- Amazon.co.jp ・本 (279ページ)
- / ISBN・EAN: 9784591130759
作品紹介・あらすじ
人は永遠の若さを願うけれど。
彼女の秘密はあまりにも切ない。
2012年本屋大賞第3位『ピエタ』に続く、大島真寿美の次なる傑作。
感想・レビュー・書評
-
ある一家には100年以上守り続けた秘密があった。
明治末期に生まれた双子の女の子、豊世と嘉栄。
嘉栄は人よりも時間の流れが遅く、ゆっくりとゆっくりと成長する。
豊世がすっかり中年の女になった頃も、嘉栄は輝くような若さを放っていた。
豊世の葬儀の際も、嘉栄は女盛り。
歳を取らない本人ではなく周囲の人々の思いが色濃く反映されているのが、ありがちな不老不死の物語とは違うところか。
嘉栄の苦悩や孤独よりも、むしろ豊世が嘉栄の存在によって引き起こされる不安感や厭わしさが物語全体を覆っている。
双子で生まれて誰よりも近しい存在になるはずなのに、敢えて存在と遠ざけてしまう愚かしさ、哀しさ。
小説全体に流れる幻想的な雰囲気とあいまって、三島さんの文章力はさすが。
話は飛ぶが、知人の家にミーちゃんと言う猫が一匹飼われていた。
確か私が小学校の頃から飼われていたように思う。
我が家もその後、犬を飼ったり猫を飼ったりしていたがとうに亡くなっている。
しかし、みーちゃんはまだまだ生きていた。
私が成人しても、結婚しても、まだまだ確かに生きていた。
亡くなったのは私が30歳を過ぎてからのことだろう。
おそらく、ミーちゃんのいた時間は軽く20年を超えていたのではないか。
猫の年齢は20年を超えると化け猫の域とどこかで読んだことがあるが、猫は何年生きようが家族にひた隠しにされたりしない。
長生きだねー、で終わりである。
もちろん、猫同士で短命の猫が長命の猫を羨んだりもするまい。
人間てなんと愚かな生きものだろう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
これは物語なのか。
実在する一家の記録なのではないか。
書かれていることが信じられるかと言われれば、信じるのはとても難しい。
でもそれを信じるしかない状況に置かれてしまった人達の心の動きには、これは現実なのかもしれないと思わせる説得力がある。
語り手は小説家の「るるちゃん」。
彼女は祖母に教わった秘密を記録した。
曾祖父が隠すことに決めてしまったことで守るしかなくなった秘密。
どんなに怖くても逃れられない呪縛のような秘密。
そしてその中心にいるある人のことが、好奇心と畏れの両面から書かれている。
嘉栄さん程に極端ではないにしても、誰もがみんな違う時間の流れの中で生きているのではないだろうか。
死ぬ年齢はバラバラだし、老い方も人それぞれ。
他人と生きるということは、そのずれを受け入れることなのかもしれない。
豊世さんが嘉栄さんとのずれを受け入れざるを得なかったように。
先に老いていく辛さと置いていかれる辛さ。
自分のこととして想像するとどちらも恐ろしい。
では、身近に嘉栄さんのような人がいない私には、この恐ろしさは他人事なのか?
たぶん、そうではない。
私はいずれこれに近い恐怖を感じることになる。
一緒にいられると信じていた人から切り離される日がきっと来る。
その時にきっと豊世さんと嘉栄さんのことを思い出すはず。 -
一族が隠しつづけてきた女性の秘密を祖母から語られた小説家の「るるちゃん」は、誰にもみせることのない、その女性と周りをとりまく人々ー主にに双子の片割れである祖母の言葉を借りてー綴っていく…
私も付記はなくてよかったタイプです。ただ、彼女自身が自分を神聖視して欲しくない、と思っていることを表現するためには必要かな、と思った。
本棚にある、曽祢まさこ『ブローニィ家の悲劇』を思い出した。
不老は憧れだけど、周りの人が先に逝くのはどんな気持ちだろう…
(同じ雰囲気の本)
…時をさまようタック
…裏閻魔 -
(No.13-24) ミステリに分類しても良いのかな?
『私の名前は、るみ子。子供の頃から呼ばれていた愛称はるるちゃん。実はまったく別の名前があって、それは小説家としてのペンネーム。だけどいま書いているのは小説ではない。この記録を書きたくて、でも書き方が分からないのでいろいろやっているうちに小説家として日々を送るようになった。だからいまから書く、決して公表できないものが本当に書きたかったものなのだ。
祖母が亡くなった時。最後に話した日に祖母から委ねられたこと。
書いておくれ、みんな書いておくれ・・・。私があんたにしゃべったことをみんな。
そんなことをしていいの?ずっと秘密にしてきたことを。
あれからずっと考えてきた。いまもまだ迷い続けている。』
うわ~、これから何が語られるの?もう興味津々。
現在のるみ子の生活。祖母から聞いたこと。調べて分かったこと。関係者にそれとなく聞きまわったこと。
それらが行きつ戻りつしながら、段々に秘密にしなければならなかったことはなんなのかが読者に分かってきます。
必然的に、ある一家の何代にもわたる年代記になりました。
これは家族構成をしっかり把握しないと分からなくなりそう!と、途中で家系図を作成しました。
いろんな人がでてくるのに、名前の時もあれば、祖母、曾祖母、祖父、父方の祖父、叔母など、名前以外の呼び方で説明されてたりして混乱しちゃったから。
この書き方は雰囲気作りには良い感じでしたが、自作家系図は役立ちました。
秘密がなんだったのかがわかると、こういう題材は今までもよくあった話だわと思いましたが、切り口がなかなか良い。
そして、不思議な出来事なのに、とってもリアル。そう、周りの人の行動はこれしかなかったんだろうな、と納得できたの。
どこかで忸怩たる思いがあって家族関係がきしみながらも、どうしようもないので結束しなければならず。その苦しみが伝わってきました。
ずっと読んできて、もどかしい思いがありました。視点がるみ子なので、ある人がどう思っているのかが分からなくて。
でも最後に附記がありました。
欲しいと思っていた視点が、はいっと差し出されすっきりしました。うまい構成だなと感心しました。
苦しさや辛さもあるけれど、とても素敵な物語でした。
作者は沢山本を出されていますが、私にとって初読みの作家さんです。
そして、この本の情報をどこで拾ってきたのかすっかり忘れてしまった・・・。
誰かのブログで見かけたんだと思うのですが、教えてくださった方ありがとう! -
まずは装丁の美しさにまず心を奪われた。美しい。
一族に護られ守られひっそりと生き続けている、と思われているその人が実は一族をその手で動かしていた。
その両方から語られる長い長い1人の女の人生。その何と言おうか、二重らせんの神話、みたいな物語にほれぼれした。
作者がちりばめたこのたくさんの企みを拾い集めるごとにこの物語は広く深くその世界へと誘っていく。
読むたびに、この物語は新たなる神話を紡ぎだす -
大島真寿美さんの作品2冊目です。双子で生まれた女の子の片方が、とても人の倍くらいの遅さで成長する。普通の速度で成長して老いていく片方と、いつまでも若いけれど、自分よりずっと若かった親族やその子供と死までも見届ける事になるもう一方、というストーリー。それぞれにジレンマが生じる、
今まで触れたことのない不思議な作品でした。
なんだか全ての人物がザラザラしていて、読み心地は良くはないのだけれど、清々しいほどにあるがままにこの奇異な現象を受け止めるお手伝いさんなどが出てきて、ハッとする箇所が幾つもあった。 -
光の輝くなかに産まれた双子。家族の愛も財産も溢れんばかりの幸せな少女たち。そのはずだった。
家族とわずかな人間のみが知るこの家の秘密。守るために封じたのか、封じなければ恐怖であったからか。恐怖は大いなる羨望だと彼女は知っていたのだろうか。
時間を逸脱した世界に住む彼女が本当に欲したのは『ひと』として生きる、ただそれだけなのかもしれない。
大島真寿美さんの作品には光りが見える。目も眩むような閃光ではなくあたたかな慈悲に似た光り。緑の芝生にひときわ映えるゼラニウム。
さあ、この井戸のお水をどうぞ。