([は]7-1)わたしのノーマジーン (ポプラ文庫 日本文学)

著者 :
  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591134962

感想・レビュー・書評

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  • 救いのない荒廃した世界。

    施設で育ち、とある事故から足の自由を奪われた女性、シズカ。
    彼女は、桐島ブランドの鞄を修復することの出来る人間であり、そのことでようやくの生計を立てている。

    そんな彼女を介護するために訪れた、人の言葉を話せる赤毛のサル、ノーマジーン。

    シズカの言葉は辛辣で、対するノーマジーンの役立たずさと言えば酷いものだ。
    だが、二人の掛け合いから感じるものは多く、痛みを見せないでおこうとし合う関係は、決して浅さからくるものではない。

    廃れた世界から見放された存在が、慎ましく毎日を生きてゆく。
    暗闇のなかで、ひたすらに「見よう」とする小説。

    幼い頃、役立たずの猫のお手伝いさんがやってくる物語を読んだことを思い出した。

    鮭の身を焼き過ぎて小さくしてしまい、邪魔者扱いされる猫のお手伝いさんが、おばさんと仲良く食事をとる最後は、今思い出しても涙が出そうになる。

    何かが出来ることだけが、存在価値なのではないんだな。
    自分にも、そう声をかけてもらった気がした。

  • 久しぶりに再読。シズカとノーマジーンのやりとりがかわいい。

    無垢で遠慮のない態度にどんどん絆されていくシズカが良い。文庫化にあたり、タイトルに「わたしの」が付いたのも、よりノーマジーンがかけがえのない存在に感じられて好きです。

    初野さんの小説はいつも扱うテーマが重たいのですが、今作ではシズカがシニカルな笑いを提供してくれて、読みやすいなと感じました。

    寓話や参考資料を下敷きに、とても大切なメッセージを届けてくださるのが、初野さんの小説の良いところです。期待通りの面白さでした。

  • 来年には世界が滅びると噂される荒廃した世界の片隅で、カバン修理で細々と生計を立てている車椅子の女性シズカ。
    そんな彼女の元に、言葉を話す不思議なサル“ノーマジーン”がやってきた。
    無邪気なノーマジーンとの奇妙で穏やかな生活がはじまったが、やがて二人の抱える秘密が明らかになっていく──。

    体の不自由さとその生い立ちゆえに外界とのつながりを絶ち、ずっと一人で孤独に生きてきたシズカ。
    介護ロボットの代わりにやってきたノーマジーンは人間の子ども程度の知能しか無く、はっきり言って役立たず。
    手順を覚えられないので家事も頼めない上に仕事の邪魔をする彼を、シズカはとことん邪険に扱います。

    本書の2/3以上を占める第一部では、そんな二人のささやかな日常の出来事が淡々と綴られていきます。
    現状に不満を持たず、他人を必要としないシズカですが、純粋でひょうきんなノーマジーンに影響され、少しずつ変わっていくのです。
    一人きりの閉じた生活よりも張りが出てきて、次第に彼の存在が大きくなっていく様子が、細かいエピソードの積み重ねと共につぶさに読み手に伝わってきます。
    自分よりも弱い存在である彼を励ますために歩行リハビリをはじめたり、自分の食事を分け与えたり。
    傷つかないように自分を守り、諦めの中で生きていた彼女が、誰かのために何かをしてあげたいと思えるようになる。
    それって愛だよね…と、読んでるこちらの心も温かくなってきた矢先、第二部からガラリと様相が変わり、急展開に。

    寓話めいた雰囲気から一転し、残酷で容赦のない現実を突きつけられるシズカ。
    知らなかったら、幸せが続いたのに。
    知ってしまったからには、知らなかった頃にはもう戻れない。
    何かに苦しんでいるシズカの様子を敏感に感じ取り、取り繕うように明るくふるまうノーマジーンの姿が切ない。

    そしてラスト…残酷な真実と同様に、一度知ってしまった愛する気持ちを手放すことなんて、できやしないのです。
    最後にまた、読者の気持ちを温かくさせてくれました。

  • 終末論が囁かれる荒廃した世界―孤独に生きるシズカの前に現れたのは言葉を話す不思議なサルだった。シズカを支えるためにやって来たという彼の名は、ノーマジーン。しかしその愛くるしい姿には、ある秘密が隠されていた。壊れかけた日常で見える本当に大切なものとは。

  • 行き詰まった近未来、将来に対する希望などなく、終末思想を信じる新興宗教及び一部の金持ちが、世の動向を操作する世界…まぁある意味今でもそうなんだけど…に生きる下半身の不自由な革職人と、なぜかそこに送り込まれた言葉を理解する赤毛ザルの奇妙な共同生活。

    貧しくて不便でその日暮らしの革職人がサルの気ままさに途方に暮れる日常風景、これがなんともエエねんなぁ。暗く重たい世の中にぽつんと置いてあるシェルター内のあったかさというか、世の中なんてどうなってもいいから、2人(1人と1匹?)はこのままの奇妙にあったかい生活を続けてくれればいいなぁと思ったのに。

    短い第2部と、さらに短いエピローグ。駆け足ながらも、思わぬ方向から仕掛けを突き付けてきて、さっと収束させる。小説としてお見事!風呂敷の広げ方、畳み方。こういうのもあるんやなぁ。

    冗長に言葉を重ねるところ、さっと流しておくところ。メリハリが効いてる小説は読んでオモシロいものだけど、この作品は重ねどころと流しどころの配置が個性的。いやー、上手いわ!

  • ≪二人(一人と一匹?)なら大丈夫≫

    ノーマジーンかわいい….
    何度も何度も大事に大事にリンゴの実に水を塗っちゃうのが愛くるすぃ.
    落ち込むことがあって,鼻水でぐずぐずになってるのに,涙がでないノーマジーン.

    シズカは強い,かっこいい,たくましい.
    でも悲しい.

    以下,少しネタバレ??




    第1部の前のプロローグみたいな文章の,一文.
    「ふたりの友情のはじまりと終わりの物語を,どう伝えようか」
    え…「終わ」っちゃうの…
    「友情」から「家族」になったということ?
    んわー.この2人から,この本から離れるのがいやだー.

  • 今よりも治安が悪くて危険で不便な世界のはずなのに、二人の暮らしぶりは慎ましいながらに微笑ましくて、ただただ愛しい。
    なんで突然そんな展開に?と思うこともあったので星四つ。

  • 孤独な車椅子の革職人と、知能を持ち言葉を話す赤毛のサルの物語。
    2人とも訳ありの雰囲気がプンプンするものの、シズカがノーマジーンをいじめながら可愛がる描写、だんだんと深まる信頼関係、秘密をしってしまった後の気持ちの変化など、心に響く要素がたっぷりの不思議で温かいファンタジー作品でした。

  • 女鞄職人とヒトの言葉を喋る猿のお話。

    終末感漂う世界観。SFっぽくもありミステリっぽくもあり。
    他の方のレビュー見ると
    「結局シズカのノーマジーンに対する気持ちがよくわからない」
    というレビューが多かった。

    私の中でははっきりと感じ取ることができたので読後感もよく好評価になったのかもしれません。

    ノーマジーンがとても愛らしいです。

  • 孤独なシズカと赤毛の猿ノーマジーン。共同生活を続けていくうちに、お互いの存在はかけがえのない物になっていく。終末論がささやかれ、食料も燃料も満足にない閉鎖的な世界は暗く重たいが、二人の楽しい生活ぶりに救われる。しかし、二人の間には隠された悲劇の出来事があった。それが何とも切ない。

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著者プロフィール

1973年静岡県生まれ。法政大学卒業。2002年『水の時計』で第22回横溝正史ミステリ大賞を受賞しデビュー。著書に『1/2の騎士』『退出ゲーム』がある。

「2017年 『ハルチカ 初恋ソムリエ 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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