わが盲想 (一般書)

  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591134573

感想・レビュー・書評

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  •  開始数ページでもう「最高です」とレビュー書きたくなってしまうほど心を掴まれ、文字通りページを繰る手が止まらず、生活の多少のことを犠牲にして一日で読みきってしまった。
     スーダンのハルツーム大学に通っていた盲目の青年(当時十九歳)アブディンさんが、言葉の全くわからない日本の盲学校で鍼灸の勉強をする機会を得て、それから約十五年日本で暮らし、結婚し、震災直後の混乱の中で北九州へ疎開して子どもを持つに至るまでの半生を語るエッセイ本。まあとにかく読んでみて下さい、読めばわかるから、としか言えない魅力がある。声を出して笑ったし、涙も鼻水も流して泣いたし、家で読むべし。
     高野秀行さんの『移民の宴』で紹介されていたので本書を知ったのだが、紹介も何も、高野さんは取材をきっかけに知り合ったアブディンさんと友達になり、「アブは素晴らしいエッセイストになれる」と思ってこの本の出版をプロデュースした張本人。その見込みの正しさにさすが!と脱帽だ。アブディンさんは、稀有な経験をされたというだけでなく、それをこんなにも魅力的な日本語の文章で人に伝えることのできる知性の塊のような人だなと思った。知性、にはユーモアも含まれる。
     日本においてはマイノリティ・オブ・マイノリティ、マイノリティの極致とも言えるような存在のアブディンさん、あからさまなタクシー乗車拒否など、ひどいことも少なからずあったようだが、「そんな可哀想な外国人が、溢れる才能と人間的魅力と篤い信仰心とで、大都会ニッポンで健気に逞しく生きてます」なんていう話ではない。他の誰とも同じように、自分の内なるダメ人間ぶりに手を焼きながら、他の誰とも同じように、ままならない現実の諸問題に次々と直面しては、他の誰とも同じように、父母や生まれ育った環境から受け取った生きる力をフル活用してサバイブしていく。彼と私は、共通項など何もないように見えて、実は全く同じではないかという発見。これが醍醐味なのだが、今回は彼が本の執筆という形で語ってくれた(そして私が読んだ)からわかったことだ。街で行き過ぎただけではわからない。

     以下は、自分用備忘メモ。
    ・勇気というか思い切りというか、ここぞというときの直感/直観の強さと決断力を発揮するシーンが好きだ。「今だ、これだ、これだけは手を離すな!という神の声が聞こえた」という感覚。
    ・父の欠点、母の言葉、兄の助言、弟の趣味。
    ・歩行訓練士の大槻先生、肩の触れ合う妄想からの、靴紐エピソード。投票権はない。
    ・義弘さんの親父ギャグ迷惑、と思ったらなんと超絶役に立ってる。
    ・奥さまの肝の座り方。
    ・内戦、言論の自由、メディアの魔法。

    • akikobbさん
      111108さん、コメントありがとうございます。

      レビュー読みました!(名前、ぜんぜん問題無いです)
      アブディンさん、色んな物事に対する処...
      111108さん、コメントありがとうございます。

      レビュー読みました!(名前、ぜんぜん問題無いです)
      アブディンさん、色んな物事に対する処し方も、それについての語り方も、素敵ですよね。
      ahddamsさんおすすめの『移民の宴』の方も、合わせて読むとまた面白いですよ!高野秀行さんが買ってあげたという自転車の値段が、双方の証言が微妙に異なっているところも見所です笑
      2023/04/03
    • 111108さん
      akikobbさんお返事ありがとうございます♪
      そうそうアブディンさん、めちゃめちゃ勉強漬けで粘る時もあれば「ここは合わない」みたいにあっさ...
      akikobbさんお返事ありがとうございます♪
      そうそうアブディンさん、めちゃめちゃ勉強漬けで粘る時もあれば「ここは合わない」みたいにあっさりと筑波を去ったりと、変にこだわらず物事の緩急つけ方上手いなと思いました。
      この本楽しかったけど、高野秀行さんはさらに破天荒なイメージでついていけるかしら?とよくわからない心配してます。でも自転車の値段の差も気になる事ですし笑『移民の宴』も探してみますね!
      2023/04/03
    • akikobbさん
      111108さん、こんばんは。
      『移民の宴』も、極端な話、わが盲想読者なら(興味の濃淡によってはところどころ飛ばし読みして)アブディンさんの...
      111108さん、こんばんは。
      『移民の宴』も、極端な話、わが盲想読者なら(興味の濃淡によってはところどころ飛ばし読みして)アブディンさんの登場するパートだけ読むだけでも、楽しめると思います。最終章と、最初の方にもちらりと登場だったかと。
      私も高野秀行ワールドはまだこの一冊以外未踏で、ahddamsさんの本棚参考にしちゃってます。
      2023/04/03
  • 日本の生活習慣、家庭、学校、さらにはサラリーマンの日常や就職活動に至るまで、この社会の外側から感じたこの社会の姿が、とても新鮮な作品。
    普段この社会で暮らす自分たちに着いている、先入観や思い込みを持たず、ありのままの日本を、視覚以外の感覚すべてで感じ取っている著者の、感性の結晶のようなエッセイです。

    とにかく、緊張したり、わくわくしたり、驚いたり、楽しかったり。著者の体験を自分たちも体感できる、臨場感に満ちています!

  • 冒険譚のような人生…!

    作者さんのチャレンジ精神、努力がすごすぎて…
    日本語もいったいどれだけ勉強されたのかと思うくらい軽妙な文体でした

    この本を読めたことに、出会いに感謝。

  • 高野秀行さんの何かの作品で登場していた著者の作品ということで以前から気になっていたので読みました。

    高野さんの作品中で、著者は全盲という話があったので、もともと日本に興味があって来日し、日本関係のことを研究している方なのかなと勝手に想像していましたが、冒頭からその予想は大きく外れていてまずびっくりしました。

    節目節目で、勢いのあるというか勇気のある決断の連続で、何とかがむしゃらに前に進んでいこうとする著者はなんだかとてもかっこいいです。そして人間味あふれる人柄や、おやじギャクも交えた楽しい文章もあり、あっという間に読み終えてしまいました。

    こういった文筆活動の面も含めて、研究活動やその他の分野で今後どのように活躍されていくのか楽しみです。

    それにしても、高野さんといい著者といい、エネルギッシュで面白い人たちの周りには自然とそういう人たちが集まっていくのですね。

  • いろんな人におすすめしたい!
    私の知らない世界を教えてもらった。
    知ってると思ってた自分の傲慢さを思い知らされた。
    想像もつかない苦労をされたんだろうけどそれを感じさせないユーモア。
    飾り気のない率直な文章。
    最後は電車の中で泣きそうになりました。

  • スーダンからやってきた全盲の著書の来日直前前から現在までを自動音声ソフトの力を借りながら執筆した自伝的エッセイ(?)です。他言語の方と思えない文章が魅力的です。中身も信じがたいエピソード満載です。

  • ブログに掲載しました。
    http://boketen.seesaa.net/article/392186800.html
    困難にも、ほどがある

    困難を克服して生き延びた話は、人をひきつけずにはおかない。
    戦火、差別、貧困、難病、探検…それらと必死で闘った本人からのレポートは、数多い。
    べつにそれらと較べる必要はないが、本書の著者アブディン青年の克服した困難は、ちょっと類例がない。。

    世界の失敗国家の上位に常にランクされているスーダンに生まれ、弱視から全盲へと進行する病をかかえて生きている少年が、19歳にして日本に留学し、鍼灸を学ぶ。
    もう、設定からして「ありえないだろう」と思わされる。

  • 私と同じ目の病気のスーダン人アブディンさんのお話。こんなにも勇気と好奇心があれば、失明するのも全然怖くない!と思わせてくれる素晴らしい本でした。
    ここまで外国語を自由自在に操れることもすごいし、ポジティブオーラ全開なところも魅力的だし、だけどちょっとだらしないところもあったりする彼の人柄も素敵!

  • おもしろいです。
    スーダンからきた弱視からどんどん視力がなくなっていった、男性のエッセイ。
    明るく、鋭く、書かれています。
    学生の就職活動のこと、タクシーの乗車拒否のことなど。
    日本を気に入ってくれてありがとうっていいたくなる、エッセイでした。

  • スーダンからやってきた盲人留学生のユーモアあふれる日本生活奮闘記。オヤジギャグが同音異義語の習得に役立つとは思いませんでした^o^ 
    目の見えない人がどう生活していくのか、スーダンという国の状況など、どきっとする状況が見えつつ、ユーモラスな文章で楽しく読めました♪

著者プロフィール

1978 年、スーダンの首都ハルツーム出身。生まれた時から弱視で、12歳の時に視力を失う。19 歳で来日し、福井県立盲学校で鍼灸を学んだのち、東京外国語大学へ進学。スーダンの南北紛争について考察するため、アフリカ地域研究の道へ。同大学大学院に進み、2014 年に博士号を取得。東京外国語大学世界言語社会教育センター特任助教、学習院大学法学部特別客員教授を経て、現在、参天製薬株式会社に勤務する傍ら、東洋大学国際共生社会研究センター客員研究員として研究を続ける。また、エッセイスト、特定非営利活動法人スーダン障害者教育支援の会(CAPEDS)代表理事、ブラインドサッカーの選手としても活躍している。著書:『わが盲想』(ポプラ社)

「2021年 『日本語とにらめっこ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

モハメド・オマル・アブディンの作品

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