([ほ]4-1)活版印刷三日月堂 (ポプラ文庫 ほ 4-1)

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  • / ISBN・EAN: 9784591150412

感想・レビュー・書評

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  •  活版印刷・・活字を拾い、一つ一つ並べて版を組み、インキを塗り紙に転写し印刷‥。今の情報化が進んだ時代には超アナログですが、刷られた紙の凹み具合、かすれ、にじみや揺らぎに、文字の存在と表情さえ感じさせられます。
     こういうの好きです。ほっとすると言うか、人の血が通っている印象を受けます。そんな活版印刷の世界を通して、不器用に迷いながらも前向きに生きていく人々が描かれる連作短編集でした。

     ほしおさなえさん初読みでしたが、「活版印刷三日月堂」シリーズは6巻も出ているんですね。
     一話ずつ、三日月堂を訪れたお客さんの視点で物語が描かれ、その人たちが三日月堂を訪れ、依頼した以上の完成品と〝何か〟を得て、少し前向きになっていくという構成です。
     名前入りレターセット、ショップカード、コースター、栞、招待状など、味わいのある活版印刷による作品が目に浮かびます。想像して思わず、「それ、私にも作ってー!」と言いたくなります。

     続編は未読で判らないのですが、各話に登場する多くの人(客)が満足し、救われるのでしょう。しかしそれだけでなく、大事なものを全て失い、自分が育った家に帰って活版印刷所を再開させた店主の弓子、彼女自身が再生する物語がもう一つのポイントなのかなと思いました。

     古いものを活かして輝きを与えることは、傷付いた人を再生させる象徴でもあるのかな、と感じました。

  • /_/ 感想 _/_/_/_/_/_/ 
     
    久々にこのシリーズを読み直そうと思い手にしました。私の大好きな作品です。全シリーズ購入して持っているので、好きなタイミングで読めるのがいいですね。ゆっくり、全巻読んでいきます。

    祖父が経営していた印刷所を、孫娘の弓子が継いで再開するお話なんですが、活版印刷と弓子の想いを通じて、皆が前に進んでいきます。

    弓子は活版印刷を再開したばかりで、新しいことに挑戦していきますが、「慣れたことだけをしていてはダメ」という言葉に共感します。今までに経験していない新しいことにいつまでも手を出していきたいと思わせてくれます。それこそ、活版印刷をやってみたいという気持ちは、以前この作品を読んだ時から持っています。来年はやってみようと思います。

    以前読んだ時は、感想を書いていなかったためか、記憶にない部分が多くて、初めて読んだような感じでした。序盤からジワっと涙が溢れてきて、とても心が動かされました。

    とても温かさを感じる作品で、多くの悲しみや迷いの感情の中で、ジワリと幸せを感じることができる作品です。この作品を読むと、静寂に包まれる感じになるとともに、前へ進んでいく気持ちになります。


    /_/ あらすじ _/_/_/_/_/_/

    連作短編集です。
    各話で主人公となる人物と、弓子と活版印刷を通じて、皆が前に進んでいくお話です。

    ■世界は森 ハル
    ハルの息子の森太郎が北海道大学の入学に合わせて、巣立っていきます。
    弓子は活版印刷でレターセットをつくります。

    ■八月のコースター 岡野
    喫茶店を経営する岡野、元経営者の叔父さんと自分を比べて苦悩する日々を送っています。
    弓子は活版印刷でショップカードとコースターをつくります。

    ■星たちの栞 遠田
    宮沢賢治の作品に関わる思い出を持つ遠田先生と、生徒二人が、活版印刷のワークショップに関わっていく。
    弓子は活版印刷のワークショップを開き、栞をつくります。

    ■ひとつだけの方じゃ 雪乃
    結婚を控えた雪乃が祖母が持ってい活字を使って招待状を作りたいと考える。
    弓子は活版印刷で結婚式の招待状をつくります。


    /_/ 主な登場人物 _/_/_/_/_/_/

    ■三日月堂
    月野弓子 28歳、不器用、気まじめ、職人気質

    ■ランニング仲間
    市倉ハル 川越運送店
    市倉森太郎 しんたろう、ハル息子、北海道大学、大学生
    大西 観光案内所のバイト、文具フェチ、20代、大学院生
    柚原 30代後半、背が高い
    葛城 ガラス店兼工房経営、男性

    ■桐一葉
    岡野

    ■私立鈴懸学園(高校) すずかげ
    遠田真帆 おんだ、先生
    村崎小枝 文芸部部長、高校2年生
    山口侑加 〃

    ■結婚を控えた2人と友人
    雪乃 大西の一年先輩、司書
    宮田友明 結婚相手
    金子 デザイナー


    /_/ 機械 _/_/_/_/_/_/

    ■手キン
    手刷の機械

  • 実は本屋さんで平積みになっていたシリーズ6作目の活版印刷三日月堂を買ってしまい、シリーズ気づいて、ならば最初から読まなければと買った本。

    この本は4編からなっていて、シリーズ最初と言うことで活版印刷についても随所に紹介されている。
    やっぱり最初から読んで正解だと思いました。
    それぞれの深い人間像が描かれていて、大きなイベントはないけれど、ほっこりとする本でした。
    このシリーズをとりあえず読んでしまわなければ次に進めないと思いました。
    サクッと読めるので、順番に読んでいく予定です。

  • 以前フォント見本の本を買った。そのくらい本当に文字フォントが大好きだ。(早口言葉?)

    本を読む時も、活字が気になる。シリーズ作品で巻の途中でフォントが変わると、凄く気になる。
    ストーリーに感情移入する時だって、フォントの存在が、私の中ではすごく重要な位置。
    もし活版印刷の文字の本が読めるとしたなら、感無量だろうなあ。

    この本は活版印刷を通して、様々な人の思いが交錯するお話4作。活版印刷の文字のように、少し切ない過去を含んだふんわり温かいお話。

    最後の話「ひとつだけの活字」は泣けました〜。

  • 活版印刷、と聞いてすぐに思い描いたのは宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』。
    ジョバンニが活版印刷所で働いていたシーンが浮かんできた。
    必要な活字を一つ一つ探しあて、丁寧に並べて紙に刷る。
    それら全てがアナログの手作業。
    独特の濃いインクの香りが読んでいる私の周りにまとわりつく。

    亡き祖父の活版印刷所「三日月堂」を引き継いだ28歳の弓子は、印刷所を訪れる悩み深き人達にそっと寄り添う。
    紙に刻み込まれる選ばれし文字達。
    けれど刻み込まれるのは文字だけではない。
    文字を選んだ人達の思いも刻み込まれ、大切なあの人へと伝えられる。
    僅かな凹みが与える心地よい紙の手触りから生まれる温もり。
    文字一つ一つの息遣いまでもが聴こえてくるようだった。
    活版印刷の持つ味わい深さと柔らかさがじわりじわり心に染み入る。
    みんなの優しさに何度も泣けた。
    〈桐一葉〉のコースターは私も欲しい。

    「人生は道、世界は森、結婚は橋」
    「自分で自分の道を決めて、そこで人の役に立つ仕事ができるのが大人」
    「素敵であり続けるには、ちょっとずつ更新しなくちゃいけない」
    ハッとする文章も多かった。
    このシリーズはぜひ読破しなくては。

    • いるかさん
      mofuさん

      はじめまして。
      私もこの本を読んで感動しました。
      そして活版印刷にもすごく興味をひかれました。
      結局シリーズ全部 ...
      mofuさん

      はじめまして。
      私もこの本を読んで感動しました。
      そして活版印刷にもすごく興味をひかれました。
      結局シリーズ全部 一気に読みました。
      続きにレビューも楽しみにしていますね。
      よろしくお願いいたします。
      2020/03/07
    • mofuさん
      dolphin43さん、はじめまして。

      私もとても感動しました。
      全ての章で泣きました。
      活版印刷の丁寧さ、とてもいいですね。
      このシリー...
      dolphin43さん、はじめまして。

      私もとても感動しました。
      全ての章で泣きました。
      活版印刷の丁寧さ、とてもいいですね。
      このシリーズは図書館で4冊一緒に借りれたので、続けて読みたいと思います。
      三日月堂の柔らかな余韻に暫く浸りたいと思います(*^^*)

      コメントをありがとうございました!
      2020/03/07
  • 最近、『月』づいている。「平場の月」「月まで三キロ」そして
    この「活版印刷三日月堂」

    とても優しく心地良い空気感の物語だった
    一度、娘と行ったことがある川越の江戸情緒が残る街並みを思い出しながら読んだ

    川越鴉山神社のはす向かいの白い建物。昭和初期からあった印刷所の三日月堂。月が直接ててくるわけではないけれど、この三日月堂のマークは三日月にカラスが止まっているという

    祖父が残したお店を継ぎ、活版印刷を始めた弓子さん
    この第1巻では、
    封筒と便せんの一枚ずつ自分の名前が印刷されたレターセット
    「世界は森」

    『桐一葉』の店名、桐の葉が透けて見えるショップカードと高浜虚子の俳句のコースター
    「八月のコースター」

    宮沢賢治の銀河鉄道の夜の一節、一節が印刷された栞


    平仮名がダブっていない結婚式の招待状
    「ひとつだけの活字」

    どれも弓子さんが依頼主に寄り添い、その思いを汲み取り、練りに練って、依頼主と一緒になって作り上げたものだ
    自信をなくしかけていたり、内向きになっていた依頼主が、いつの間にか元気と自信を取り戻している

    どれもこれもステキ!
    私も欲しい、レターセット。大好きな夕焼け色のインキで印刷して欲しい
    月替わりのコースター。毎月せっせと桐一葉にコーヒーを飲みに通うだろう
    栞も欲しい。愛読書に挟みたい

    ひとりの人が紡いできたものが印刷することによって、あとの人たちの心に何かを残す。文字が刻印されることで、その紙に人の言葉が吹き込まれる。言葉を綴った人がいなくなっても、その影が紙の上に焼き付いている

    そのおかげで、私たちもたくさんの素晴らしい書物に出会えることができている

    新聞部だった高校生の時、入稿や校正の時、訪れた印刷所の油とインキの匂い、ここそこにいっぱいあった活字や古めかしい印刷機を思い出した

    このシリーズは、4巻まであるそうな
    次々といろんな印刷された作品が誕生するんだろうな
    楽しみだ

  • 子供の頃どこだか忘れたが、活版印刷所(?)に行ったことがある。
    活字がいっぱいあり「すごい!」と圧倒された記憶があるが、それで何か印刷してもらったかどうかは覚えていない。

    「八月のコースター」で作る透けるショップカード、少し前に内田也哉子さんの「ブローチ」を読んだばかりだったのでイメージが重なった。

    レトロな印刷機と言えば、(家庭で使える画期的な印刷機だった)プリントゴッコで年賀状を作っていた。
    もう少し昔だと、学校のプリントにはガリ版印刷が使われていたんですね。

    活版印刷を調べていたら、勤務先のそばに印刷博物館があるではないか!
    そして、記念に活版印刷の体験もできるらしい。いつか行ってこよう。

    • Kazuさん
      仕事帰りに印刷博物館に行って、活版印刷機を見てきました。想像以上に大きく重厚!
      実際の活版印刷体験は、15:00からなので終わってました。...
      仕事帰りに印刷博物館に行って、活版印刷機を見てきました。想像以上に大きく重厚!
      実際の活版印刷体験は、15:00からなので終わってました。
      ミュージアムショップに、活版印刷で作った「星の栞」と「桐一葉のコースター」があったので記念に購入しちゃいました。
      本の綴じ方などの展示もあって面白かったです。
      2019/05/16
  • 活版印刷の店を受け継いだ若い女性。
    手作りの小さな印刷物のいとしさ、しっとりした雰囲気の連作短編集です。

    川越の町の一角に、ひっそりと「活版印刷三日月堂」があります。
    ドアから覗くと、大量の活字が上から下までびっしり並んでいる迫力な店内。
    店主の弓子はまだ若い女性だが、もう身内がいないのでした。
    祖父から受け継いだ店の、大きな印刷機はもう使えない。
    それでも子どもの頃の思い出が懐かしく、小さな印刷機を動かしてみると、活字を一つ一つ選んで並べた仕上がりには、独特な味わいがありました。

    そんなお店があることにふと気づいて、やってくる人々。
    依頼するお客さん達の視点で描かれ、話を聞いた弓子さんの提案によって、小さな願いや悩みが少しずつ整理されていきます。
    巣立つ息子へ送る名前入りのレターセットや、月替わりのコースター、結婚式の招待状など。
    本人の好みと、受け取る相手への優しい思い。
    微妙に不ぞろいだったりする活字のどこか古風な雰囲気に、気持ちがこもっていて、手に取った人が笑顔になる。

    6作を、楽しみに読んだシリーズです。
    だいぶ前だし、色々な方がレビューされていたからいいかとも思ってましたが。
    やはりこれは好みなので、アップしておきます。

  • ブクログで出会った本。印刷会社で働いていたのと、活版印刷の独特の風合いが好きなので、タイトルで惹かれた。読んでみると予想以上に素敵なストーリーだった。
    舞台は川越にある小さな活版印刷所、三日月堂。身寄りを亡くした弓子さんが祖父のあとを継いで再び店を再開し、持ち込まれる様々な依頼を通じて周辺の人々と関わり合い、それぞれのご縁を紐解いていく展開。最初と最後の章が特に好きだった。家族との繋がりを考えさせてくれた。

    自分もDTPの仕事をしているけど、今も使われている「組版」という言葉は字面通り「版を組むこと」だったんだなということが実感できた。文字にはそれぞれ重さや長さがあり、物質的なものだったのだということ。最終章のデザイナーの金子くんの言葉にはすごく共感できたな。「仕事してても指にはマウスとキーボードの感触しか残らないし、実体のないものをパソコンの中で動かしていくだけ。だからこそ自由に発想できるんだけど、脳の中だけで仕事してるみたいな感じもして、手触りがない」
    宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を改めて読んでみたくなった。

    ●印象に残った言葉
    「自分で自分の道を決めて、そこで人の役に立つ仕事をできるのが大人」
    「だれも、だれかの代わりになんて、なれませんよ」
    「版も活字もないけれど、印刷された文字はこうし’残っている。実体が消えても、影は残る。影が実体になって、いまもあり続けている。」
    「文字がくっきりして見えるのは、凹みじゃなくて『マージナルゾーン』というもののせい」
    「生きているものはみなあとを残す」
    「仕事はいつだって探せる、でも人の縁はそうそう見つかるもんじゃない」
    「空白っていってもなにも入ってないわけじゃない」
    「過去が私たちを守ってくれる。そうして、新しい場所に押し出してくれる」

  • H30.9.18 読了。

    ・三日月堂という活版印刷所を訪れるお客様ひとりひとりが主人公なる連作短編小説。しみじみと読後感に酔いしれたくなるような物語が4編。その中で「世界は森」と「ひとつだけの活字」が特に好きです。続編も楽しみ。

    ・「印刷とはあとを残す行為。活字が実体で、印刷された文字が影。ふつうならそうだけど、印刷ではちがう。実体のほうが影なんだ。」
    ・「ふつうの印刷だと紙に文字が「張りついている」感じだが、これは凹んでいるわけではないのに「刻まれている」。文字ひとつひとつが息づいているみたいに見える。」
    ・「生きているものはみなあとを残す。それも影のような頼りないものだけど。人と人もそうだ。かかわりあえば必ずあとが残る。」
    ・「みんな失ったものを抱えて生きている。」

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著者プロフィール

1964年東京都生まれ。作家・詩人。95年「影をめくるとき」が第38回群像新人文学賞優秀作受賞。2002年『ヘビイチゴ・サナトリウム』が、第12回鮎川哲也賞最終候補作となる。16年から刊行された「活版印刷三日月堂」シリーズが話題を呼び、第5回静岡書店大賞(映像化したい文庫部門)を受賞するなど人気となる。主な作品に「菓子屋横丁月光荘」シリーズ、『三ノ池植物園標本室(上・下)』など。

「2021年 『東京のぼる坂くだる坂』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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