十六夜荘ノート

著者 :
  • ポプラ社
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感想 : 61
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  • Amazon.co.jp ・本 (350ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591130704

作品紹介・あらすじ

ひとり静かにこの世を去った大伯母から、高級住宅街にある古い洋館を遺された雄哉。思わぬ遺産に飛びつくが、なぜか屋敷は「十六夜荘」という共同住宅になっていた…。社会からドロップアウトした変わり者たち-40代無職のバックパッカー、ダイ出身の謎の美女、ひきこもりミュージシャン(自称)、夢を諦めきれずにいるアラサー美大生-が住む「十六夜荘」を大伯母はなぜ、雄哉に託したのか。そして屋敷に隠された秘密とは。

感想・レビュー・書評

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  • 仕事一筋で若くして昇進し、自分こそが正しいと思って生きてきた雄哉。ある日、会ったこともない大伯母から突然一等地の屋敷を相続する。屋敷は十六夜荘というシェアハウスになっており、安い家賃で貸し出されていた。最初は土地を売る気満々だった雄哉だが…。
    ストーリーとしては有りがちな、堅物な主人公が段々と心を開いていくような話だが、その雄哉を中心とした現代と、大伯母である玉青を中心とした戦前戦後の話が交互に描かれており飽きない流れになっている。その流れが、玉青の人柄や強さと、雄哉が弱さも見せつつ十六夜荘に興味を抱いていく姿を少しずつ近付けて行き、最後のとあるシーンでは思わずホロリと涙が流れた。
    図書館でたまたま目につき借りてきたが、読めて良かった。

  • マーケティング会社で辣腕をふるう大崎雄哉は、成功者としての自信に満ちた忙しい日々を送っていた。

    ある日、親戚がロンドンで亡くなり、相続人として雄哉を指定しているという知らせが入る。
    早逝した実母との思い出すらも乏しい雄哉にとって、祖母の姉にあたる大伯母・玉青はさらに遠い存在でしかなかったが、元華族であった玉青の遺した都内一等地の不動産には興味を持つ。
    現在シェアハウスとして利用されている十六夜荘は、雄哉にとっては処分すべき老朽化した建物でしかない。早速4人の店子に退去を申しわたすが…


    玉青の視点から語られる戦中と戦後の混乱期。
    雄哉の視点から語られる現代の社会。
    2つが交互に語られる。

    古内さんの本はまだ読み始めなので、こういうものも描くんだ!と嬉しい驚き。
    とても読み応えがあった。
    戦中の歪んだ価値観の中でも、決めつけられる事を嫌い、自分の心に従う玉青と玉青の兄一鶴、そして十六夜荘に集う若き芸術家たちがキラキラと輝いている。

    戦中戦後の若き芸術家たちを描くストーリーとしては、原田マハさんの『太陽の棘』も良かったが、これもその隣に並べたい。


    不満があるとすれば、帯の文句。
    『タイヘンな遺産、もらっちゃいました』
    この帯を見たら、変人が集まるシェアハウスでのドタバタコミカルストーリーみたい。

    猛烈に働いて出世しながら、食べ物の味さえわからなくなっていた雄哉が、失業しプライドをズタズタにされた後、やがて玉青の生き方から様々な思いを受け取り、自分の記憶になくとも母・祖母・大伯母に愛されていた確信を得て変わっていく過程は、コミカルとは正反対。

    いや、でも騙されてでも読んで欲しいから、これはこれでいいのか。

  • 英国でこの世を去った大伯母・玉青から、高級住宅街にある屋敷「十六夜荘」を遺された雄哉。思わぬ遺産に飛びつくが、大伯母は面識のない自分に、なぜこの屋敷を託したのか?遺産を受け取るため、親族の中で異端視されていた大伯母について調べるうちに、「十六夜荘」にこめられた大伯母の想いと、そして「遺産」の真の姿を知ることになり―。

    「彼方の友へ」を読んだ後に押し寄せた感情に似ている。
    坂本ヒメミさんの装丁画に惹かれて初めて読んだ作家・古内一絵さん。文庫に描きおろされた装丁画も素敵(どなたかしら?)。
    戦争が本格化していく中で、出征していく玉青の兄・一鶴は戦争を止められないと嘆く玉青に言う。「確かにこの世は不公平だよ。けれどね、それを嘆く暇があったら、僕は残っている大事なものを守る。守れるだけ守ってみせる」静謐な言葉の中に強い意志が漲っていて胸を衝かれる。
    太平洋戦争時に日本に居た中国や台湾の人たちの立ち位置が変化していく様を知れたが、残念ながら理解できなかった。戦後も日本に住み続けた華僑を待ち受けていた過酷な運命、宿題に課そう。
    玉青が守り抜いた「十六夜荘」が雄哉に引き継がれ、新しいストーリーがまた加わっていくのだろう。
    無言館も訊ねてみたい。

  • 現代の雄哉と戦時下の玉青。
    場面と視点がクルクル入れ替わって、
    読みづらい、やめてしまおうかと何度も思いましたが、終盤に差し掛かるにつれて、
    結びつきが見えてくると、全体像が浮かび上がって、何とも言えない感動でした。
    欠けていくタイミングは辛いね。
    でも、欠けた月はきっとまた満ちる。
    満ちても厚い雲に隠されてしまうかもしれないけれど、私は私。
    それを貫くのはきっととても精神力が必要で、貫き通した玉青さんを深く深く尊敬する。世間からは評価されないかもしれないし、そんな自分を卑下してしまいたくなるかもしれないけれど。
    It's your imagination.
    強く生きたい。

  • 大伯母の遺産「十六夜荘」を相続した雄哉の物語と、その大伯母・男爵令嬢玉青の戦中戦後の物語が交互に進んで行きます。
    人々の生命も尊厳も押し潰した戦争、人々が自らを見失い潰れても顧みない現代のあり方に怒りを感じます。

  • 帯のコメント読んで、ミステリー小説かと思ったら全然違った

    二つの物語を交互に読むのに、無理や混乱がなく、良い所でつづくになって、お互いの章の先が知りたくて、どんどんページを捲らされる感じはスゴイ。

    好きな作家さんだし、作品として面白くは有るけど、玉青が親族から酷い評価をされていたり、雄哉のやり方に色々問題は有ったにせよ、それ以上に会社や取引先の対応が理不尽なままだった事に、晴々とした読後感はなく、特に玉青の場合は戦争も絡むのでやり切れない

    けど、本人達が納得してるなら、ハッピーエンドでは有るのかな

    あのコネ入社のバカ孫だけは、それなりの因果応報が有って欲しかったけど、人生は不公平なの、ああ言う人はそうやって一生ぬくぬく生きていけるの、と言う所も含めて大人の終わり方?

  • マカンマラン以上はないだろうと思って読んだらとんでもない!
    最高でございました。

  • 大伯母から高級住宅街にある古い洋館を遺された雄哉。思わぬ遺産に飛びつくが、なぜか屋敷は「十六夜荘」という共同住宅になっていた。「十六夜荘」を大伯母はなぜ、雄哉に託したのか。そして、屋敷に隠された秘密とは?

    過去と現在を行き来して隠された秘密を解きながら,変わっていく気持ちが面白かった。

  • マカンマランシリーズを読んで、古内さんの本を読み漁ってます。
    最初は、十六夜荘の面々と主人公が心を通わせていく話だろうと思いながら、読み進めて行きましたが、十六夜荘の持ち主である女性の戦時中の熱い思いを紐解いていく話に。
    古内さんの本は、とても強く哀しく明るくてよいですね。

  • 素敵な話でした。装丁に惹かれて読んだけど中身も良かった。
    戦時中を生きた大叔母の話と大叔母の残した十六夜荘を相続することになった現実主義のエリートの話が展開されるんですが、読みやすく読後は暖かい気持ちになりました。

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著者プロフィール

1966年、東京都生まれ。映画会社勤務を経て、中国語翻訳者に。『銀色のマーメイド』で第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞し、2011年にデビュー。17年、『フラダン』が第63回青少年読書感想文全国コンクールの課題図書に選出、第6回JBBY賞(文学作品部門)受賞。他の著書に「マカン・マラン」シリーズ、「キネマトグラフィカ」シリーズ、『風の向こうへ駆け抜けろ』『蒼のファンファーレ』『鐘を鳴らす子供たち』『お誕生会クロニクル』『最高のアフタヌーンティーの作り方』『星影さやかに』などがある。

「2021年 『山亭ミアキス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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