい物語でした。

     

  • 「むすめたち、よりよく生きよ」 この物語はこの言葉に尽きます。余韻がすばらしい。
    作曲家ヴィバルディと彼が音楽指導した慈善院ピエタに捨てられた娘、ピエタに通った貴族の娘・・・ヴィヴァルディに関わった女性達が、遺された1枚の楽譜を探し求める。楽譜はあるのかないのか。
    実在の人物を描きながらもとてもファンタジックな雰囲気でとても素敵。ヴィバルディ聞きながらもう一度読みます。

  • 感想を書きそびれていたのでこのタイミングで。

    予約していたのをすっかり忘れていたので、
    なぜこれを借りたのか、しばし思い出せずにいたが、
    「そうか。藤田香織さん絶賛だった!」とリツイートをさかのぼって確認したという。それでも三浦しをんよりか!と高まる期待。

    同じ頃「小野寺の~」http://booklog.jp/item/1/4803001669も手に入っていたから、はて、どうしようと思案したが、そんな心配無用でありました。
    先に小野寺~をさくっと読み終え、どちらかというとこちらはゆっくり読み進めていく感じ。

    当初舞台が明らか外国だということを読み始めて知ったという(そんなことさえ知らずに)、一体このストーリーはどういう方向へ進んでいくんだろう・・・と思案しましたが、どうしてどうして、その瞬間瞬間に見せる場面がときにはスリリングに、それでいて人間の奥深さを絶妙な描写で見せてきたり。

    とにかく読後感が、いつまでも胸に残るので結果☆5つ。
    淡々と描かれるストーリーの中に、味わい深い人生の機微というか、
    すごくシンプルだけど奥深い命題がしっかり描き出されていて、
    読み進めているときに面白かったり、味わい深くても、読み終わった後にはたいていぼやけてしまう印象が、これについては今でも断片的にふっと胸によみがえる。

    これこそまさにうまい作品の特徴なのかも。
    藤田さんが言うのも納得。

    というわけで、ぼちぼち落ち着いたら「船を編む」を読みたい。
    今始まったことではないが、よくよく考えたらわたしはいつも
    本屋大賞2位以下ばかりを好んで読んでいる気がする。

  • この小説は、18世紀のイタリアが舞台なのですが、当時の風俗がとてもわかりやすく描かれていて、すっと物語世界に入ることができました。実在の人物「アントニオ・ヴィヴァルディ」を中心に、彼の周囲にいた女達の過去が紐解かれ、彼女たちの人生にわずかな変化をもたらす…。初めは、バラバラに存在していた彼女たちがしだいに深い関係性を持ってくるところがよかったです。謎解きの要素もあり、ラストでは感嘆とともに涙しました。セリフの多い小説なのですが、とにかく彼女たちの言葉ひとつひとつに熱がこもっていて、これが小説だということを忘れてしまうくらいひきこまれます。登場人物全員が、それぞれの悲しみ、強さ、愛情を持っていて、読んだ後は、温かく深い読後感に包まれました。

  • ヴェネツィアのピエタ(捨子養育院)で、その生涯を送ったエミーリアが、静かに綴る物語。巧みなのは、ヴィヴァルディの死から物語を語り起こし、追想の中に在りし日々を蘇らせる構成だ。つまり、全盛時をあえて描かないことで、物語りをロマネスクな覆いで包み込むのである。一方、ヴェネツィアのピエタ、ヴィヴァルディがそこで果たした役割などを、ほぼ史実通りに描くことで、物語に強固な枠組みをも与えている。ピエタでは、花形のヴァイオリニストでも歌手でもなく、地味な事務長役に徹したエミーリアを語り手に選んだことも成功している。
     また、エミーリアが、カルロの一家と遭遇したときに「生まれてから一度も、わたしはああいうふうに家族の一員になったことはなかった」と想うシーンは涙を誘うのだが、物語の結末は宗教的な光と、ある種の法悦に包まれている。
     ヴィヴァルディの音楽は、まさに革新的であったと想う。また、彼は合奏団のメンバーにそれぞれ活躍の場を与えるように、例えばファゴット協奏曲など、実に様々な楽器のための協奏曲を作っている。合奏団を、娘たちを愛していたんだろう。彼は司祭でもあったのだし。

  • 「懸命に生きる女性たちへ―これはビバルディのエールなのです。」

    親に捨てられヴェネツィアの慈善院「ピエタ」で育ったエミーリア。ピエタの音楽の師であるビバルディの存在は彼女を始めヴェネツィアに生きる女性たちにとって忘れえぬものであった。彼の死によって浮かび上がる彼女たちの人生の軌跡を繊細な筆致で描く。

    表紙の装丁やエミーリアと彼女のピエタの親友、アンナ・マリーアの二人がビバルディ先生の死を語り起こす冒頭の印象から、これはこの二人の女性の友情物語なのかと感じましたが、読み進めるうちにそうではないことが分かります。

    カーニバルの喧騒に象徴されるように都市国家としては爛熟期にあったヴェネツィアを舞台に孤児や貴族の令嬢、高級娼婦など様々な運命の下に生まれた女性たちが、司祭でありながら一方でイタリア・バロックのアーティストとして一世を風靡したビバルディとの関わりを定点として描かれています。

    彼女たちはさながらビバルディという太陽を中心にそれぞれの軌道を保ちながら静かに回り続ける太陽系の惑星のよう。ビバルディは音楽を通して彼女たちを照らし続け、死してなおその女性たちの絆を結び続けていたのでした。

    よりよく生きよ、むすめたち―

    物語のクライマックスでビバルディの信頼を得ていた老ゴンドリエーレの謡うこの一節は、自らの運命を静かに受け止めて懸命に生きる、彼が関わった全ての女性へ贈られたエールであったに違いありません。

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ピエタの作品紹介

18世紀、爛熟の時を迎えた水の都ヴェネツィア。『四季』の作曲家ヴィヴァルディは、孤児たちを養育するピエタ慈善院で"合奏・合唱の娘たち"を指導していた。ある日、教え子のエミーリアのもとに、恩師の訃報が届く。一枚の楽譜の謎に導かれ、物語の扉が開かれる-聖と俗、生と死、男と女、真実と虚構、絶望と希望、名声と孤独…あらゆる対比がたくみに溶け合った、"調和の霊感"。今最も注目すべき書き手が、史実を基に豊かに紡ぎだした傑作長編。

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