ビオレタ

著者 :
  • ポプラ社
3.52
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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591145616

感想・レビュー・書評

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  • 『いつも心に棺桶を。』社訓としてこのセリフを毎朝唱えることから始まる有限会社ビオレタ。ちょっとだけ違和感を感じる物語の始まり。『結婚、しとこうか? 』などという軽いのか、いい加減なのかわからない彼からのプロポーズ?を『そういうものなのだ』と受け入れてしまう主人公・妙。でもそんな結婚生活が訪れることはなかった。そして、社訓を唱える妙の毎日が始まった。そんな前提から始まるストーリー。

    大切なものを入れる宝石箱のように、忘れられない記憶や大切な感情、想い出の品々等、処分したいけどできない、自分にとって行き場のないものって誰にもあると思います。そんな時に利用する綺麗な小箱、お客さんが望めば庭の片隅に埋葬してくれるサービス付。だから小箱を棺桶と呼んでいる。なんとも面白い設定です。普通ならこの小箱を埋葬する人たちをたくさん登場させて、その裏にある物語を展開させても面白そうなところ、寺地さんは妙の心の動き、決して広くはない世界だけど一見変わった人たちとの出会いによって前を向いて歩いていく妙の姿を丁寧に描いていきます。

    またこの作品では、寺地さんらしい面白い表現がたくさん出てくるのもお楽しみです。
    『心配するって気分良いもんね。自分の椅子が確保できていて、そこにどっしり座って、まだウロウロしている人を見ながら「あの人大丈夫かねえ」と眉をひそめてみせる。さぞ気分が良かろう。優越感をくすぐられよう。』
    ある意味強烈な皮肉、でもある意味そうだねと感じる誰にでも時々訪れる悪魔の気持ち。

    作品は、姉と弟、その間に挟まれた妙、自分は望まれて生まれたのではなかったのではないか、そんな長年の思いを自分の名前の由来から知る妙、そして、再び前を向く妙を最後まで丁寧に描いていきます。

    『この庭に棺桶を埋めることは、忘れ去ることとは違う。なかったことにしてしまうこととも、違う。』そう、庭に埋めたからといって、それらが消え去ったりはしない。庭はただのゴミ捨て場ではない。棺桶はゴミ箱じゃない。自分を持てない人だった・妙、色んなことが上手くいかないことを全て他人のせいにして、終わらせてしまっていた妙。誰かに認めて欲しい、優しい言葉で受け入れて欲しいと求めるだけだったのが、他の誰か、大切にしたいと心から思える身近な誰かのことを大切に受け入れて心から励ましてあげられる。そんな人へ、そんな人になれる予感の芽生え。妙の成長を通じて、些細だけどハッとする気付きをたくさんもらえた作品でした。

  • 寺地はるなさんのデビュー作。寺地さんの文章や菫さん、千歳さんや蓮太郎くんたちの雰囲気に惹き込まれてあっという間に読了。ついクスクス笑ってしまい家族から怖〜いと言われちゃいました。ちょっひり泣けるところもありました。
    いろいろな言葉がグサグサ刺さりでも、読み終えた後は、なんだかスッキリ。
    菫さんのお店、行ってみたいなぁ♪

  • 『いつも心に棺桶を』行き場のない思い出や記憶をいれる「棺桶」を売る・ビオレタ。主人公の妙(27歳)は婚約解消によって打ちひしがれていた。ビオレタの女主・菫によって拾われる。妙は自分に自信が持てず、心がどこか引っ込み思案。それにより自己嫌悪に陥るタイプ。そこで現れる菫の元夫の健太郎。妙と健太郎の心の揺れ動きは過去の蟠りにより、お互いが一歩前へ出られない。寺地さんの女性の心情を深く抉る描写は素晴らしかった。男性の自分としては複雑すぎる女性の心情を理解するには笑ってしまう箇所が散見。素晴らしい成長譚だった。⑤

  • 優しい本だったな。
    出てくる人たちがみんな不器用で何かを抱えながらもほんのりとそれぞれ思いやっているっていうのかな。
    続きをずっと読んでいたい、そんな本でした。

  • 「道端で泣くのはやめなさい。泣くのは結構。大いに結構。だけどこんな雨の日に道端にしゃがんで泣くような、そんな惨めったらしい真似はやめなさい。他人に見せつけるような泣きかたをするのはやめなさい。不幸な自分に酔うのはやめなさい」

    本を開くなり冒頭いきなりこんな男前な言葉が飛び込んできた。この冒頭にいきなりガシッと心を掴まれた

    雑貨屋ビオレタの店主 菫さん、愛想は悪いけど、発する言葉がいちいちうなづける

    ○ 根ほり葉ほり訊いてくる隣の奥さんには、根ほり葉ほり答えてあげたらいい 。、根ほり葉ほり聞いてくるって、ブツブツ言うのは、人間が小さい

    ○ 『余白』は大切。ないと、見てる人が疲れる

    ○ いろいろ考えなくても、なにかひとつ大切な信条があればその他の小さなことなんて後からついてくるよ

    ○ さびしいのは、人間の標準仕様。さびしいって、普通のことだよ。当たり前の事だよ

    ○ 人の言動を深読みして、利口になったつもりかな。でもその利口さが、一体なんの役に立つ。お前、自分で自分の心を暗くしているだけじゃないか

    ○ 強いっていうのは悩んだり迷ったりしないことじゃない、それはただの鈍感な人。
    「強い」は「弱い」の対極じゃないよ。自分の弱さから目を逸らさないのが強いってことだよ。

    思い出を弔い葬り去る棺桶、一見素敵なようで、わかりそうで、今ひとつ乗れなかった

    まして、27歳の妙と45歳の千歳さんの恋愛は、まるでゴッコ遊びのようで、甘っちょろくて、なんだか馬鹿馬鹿しくも思えたが、随所に出てくる菫さんやら千歳さんや妙のお父さんの言葉には、ハッとさせられた



  • ★4.5

    婚約者から突然別れを告げられた田中妙は、道端で大泣きしていたところを
    拾ってくれた菫さんが営む雑貨屋「ビオレタ」で働く事になる。
    そこは「棺桶」なる美しい箱を売る、少々風変わりな店。
    何事にも自信を持てなかった妙だが、ビオレタでの出会いを通じ、
    少しずつかわり始める――。


    主人公の妙にすっごく共感しました(❁´ `❁) ♡
    あれこれ迷った里、こんな生き方でいいのか悩んでいる。
    自分に自信がなくって、落ち込んでいる時は聴く耳持たずにドンドン落ち込む…。
    みっともなくふらふらいて,揺るがなものを持ちたいって思ってる。

    物語に流れる空気感がとっても良い、心地よかった。
    とっても繊細な心理描写が素晴らしかったです。
    ストーリー的には大したことは起こらなかったけど、
    そこまで、惹きつけ読ませる手腕はなかながてす。
    やっばり、寺地さん大好きな作家さんになりました。
    他の登場人物もちょっと変わってたりするけど、良い人でキャラが立ってて素敵だった。

    心に残る言葉が沢山あり、本が付箋だらけになりました(笑)
    妙が人生を自分の足で歩き始めた。
    全体にゆったりとした時間が流れてて、読後感はとっても爽やかでした。

    ・余白は大切
    ・必要とされていないのが辛い
    ・淋しいのは標準仕様では、人間の
    そうだ、お父さん素敵だったなぁ(*´ `*)

    わたしも、自分の弱さから目をそらさない強い人になりたい!
    自分にとって、一番大事なものをちゃんと知っている一人前の人間になりたい!
    とっても心に響く一冊でした(*´▽`*)

  • 婚約者に結婚直前で振られ、雨の中号泣していた妙は手放したい何かを収める小さな棺桶等を売る奇妙な雑貨屋店主の菫に拾われ、そのまま彼女の店で働く事になる。被害者意識全開でちょっとした事でうじうじ傷付いていた妙が菫や彼女の店を訪れる客、息子の蓮太郎やお試しで付き合い出した千歳との関わりを通してゆっくり顔を上げ、前に進もうとしていく過程の物語。誰にでも等しく優しい千歳との関係に悩むとか、菫や姉の厳しかったり無遠慮な言葉に反発するとかはあるけど全体的には優しい雰囲気。しかしそう見せておいて要所要所で鋭い言葉が刺してくる。「さびしいのは標準仕様」「必要とされてないのがつらい」だけど突き放しているようで実は寄り添う展開になるのがじんわり暖かくて良かった。皆に幸あれ。

  • 「なんで私、フラレてばっかりなんだろう」「恋愛も仕事もうまくいかないな・・・」

    そんな風に悩んでいるとき、オススメしたい1冊が「ビオレタ」です。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    婚約者からの突然、別れを切り出された主人公・田中妙、27歳。

    道端で泣いていた妙は、菫(スミレ)という女性に拾われ、菫の開く雑貨店で働くことになりますが・・・
    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    初めは、なんてことない小説に思えました。
    でも読み進めるうちに、だんだん妙が「私」に思えてきたのです。
    自分本位なところとか、自分にはない強さをもつ菫と比べて勝手にへこんでいるところとか、誰にも必要とされていないと思って悲劇ぶっているところとか・・・
    正直、最初はそんな妙にいらつきました。
    自分のために、千歳さん(45歳)と付き合い始めるところとか・・・なんやねん!と思いました。

    でも、ひとつひとつ見ていくと、そのイラつきは、以前の自分みたいな妙へのイラつき、つまりは私が捨てたくてたまらない「自分のイヤなところ」を持っている妙へのイラつきでした。
    読んでいくと、自分が切り捨てたかった自分の「わがままなところ」が、見えてくるのです。

    最初は好きじゃなかった千歳さんに、どうして妙がひかれていったのか、千歳さんという人がどんな人か、元・婚約者と妙の関係がどんなだったかが、だんだん明かされてくにつれて、すごく腑に落ちました。

    読み終えて、切り捨てたかった自分の部分も全部含めて「自分」なんだということ、その部分をおもしろがって笑ってくれる人と今、一緒にいる私は、しあわせ者なんだなあ・・・としみじみ思いました。

    「妙ちゃんのような人は、妙ちゃんだけだし」
    「妙ちゃんて、いつもじたばたしていて面白いから」(180ページ)

    ここは、何度読んでも泣いてしまう。
    なんて、すてきな言葉なんだろう。
    「愛してる」とか「好きだ」という言葉よりも、私は千歳さんのこの言葉が、大好きです。

  • 主人公の妙が私と重なるところが多い気がして。
    自分自身を認めてなくて、自分が思ってる事もはっきり伝えないくせに、分かってくれないとか、どうせ分からないだろうとか。拗ねて僻んで…あ〜なんか嫌。
    妙が婚約破棄されたのも(文中にあったけど)私にはこの位の人が適当…と思ってた事が見透かされていたから。そう言うのって勘づかれてしまうのよねと同感。
    不器用なのは妙だけじゃない。千歳さんも菫さんも。実は不器用じゃない人の方が圧倒的に少ないのかも。せめて憶測で僻むのはやめようと思う。

  • 婚約破棄され、いじけてばかりの妙ちゃん。
    受け身で流され易くその場しのぎで生きている様子にイライラした。でも菫さんをはじめ、出会う人々は不器用ながらも愛情深い。妙ちゃんも自然に変わってゆく。
    ちょっとメルヘンな設定でふんわりしたストーリーだけど、漢方薬が効くようジワジワ〜と心に残るものがあった。

    私も自己肯定感が低い方だ。
    妙ちゃんのように劣等感でいじける時もある。
    でも自分の弱さを認めて共存すること。
    必要とされている事に自信を持つこと。
    そして、いつか与えられる人になりたいと思った。













     

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著者プロフィール

1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。2014年『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。他の著書に『わたしの良い子』、『大人は泣かないと思っていた』、『正しい愛と理想の息子』、『夜が暗いとはかぎらない』、『架空の犬と嘘をつく猫』などがある。

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