きみはいい子 (一般書)

著者 :
  • ポプラ社
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本棚登録 : 3129
感想 : 570
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  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591129388

感想・レビュー・書評

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  • 桜ケ丘という地域を舞台にした5編の短編集。
    全て“虐待”という重い内容がテーマなので好き嫌いが分かれるだろうと思う。
    私も読み始めは気分が重かった。
    読み進めるにつれ 痛々しくて胸がえぐられるような思いがする。
    だからといって登場人物達には「絶対に共感できない!」と
    胸を張って言い切れる自分でもないと思った。
    自分も育児をする中で似たような思いに駆られることがあったし、今も何が正解かは分からない。
    もしくは身近な誰かがこういう思いに沈んでいるかもしれない。
    難しいテーマなのに読み終えてどこか静かな穏やかな気持ちでいられるのはきっとどの短編でも最後に明るい兆しが見えるからだろう。
    『こんにちは、さようなら』で障碍のあるひろやくんが語る“しあわせ”にウルウル(T_T)
    そうだよね、私たちはきっと必要以上に求めすぎるから辛いと思ってしまうんだ。

    昨年8月から図書館の順番待ちしてやっと読めた。
    読んで良かったと思える1冊。

  • 虐待をテーマにした短編集だけど、文体のやわらかさが感じられ、胸をえぐられると言うよりは、じわじわゆっくりと浸透してくる印象だった。

    特に、「うばすて山」では、祖母の介護で。過去の経験と重なる部分があり、それらを思い出せてくれた。実際、親が自分を忘れてしまい他人行儀にふるまうほど、子供に取っては何と表現したら良いのかわからないほどに、胸が締め付けられ、言葉が出ない唖然とすることだと思う。
    この先、こんな日が来たら、どう対応していけるだろうか?と不安も過った。

    ただ、どれもぬくもりのある一筋の光が感じられた読了感が残ったため、親子って本当に深いものなんだと、読み手も救われる。

    虐待のニュースも悲しいけれど、耳にすることが多い昨今。
    虐待する側、される側にも、届いてほしいメッセージがちりばめられていた。

  • 【サンタさんの来ない家】
    『一枚のTシャツだって、一本の鉛筆だって、この子のためにだれかが用意してくれた。そのひとたちの思いが、この子たちひとりひとりにつまっている。
    そのだれかは、昨日はこの子たちにごはんを食べさせ、風呂に入れ、ふとんで寝かせ、今朝は朝ごはんを食べさせ、髪をくくったりなでつけたりして、ランドセルをしょわせ、学校に送り出してくれたのだ。
    そんなあたりまえのことに、ぼくはやっと気づいた。』

    『たしかに、こどもは親をえらべない。住むところも、通う学校もえらべない。偶然によせあつめられて、ここにいる。ここで、揚げパンを食べている。
    だからこそ。
    みんな、こどもなりに、ここで、ふんばっているんだ。
    ぼくは揚げパンをかじりながら、泣きそうになるのを、必死でこらえていた。』

    【べっぴんさん】
    『あたしもそうだった。
    たたかれるようなわるいことは、なんにもしていないのに。
    今になってわかる。
    そのときはあたしも、あたしは世界で一番わるい子だと思っていた。』

    『冬はいい。寒いから着込んで、肌の露出が少なくなる。たたいた跡も、けった跡も、おして家具にぶつけた跡も、積み木を投げつけた跡も、みんなあたたかい服がかくしてくれる。着せれば着せるほど、いいママになれる。』

    『なんであんなことしたのよ。なんであたしを怒らせたのよ。なんであんなことして、あたしにたたかせたのよ。あたしは、いいママでいたかったのに。たたかせたのは、あんた。みんなあんたのせいなんだから。』

    『あたしもそうだった。なにもかもがくりかえされる。
    はじめからなにもしなければ、きっと、こんな気持にならなくてすむのに。
    こどもを、生なければよかったのに。
    そう。ママは、生まれなければよかったのに。
    あたしなんか。』

    『わらっている。でもその笑顔をいつ貼りつけたのか、あたしにはわかっていた。あたしもついさっき、扉の前で貼りつけたばかりだったから。』

    『「たばこでしょ。おんなじ。」
    はなちゃんママは、知っていた。そのときの痛みを。消えない親の怒りの跡を。自分の体に刻まれたそのしるしを見るたびに、自分は、親に嫌われている、世界で一番わるい子だと思い知る。いくつになっても消えない、世界で一番わるい子のしるし。』

    【うそつき】
    『ぼくは知っている。
    たとえ別れても、二度と会わなくても、一緒にいた場所がなくなってしまったとしても、幸せなひとときがあった記憶が、それからの一生を支えてくれる。どんなに不幸なことがあったとしても、その記憶が自分を救ってくれる。
    雨に振りこめられた家の中。
    このひとときの記憶が、いつか、優介とだいちゃんを救ってくれますように。
    ぼくは祈った。』

    【こんにちは、さようなら】
    「ね、ひろや。しあわせってなんだっけ。しあわせは?」
    「しあわせは、晩ごはんを食べておふろに入ってふとんに入っておかあさんにおやすみを言ってもらうときの気持です。」

    『たしかに、それほど仕合わせなことがあるだろうか。
    たたかれたって、おとうさんに捨てられたって、おかあさんに殺されそうになったって、この子は仕合わせの意味をよくわかっている。』

  • 虐待をテーマにした短編集。
    あちこちで評判が良いようなので手に取ってみた。虐待をテーマにしている割には上っ面だけを描いている綺麗事のような感じがする。それだけ虐待を正面から取り組むと言う事は難しいと言う事か。それとも作者の意図か。
    事件になるほどではない日常に潜む虐待を描いたと考えれば納得。
    文章はとてもきれいなので、他の作品も読んでみたいと思った。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「日常に潜む虐待」
      どちらかと言うと、目立たないグレーな場合が怖い気がする、、、
      文庫になったら読んでみようかな。。。
      「日常に潜む虐待」
      どちらかと言うと、目立たないグレーな場合が怖い気がする、、、
      文庫になったら読んでみようかな。。。
      2013/01/04
  • 虐待されている子供の話

    明るみになっていないだけで
    きっとそこら辺中にあるんだろうな。

  • おとなって、時に残酷ですよね。
    こどもも、時に残酷ですよね。

    いじめとか虐待とか
    大昔から存在していて
    もしかしたら人間がこの世に誕生した時からあったものかも。

    親になる年齢に達してこの本を読んだわけですが

    誰も我が子をいじめっ子に育てたいとは思わないし
    いじめられてほしくないと思うだろうし

    はなから虐待しようだなんて思わないであろうし(これは難しい問題だけども)

    自分に子供ができる日が来たならば
    その子がどうあろうと
    ただただ抱きしめてあげたい、と

    なんなら、他人の子でも抱きしめてあげたい、と

    じんわりと温かく、切ない気持ちが溢れる一冊でした。

  • 親に虐待されている子ども、かつて虐待された大人たちを主人公に、虐待の生々しい様子とそれらが心に与える傷、たとえ虐待が終わっても残る深い傷痕を描きつつも、その受け継がれる怨嗟の鎖から脱け出す、離れる、救い出される小さな糸を編み出そうとする物語。

    「どうして作者はこんな辛く悲しい物語を書くのだろう」と読みながらに考えさせられる。虐待を受けた人たちの存在を知らしめるためか?その人たちに少しでも光明を抱かせるためか?虐待する者たちへのメッセージか?それとも虐待する者たちへの救いの手でもあるのか?わからないけれど、それだけのメッセージ性のある物語。

  • 虐待をテーマにした短編集。
    とまとめると、暗く重そうだが、読後感は悪くない。
    どの話も、どこかに救いがある。
    もちろん、厳しく、難しい問題で、鋭く突きつけられることもある。
    「べっぴんさん」が泣けた。
    「うそつき」と「こんにちは、さようなら」もよかった。
    http://koroppy.cocolog-nifty.com/blog/2013/08/post-f62c.html

  • 虐待をテーマにした短編。
    独立した話だけれど、どこかでつながっている烏ヶ谷地域でのお話。
    辛すぎるお話の中にわずかでも光が見えることで救われた。

    怖いね。自分はきちんと子育てできてるかな。
    小さい時に何気なく言った一言が
    子供の心に大きく残っていることが・・・
    良い場合、悪い場合どちらにせよ。
    子供から聞かされると、ハッと気づかされることがある。
    小さいころの母親って、絶対的存在なんだよね。

    今なら、もっと上手に子育てできるんじゃないか。。。なんてね。

    こんな親でも、子供はすくすくいい子?に育ってくれました。
    ありがとう。本当にありがとう。

  • 「きみはいい子」
    この一言で何人の子どもが救われるんだろう。
    そんなことを考えさせられました。

    虐待をしてしまう親と救いを求めることができない子どもたち。他人の家の中なんて覗くこともできないし、どんなことが起こっているのか考えたこともなかったけれど、私の近くにも救いを求める人がいるのかもしれない。
    読んでいて辛い話もあるけれど、この本の中には愛をもって光になってくれる人がいました。本当に良かった。
    良かったと思う反面、現実にはその光すらない暗闇の中で命を落としていく子どもがいることを思うと悲しくて仕方ないです。
    自分が親になるとき、もう一度読みたい本です。

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著者プロフィール

徳島県に生まれ高知県で育つ。高校在学中に坊っちゃん文学賞を受賞。筑波大学で民俗学を学ぶ。創作、昔話を再話し語る。昔話集に『女の子の昔話 日本につたわるとっておきのおはなし』『ちゃあちゃんのむかしばなし』(産経児童出版文化賞JR賞)、絵本に「女の子の昔話えほん」シリーズ、『つるかめつるかめ』など。小説に『きみはいい子』(坪田譲治文学賞)『わたしをみつけて』『世界の果てのこどもたち』『神の島のこどもたち』などがある。

「2023年 『世界の女の子の昔話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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