- Amazon.co.jp ・本 (252ページ)
- / ISBN・EAN: 9784591150528
感想・レビュー・書評
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歌人で作家の、東直子さんが小学生だったときに、実際一年ほど住んでいた、福岡県糸島郡(当時)の、森の中の家を舞台にした、東さんの体験に基づいた創作ということで、都会から田舎へと引っ越した、小学四年生「かなちゃん」の、その自然に満ちた一年間の生活は、東さんと同年代の方には懐かしく感じられて、若い方には、今の時代だからこそ、一種の憧れに近いものを感じられるかもしれません。
その生活は、自然の恵みを享受する有り難みや素晴らしさであったり、生きとし生けるものたち(オケラやホタル、チャボ等)に触れることで、命のあり方を考えさせられたり、物は無くてもアイディア一つで楽しめる、当時の素朴な遊びだったりと、それらの体験を、かなちゃんの友達の「咲子ちゃん」をはじめ、そのお姉さん、かなちゃんの姉と妹も含めての爽やかな交流も瑞々しく、開放的に描かれており、読み手も一緒に、糸島の雰囲気を楽しく体感できるようです。
なんといっても、海と山を共に楽しめる環境って、羨ましいですよね。
また、それと共に、死刑囚のために慰問に行っている、「おハルさん」のエピソードと、死刑囚の人たちが書いた俳句が加わることで、物語に厚みが増したように感じられました。
死刑囚については、簡単にこうだと結論づけはできない難しい問題だとは思いますが、それでも、俳句から窺える、その人の思いや、人と人のつながりについて、考えさせられるものもあり、それに対する、かなちゃんと咲子ちゃんの真摯な思いは、胸に迫るものがありました。
それから、おハルさん自身、魅力的な家に住んでいたり、様々な手作り(料理や刺繍)をしていたりと、かなちゃんにとっては、素敵な憧れの人でもあるのですが、実は、そんなおハルさん自身の人生にも色々あって・・そうした経験を聞くことで、自分なりに考えて、言葉を選んで、おハルさんに伝える、かなちゃん自身の心の成長は、特に印象的でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
九州の田舎で過ごした1年間を、小学生の主人公の視線で描いた物語です。死刑囚への慰問にでかけるおハルさんとの真摯なやりとりや、自然の中ですくすく育つ様子が生き生きと表現されています。
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坪田譲治文学賞受賞(2015年/第31回)
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突然周りが田んぼや畑ばっかりのところに引っ越したかなこちゃん。
近所の咲ちゃんと仲良くなり、ハルさんとも仲良くなり、自然の中で様々な経験をし心を養っていきます。
とても素敵な本でした。 -
昭和40年代の福岡での物語。小学4年生の加奈子は都会から小さな村へと引っ越してくる。そこで見たもの、聞いたもの、感じたもの。そして出会った人々。
転校初日に雨上がりの道に満ちる蛙の礫死体にショックを受け、ここでやっていけるのかと不安になる。しかし都会と田舎のギャップは戸惑いから発見へと変わり、見るもの聞くもの全てを素直に受け容れていく。
受け容れながら、加奈子はそれをどう思うか、どう感じるか、しっかりと自分の感情に落とし込んでいく。
オケラをつかまえる、ホタルの光につつまれる、すすきでふくろうを作る、鍛錬遠足で山を登る。どれもこれもが大切な経験として思い出として加奈子の心に沁み渡る。
そして出会う人たち。近所に住む姉妹との何気ない毎日、習字の先生と飲んだラムネ、そして森の中の家に住む笑顔の素敵なおばあさんのおハルさん。
おハルさんからもらう手づくりのお菓子や刺繍の入ったハンカチ。おハルさんの笑顔。おハルさんの優しさ。加奈子はおハルさんに魅了される。そしておハルさんが死刑囚の慰問をし手紙を書いていることを知る。
そこでも加奈子は自分の感情として受け容れようとします。他の人が死刑囚に対してどう感じているのか、そのような活動をしているおハルさんをどう思っているか、そんな言葉も聞きながら。そしておハルさん自身に訊ねながら。
明確な答を出す物語ではありません。加奈子の中では村の自然や友達との日々と同じように、おハルさんと死刑囚の人たちとの繋がりがある。だからこそ先入観に囚われず自分の言葉が出てくるのかもしれません。
宝物のような日々が綴られる物語は、すぐに読み終えてしまうのがもったいないような気もしました。何度も繰り返し読みたくなる、そんな一冊です。 -
できすぎなほど、優しく素直な心を持った転校生の加奈子と、ご近所の咲ちゃん。
加奈子は福岡市街の団地から、父のこだわりの田舎の家にこしてきたばかり。
慣れない田舎暮らしと、転校生として、みんなに嫌われないよう受け入れてもらえるように、小さな心をしっかりと立てて持っていた。
でも近所の咲ちゃん、田舎の森や景色、不思議なおばあさん、ハルさんのおかげで、この村が大好きになっていく。
ハルさんは、子どもたちの人気者。まるで、ターシャ・テューダーのような方を思いながら読みました。そして、どことなく、西の魔女の雰囲気もある。
でも、ハルさんが死刑囚の人たちに差し入れをしたり、手紙を書いたりしている事を知り、加奈子と咲ちゃんはとても戸惑う。
命の尊さと、生きる喜び、自然や友達。懐かしい夏休み。加奈子の気持ちに寄り添う大人たち。オケラ、ラムネ、ホタル、ススキ、どれもが懐かしく輝いて、少女時代に簡単にトリップしてしまう。この田舎の暮らしが大好きになる。
だからこそ、ラストはとっても切ない…。
あとがきを読んで初めて知ったのだけど、ハルさんは実在の人物。劇中の俳句も実際の俳句からの引用。たんなるノスタルジックな少女物語ではなく、死について、命について考えさせられる物語でした。 -
課題図書2
ハルさんが印象的。彼女の過去に何があったのだろう。 -
死刑囚に関してのエピソードをちらりと読んでから読み始めたのですが、あくまでそんな一幕という感じだった。
古き良き時代の田舎暮らしの一年を描いたフィクション。
これといった事件はなく、のびのびと過ごせた生活が描かれている。