コンビニたそがれ堂 空の童話 (ポプラ文庫ピュアフル)

著者 :
  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591132074

作品紹介・あらすじ

本当にほしいものがある人だけがたどり着ける、不思議なコンビニたそがれ堂。今回はその昔小さな出版社から刊行された幻の児童書『空の童話』をめぐって、優秀な兄に追いつこうと頑張ってきた若い漫画家の物語、なぜかおやゆび姫を育てることになった編集者の物語、閉店が決まった老舗の書店の書店員と謎めいたお客様たちの物語、そして老いた医師が語る遠い日の夜桜の物語の四作を収録。感動の声が続々寄せられる大人気シリーズ、待望の第四弾。

感想・レビュー・書評

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  • あなたは『コンビニ』を利用したことがあるでしょうか?

    なんて質問は愚問ですね。2021年1月現在、なんと全国に57,000店もあるという『コンビニ』。この一週間を思い返してみても、『コンビニ』に行かなかった日はあるのか?というより一日一回しか行かなかった日はあるのかという位に、毎日複数回そんなお店を訪れているヘビーユーザーでもある私。

    そんな『コンビニ』にはないものはないのではないかという位に色んなものが揃っています。レジカウンター横で出されるコーヒーも流石によく考えられた万人が好みそうな味わいです。ふらっと寄った『コンビニ』で気軽にこんなに美味しいコーヒーが飲めるなんて!世の中悲しいことも辛いこともありますが、少なくとも『コンビニ』という存在の素晴らしさはこの国に暮らすすべての人にとって幸せと言えることなのではないかと思います。

    さて、そんな『コンビニ』が小説の中に大きな存在感をもって登場する作品があります。『もともとこの風早(かざはや)の街には、神様や妖怪、精霊たちの伝説や言い伝え、怪談が多い』という村山早紀さんの作品の舞台、それが『風早の街』です。そんな街にある『コンビニ』にも不思議がいっぱいです。
    
     『そのコンビニには
    この世で売っている すべてのものが
    並んでいて
    そうして
    この世には売っていないはずのものまでが
    なんでもそろっている』

    そう、この作品はそんな『コンビニ』を舞台にした『コンビニたそがれ堂』シリーズの四作目です。
    
    『夏の終わりの朝の空は、澄んだ青色でした』という空の下を『早く駅に着かないと、お兄さんが電車に乗ってしまう』と走るのは主人公の各務原航(かがみはら わたる)。『兄貴、兄貴、待つんだ。その電車に乗るな。乗っちゃいけない』と人をかき分けながら思う航は、あの日、『警察から聞いた』話を思い出します。『お兄さんはその朝、風早駅から、光野原市行きの快速電車に乗ったのです。朝六時五十分発の電車の一号車』。そして、辿り着いたホームに『いままさに、ドアから乗り込もうとする背の高い後ろ姿を見つけ』た航は、『兄貴、その電車に乗らないでくれ』と叫びますが、『目の前で、ドアが閉まりました』。そして、走り出した電車を呆然と見送る航は、そんな『自分が叫んだ声で、目を覚ましました』。『ため息をついて身を起こ』した航は『ぼんやりと部屋の中を見回しま』す。ジャーナリストをしている兄の各務原徹は、その朝、『久しぶりに日本にいました』。そして、『快速電車のその一番前の車両で』、『事件に巻き込まれ』ました。『痴漢に遭っていた女子高生を助けようとして、その痴漢に殴り倒された』という展開。『殴った男は次の駅で降りて、逃げて』いったものの、『立ち上が』った徹は『その場で尻餅をついて倒れ、意識を失』い、その後も『意識が戻らないまま、眠ったきりになりました』。夜になって起き上がった航は、『あの事故以来、食欲はまるでないものの『なんか食わなくちゃな』と呟き、マンションを出て駅の方へと向かいます。そんな時、『あれ?ここ、どこだ?こんな通り、あったかな?』という路地に入ってしまったのに気づきます。『あちこちに鳥居が見えて』いるその通りを『何か…怖いなあ』と思う中、『なんだ、あの灯りは…?』と、『行灯の形をした灯りに、稲穂のマークが描』かれた『お店の看板』を見つけます。『コンビニたそがれ堂』と書かれたその看板を見て、『コンビニに、そんなチェーンがあったかなあ?』と思いつつも気になり中へと入った航を『いらっしゃいませ。こんばんは』という『元気のよい声が迎えてくれました』。『長い銀色の髪』に『金色に輝く瞳』というその店員は、『あの、漫画家の各務原航先生ですよね?』と話しかけてきました。そして、『何か、悲しいことがあったのですか?』と『あたたかな、日差しのような声で、優しく』訊いてくる店員に、気づくと『お兄さんのことを話して』いた航。そんな航は、『ふと、レジカウンターにこしらえてある小さな棚に』あるものが並べられていることに気付きます。そして…という最初の短編〈追いつけない〉。かけがえのない兄をなんとか救いたいという弟の航。そんな航の兄への想いがひしひしと伝わってくる中に『コンビニたそがれ堂』の存在が際立つ好編でした。

    『風早の街の 駅前商店街のはずれに
    夕暮れどきに行くと
    古い路地の 赤い鳥居が並んでいるあたりで
    不思議なコンビニを 見つけることがある』

    というお馴染みの印象深い序文から始まるこの作品。村山早紀さんの代表作の一つとしてシリーズ化もされている「コンビニたそがれ堂」の四作目として登場しました。同シリーズとしては異例の文庫352ページというボリュームが村山さんの執筆意欲を感じさせます。そんな作品は四編から構成されていますが、その長短は極端です。副題ともなっている〈空の童話〉が全体の半分以上を占めるということで少しバランス感は悪いですが、その分含まれる内容はこのシリーズの殻を破るような”驚くべき存在”が登場するなど多彩です。

    そんなこのシリーズはストーリー展開に王道のパターンが存在します。

    ①主人公が何かに思い悩んでいる

    ②偶然に『コンビニたそがれ堂』に辿り着き、そこで何かを手にする

    ③”②”が主人公の悩みを解決する起点を作っていく

    長く続くシリーズものになればなるほどこういったある種の王道パターンは必須とも言えます。それがよくできたものであればあるほどに、”またか”というマイナス感情ではなく、”でたでた!”と、パターン化に快感を感じるようにもなります。このシリーズも上記した序文含めパターン化された物語が何よりもの魅力です。しかし、この作品はそんなパターンから少し外れたイメージで物語が展開するのが特徴です。では、四つの短編の内容を簡単にご紹介しましょう。

    ・〈追いつけない〉: 『どうしたって、俺は兄貴に追いつけない』と、兄の背中を見続けてきた弟の漫画家・各務原航が主人公。ある日、『痴漢に遭っていた女子高生を助けようとして』殴り倒され意識不明となった兄を思う航は『その電車に乗らないでくれ』と夢でうなされます。

    ・〈おやゆび姫〉: 『児童書が大好き』という編集者の織子が主人公。『裏表紙』のあらすじの『主人公の名前を』間違えるというミスをおかして会社を辞めた織子。ある朝目覚めると、『窓辺に置いた植木鉢』の一輪の花に『親指ほどの小さな女の子が座っている』のを見て驚愕します。

    ・〈空の童話〉: 『閉店が決まった』在心堂書店の店員・斎藤が主人公。『昔から何より本が好き』という斎藤は『次の仕事』に思い悩む中、夜空に流れ星を見ます。そんな流れ星をもう二人の人物が見ていました。書店を利用している『悪の秘密結社』の小島遊と、『優しい宇宙人』のスミスです。

    ・〈エンディング〜花明かりの夜に〉: 『雨の中を』歩く若い女医と『おばあさんくらいの年の』女医は道に迷います。『せめて、どこかにコンビニでもあれば』と、疲れている年長の医師を気遣う若い女医。そんな時『暗い路地の向こうに、オレンジ色の灯り』が灯る『コンビニたそがれ堂』を見つけます。

    このシリーズの王道パターンは上記に記した通りですが、この作品では特に”②”が大きくアレンジされているのが特徴です。店には『長い銀色の髪』で『金色に輝く瞳』を持つ店員が働いていますが主人公たちと『色紙とか書いていただけますか?』とか、『お疲れみたいでしたので、ゆずのシャーベットを一さじ、おまけに載せておきました』、そして『なんといっても、このわたしは、サンタクロースの眷属か、お友達みたいなものですからね』といった感じで、この作品では、よく喋る、喋る…のが特徴です。この辺り店員のフレンドリーさが増している一方で、神秘性が薄れてしまうため、私としては少し残念に感じました。

    そんな物語で村山さんは短編間に上手く繋がりを作っていきます。三つに分けてご紹介します。一つ目は『コンビニたそがれ堂』で『風早でいちばんの喫茶店のマスター直伝の、とっておきのコーヒーです』と提供されるコーヒーです。村山さんはコーヒー好きでいらっしゃいますが、そんなコーヒーを全話で登場させます。『さわやかにほろ苦く、なのにまったりまろやかに甘くて、とても香ばしい味』というそのコーヒー、それを『コンビニたそがれ堂』を訪れた面々が味わっていく様はシリーズの他の作品とは一種異なる雰囲気を作り出していると同時にこの作品四編の一体感を作り出してもいきます。

    二つ目は『風早の街の物語はいろいろと増えて』いると村山さんがおっしゃるそんな他の作品の舞台がさりげなく顔を出す点です。全てを拾い切れている自信はないのですが、これから読まれる方のためにメモ的に記しておきたいと思います。ご参考にいただければと思います。

    p.176 『この街には、人魚がらみの伝説がある喫茶店が二軒…お隣の千草苑さんは花と会話ができるなんてことに』 → 「人魚亭夢物語」、「花咲家の人々」他複数

    p.210 『美しい入れ物には、白い鳥、かもめの絵が描いてありました』→ 「カフェかもめ亭」

    p.277 『港のそばの路地の奥に、古い小さなホテルがあります』 → 「竜宮ホテル」

    p.354 『わたしの家 ー 今夜お連れする古いアパート海馬亭であった、夢と浪漫とお笑いと、ちょっとだけ怪奇な物語を』 → 「海馬亭通信」

    最後に三つ目は書名の副題ともなっている『空の童話』です。『遠い日に小さな出版社が出した子どものための冒険物語』と〈追いつけない〉でその存在が示唆されるその『童話』。小説内に他の小説が登場する、いわゆる”小説内小説”を描く作品は多々ありますが、村山さんのこの作品では村山さんらしく、それが『童話』として登場します。『ちょっととろくて不器用な子どもが、ある日、世界を守るために戦いに巻き込まれる』、『怪獣と宇宙船と猫が描かれた、きれいでちょっと古風な色合いの函とそして表紙』、そして『装丁も、おしゃれではありますが昔の、たぶん昭和時代のもの』とそれぞれの短編で少しづつ登場しながら読者の想像を掻き立てる”小説内童話”である『空の童話』。残念ながらそんな『童話』を読むことは叶いませんが、四つの物語の雰囲気感を見事に繋ぎ上げる絶妙な演出素材として強く印象に残りました。

    『一冊の童話の同じ本を小道具に使うと面白いかなと思いつきました』と語る村山早紀さん。そんな村山さんの試みは安心の王道パターンで読ませる『コンビニたそがれ堂』に新たな可能性を見せてもくれました。

    『そのコンビニには
    この世で売っている すべてのものが
    並んでいて
    そうして
    この世には売っていないはずのものまでが
    なんでもそろっている』

    という『コンビニたそがれ堂』。私もそんなお店に入ってみたい!この作品の主人公たちと同じように、そんなお店でゆっくりとコーヒーを味わいたい!そして、そんな『コンビニ』のある『風早の街』を訪れてみたい!そんな風に感じた安定感のある作品でした。


    P.S.このレビューでこの作品に興味をもってくださった方には、まずシリーズの起点である一作目の「コンビニたそがれ堂(ポプラ文庫ピュアフル)」から手に取ることを強くおすすめします。

  • 試験勉強の為、中断していた読書を再開。
    再開1作目は試験後の頭にちょうどいい、ほっこりしたこのシリーズの第4作目。
    今作はあとがきでも書いてあるが、ポプラ文庫史上一の厚みと言う、なかなか読み応えのあるページ数。
    「空の童話」を巡る漫画家、編集者、書店員のお話と年老いた女医さんのエピローグの4編を収録。
    表題作の「空の童話」は閉店寸前の書店を舞台に描かれた年老いた店長さんと、心優しい書店員さんのお話かと思いきや、途中から闇の組織の小鳥遊さんや宇宙人のスミスさんが登場し、一時はどんな展開になるかと思ったけど、ラストは安定のほっこり。
    決して優しい面ばかりではなく、悲しいこともたくさん描かれているけど、読み終わった後は心が優しくなる作品。

  • 待ち遠しいですね。。。

  • シリーズ第4弾。
    この世に売っていないはずのものまでが
    なんでもそろっているという魔法のコンビニ

    ・おいつけない・おやゆび姫・空の童話
    ・エンデイング~花明かりの夜に

    切なくて温かくて優しい物語たちだけど
    心に残る言葉や心くすぐる小物たちもステキです。
    「子どもの本はね、人の人生を作るのよ」
    「本当に大切な願い事は、言葉にしなければいけない
    そうでないと叶わない願い事もあるのです」
    斎藤さんのお子さんは、ステキな夜を過ごしたんだねぇ

  • 空の童話に関わる短篇集。
    本に関わる小説が好きなので購入しましたが、シリーズ4作目でした。1作目は児童書ですが、次からは大人向け?のファンタジー小説みたいです。本当に必要なものが必ず売っている不思議なコンビニたそがれ堂。必ずしも「願っている通りになってハッピー」ではないけれど、優しい気持ちに包まれます。電車で読む方は涙腺にご注意かも。ついシリーズ探しちゃいました。

  • コンビニたそがれ堂シリーズの四作目。
    今回は、夏の終わりの『追いつけない』、秋の『おやゆび姫』、クリスマスの頃の『空の童話』、それに、短めのエンディング、『花明かりの夜に』の四話です。

    それぞれ、今では絶版になってしまった昔の児童書、『空の童話』によって、今の自分がある人々が出てきます。
    そして勿論、素敵で優しい、コンビニたそがれ堂の店長さんも。

    『追いつけない』は、最初からもう、読むのが辛くて、少しずつしか読み進められませんでした。
    きっと幸せになれるに違いない、というのはわかっているんですけれども。
    が、やっと読み進めた先では、そんな期待を裏切って、航さんは念願だったある事を成し遂げられません。
    ・・・でも!やっぱり、裏切られませんでした。それを成し遂げられていた結果よりも、もっと幸せな終わり方でした。
    店長さんの言っていた「一粒で二度おいしい」とは、こういう事だったんですね。

    『おやゆび姫』は、本当に、おやゆび姫を育てるお話です。
    コンビニたそがれ堂で、謎の栽培キットを買ってしまった織子さんは、よくわからないまま、キットに水をやってみます。
    すると、何と、出てきたのはおやゆび姫。
    その子の世話をする為に、すさんでいた織子さんは、きちんと生活して、新しい友人も得ます。
    読んでいて、何だか少し、漫画の『観用少女』を思い出しました。

    『空の童話』では、悪の組織の小鳥遊さんが再登場!彼の意外な一面を知る事が出来て、すっかり好きになってしまいました。
    斎藤さんもスミスさんも、在心堂の店長夫妻も、本当に素敵な人ばかり。
    いつか、在心堂だけで、新しく一つのシリーズが出来ないかなぁ・・・。

  • 【収録作品】追いつけない/おやゆび姫/空の童話/エンディング~花明かりの夜に

  • 一つの童話がキーになった3つ+1つのお話。私も函に入った空の童話に出会いたい。
    悪の秘密結社の社員さんも宇宙人さんも書店員さんには優しいんだな。
    エンディングはしみた。院長先生の過去、これからの思い。

  • 読み終わりました(≧∀≦)
    http://namekoko75.blog.fc2.com/blog-entry-526.html

  • 村山早紀さん。
    やっぱり好きです。

    私にとっての「空の童話」はJ・R・R トールキンの「指輪物語」。
    初めて読んだのは小学5年生でした。あの頃「指輪物語」に出会えたことで、今の本好きな自分がいます。
    その事を思い出させてくれた本書でもありました。

    また、本書が誰かの「空の童話」になることを想像して嬉しくもなれます。
    特に子供たちに勧めたくなる一冊でした。

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著者プロフィール

1963年長崎県生まれ。『ちいさいえりちゃん』で毎日童話新人賞最優秀賞、第4回椋鳩十児童文学賞を受賞。著書に『シェーラ姫の冒険』(童心社)、『コンビニたそがれ堂』『百貨の魔法』(以上、ポプラ社)、『アカネヒメ物語』『花咲家の人々』『竜宮ホテル』(以上、徳間書店)、『桜風堂ものがたり』『星をつなぐ手』『かなりや荘浪漫』(以上、PHP研究所)、げみ氏との共著に『春の旅人』『トロイメライ』(以上、立東舎)、エッセイ『心にいつも猫をかかえて』(エクスナレッジ)などがある。

「2022年 『魔女たちは眠りを守る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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