アップルソング

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著者 : 小手鞠るい
  • ポプラ社 (2014年5月12日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (371ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591140031

アップルソングの感想・レビュー・書評

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  • 終戦直前、空襲の焼け跡から助け出された赤ん坊、茉莉江。
    少女となった彼女はアメリカに渡った。
    過酷な運命を背負いながらも様々な人々に出会い助けられながらフォトグラファーとなった。
    彼女の残した足跡をある女性が一つ一つ丹念にたどっていく形式をとる。
    茉莉江とこの女性の関係は最後まで伏せられているが、ああ、そういうことかと。
    これは茉莉江が最後に出した答えなんだと。
    そこには希望がある。たとへ望みが希(まれ)なことだとしても。

    絵を描くことが好きだった少女が、ふとしたことで写真の魅力に取りつかれる。
    美しいものだけをとりたいと願った無垢な心が、いつしか戦禍へと向けられるようになっていく。
    太平洋戦争から始まった彼女の人生はあの大惨事へと。
    その間、いったい人間は何をしていたのだろう。
    ベトナム戦争、朝鮮戦争、湾岸戦争、チェチェン進攻。
    戦争は終わることがない。あまりにも人間は愚かだ。
    でも茉莉江は決して希望を捨てることはしない。
    彼女は信じている、人間の持つ善の力を。

    この本のテーマの一つでもある戦争と平和、そして人間の罪と罰。
    このテーマに違うことのない重厚な骨太な作品である。
    私は小手鞠さんの作品を読むのはこれが初めてだ。
    恋愛小説家として有名な作家さんとのこと。
    いやいや、本当か?だとしたらすごいな。

    言葉もろくに話せず男の子のようなやせっぽっちの茉莉江。
    その茉莉江がグランドセントラルステーションに降り立った場面が何度も何度も思い出される。
    2001年8月、私はあの街にいた。それから1か月もたたないうちにあの事件は起こった。
    それもあってなんだか感傷的になってしまった。
    グラウンドゼロと名を変えてからまだ訪れていないあの場所へもう一度戻りたい。
    そこに行ったら茉莉江に会えるような気がする。

  • 第二次世界大戦の終戦直前、岡山の空襲の焼け野原の
    瓦礫の下から助け出された赤ん坊で
    後に報道写真家になる鳥飼茉莉江。

    関わりのあった人々に会いにいき
    話を聞く者によって丁寧になぞられる
    茉莉江の生涯の物語。

    第二次世界大戦から9.11まで。
    助け出されて親戚に預けられた赤ん坊。
    母とアメリカに渡ってから写真に目覚めるまで。
    美しいものを撮るから報道に目が向くまで。
    悪意や悲惨な現実を追い求める日々。

    悪意と慈愛。2つの対極にあるものが
    何度も何度もこれでもかというくらい交互に
    突きつけられます。

    その波に翻弄されながらも、自分が理解するために
    私たちにそれを伝えるために、現場に向かう茉莉江。

    何があってもひるまない、
    どんなことがあっても前に進む
    茉莉江のような女性の物語がたまらなく好きで、
    重たいテーマを先へ先へ急ぎました。

    あるいきさつから、茉莉江の足跡をたどる者と一緒に
    最後に出てくる茉莉江のスピーチに救われる一冊です。

    小手鞠るいさん、以前読んだ本もそうでしたが、
    絵か写真が趣味?と思うほど
    景色がくっきり浮かんでくる文章。私は好きです。

    手のひらにのるような、小ぶりのリンゴ。
    リンゴの花ってそうなんだと、
    咲いているところを見に行きたくなりました。

    ヒロシマ・ナガサキ。そして終戦記念日。
    日本人が戦争を考える8月に、
    この時期に出会えてよかったです。

  • 戦争中、瓦礫の中から救い出された茉莉江。幼い頃にアメリカに渡り、ある日カメラに出会う。美しいものを写すことの好きだった茉莉江が、紆余曲折を経て報道写真家になる人生を描く。
    物語は茉莉江目線と美和子という女性の目線から語られる。戦後から9.11まで茉莉江と共に歩み、途中まるでノンフィクションのドキュメンタリーを見ているかのような気持ちになった程、瑞々しい生が描かれていた。
    悲惨な歴史はくすぶりながらも持続し、創造力にも想像力にも欠ける凶悪な事件・戦争が後を絶たない。ラストの茉莉江の講演の言葉がとても心に響いた。

  • これがノンフィクションでないなんて、本当に信じられない。
    フィクションである、と頭でわかっていても読んでいる間中、これを書いたのは2001年にWTCから救い出された女性、美和子であり、この本の主人公は実在の女性フォトグラファー鳥飼茉莉江である、と思わずにはいられない。
    戦争の炎の中から救い出された孤児茉莉江の人生は、そのまま日本の戦後の歴史であり、世界の戦争の歴史でもあった。
    この世界にあるたくさんの争いと憎しみ、そこから生まれる虚しさと悲しさ。けれどそれが現実。
    その悲しい現実から目を反らすことなく、ただまっすぐに記録し続ける、それがジャーナリストとしての「生」。
    とても深く豊かで切実で壮大なこの物語がこの世に生み出されたことに心から感謝する。

  • 主人公の鳥飼茉莉江は先の戦争のさなかに生まれ、1945年6月の岡山空襲の瓦礫の中から助け出され、10歳のとき、母とともに氷川丸でシアトルに渡った。だが母は自殺。16歳でハイスクールを中退し、単身ニューヨークに出た彼女は、ウェートレスやホテルの客室清掃のバイトをしつつ、やがてカメラ、写真に出会い魅せられる。写真のことを教えてくれた坂木、報道写真家の岩井蓮慈との出会いをへて、彼女は次々と戦争や紛争の真っただ中へと飛び込んでいく写真家となる。一方、資料を集め、ゆかりの人々を訪ね歩き、その茉莉江の足跡を追っているのが語り手の「私」こと美和子。彼女と茉莉江には一瞬だが接点があり・・・。

    ご本人が集大成と仰っているだけあって大作でした。あらすじがあまり出てなくて最初は全く想像もつかず、中盤からしがみつくように一気読み。こんなに残酷で、醜い人間の姿を読んでいるのに、なぜか引きつけられる。おぞましいと思いながらも面白いと思ってしまう自分がいて、茉莉江の撮った写真はこの小説と同じなのかもしれない。ずっと覚えているのは無理でも、忘れずたまに思い出す必要のあるもの。絶望の中で生きた茉莉江が出して講演で語られた結論は、美和子と出会ったときの行動に集約されているように思います。あんちゃんに救われた茉莉江がつないだ命のバトン。決して自暴自棄ではなく、彼女は戻れなくても「幸せ」だっと信じたい。私は茉莉江の生きた時代をほとんど知らないけれど、無性に感動したし心に残った。

  • どんな困難にもめげずただただ進もうとする茉莉江。
    どこからそのエネルギーが湧いてくるのか。
    自身が焼け跡から助けだされた赤ん坊だったから。
    それだけでは頑張れそうにない。
    自分がやりたいこと、これだと思ったことを見つけられた人の強みか。

  • 二世代上の主人公の跡を追う語り手という構図が、ノンフィクションかとも思う実在感を生んでいる。

    派手さはないが、危地に入り込み、自らの心を傷つけながらもチェチェン紛争や3.11などの惨事をカメラに収め続けずにはいられない主人公の生き様に心を打たれる。

  • 戦後の激動の時代を生き抜いた人々。声も発せなかったおとなしい少女が、戦場カメラマンとなり逞しく力強く生きていく。愛する人たちとの別離、死が彼女を強くしていく。この世の中には戦争が消えることはない。人間の最も醜い欲望、そして悲しみをカメラを通して伝えるために写真を撮り続けた一人の女性の壮絶な生涯。圧倒されました。

  • 小手鞠るいさんの恋愛小説はいくつか読んだことがあって、題名からしてこの本もその類だろうと手に取ったのですが、意外や意外、骨太の大河小説でした。

    きっちりと作り込まれたストーリーと丁寧な描写に、途中までノンフィクションだとばかり思っていました。
    次々と突きつけられる人間の醜さ、争いのむなしさ。
    そこから目をそらしてはいけないという、強烈なメッセージ。
    いやはや、小手鞠るいさん、恐れ入りました。

    語り手の女性との接点が最後に明らかになるのですが、それもまたよかった。その頃にはこれはフィクションだとわかっていたので、「え~、その話、ホント?」みたいな感じもなかったし。
    ただ、大空襲、氷川丸、ベトナム戦争、新宿西口騒動、あさま山荘、三菱重工爆破事件、日航機墜落、チェチェン紛争、911……、とこられると、さすがに詰め込みすぎでは?と思ってしまう。実在の人物が本当にそうやって遭遇したなら、うへ~、すごいね、で済むかもしれないけど、フィクションの中でそう語られると、「ありえないでしょ」と思ってしまう。
    最後の911の場面でも、飛行機が衝突してからビル崩壊までに、コーヒー飲んでる時間やメール打ってる時間、さらには現地にいって巻き込まれるだけの時間などなかったのでは? と、リアルタイムで報道を見ていた人間としてはツッコんでしまう。まあ、お話としてはその展開のほうが面白いけれども。
    なので、☆4つ。
    詰め込んだ事件のひとつでも割愛していたら、もっと現実感が出たのかもしれません。

    辛口なことを言ってしまったけれども、この作品を通じて作者が訴えたかったメッセージは素晴らしい。
    人間の醜さ、むごさ、そして、それでも持ち続けなければいけない「希なる望み」の大切さ。
    心に残る本でした。

  • 衝撃的だったし、こわかった。登場人物は皆、架空の人だけど、この物語で描かれていることは現実にあったこと。この本の言葉をかりるなら、忘れてはならないのにちがいないのだけれど、忘れなくては、生きていけない。そんな感じがしました。

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小手鞠るいの作品

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アップルソングの作品紹介

終戦直前、焼け跡から助け出された赤ん坊。
長じて報道写真家となった彼女が目撃したものは――
ひとりの女性の人生とともに、戦後日本、そしてアメリカの姿を描き出す感動作。

◆物語◆
第二次世界大戦末期、焼け跡の瓦礫の中から助け出された赤ん坊、茉莉江は、十歳になった年に母と二人、船でアメリカに渡った。
茉莉江は、自らの手で人生を切り拓いて報道写真家となり、人間の愚行と光を目撃していく。
時代の波や環境に翻弄されながらも、人を愛し、真摯に仕事に向かった女性の命の物語。

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